【連載】知られざる地政学(塩原俊彦)

「知られざる地政学」連載(65):ウクライナ和平をめぐる「真実」(上)

塩原俊彦

 

拙著『ウクライナ3.0』といった一連のウクライナ関連著作を評価していただいて、国際アジア共同体学会から2024年度「岡倉天心記念賞」が授与されることになった。ウクライナ問題に誠実に向き合ってきた私の業績を評価していただいたことを感謝しつつ、改めてウクライナ和平問題を真正面から分析してみよう。

ドナルド・トランプが米大統領選に勝利したことで、ウクライナ戦争の停戦と和平に向けた動きが加速するとみられている。しかし、その実現は決して平坦ではない。とくに、日本の主要マスメディアは相変わらず、ウクライナ戦争にかかわる「真実」を報道していない。そのために、大多数の日本国民が騙されている。国民に「真実」を伝えないまま、国民を騙しつづける日本外交を批判したい。

ウクライナの核兵器開発問題

まず、最近になって心を痛めている問題から取り上げたい。それは、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が核兵器開発オプションを選択しかねないという「現実」についてである。The Timesは2024年11月13日付で「ゼレンスキーの核オプション:ウクライナの核爆弾は「数カ月先」」という物騒な記事を公表した。米国が軍事援助を打ち切れば、ウクライナはロシアを阻止するために、1945年に長崎に投下されたのと同様の初歩的な兵器を急速に開発する可能性があるというのである。

記事は、ウクライナ国防省のために作成された報告書によると、ドナルド・トランプ次期大統領がアメリカの軍事援助を撤回すれば、ウクライナは数カ月以内に初歩的な核爆弾を開発できると書いている。長崎に投下された「ファットマン」爆弾と同様の技術で、プルトニウムから基本的な装置をすぐにつくることができるというのである。「戦時下のウクライナでは、ウラン濃縮に必要な大規模な施設を建設・運営する時間がないため、代わりにウクライナの原子炉から取り出した使用済み燃料棒から抽出したプルトニウムを使用することに頼らざるをえない」と記されている。

前述の報告書を執筆したのは、ウクライナの大統領と国家安全保障防衛会議(NSDC)の活動を科学的・分析的に支援するための基礎研究機関、国家戦略研究所(NISI)のオレクシー・イシャク部長である。彼は、「ウクライナが利用可能な原子炉プルトニウムの重量は7トンと推定される」としており、この量は、数キロトンの戦術核弾頭を数百発製造するのに十分である」という。

11月7日に公表された「フォーリン・ポリシー」の記事でも、「ウクライナの人々は今後数週間から数カ月のうちに、ワシントンの支援以外の解決策を模索し、以前はほのめかされていたにすぎなかった潜在的な核による解決策を検討せざるを得なくなるだろう」と予言している。

ロシアの核弾頭貯蔵所を攻撃か

物騒な話はほかにもある。それは、ウクライナが核兵器を開発しなくても、ロシア領内にある核弾頭貯蔵所を攻撃するという方法だ。11月5日に公表された『フォーリン・アフェアーズ』の「ウクライナ戦争が―誤って―核戦争に発展する可能性」という論文によれば、少なくとも14カ所のロシアの核弾頭貯蔵所がウクライナからの無人機の射程圏内にあることは明らかだとしている(下図を参照)。 そのうちの少なくとも2カ所は、ウクライナ国境から100マイル(約161キロ)以内であり、ウクライナがすでに保有しているより破壊力のあるミサイルの攻撃範囲内にある。また、別の5カ所は国境から200マイル以内であり、ウクライナがロシア国内の通常目標に対する使用許可を求めている西側提供の最新ミサイルの射程に近いか、射程をわずかに超えている。つまり、ウクライナはロシアの核弾頭貯蔵所を攻撃することで、ロシア領内に放射能をばら撒くことができるのだ。

