【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2024.11.18/櫻井春彦 :オバマ政権が始めたウクライナ侵略で、22年から英国の軍や情報機関が重要な役割

櫻井春彦

 ​ドナルド・トランプ次期大統領がイーロン・マスクをニューヨークでイランのアミール・サイード・イラバニ国連大使と会談させたとニューヨーク・タイムズ紙が伝え​たが、イラン外務省はこの報道を否定した。

 同紙はこれまでアメリカ支配層の意向に沿う偽情報を流してきたので嘘だとしても驚きではないが、アメリカやイスラエルによるイランに対する攻撃が近いとする推測が流れる中での出来事だ。

 ちなみに、トランプは大統領として2017年4月に巡航ミサイルのトマホーク59機をシリアのシャイラット空軍基地に向けて発射、18年4月にはイギリスやフランスを巻き込み、100機以上のトマホークをシリアに対して発射したが、成功しなかった。

 そして2018年5月にトランプ大統領はイラン核合意から自国を正式に離脱させ、20年1月にはイランのコッズ軍を指揮してきたガーセム・ソレイマーニーとPMU(人民動員軍)のアブ・マフディ・ムハンディ副司令官をバグダッド国際空港で暗殺している。

 また、民主党に所属するふたりの上院議員、ジャック・リード上院軍事委員会委員長と外交委員会メンバーのジーン・シャヒーンはマスクがロシアの高官数人と連絡を取っていたという情報について調査するべきだと要求しているが、今後、こうした話を突破口にしてマスク攻撃を展開するつもりなのかもしれない。

 トランプ政権が中東に対してどのような政策を打ち出すのか明確でないが、ロシアとの戦争を回避しようとしていることは可能性は高い。それに対し、一貫してロシアとの戦争に執着しているのがイギリスの支配層だ。

 ロシア軍は2022年2月24日にウクライナ軍に対するミサイル攻撃を開始したが、その直後にウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー政権はロシアのウラジミル・プーチン政権と停戦交渉を始めた。仲介役はイスラエルのナフタリ・ベネット首相とトルコ政府で、ほぼ合意に達していた。

 停戦が内定したことを伝えるためにベネットは同年3月5日にドイツへ向かい、オラフ・シュルツと会うのだが、その日、ウクライナの治安機関SBUはキエフの路上でゼレンスキー政権の交渉チームに加わっていたデニス・キリーエフを射殺している。

 そして4月9日、ボリス・ジョンソン英首相がキエフへ乗り込んで停戦交渉の中止と戦争の継続を命令、4月30日にはナンシー・ペロシ米下院議長が下院議員団を率いてウクライナを訪問、ゼレンスキー大統領に対してウクライナへの「支援継続」を誓い、戦争の継続を求めた。

 2022年10月8日にクリミア半島とロシア本土を結ぶクリミア橋(ケルチ橋)が爆破された。ロシアのFSB(連邦保安庁)によると、容疑者は12名。そのうち8名が逮捕されたという。トラックに積まれた建設用のフィルム・ロールに偽装したプラスチック爆弾で、​爆破工作を計画したのはウクライナ国防省のGUR(情報総局)だとされたが、計画の黒幕はイギリスの対外情報機関SIS(通称MI6)だとする情報もあった​。この情報機関はイギリスの金融界、通称「シティ」との関係が深い。

 ​このクリミア橋爆破を含む工作にイギリスの退役した軍人や情報機関のメンバーで組織された一団をイギリス国防省は組織し、「プロジェクト・アルケミー」と呼ばれるようになった​。この計画を作り出したのはイギリス軍のチャーリー・スティックランド中将だとされている。このスティックランドがプロジェクト・アルケミーの最初の会議を招集したのは2022年2月26日だという。

 イギリスの情報機関は第2次世界大戦の終盤、アメリカの情報機関と共同で「ジェドバラ」なるゲリラ部隊を組織した。メンバーにコミュニストが多かったレジスタンスに対抗するためだとされている。

 大戦後、アメリカではジェドバラの一部メンバーは軍へ移動してグリーン・ベレーをはじめとする特殊部隊の創設に関わり、一部は極秘の破壊工作部隊OPCの中核メンバーになった。またヨーロッパでは「ソ連の軍事侵攻に備える」という名目で破壊工作機関のネットワークが構築された。

 NATOが組織されると、そのネットワークは吸収され、メンバー国には秘密部隊が作られている。その中で最も有名な組織はイタリアのグラディだろう。こうしたグラディのような組織がウクライナでも作られたという。

 ウクライナは2014年2月22日、アメリカのネオコンが仕掛けたクーデターでビクトル・ヤヌコビッチ政権が倒され、ネオ・ナチが主導権を握る体制が築かれた。

 ネオ・ナチを率いてきたひとりがドミトロ・ヤロシュ。この人物はドロボビチ教育大学でワシル・イワニシン教授の教えを受けたことが切っ掛けになってOUN-B(ステパン・バンデラ派)系のKUN(ウクライナ・ナショナリスト会議)に入るが、この人脈はソ連消滅後に国外からウクライナへ戻り、活動を始めている。2007年にヤロシュはKUNの指導者になり、そのタイミングでNATOの秘密部隊ネットワークに参加したとされている。

 プロジェクト・アルケミーのメンバーはウクライナにおける代理戦争を長引かせ流ことでプーチン大統領に対するロシア内外の信頼性を失わせ、NATOと戦う能力を低下させることができると考えた。ドンバスでロシア軍が敗北すればプーチン政府崩壊の引き金になってロシアを西側が支配する金融秩序へ吸収でき、ロシアが敗北すればロシアの安い天然ガスや穀物を手に入れられる。おそらく、ヨーロッパ諸国はその「おこぼれ」にあずかれると思ったのだろう。

 アルケミーはICC(国際刑事裁判所)にあらゆる可能な支援を提供するよう提案、イギリスの著名な弁護士はICTY(旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所)に類似した組織を設立しようと目論んでいたとも言われている。マックス・ブルーメンタールによると、イギリスはカリム・カーンのICC主任検察官任命で重要な役割を果たしたとされている。

・そのカーンは2023年3月にプーチン大統領と子どもの権利オンブズマンであるマリア・リボバ-ベロバに対する逮捕令状を発行、5月にはロシア当局がカーンに対する逮捕令状を発行した。ICCは2024年6月にロシアの元国防大臣セルゲイ・ショイグとロシア軍のワレリー・ゲラシモフ参謀総長に対する逮捕状も発行した。

 こうした西側の妄想が成立するためにはロシアがウクライナで軍事的に劣勢にならなければ成立しないのだが、実際はロシアの軍や経済の強さを明らかにすることになっている。西側は窮地に陥った。

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※なお、本稿は櫻井ジャーナルhttps://plaza.rakuten.co.jp/condor33/
「オバマ政権が始めたhttps://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202411180000/
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