【特集】参議院選挙と改憲問題を問う

21年衆院選「東京8区問題」を反省せよ 毒か薬か立憲の共産党依存

小川敏夫

・「東京8区問題」における執行部の判断

本誌1月号でジャーナリストの横田一氏から、東京8区の立憲の公認取消し問題に関する指摘があった。れいわ新選組の山本太郎代表が出馬を表明したものの撤回、吉田晴美が統一候補として自民党現職の石原伸晃・元幹事長に勝利した、この8区事件についても触れよう。

この問題は、立憲とれいわ新選組との選挙協力から出てきたことだ。具体的には、れいわ新選組が東京5区と7区の候補者擁立を取りやめる一方で、立憲が8区の候補者擁立を取りやめるというギブアンドテイクの協力合意だった。

これにより、れいわ新選組は5区・7区の候補者擁立を撤回すると公表した。一方で立憲は8区について何も公表しない。立憲は吉田から公認取り消しの了承を得ていなかったのである。それにもかかわらず、れいわ新選組に対しては調整済みだと説明していたということになる。

私がこの異変に気付いたのは、杉並区在住の私の支持者から、山本代表が8区からの立候補を決めたという情報が寄せられたからだ。私は何かの間違いだと思った。実は、立憲が実施した8区の情勢調査で、吉田が共産党・れいわ新選組の候補者と競合してもなお石原氏より優位にいるという好結果が出ていたのである。それゆえに小選挙区の勝利が見込める女性新人候補の擁立を取り下げるなどということを立憲がするはずがないと確信していた。

しかし、事実は、私の確信を打ち砕いた。

私は、立憲が吉田にどう対処するのか案じたが、同時に党の危機を招く事態であると直感した。立憲は、女性活躍の推進を党の政策の中心に据えている。その立憲が、6年間もの間たゆまぬ努力を積み重ね、その努力が結実しよういうところまで来ていた新人女性候補者を捨て駒にしてしまうことがどれだけ世論の批判を浴びるだろうか。とりわけ女性の支持は引き潮のごとく消え去ってしまうだろう。

こんなひどいことを誰がしたのかと思うが、この8区問題は、5区および7区と一体となった選挙協力の話だと前述した。5区は立憲都連幹事長の手塚仁雄、7区は同会長の長妻昭の選挙区である。つまり、選挙協力の担当者である執行部が自分の選挙区のれいわ新選組の候補者擁立を取り下げさせるために8区の吉田の擁立を取り消す話をまとめたのである。

5区の手塚は、それまでの直近3回の衆院選で、選挙区では3連敗しているように選挙に弱い。その手塚の場合、れいわ新選組の擁立取り下げの効果は大きい。結果的に選挙区を約5400票差の僅差で勝ち上がっているので、共産党とれいわ新選組の協力が実を結んだことにはなる。

しかし、その一つの勝利を得たいがために、立憲はれいわ新選組に8区を差し出したのである。小選挙区の勝利が掌中に入った女性新人候補の選挙区を差し出して、自分の選挙区をテコ入れするというのは健全ではない。これでは執行部が自分の利益のために選挙協力を利用したとの批判の声が上がるだろう。こうした実例を見ると、執行部に一際高い見識と公平感を保持することを期待するのは無理だ。

8区問題は立憲の危機であったが、立憲は山本代表の対応に救われた。

山本代表は、立憲都連執行部から受けていた説明とは異なり、吉田が8区の出馬を望んでいることを知ると自ら八区からの出馬を取りやめた。その結果、山本代表は、出馬する選挙区を得られずに比例区単独の立候補となってしまい、選挙戦略にも大きな狂いが生じたであろう。しかし、文句も言わず、8区の吉田の応援にも入った。

山本代表が吉田の気持ちを尊重し、また、選挙前の野党間のごたごたをごたごたにしないで収めてくれたおかげで、8区は完全勝利した。また立憲は、吉田を強権で切り捨てるという恐ろしい蛮行をしないですんだ。

当時の立憲代表・枝野幸男は「困惑している」と述べただけだったが、これを私が解説すると、「公党間で約束したことは守らなければならないが、吉田を切り捨てることも心苦しい」という苦しい胸の内から出た言葉だろう。私は、山本代表の判断の的確さと心の広さに感動している。

こうした実例を見ると、選挙協力が執行部の利害や思惑を優先して行なわれてしまう危険は大きい。あるいは、新人よりも現職議員が優先される傾向があるので、本来有権者から淘汰されるはずの議員が淘汰されずに居残る結果として新陳代謝が妨げられ、幅広い人材の参加を阻害することになる。

立憲は議員の生き残りのために存続する政党に陥ってはならない。幅広い人材を結集し、広く国民の支持を集めて政権を目指す党であることを決して忘れてはならない。

私は、立憲が共産党と選挙協力を行なうことに反対はしないが、2009年衆院選で共産党とも戦いながら自民党から政権を奪取した、その勢いを立憲自身が取り戻す意欲を持ち続けろと言いたい。
(文中・一部敬称略)

(月刊「紙の爆弾」2022年6月号より)

 

※ご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。

https://isfweb.org/2790-2/

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」の動画を作成しました!

1 2
小川敏夫 小川敏夫

参議院議員。元裁判官・検事。民主党政権で法務大臣。『指揮権発動〜検察の正義は失われた』『【第3版】日本崩壊 森友事件黒幕を追う』ほか。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