ウクライナの攻撃箇所(赤丸)と核弾頭貯蔵所(大規模:大きな黒丸、小規模:小さな黒丸)の場所
(出所)はこちら

報道されていない10月17日のゼレンスキーによる「爆弾発言」

ここで紹介したいのは、ゼレンスキーが10月17日、ベルギーのブリュッセルで欧州連合(EU)加盟27カ国の首脳らに対し、ウクライナ戦争を終結する「勝利計画」について、EU加盟国の支援がどうしても必要だと訴えた後の記者会見での出来事だ。彼が爆弾発言をしたことを知る日本人はほとんどいないだろう。

ゼレンスキーは、ウクライナが今後ロシアから自国を守るために、北大西洋条約機構(NATO)が自国を同盟に迅速に受け入れるか、あるいはウクライナが再び核保有国になるか、どちらかの道を選ぶつもりであると口にしたのである。ところが、数時間後、ゼレンスキーは、NATO以外に選択肢がないという意味で言っただけだと釈明した。「あれは私の合図だった。しかし、我々は核兵器をつくっていない。このニュースを広めないでほしい」とのべたと、ドイツの「ビルド」(Bild)だけが報じたのだ。

この話は今回明らかになったThe Timesの記事と符合を示している。どうやら、ゼレンスキーは西側がウクライナ支援を打ち切るような仕打ちをすれば、自ら核兵器を製造し、ロシアと対峙し、全世界を第三次世界大戦の危機に巻き込む覚悟らしい。
このゼレンスキーの恐るべき姿勢については、すでに知る人は知っている。講談社の運営する「現代ビジネス」に公表した、拙稿「「プーチンの核」がひたひた迫ってきた…どうする、アメリカ!?」のなかで紹介したように、「ニューヨーク・タイムズ」の安全保障担当のデイヴィド・サンガー記者が近著(New Cold Wars)のなかで、バイデン大統領が側近に、ゼレンスキー大統領が意図的に米国を第三次世界大戦に引きずり込もうとしている可能性を示唆したと書いていたからだ。このため、バイデンはゼレンスキーに対して、ウクライナからモスクワを直接攻撃できる長距離射程兵器の使用を許可しなかったのである。

しかし、11月17日になって、射程約300キロの戦術ミサイルシステム(ATACMS[アタックエムズ])として知られる長距離ミサイルの使用をウクライナ側に許可したと、米国の複数のメディアが報じた。この武器は「当初、ロシア西部のクルスク地方でウクライナ軍を防衛するため、ロシア軍や北朝鮮軍に対して使用される可能性が高い」とNYTは書いている。19日、ウクライナ軍はさっそく、ロシアのブリャンスク州カラチョフ市のロシア国防省主要ミサイル・砲兵局の兵器庫を標的にしてATACMSミサイル8発した(ロシア側は6発と主張)。
この方針転換は、バイデンが第三次世界大戦になるリスクを退任前に公然と侵す決断をしたことを意味している。トランプの息子ドナルド・トランプJr.がXに寄せたつぎの投稿は必読だろう。

「軍産複合体は、私の父が平和を創造し命を救うチャンスを得る前に、確実に第三次世界大戦を起こそうとしているようだ。 何兆ドルもの資金を確保しなければならない。命などクソくらえだ! 愚か者め!」(なお、ATACMSはロッキード・マーティン社によって1980年代に開発され、以来、約4000発製造された)。

「ル・フィガロ」は同日、「フランスとイギリスはすでに、射程の短いSCALP/ストームシャドウミサイルの使用を承認していた」と書いている。
SCALPとストームシャドウの部品の一部は米国製であり、米国の承認が必要であるとされてきた。ストームシャドウは、250キロ以上離れた標的を攻撃できる低観測巡航ミサイルで、SCALPはフランスの類似品である。 イギリスとフランスは2023年以降、このようなミサイルをウクライナに輸出している。なお、ATACMSは最大射程300キロの誘導地対地ミサイルで、西側諸国がウクライナに供与しているHIMARSやM270 MLRSなどの多連装ロケットランチャー(MLRS)から発射される。米国は2023年10月、ATACMSのウクライナへの移転を初めて公式に発表している。バイデンは、2024年2月中旬に射程の長いミサイル100基以上を秘密裏に承認しており、ウクライナ軍はすでにクリミア半島攻撃などで使用している点に留意すべきだろう。

