【櫻井ジャーナル】2024.11.15/櫻井春彦 : 市街で乱暴狼藉に及んだイスラエルのフーリガンを被害者にした西側メディア
国際政治情報を不特定多数の人びとへ伝える手段の発達には情報操作という闇の側面もある。こうしたことはマスメディアが登場した当時からあっただろうが、1970年代後半から闇の部分が急速に広がっていることも確かだ。
その闇の側面の一端をアムステルダムでの出来事は明らかにした。アムステルダムでは11月7日にサッカーの試合、マッカビ・テルアビブ対アヤックスが開催されたのだが、イスラエルから来たフーリガンが市街で乱暴狼藉を働き、反撃された。フーリガンは地元住民の家と思われる建物に飾られていたパレスチナ国旗を引きずり下ろした上で引き裂き、燃やし、通りかかったタクシーを襲撃、アムステルダムの市民と衝突したのだ。
それを西側の政府や有力メディアは正しく伝えない。例えば、オランダのディック・シューフ首相は「容認できない反ユダヤ主義の攻撃」だと主張している。また同国のデービッド・ファン・ウィール安全保障相は、例によって証拠を示さず、人びとがユダヤ人だということを理由に攻撃され、脅迫されたのは事実だ主張した。アメリカのジョー・バイデン大統領とアントニー・ブリンケン国務長官は公式声明で、この暴力行為の爆発は「反ユダヤ主義的」だと直ちに宣言している。
事件直後、イギリスのスカイ・ニュースはマッカビ・テルアビブのフーリガンが襲撃したことを伝え、パレスチナの旗を引き裂く様子を流していたのだが、「スカイニュースのバランスと公平性の基準を満たしていなかった」として再編集、視聴者がイスラエルの暴徒に同情的するような内容へ変えられている。
また「マッカビのファンが地元住民を攻撃しているのが見られ、パトカーが通り過ぎるのが見られる」という説明は削除され、「ソーシャルメディアに投稿された動画には、フードをかぶった大勢の男たちが黒い服を着て通りを走り、人々を無差別に殴っている様子が映っている」というように変更され、その夜の出来事と西側諸国の政治家がどのように反応したかの要約もカットされた。
こうした嘘を暴いたいのは市民にほかならない。そうしたひとりが10代の少年ユーチューバー。別の目撃者も画像と共にインターネットで実際に何があったのかを証言している。西側世界のプロパガンダ機関に市民が立ち向かっている構図だ。
アメリカでは第2次世界大戦の後、情報を操作するためのプロジェクト「モッキンバード」がスタートしたと言われている。ジャーナリストのデボラ・デイビスによると、プロジェクトの中心にいたのはワシントン・ポスト紙の社主を務め、戦争中は陸軍の情報部に所属していたフィリップ・グラハム、大戦中からアメリカの破壊活動を指揮していたアレン・ダレス、破壊工作を担当する秘密機関OPCの局長でダレスの側近だったフランク・ウィズナー、やはりダレスの側近で後にCIA長官に就任するリチャード・ヘルムズだ。(Deborah Davis, “Katharine The Great”, Sheridan Square Press, 1979)
この4名は金融界との関係が深い。ダレスとウィズナーはウォール街の弁護士であり、ヘルムズの祖父であるゲイツ・マクガラーは国際的な投資家で、BIS(国際決済銀行)理事会の初代議長、フィリップ・グラハムの妻、キャサリンの父、ユージン・メイヤーは世界銀行グループの初代総裁で、FRB(連邦準備制度理事会)の議長も務めた。
メイヤーは1933年に競売でワシントン・ポストという倒産会社を競り落とし、自分自身の人脈を利用してこの新聞社を「一流紙」と呼ばれるように作り上げた。
フィリップはキャサリーンと離婚して再婚し、ワシントン・ポスト紙を自分ひとりで経営すると友人に話していたが、1963年6月に精神病院へ入院、8月に自殺する。新聞社はキャサリンが引き継いだ。フィリップと親しくしていたジョン・F・ケネディが暗殺されたのはその3カ月後のことだ。
1970年代の半ばにアメリカの議会では情報機関の秘密工作に対する調査が進められたが、それに対抗して情報機関やその後ろ盾である私的権力は情報統制を強化、メディアの集中支配を可能にするために規制を緩和、今では有力メディアの大半を少数のグループが支配している。
2019年にはCOMCAST(NBCなど)、ディズニー(ABC、FOXなど)、CPB(NPR、PBSなど)、Verizon(Yahooニュース、ハッフィントン・ポスト)、ナショナル・アミューズメンツ(VIACOM、CBS、MTVなど)、AT&T(CNN、TIME、ワーナー・ブラザーズなど)、グーグル、ニューズ・コープ(FOXニュース、ウォール・ストリート・ジャーナルなど)というようになっている。
日本でも1980年代にマスコミの統制が強化された。その直前、毎日新聞の西山太吉記者は沖縄返還協定の背後に密約が存在する事実をつかんで報道するのだが、ライバルのメディアは何者かに操られているかのように情報の収集方法を問題にし、密約自体は曖昧なまま幕引きになった。その出来事で毎日新聞は攻撃の矢面に立たされて経営が悪化している。日米支配システムのタブーに触れると巨大メディアも潰れてしまうことが示されたとも言える。
また、1987年5月には朝日新聞の阪神支局が散弾銃を持った人物に襲われ、ひとりが射殺され、別のひとりが重傷を負った。この襲撃事件で縮み上がったマスコミ関係者は少なくない。
そして1991年。「新聞・放送・出版・写真・広告の分野で働く800人の団体」が主催する講演会の冒頭、むのたけじは「ジャーナリズムはとうにくたばった」と発言した。(むのたけじ著『希望は絶望のど真ん中に』岩波新書、2011年)
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