☆寺島メソッド翻訳NEWS(2024年11月18日):CIAのもうひとつの戦術–ベネズエラ攻撃で示された「偽左翼」の仕事
国際※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。
「体制協調的左翼」とは、CIA が帝国主義の世界支配を維持するのに適すると見なされる左翼を説明するために使用した用語である。この左翼は、主に共産主義または反帝国主義左翼を抑圧する政府の活動の結果、第二次世界大戦の終結以来、米国の左翼を支配してきた。歴史的に見れば、CIAが苦心して育成してきたこの「体制協調的左翼」は実在する社会主義を拒否して「第三勢力」を形成した。言い換えれば、資本主義諸国と社会主義国の間に存在する「両翼にとっての厄介者」を作ったのだ。そして、反帝国主義者に「適切な」代替案を提供し、その進歩的な雰囲気を利用して、急進的な若者や活動家、労働者、知識人を引き付けてきた。
CIAを「米国の支配に対する脅威と見なされる民主政府を打倒する冷酷な組織である」と見なすことは正しい。しかし、この捉え方では CIAが果たしている「より穏やかな」仕事を見落とすことになる。その仕事とは、「体制協調的左翼」を金銭的に支援し奨励してきた仕事のことだ。そしてその左翼は民主党に政治的な主導権を握らせることを求めているものだ。CIA は、これらの組織や個人に幅広く秘密裏に資金を提供し、支配してきた。CIAは、反帝国主義左翼と、米国帝国主義の願いに応えられると見なされた妥協的な「民主社会主義」左翼の間に亀裂を生じさせようとしてきたのだ。
今日、国家安全保障国家である米国は、反帝国主義左翼を弱体化させ、「より小さな悪」である民主党を支持する偽左翼を作り上げるためにこの取り組みを続けている。ロックフェラー財団やフォード財団、オープン・ソサエティ財団、タイズ財団などの企業財団は、実際の反帝国主義に批判的な進歩的な運動にCIAの資金を注ぎ込み続けている。
このリベラル左翼は、長年にわたってさまざまな形をとってきた。1世紀前、その支持者には、ボルシェビキ革命を非難したカール・カウツキーや社会民主主義者がいた。第二次世界大戦後の米国では、彼らは「国務省社会主義者」と呼ばれた。これらの社会主義者とは、国内では社会改革のために戦うが、国際政治においては特に民主党政権下で政府の外交政策の立場と調和する人々だ。CIAは非共産主義左翼である「西側マルクス主義」に資金を提供し、その地位向上を助けた。戦略諜報局、後に国務省で働いたヘルベルト・マルクーゼは、この組織で最も有名な人物だろう。フランクフルト学派もCIAの支援を受けた。
10年前、「体制協調的左翼」はしばしば自らを反・反帝国主義者と称し、カダフィのリビアとアサドのシリアへの米国の介入に反対する人々を激しく攻撃した。しかし、彼らはその自称をやめた。このことばは、彼らの立場をあまりにも露骨に表したからだ。今日、この「体制協調的左翼」は簡単に見つけることができる。具体的には、民主党内のDSA(アメリカ民主社会主義党)派や急進左派のスクワッド派、バーニー・サンダース、ジャコバン誌、イン・ジーズ・タイムズ誌、ザ・ネイション誌などだ。
米国の支配者たちは、こうした「左翼」の門番たちを「まともな」左翼の見解の境界標として育てている。60年代にそのような左翼に使われた用語は「責任ある」ということばだった。この左翼は、反戦運動や反帝国主義運動を弱体化させ、周縁化するために利用された。この左翼は、米国が標的とする国々に実在する、あるいはでっちあげの人権問題を「左翼から」訴え、米国のプロパガンダ運動を正当化するのを助け、故意にせよ無意識にせよ、私たちの方向性を導く運搬ベルトの役割を持たせていた。その結果、この「体制協調的左翼」は、反帝国主義勢力よりも諸財団からの資金や進歩的な報道機関とのやりとりがはるかに多くなっている。そのためこれらの左翼は、大学やNGO、進歩的なシンクタンクに雇われ、主流派やリベラル左翼のニュースに登場する可能性が、反帝国主義勢力よりもはるかに高くなっている。