「ブダペスト覚書」をめぐって

よく知られているように、1994年、米国政府当局者は、独立したばかりのウクライナの指導者を威圧し、ソ連から受け継いだ核兵器(ロシアからの将来の侵略を阻止することが可能であったはずの核兵器)を放棄させた。その見返りとして、いわゆる「ブダペスト覚書」の一部として宣言された曖昧な「安全保障保証」が与えられることなった。

このブダペスト覚書は、全欧安全保障協力機構(OSCE)が仲介して、旧ソ連圏に残された核兵器の措置について、アメリカ(クリントン大統領)、イギリス(メイジャー首相)、ロシア(エリツィン大統領)3カ国首脳が合意・署名したもので、米英ロ三国の合意と同時にウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの3国もそれぞれ覚書に調印した。これにより、3カ国に残されていた核兵器が旧ソ連の後継国ロシアに移転された。
この結果、ウクライナには、核兵器がなくなり、それがウクライナ戦争の抑止できなかった要因の一つに数えられている。いわば、この米国主導のブダペスト合意の咎が今度は、ウクライナの核兵器不拡散条約(NPT)違反という裏切りを招こうとしていることになる。まさに因果はめぐるのだ。

プーチンは新核ドクトリンに署名

19日になって、ウラジーミル・プーチン大統領は「核抑止力分野におけるロシア連邦の国家政策の基本方針の承認に関する政令」に署名した。これは、2000年6月から施行されていた従来の「核ドクトリン」(核兵器使用のための指針)を改めたことを意味している。

「新核ドクトリン」は、核兵器使用の可能性を決定する条件をこれまでの4条件から5条件としたが、このうち2条件には変更はない。もっとも注目されるのは、「連邦国家の一員であるロシア連邦および(または)ベラルーシ共和国に対する通常兵器の使用による侵略であって、その主権および(または)領土保全に対する重大な脅威をもたらすもの」という条件である。

この規定により、ウクライナ軍の奇襲攻撃によって侵略されたクルスク州の状況を「重大な脅威」とロシア側がみなせば、核攻撃をウクライナに仕掛けることが可能となる。さらに、ベラルーシにロシアの核兵器を配備したのに伴って、「ロシアの傘」に入ったベラルーシに対する通常兵器による侵略に対しても同じように核使用がありうることになる。

追加された条件では、「航空宇宙攻撃手段(戦略機、戦術機、巡航ミサイル、無人航空機、極超音速航空機、その他の航空機)の大規模な発射(離陸)およびロシア連邦の国家境界の通過に関する信頼できる情報の受領」も、核兵器使用につながるとされた。
NYTによれば、「ホワイトハウスはプーチン氏の新しいドクトリンを軽視した」。自分たちが長距離ミサイル攻撃の許可によって核戦争の引き金を引いたかもしれない可能性にあまりにも冷淡なのだ。これが、バイデン政権の本質なのである。

ウクライナ戦争の和平過程

米大統領選のトランプ勝利によって、ウクライナ戦争をめぐる和平に向けた新たな動きがすでにはじまっている。
トランプ新政権である「トランプ2.0」の陣容をみると、副大統領に就任するJ・D・ヴァンスは、2024年9月、①ロシア側は奪った土地を保持し、現在の戦線に沿って非武装地帯を設け、ウクライナ側はロシアの再侵攻を防ぐために厳重に要塞化する、②ウクライナの残りは独立した主権国家として残るが、ロシアはウクライナから「中立の保証」を得ることになる、③ウクライナはNATOに加盟するわけでもなく、このような同盟機関に加盟するわけでもない――という和平案を明らかにした(9月13日付のNYT)。11月6日付のWSJは、トランプに近い外交政策アドバイザーの提案として、ウクライナはNATOへの加盟を20年間断念し、米国は武器や兵器のウクライナへの供給をつづけるという選択肢もあると伝えた。この案には、紛争を凍結し、800マイル(約1300キロメートル)の非武装地帯を作ることも含まれている。

11月7日付のWPは、トランプが11月7日、プーチンと電話会談し、ウクライナでの戦争について話し合ったと報じている。トランプは大統領選のキャンペーンで、ウクライナ戦争に即時終止符を打つとのべてきたが、その方法についての詳細は明らかにしなかった。 彼は、ロシアが獲得した領土の一部を保持するような取引を支持することを内々に示唆しており、「今回の電話会談では、土地に関する問題を一時的に提起した」と、WPは伝えている(不可思議なことに、ロシア側は電話会談そのものを否定している)。

ウクライナ特使の任命?

