【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2024年11月12日):トランプに既に見える妥協の兆候

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。

ニューヨークポスト紙は、ロシアがトランプの大統領選出によって可能になった米国との関係の「再構築」の考えを浮かべている、と報じている。ロシアの政府系ファンドの経営最高責任者、キリル・ドミトリエフは、トランプの「説得力のある勝利は、一般の米国人がバイデン政権の前例のない嘘や無能さ、悪意にうんざりしていることを示している。これは、ロシアと米国の関係を再構築する新たな機会を開くものだ」と述べた。https ://nypost.com/2024/11/06/world-news/russia-floats-idea-of-reset-with-united-states-after-trump-declares-victory/

トランプとプーチンはこの方向性に賛成しており、次のような疑問を投げかけているロシアの報道機関も同様だ。

「トランプ政権はガザとウクライナの紛争にどのような影響を与えるだろうか? トランプ政権はこれらの紛争の少なくとも1つで和平、あるいは少なくとも停戦を仲介できると思われるか?」

「トランプ政権下で米国が欧州での防衛義務を縮小すると予想されるか? もしそうなら、欧州諸国が米国に依存しない集団安全保障の構想を前進させる機会が生まれるだろうか? おそらくそれはマクロンの提案に沿ったものだろうか?」

「米国とNATOの関係に何か変化があると予想されるか? NATO新事務総長マーク・ルッテはトランプ大統領のホワイトハウスと効果的に交渉できるだろうか?」

私の答えは、これらは妥当な問いだ、というものだ。トランプにはそうする意図がある。問題は、彼にその手段があるのか、という点だ。

トランプは自信に満ちているが、同時に自分勝手さと大言壮語という欠点も抱えており、この2つの特徴はプーチンや習近平、そしてイランの最高指導者と対峙するのには不向きだ。

また、トランプは強い個性の持ち主だ。強い人物の中には強い部下がいると安心するものもいるが、イエスマンを好むものもいる。トランプの最初の任期には、彼の周りには性格が弱く誠実さに欠ける人物があふれ、彼らは裏切り者だった。トランプは自ら主張するようにその教訓を学んだのだろうか。そして、自分の評判を犠牲にするような激しい批判を浴びせられても、強くいられる人物を見つけることができるのだろうか。もしできるとしても、トランプは、そんな強い人々の採用に関して上院による承認を得るために戦うだろうか? それとも、政権発足当初は評判が悪く失敗する危険性があるからやめるよう、助言者らに説得されるのだろうか?

すでに後者の兆候が見られる。トランプ政権への移行団の一人の実務家が、ボビー・ケネディは有害な食品やワクチンに関する情報を収集する顧問以外の役職には就かないと述べた、という報告があった。ボビーを FDA長官や保健福祉長官に指名すれば、間違いなく、すべての上院議員事務所に大手製薬会社が入り込み、選挙資金をすべて打ち切って対立候補に流用すると脅すだろう。トランプを対立しないように仕向けることは、米国のために戦う彼の印象を損ない、支持者を失望させるだろう。上院がボビーの就任承認を拒否すればトランプの権力が強化されることにトランプの顧問たちが気付いているとは思えない。トランプは、アメリカ人の健康回復を積極的に妨げている上院議員の名前を国民に示し、有権者がなぜ米国を再び偉大にすることの障害となる議員を選んだのか、と問うことができる。トランプには国民がついている。国民の力を大手製薬会社の傀儡勢力に及ぼすことができる。

もう一つの問題は、トランプ支持者の多く、おそらくほとんどが、米国が戦争に負けるのは指導者たちが「米国のために立ち上がる」ことができず、適切に戦争を戦うことができないからだと考えていることだ。トランプにとって、米国のために強く立ち上がることは重要だ。米国のために強硬な姿勢でいることは、彼がロシアの工作員であるとか、そのような非難を報道機関が流すことからも彼を守ることになるが、プーチンとの妥当な取引は、こうした非難にさらされることになる。残念ながら、これはソ連崩壊以来、米国の外交政策を支配してきた好戦的なネオコンの思うつぼだ。彼らのタカ派的な姿勢は、トランプにとって魅力的な仲間となる。なぜなら、彼らは一緒になってトランプ支持者が見たい強硬な姿勢を示すからだ。トランプ支持者でさえ、ロシアや中国、イランはアメリカの敵だという信念を教え込まれている。