ベネズエラに対する最近の左翼への攻撃
ルーカス・コーナー記者とリカルド・ヴァス記者は以下のような指摘をおこなっている。
「ベネズエラのボリバル革命が存続に対する新たな脅威に直面するたびに、米国を拠点とする知識人層は、この国に対する帝国主義による永続的な包囲を故意に覆い隠す「左翼」からの批判を常に用意している」と。
コーナー記者とヴァズ記者は、ニュー・レフト・レビュー誌のガブリエル・ヘットランド記者とザ・ネイション誌のアレハンドロ・ベラスコ記者を例に挙げて、このような偽左翼の人々を例証した。ヘットランド記者とベラスコ記者は、ベネズエラのニコラス・マドゥーロ大統領の選挙勝利を否定しようとしている米国務省の立場に屈服している。彼らは「『マドゥーロ大統領による弁解に抵抗し』、ファシスト主導の反対運動の勝利を受け入れる」よう私たちに促している。このような偽左翼には、フレッド・フエンテス氏もいる。同氏はかつて、ボリビアのエボ・モラレス大統領の社会主義運動を同じような偽左翼による攻撃から擁護していたのだが。
ベラスコ記者は2015年から2021年までNACLA誌の編集長を務めていたが、同誌の理事長兼企画部長はロックフェラー・ブラザーズ基金のトーマス・クルーズ氏だ。また、ヘットランド記者の記事を出しているネイション誌は、企業財団から年間数十万ドルの資金提供を受けている。
昨年7月28日のベネズエラ大統領選挙のために計画された米国のクーデター作戦は、ハッキングと開票の妨害をおこなうことで、敗北したマリア・マチャド氏率いる極右政党が勝利を宣言することで最高潮を迎えることになっていた。その後、グアリンバ(街頭での混乱や破壊、殺人)が起こり、それに対してチャベス派を鎮圧するための軍事介入がおこなわれることになっていた。米国が支援したこの作戦は、フランシスコ・ドミンゲス、レオナルド・フローレス、ロジャー・ハリス、マリア・パエス・ビクター、スタンスフィールド・スミス、ニーノ・パグリッチャ、アルフレッド・デ・ザヤス、全国弁護士組合(こちらも参照)、アーノルド・オーガスト、エドワード・ハント、ルイジーノ・ブラッチ・ロアなど、多数の著述家によって暴露されている。言うまでもなく、ヘットランド記者やベラスコ記者のような人々は、これらの反帝国主義者が提示する現実に向き合うことを避けている。
米帝国は定期的に人権に関する悲惨な事件を捏造し、この「体制協調的左翼」はそのことを私たちに吹き込んでいる。その最新の例は、「チャベス派がまたもや選挙不正をおこなった」という主張だ。米帝国はまた、「2018年のニカラグアでの学生殺害、リビアでのカダフィによる大量強姦と殺人計画、10月7日のハマスによる民間人の大量殺害と強姦、新疆での中国人による大量虐殺、2022年のイランによる(ヒジャブを着用しなかったことを理由にした)マハサ・アミンさん殺害、2019年のエボ・モラレス元ボリビア大統領による選挙の不正操作、2021年のキューバによる大規模抗議活動の弾圧、ロシアによるウクライナへの「謂れ無き」介入、シリアのアサド大統領による自国民への化学兵器攻撃、ベネズエラのマドゥロ大統領による(2018年)選挙の不正操作、 2002年のチャベス元ベネズエラ大統領支持者による抗議活動者殺害」などの物語を捏造した。これらの言説の唯一の真実は、米国の企業報道機関が米国による介入への支持を得るために私たちに絶えず嘘をついているということだ。
ヘットランド記事やベラスコ記者のような「体制協調的左翼」は、米国が発信する「政権交代」喧伝を進歩主義運動や反戦運動に運ぶ運搬ベルトとして機能している。コーナー記者やヴァズ記者も、リビアやシリア、 レバノン、イラン、イエメン、ジンバブエ、中国、キューバ、ボリビア、ブラジル、ニカラグアなどに対する同様の「体制協調的左翼」運動を指摘している。さらにはロシアや北朝鮮、ハマス、ヒズボラも加えられる。
「帝国主義の侵略ではなく、帝国主義諸国から打倒の標的となっている国々の指導者を批判し、介入に反対する運動を起こさないというこのやり口(ヘットランド記者やベラスコ記者のようなやり口)は、今日の進歩主義者の間ではあまりにも一般なやり口と捉えられている。この立場には反帝国主義意識が根本的に欠如している。」