11月15日付のNYTは、「ボリス・エプスタインは瞬く間にトランプの世界で最も影響力のある人物の一人となった」という興味深い記事を公表した。エプスタインはトランプの刑事事件にかかわる弁護士で、トランプのアドバイザーだが、トランプ次期大統領に大きな影響力をもつ人物だ。その彼が、自分がロシアとウクライナの和平を仲介するための紛争解決特使になることを提案し、トランプは「明らかに関心をもってこの提案に耳を傾け、その提案を否定はしなかった」、とNYTは書いている。
なお、エプスタインはロシアで生まれ、幼少期はロシアに住んでいたが、外交政策の経験はない。彼は、紛争の両陣営に家族がいると語ったという。

実際に、「トランプ2.0」のもとで、ウクライナ和平を推進するための米政府の担当者になるかは本稿執筆時点(11月17日)ではわからない。それでも、トランプがウクライナ戦争を終結させようとしていることは間違いない。

どうするヨーロッパ

11月7日、ヨーロッパの将来について政治的・戦略的に議論するため2022年に設立された政府間組織、欧州政治共同体の会合が、8日には、EU首脳会議が開かれた。「トランプ2.0」への欧州の対応は一枚岩ではない。たとえば、エマニュエル・マクロン仏大統領は12日、「国民の安全のためには、強いウクライナ、強い欧州、そして強い同盟が必要だ。 これが私たちの共通の課題である」というメッセージをXに投稿した。とはいえ、7月の議会選挙で中道派が大敗し、政治的基盤が揺らいでいるマクロンは政治的影響力が明らかに弱体化している。
一方、ドイツの与党連立政権は11月6日に崩壊し、オラフ・ショルツ首相はすでにレイムダック状態にある。それにもかかわらず、彼は15日、プーチン大統領と1時間にわたって電話で会談した。ドイツ当局によれば、この会談の中心はウクライナ戦争終結の見通しだったというが、詳細は不明だ。NYTの報道によれば、ショルツは、ロシアによる民間インフラへの攻撃を非難し、ドイツがウクライナを支援し続けることをプーチンに確約した。これでは、バイデン政権に従属するだけのこれまでの姿勢と変わらない。

注目されているのは、同月11日、GBニュースのインタビューに答えて、ボリス・ジョンソン元英国首相が、紛争中のウクライナに対する米国の防衛費をトランプが削減した場合、英国軍がウクライナに派兵される可能性があると警告したことだ。彼に言わせると、復活したロシアはヨーロッパのあらゆる地域を脅かすようになり、欧州の集団安全保障が著しく低下するから、ウクライナに英国軍を派遣することさえありうることになる。

いまのジョンソンにどれだけの影響力があるかは判然としない。それでも、NATOを構成する欧州の有力メンバーである英国の元首相の発言は不気味さを感じさせる。

アントニー・ブリンケン国務長官は11月13日にブリュッセルを電撃訪問し、NATO、EU、ウクライナの高官と会談して今後の戦略を練った。米国やドイツを含む主要同盟国は今のところ、ウクライナのNATOへの招待要請を拒絶している。実際問題として欧州側は、「トランプ2.0」において、米国がウクライナのNATO加盟にどういう姿勢を示すかに従うしかないほど、脆弱にみえる。

強気なプーチン

プーチンは2024年6月14日、外務省幹部に向けての講話)のなかで、「我々はキエフにロシアとの交渉の禁止、つまり自ら課した禁止を解除するよう命令を下すだろう」としたうえで、具体的な和平条件を語った。

