【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2024.11.16/櫻井春彦 : ネオ・ナチ体制を恐れて避難したドンバスの住民が帰還し始めたとの情報

櫻井春彦

 アゾフ海に面したマリウポリは戦略上、重要な港湾都市だ。2014年2月にバラク・オバマ政権がネオ・ナチを使ったクーデターでキエフを制圧した後、ネオ・ナチ政権は戦車部隊をマリウポリに突入させて建造物を破壊、住民を殺傷している。その様子を撮影した映像を住民が世界に発信していた。

 その後、マリウポリはクーデター軍に占領され、少なからぬ住民がロシアなどへ避難し、残った住民の一部はクーデター軍に拘束された。住民が避難したことから空いたスペースに親欧米派が多い西部から入植したが、クーデター体制が崩壊状態になったこともあり、避難していた住民の約30%が戻ったと伝えられている。

 クーデターの後、4月12日にCIA長官だったジョン・ブレナンがキエフを極秘訪問、14日にはクーデター政権の大統領代行が東部や南部の制圧作戦を承認し、22日には副大統領だったジョー・バイデンもキエフを訪問、その直後から軍事力の行使へ急速に傾斜していった。そのタイミングでオデッサ攻撃についての会議が開かれたという。

 ここにきてイスラエルのフーリガンがアムステルダムで乱暴狼藉を働いて問題になっているが、2014年5月2日にはウクライナ南部の港湾都市であるオデッサでもサッカー・ファンの暴力が引き金になって虐殺事件が起こっている。

 その日の午前8時にフーリガンが列車で到着、赤いテープを腕に巻いた一団(UNA-UNSOだと言われている)が襲撃して挑発し、反クーデター派の住民が集まっていた広場へ誘導した。

 広場に集まっていた住民は右派セクターが襲撃してくるので労働組合会館へ避難するように説得され、女性や子どもを中心に住民は建物の中へ逃げ込むのだが、その建物の中でネオ・ナチのグループは住民をそこで撲殺、さらに火を放って焼き殺した。皆殺しにするため、屋上へ通じるドアはロックされていたとも言われている。

 このとき50名近くの住民が殺されたと伝えられているが、これは地上階で確認された死体の数にすぎず、地下室で惨殺された人を加えると120名から130名になると現地では言われていた。そして5月9日、住民が第2次世界大戦でドイツに勝利したことを祝っていたマリウポリにクーデター政権は戦車を突入させ、住民を殺し始めたのである。

 オバマ政権はクーデターでビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒したのだが、マリウポリやオデッサを含む東部や南部はヤヌコビッチの支持基盤で、2010年の大統領選挙では有権者の7割がヤヌコビッチに投票していた。

 クーデター直後、ウクライナでは軍人や治安機関メンバーの約7割は新体制を拒否、クリミアの場合は9割近い兵士が離脱したと伝えられている。離脱した軍人やメンバーの一部は東部ドンバス(ドネツクやルガンスク)の反クーデター軍に合流したとも伝えられている。

 クーデターの状況をいち早く掴んだクリミアでは3月16日にロシアとの統合を求める住民投票を実施、80%以上の住民が参加した投票の結果、95%以上が加盟に賛成した。

 クリミアは黒海に突き出た半島で、セバストポリは黒海艦隊の拠点。ロシアはこの拠点を確保するため、1997年にウクライナと条約を結び、基地の使用と2万5000名までのロシア兵駐留が認められていた。この条約に基づき、クーデター当時には1万6000名のロシア軍が実際に駐留していたのだが、ウクライナ軍の約9割が反クーデターだったことから、ロシア軍の存在には関係なく、クーデター政権はクリミアを制圧できなかった。

 オデッサと同じで、戦略的に重要なマリウポリはネオ・ナチが制圧したのだが、2022年2月24日にロシア軍はウクライナに対する軍事作戦を開始、地下があった都市のひとつ、マリウポリを解放する。

