【連載】知られざる真実/2024年11月14日 (木)法超えた補償行わぬスマイル社
社会・経済日本の悪弊はものごとをあいまいに処理すること。
ものごとに明確なけじめをつけられない。
大きな問題が生じても、のらりくらりと対応を続け、時間が経てばうやむやになると高を括る。
本質的な問題解決を行わない。
「ごね得」が常態化すると事態の刷新は不可能になる。
敗戦の処理が然り。
松本人志氏の処理が然り。
ジャニーズ事務所の処理が然り。
NHKの稲葉延雄会長が10月16日、定例会見で旧ジャニーズ事務所のタレント起用を再開すると発表した。
稲葉延雄会長は
「被害者への補償と、再発防止への取り組みに加え、両社の経営の分離も着実に進んでいることが確認できた。
こうしたことから、10月16日をもって、制作現場の判断で出演依頼を可能とする」
と発表した。
例年11月中旬に紅白出場歌手の発表があり、「紅白対策」として解禁を宣言したことは明白。
ジャニーズ事務所創業者の故ジャニー喜多川氏による史上空前の性犯罪事案の事後処理は完結していない。
NHKも喜多川氏の性犯罪事案に関する加害責任の一部を負う身だ。
NHKは事態の深刻さを踏まえて旧ジャニーズ事務所タレントの起用を見送ってきたが、視聴率を優先し、問題をあいまいにしたまま、「過去の出来事」として風化させる方向に動いた。
旧ジャニーズを引き継いだスマイルアップ社もスタートエンターテイメント社もメディア各社の会見開催要請に一切答えていない。
時間が経てば風化する。
世間の風が収まれば、何食わぬ顔で元のスタンスに戻る。
これを許しているのは日本の市民の側の行動であるという側面もある。
しかし、ジャニーズの被害者に対する補償問題もまだ解決したとは言えない状況にある。
東山紀之氏が代表を務めるスマイルアップ社が「ジャニーズ性加害問題当事者の会」(解散)の元副代表である石丸志門氏を提訴した。
石丸氏がスマイル社を提訴したのではない。
スマイル社が石丸氏を提訴したのだ。
故ジャニー喜多川氏の巨大性犯罪事案を背景にジャニーズ事務所は昨年、今後1年間は、出演料は所属タレントにすべて支払い、芸能プロダクションとしての報酬は受け取らないと発表した。
これが守られたのかどうかの検証も必要。
スマイル社は2024年10月31日時点で合計1002名から補償申告を受け、連絡が取れた766名のうち752名について補償の有無を連絡。
被害者救済委員会は538名に補償内容を通知するとともに214名に補償を行わないことを通知したとスマイル社が発表した。
補償を行うと通知した538名のうち、511名に補償金を支払ったと公表した。
しかし、石丸氏はスマイル社が提示した補償金額に納得せず、さいたま簡易裁判所において同社との調停を進めてきた。
スマイル社は10月3日の第3回調停で2000万円を提示したが石丸氏は拒否。
調停委員会は調停で合意に達する見込みがないとしてスマイル社に調停の取り下げを検討するよう指示したとのこと。
この経緯後に、石丸氏にスマイル社からメールが送られ、
「改めて2000万円を超える補償額の支払いが不可能である」
ことを示し、併せて、
「裁判所に対して、金額確定のための訴訟を提起した」
と通告してきたと伝えられている。
スマイル社は被害者に対する補償について
「法を超えた補償を行う」
と宣言した。
石丸氏の被害感情は極めて強く、億円単位での補償を求めていると見られる。
石丸氏は
「法の枠内の話にまとめようとしていて、よく分かりません」
と批判しているとのことだが、当然の主張である。
他の被害者がスマイル社の提示に従順に応じていることがスマイル社の石丸氏に対する強い行動を支える背景になっているが、これでは、同社が示した基本姿勢は虚偽だったとの批判が生まれてもやむを得ない。
重大問題が発覚したのに、厳正なけじめをつけることができず、メディアが問題をあいまいにしたまま、なし崩しで加害企業に加担する行動を示す。
こうした歪んだ対応が、この国の空気を一段と淀んだものにしていると言わざるを得ない。
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植草一秀(うえくさ かずひで) 1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。 経済金融情勢分析情報誌刊行業務の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」を発行。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門1位。『現代日本経済政策論』(岩波書店、石橋湛山賞受賞)、『日本の独立』(飛鳥新社)、『アベノリスク』(講談社)、『国家はいつも嘘をつく』(祥伝社新書)、『25%の人が政治を私物化する国』(詩想社新書)、『低金利時代、低迷経済を打破する最強資金運用術』(コスミック出版)、『出る杭の世直し白書』(共著、ビジネス社)、『日本経済の黒い霧』(ビジネス社)、『千載一遇の金融大波乱』(ビジネス社、2023年1月刊)など著書多数。 スリーネーションズリサーチ株式会社 http://www.uekusa-tri.co.jp/index.html メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」 http://foomii.com/00050