その条件を列挙すると、①ドネツク、ルハンスク人民共和国、ザポリツィア、ケルソン地域からの軍隊の完全撤退に同意し、このプロセスを実際に開始したならば、我々は遅滞なく交渉を開始する用意がある、②ウクライナの中立的な非同盟非核地位、非武装化、非ナチ化というのが我々の原則的な立場である(2022年のイスタンブール会談では、これらのパラメーターはおおむね合意されていた。非武装化に関してはすべてが明確で、あれやこれや戦車の量など、すべてが合意されていた)、③ウクライナでロシア語を話す市民の権利、自由、利益は完全に確保されなければならない、④クリミア、セヴァストポリ、ドネツク人民共和国、ルハンスク人民共和国、ケルソン地方、ザポリージャ地方の新たな領土的現実とロシア連邦の構成主体としての地位は承認されなければならない、⑤将来的には、これらすべての基本的かつ基本的な条項は、基本的な国際協定の形で確定されるべきである、⑥西側諸国の対ロ制裁の中止――となる。

最近のウクライナ戦争での戦闘状況をみると、まず、東部のドンバスでは、着実な戦果をあげている。10月13日付のThe Economistの記事では、「ロシア軍は現在、ポクロフスクの東部郊外からわずか8kmの地点まで迫っている」と書いていた。ポクロフスク(下図を参照)はコークス生産の拠点であり、ここがロシア側に陥落すれば、ウクライナの鉄鋼業は大打撃を受ける。

ただし、この報道から1カ月たっても、ロシアはなかなか進軍できずにいる。11月16日付の「アルジャジーラ」の報道によれば、ロシア軍は「ポクロフスクからわずか7kmしか離れていないクラホフに迫っている」という。ポクロフスクをめぐる帰趨が今後、和平交渉の鍵を握っていると言えるだろう。

2024年10月12日現在のウクライナ東部の情勢
(出所)https://www.economist.com/europe/2024/10/13/why-russia-is-trying-to-seize-a-vital-ukrainian-coal-mine

ロシア領内への奇襲攻撃によってウクライナ軍が占領したクルスク州については、ロシア側は北朝鮮兵士の助けを借りながら、奪還のための戦闘をつづけている。11月8日付のWPは、「ウクライナ軍はすでにロシアのクルスク地方で苦戦を強いられている。8月の奇襲攻撃で数百平方マイルを占領したが、その後ほぼ半分の領土を失った」と報じている。

プーチンとしては、クルスク地方の奪還が和平交渉上、ロシア側を有利に導くとの判断から、奇襲攻撃という卑劣な手段によってロシアを占領したウクライナ軍の壊滅をはかっている。11月16日、FTは、北朝鮮がロシアにM1989自走榴弾砲約50門と多連装ロケットシステム20基を送り、その一部がクルスク州に配備されたと報じている。

ただし、ロシア経済の中期・長期の展望は明るいものではない(ロシア経済の分析については、機会を改めて行うつもりだ)。国際通貨基金(IMF)は最近、2024年の経済成長率予測を3.6%に引き上げたが、ロシアのインフレ率は2024年も8%近くと高止まりすると予想されている。IMFはさらに、2025年のロシア経済の見通しを下方修正し、成長率は1.3%に鈍化すると予想した。つまり、ロシアは消耗戦を長く戦い抜くだけの余力を失いつつあると言える。その意味で、プーチンは和平条件次第でその提案を受け入れる可能性が高い。

「知られざる地政学」連載(65):ウクライナ和平をめぐる「真実」(下)に続く

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塩原俊彦 塩原俊彦

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。一連のウクライナ関連書籍によって2024年度「岡倉天心記念賞」を受賞。 著書:(2024年6月に社会評論社から『帝国主義アメリカの野望:リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ』を刊行) 【ウクライナ】 『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社、2023)、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社、2022)『ウクライナ3.0』(同、2022)、『ウクライナ2.0』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート』(同、2014) 【ロシア】 『プーチン3.0』(社会評論社、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち』(同、2016)、『プーチン2.0』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオ KGB 帝国:ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。 【エネルギー】 『核なき世界論』(東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)などがある。 【権力】 『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet、2013)などがある。 【サイバー空間】 『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』(社会評論社、2019)がある。 【地政学】 『知られざる地政学』〈上下巻〉(社会評論社、2023)がある。

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