反帝国主義者が本来すべき役割は、米帝国の継続的な介入行動と挑発、そしてその結果として国内で私たちが払う高い代償を暴露することにある。そして、人々にこの情報を与え、帝国の干渉と介入による国内外の損害に対抗するために労働者を組織化する必要がある。労働者は、米国による他国での武力による政権転覆未遂行為やテロ行為、企業による外国指導者への圧力、帝国による国際銀行と金融の兵器化、米国の「制裁」と封鎖の影響、政権転覆の道具としてのNGOの利用、企業報道機関が流す大規模な偽情報による損害について、いまだにほとんど認識していない。つまり、ジュリアン・アサンジ氏とウィキリークスが明らかにした、米国の支配者の舞台裏でおこなっている活動すべてについて、気づいていないのだ。被害を受けた国々の実際の、またはでっち上げの人権侵害や米国の侵略に対する対応を批判するのではなく、帝国による悪業を暴露することこそ、反帝国主義が果たすべき役割なのだ。
フレッド・フエンテス氏は、今日では「体制協調的左翼」型だが、過去にはボリビアのMAS(社会主義運動)指導部を取材していた頃は反帝国主義の立場をとっていた。現在はまさにその「体制協調的左翼」の典型と相成ったのだ。2014年の時点で彼は次のように説明していた。
「ボリビアが直面している課題は、単に [現在の] 帝国主義の「干渉」の問題に還元できるものではない。この課題は何世紀にもわたる植民地主義と帝国主義による抑圧の直接的な結果であり、その影響でボリビアは世界経済の中で従属的な原材料輸出国としての役割から抜け出せていない。…ボリビアの社会運動を支援する主な方法は、やはり北部の労働者をボリビア政府との連帯の立場に引き込むことだ。そして、これをおこなう最善の方法は、単に「帝国主義の干渉」に反対するのではなく、帝国主義体制に反対する国際運動を構築することにある。…帝国主義が存在する限り、帝国主義はボリビアの変化の進行が間違いなく大きな障害と危険に直面し続ける理由の説明となる。」( 「悪い左翼政府」か「良い左翼社会運動」か?『ラテン・アメリカの急進的左翼』、120・121 ページ)
今日、フエンテス氏はヘットランド記者やベラスコ記者と同じ調子で歌うかの如く、マドゥロ大統領とチャベス主義者が選挙を盗んだ、と主張している。これはベネズエラのファシスト右派や米国務省、CIAと同じ立場だ。
米国選挙における「体制協調的左翼」の役割
この「体制協調的左翼」は、米国大統領選の時期に特に活発に活動している。彼らは、「ファシスト」のトランプ候補から「民主主義」を守るためには、左翼が大量虐殺を支援しているバイデン・ハリス政権に投票することが不可欠だ、と語る。彼らなら、両党は企業アメリカによって運営されており、我が国には独自の政党が必要だ、と主張しても良さそうなものだ。しかし、彼らはそうはせずに、ファシストが迫っている危険を考えると、今回の選挙はこれまでと異なり、私たちの生涯で最も重要な選挙である、と語気を強めているにすぎない。
言い換えれば、彼らの主張は、労働者のための政党にとって良い時期などない、ということだ。つまり、選挙はいつあってもつねに労働者のための政党にとっては不都合な時期だ、どの選挙でも民主党に投票しろ、第三の政党を作ろうとしてはいけない、と言っているのだ。選挙になると、彼らが唱える「より小さな悪に投票せよ」という言い回しは、実際には民主党候補に投票することが良いことだという論調に変わる。ネイション誌はマドゥロ大統領を非難し、カマラ候補を支持し、彼女を「私たちの投票と支持に値する候補者である」と見ている。さらに悪いことに、この「体制協調的左翼」の人々は、民主党の絶え間ない右傾化を言い訳し、隠蔽するいっぽうで、共和党の右傾化については誇張して非難している。この構図は、ヘットランド記者やベラスコ記者、フエンテス氏のような人々が、米国が後援する選挙盗難による政権交代を隠蔽しながら、チャベス主義者に対する証拠のない不正疑惑をでっち上げている構図と同じである。