中東の混乱におけるトランプにとっての大きな問題は、彼自身、そして米国議会や米国報道機関がイスラエルと非常に密接に連携していることにある。イスラエルを従わせるためには、強力なイスラエル圧力団体を含め、対抗しなければならない相手が多すぎる。

さらに、一部の分析家は、中東の石油をめぐる米国の覇権のためにイスラエルを利用しているのが米国であることを確信している。この指摘が正しいとすれば、この政策を変えるのは大変な仕事となる。

トランプはNATOからの脱退を望んでいると私は思う。プーチン大統領同様、トランプは国内の問題や課題に重点を置きたいと考えている。トランプがNATO脱退を支持する政府をまとめられるかどうかは、簡単には信じられない。米国の多くの経済は、米国政府によるヨーロッパとウクライナの支配から利益を得ている。(報告によると、米国の農業企業は現在、ウクライナの農地の3分の1を所有している、という)。さらに、ヨーロッパにとっての脅威はロシアではない。ヨーロッパの民族国家は、ロシアによる侵略を警告しつつ、移民の侵略者に国を蹂躙されるのを許す政府によってバベルの塔に変えられつつある。このような無意味な状況が政治的に対処できるかどうかは不明である。

もちろん、プーチンがウクライナの非武装化とNATO加盟禁止という目標を貫くなら、ウクライナは米国のもう一つの敗北として扱われるだろう。トランプがプーチンの提示する条件を受け入れれば、トランプの反対派はそれを戦争に対する平和の勝利としてではなく、トランプの任期中の米国の敗北として扱おうとするだろう。プーチンがトランプの面子を保つ解決策を受け入れれば、それはプーチンの敗北として扱われる可能性が高いが、3年間の犠牲の後では、ロシア人にとってそのような和平案を受け入れるのは難しいかもしれない。

NATOは米国政府が作ったもので、事務総長は米国政府の傀儡にすぎない。米国がなければNATOは無意味であり、ロシアに対して敵対的な立場を取ることは絶対にできない。相互防衛の代わりに、ヨーロッパ諸国はロシアと文明的な関係を築かなければならなくなるだろう。

まとめると、トランプがどんな政府を樹立できるかがわかるまで、冒頭で問われている疑問に答えることはできない、ということだ。さらに、今後2か月半、米国政府は民主党と支配層に握られたままである。このため、彼らには米国をトランプの政策に反する方向に向かわせる十分な時間がある。また、彼らには暗殺を企てる時間も与えられている。トランプは1月中旬に就任するまでは行政権を持たない。支配層がトランプを従わせたり、封じ込めたりできない限り、支配層はトランプの大統領職を自らの存在を脅かす脅威とみなしていることを理解しておくことが重要だ。彼らはテントをたたんで消え去ることはないだろう。

世界の人々は再構築を支持している。世界中の人々は、米国政府の愚か者が自分たちを核戦争に巻き込むのではないか、と考えることにうんざりしている。トランプが、腐敗した米国の支配層が米国と世界に対して持っている支配を打ち破れるよう祈ろう。そのためには、トゥルシー・ギャバードのような強い男性や女性が強い地位に就く必要がある。妥協した政権は失敗する。米国の軍需産業の利益のための戦争と、米国覇権というネオコンによる政治思想の非現実性を終わらせなければならない時機はとうに過ぎている。

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS(2024年11月12日)「トランプに既に見える妥協の兆候」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-2791.html
の転載であることをお断りします。
また英文原稿はこちらです⇒Can There Be an American-Russian Reset?
筆者:ポール・クレイグ・ロバーツ(Paul Craig Roberts)
出典:本人ブログ 2024年11月10日
https://www.paulcraigroberts.org/2024/11/10/can-there-be-an-american-russian-reset/

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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