【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2024.11.28/櫻井春彦 :米政府がウクライナへ核兵器を持ち込む可能性という報道で更なる軍事的緊張

櫻井春彦

マッハ10で飛行する中距離弾道ミサイル「オレーシニク」でロシア軍がドニプロにあるユジュマシュの工場を攻撃した11月21日、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された記事の中で、​欧米当局者の一部はジョー・バイデン米大統領が核兵器をウクライナへ返還する可能性を示唆したと伝えた​。

 ロシアの安全保障会議で副議長を務めるドミトリー・メドベージェフは11月26日、西側諸国がウクライナに核兵器を供給した場合、モスクワはそのような移転をロシアへの攻撃に等しいとみなし、核兵器による対応の根拠を与える可能性があると述べている。ウクライナへ核兵器を持ち込むようなことは狂気だとマージョリー・テイラー・グリーン米下院議員は主張、バイデン政権が核戦争を始め流ことでドナルド・トランプ政権の樹立を阻止しようとしているのではないかとも語っている。

 アメリカ政府は停戦を実現するため、核兵器を脅しに使ったことがある。例えば、1953年1月に新大統領となったドワイト・アイゼンハワーのケース。ハリー・トルーマン政権が始めた朝鮮戦争は泥沼化、早期停戦を目指した新大統領は中国に対して休戦に応じなければ核兵器を使うと脅したとされている。休戦は同年7月に実現。またアイゼンハワー政権で副大統領だったリチャード・ニクソンはベトナム戦争から抜け出すため、カンボジアに対する秘密爆撃を実行しながらアイゼンハワーの手法、つまり核兵器で恫喝した。(Daniel Ellsberg, “The Doomsday Machine,” Bloomsbury, 2017)

 民主党のバイデン政権を戦争へと向かわせているのはネオコンだが、2001年1月から大統領を務めた共和党のジョージ・W・ブッシュも彼らに操られていた。ネオコンはシオニストの一派だが、シオニストは第2次世界大戦後、ホワイトハウスの安全保障や外交分野の政策を動かしている。

 アメリカは何をしでかすかわからない国だと思わせれば自分たちが望む方向へ世界を導けるとニクソン大統領は考え、イスラエルは狂犬のようにならなければならないと同国のモシェ・ダヤン将軍は語ったというが、ネオコンは「脅せば屈する」と信じている。ソ連やロシアも脅せば自分たちの思い通りになるとネオコンは考えてきた。そうした信仰は間違っているのだが、彼らは信仰を捨てられない。彼らは自分たちを優秀であり、スラブ人やアジア人は劣等だとも信じている。そこで、ロシアや中国と戦争をしても簡単に勝てるはずだと考えるわけである。

 ​外交問題評議会(CFR)が発行している定期刊行物「フォーリン・アフェアーズ」の2006年3/4月号に掲載されたキール・リーバーとダリル・プレスの論文では、ロシアと中国の長距離核兵器をアメリカ軍の先制第1撃で破壊できるようになる日は近いとしている​。

 2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターやバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)への攻撃を利用して彼らは世界制覇戦争を本格的に始めた。ロシアや中国も簡単に片付けられると信じていたのだろうが、事態はネオコンが描いた道筋はたどらなかった。

 2013年11月にはウクライナでクーデターを仕掛ける。ネオ・ナチを使い、「中立」を掲げていたビクトル・ヤヌコビッチは翌年の2月に倒されたが、軍人や治安機関メンバーの約7割はネオ・ナチ体制を拒否、離脱し、一部は反クーデター軍に合流したと言われている。

 住民の反応も基本的に同じで、ヤヌコビッチの支持基盤だった東部や南部の住民も新体制を拒否した。クリミアではクーデターから間もない3月16日にロシアへの加盟の是非を問う住民投票が実施され、投票率は80%を超え、95%以上が賛成。その結果、クリミアはロシアの保護下に入った。東部のドネツクとルガンスクでは5月11日に住民投票が実施されている。ドネツクは自治を、ルガンスクは独立の是非が問われ、ドネツクでは89%が自治に賛成、ルガンスクでは96%が独立に賛成しているのだが、クーデター政権やその黒幕である西側諸国はその結果を拒否し、ロシア政府も救いの手を差し伸べない。そして内戦が始まった。

 東部や南部はソ連時代、住民の意思を無視してロシアからウクライナへ割譲された地域で、住民はロシアへの復帰を願う声が強い。1990年にウクライナ議会がソ連からの独立を可決した際、南部のクリミアでは91年1月にウクライナからの独立を問う住民投票を実施、94%以上が賛成しているのだが、この結果を「国際社会」と自称する西側諸国は認めない。1991年12月にソ連が消滅した後、クリミア議会は住民の意思を無視してウクライナに統合されることを決めてしまったが、それでも中立を掲げざるをえなくなる。その中立政策を潰すためにアメリカはオレンジ革命、そしてネオ・ナチを使ったクーデターを仕掛けたのだ。

 このクーデターでウクライナ全域を支配することに失敗したアメリカやイギリスの支配層は8年かけてクーデター体制へ兵器を供与、兵士を訓練、育成して2022年春に大規模な軍事作戦を実施する計画だったと言われている。ロシア軍が動いたのはその直前だ。

 その直後からウクライナ軍は劣勢。当初、ウクライナ政府はロシア政府と停戦交渉を始め、ほぼ合意に達したのだが、それをイギリスやアメリカの政府が潰し、戦争は続いたのだが、すでにウクライナの敗北は決定的。降伏するか全滅するしかない状態だ。

 そこでロシアが出してきたのがオレーシニクという極超音速の中距離弾道ミサイル。このミサイルを撃墜する手段はない。核弾頭を搭載するれば、MIRV(複数個別誘導再突入体)で1度に4ないし6都市を破壊することが可能だとされている。近日中にロシア軍はウクライナに対する新たな報復攻撃を実施すると見られている。

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