 マリウポリのほか、ソレダル、マリーインカ、そしてアブディフカにも地下要塞が存在、それらを結ぶ要塞線がドンバス周辺に2014年から8年かけて築かれた。

 キエフ政権が送り込んだ親衛隊が敗走した後、人質になっていた住民が脱出、外部のジャーナリストと接触できるようになった。そうした住民はマリウポリにおける親衛隊の残虐行為を証言、映像をツイッターに載せていた人もいた。その人のアカウントをツイッターは削除したが、削除しきれていない。(例えば​ココ​や​ココ​)

 ​その後も脱出した市民の声が伝えられている。​現地で取材していいる記者がいるからで、その中にはフランスの有力メディアTF1やRFIのほか、ロシアやイタリア人の記者もいたという。ヨーロッパではそうしたジャーナリストに対する弾圧が続いている。

 ​マリウポリにある産婦人科病院を3月9日に破壊したのはロシア軍だという話を西側の有力メディアは広げていたが、そうした「報道」でアイコン的に使われたマリアナ・ビシェイエルスカヤはその後、報道の裏側について語っている​。

 彼女は3月6日、市内で最も近代的な産婦人科病院へ入院したが、間もなくウクライナ軍が病院を完全に占拠、患者やスタッフは追い出されてしまう。彼女は近くの小さな産院へ移動した。最初に病院には大きな太陽パネルが設置され、電気を使うことができたので、それが目的だろうと彼女は推測している。

 そして9日に大きな爆発が2度あり、爆風で彼女も怪我をした。2度目の爆発があった後、地下室へ避難するが、その時にヘルメットを被った兵士のような人物が近づいてきた。のちにAPの記者だとわかる。そこから記者は彼女に密着して撮影を始めた。彼女は「何が起こったのかわからない」が、「空爆はなかった」と話したという。

 病院については​オンライン新聞の「レンタ・ル」もマリウポリから脱出した別の人物から同じ証言を得ている​。その記事が掲載されたのは現地時間で3月8日午前0時1分。マリウポリからの避難民を取材したのだが、その避難民によると、2月28日に制服を着た兵士が問題の産婦人科病院へやってきて、全ての鍵を閉め、病院のスタッフを追い払って銃撃ポイントを作ったとしている。

 イギリスのBBCは3月17日、ロシア軍が16日にマリウポリの劇場を空爆したと伝えたが、それを伝えたオリシア・キミアックは広告の専門家だ。​マリウポリから脱出した住民はカメラの前で、劇場を破壊したのは親衛隊だと語っている​。

 アゾフスタル製鉄所から脱出したナタリア・ウスマノバの証言をシュピーゲル誌は3分間の映像付きで5月2日に伝えたが、すぐに削除してしまった。親衛隊の残虐な行為を告発、ロシアへ避難し、戻る場所はドネツクしかないとし、ウクライナを拒否する発言が含まれていたからだ。

 シュピーゲル誌はこの映像をロイターから入手したとしているが、ロイターが流した映像は編集で1分間に短縮され、アメリカのジョー・バイデン政権やウクライナのゼレンスキー政権にとって都合の悪い部分が削除されていた。

 親衛隊に占領されていた地域から脱出した住民はウスマノバと同じように親衛隊の残虐な行為を非難、ウクライナ軍の兵士も親衛隊を批判している。こうした証言を西側の有力メディアは隠していた。

 こうした虐殺の後もクーデター軍はドンバスの住宅街を攻撃、約8年間に住民1万4000人が殺したと言われている。

 クーデター軍を恐れて多くのウクライナ人がロシアへ避難、その中にも勿論子どももいたのだが、ICC(国際刑事裁判所)は子どもをウクライナから「強制移住」させたとしてロシアのウラジミル・プーチン大統領と子どもの権利オンブズマンであるマリア・リボバ-ベロバに対する逮捕令状を発行している。

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