この偽左翼は、民主党に以下の行為をおこなうことを保証している。それは、1年以上(ガザでの)大量虐殺を続け、人類をロシアとの核戦争へと向かわせ、国内の人々の要求を無視し続けても、我々は依然として左翼勢力に民主党に投票するよう熱弁をふるう、というものだ。偽左翼のこの動きにより、民主党は、自分たちは右傾化でき、非人道的な政策に対する我々の抗議を無視でき、依然として左翼からの票を当てにできる、と考えている。この偽左翼の役割は、反帝国主義連帯運動を妨害するのと同様に、労働者階級の独立した政治運動の構築を妨害することにある。
「体制協調的左翼」は、米帝国に対して他国の民族解放を擁護しようとする人々だけを攻撃するだけではなく、企業階級に支配されている状況を打破し人々を解放しようとする私たちの戦いをも攻撃している。
反帝国主義の労働者階級運動を構築する上で、私たちが直面する主要な敵は、このリベラル左派の第五列であるが、このような状況は、比較的社会が平和なこの時代においてはそれほど明白ではない。
労働者階級の運動に浸透するこの帝国主義的喧伝の運搬ベルトは、左翼の環境において確かにそれなりの「信用」を持っているため、耳を傾けられている(デモクラシー・ナウという番組が示しているように)が、この様な影響力は、伝統的な資本者階級の分析家や専門家たちには、存在しないものだ。
階級闘争が激化すれば、この「体制協調的左翼」は、支配者が実際に本物のファシスト支配に出る前に、我々に対して使う最後の武器となるだろう。この実例として、第一次世界大戦とその後の歴史において見られた、社会民主党とメンシェヴィキの動きがある。今日、「体制協調的左翼」が「ファシズム」と戦うと大騒ぎしているにもかかわらず、当時彼らの果たした役割は、イタリアとドイツにおけるファシズムの台頭に不可欠だった。CIA が認めているように、「体制協調的左翼」は、CIAによる「政権転覆」と喧伝と、米国における労働者の反帝国主義運動の構築の妨害において重要な役割を果たしている。
スタンスフィールド・スミスは、シカゴ ALBA 連帯(旧称:シカゴ・キューバ人5人解放委員会)の一員であり、Covert Action MagazineやCounterpunch、Dissident Voice、Council on Hemispheric Affairs、Monthly Review online、Internationalist 360°、Orinoco Tribune などのウェブサイトに記事を寄稿している。長年の反戦活動家。AFGJ(Alliance for Global Justice ) の Venezuela & ALBA Weekly News を制作している。ウェブサイトは ChicagoALBASolidarity.org。
※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS(2024年11月17日)「CIAのもうひとつの戦術–ベネズエラ攻撃で示された「偽左翼」の仕事」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-2801.html
からの転載であることをお断りします。
また英文原稿はこちらです⇒The Function of the Compatible Left Seen in its Attacks on the Venezuelan Revolution
出典:Internationalist 360° 2024年11月3日
筆者:スタンスフィールド・スミス(Stansfield Smith)
https://libya360.wordpress.com/2024/11/03/the-function-of-the-compatible-left-seen-in-its-attacks-on-the-venezuelan-revolution/
国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授