【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2024.11.30/櫻井春彦 :レバノンでの停戦に合わせ、アル・カイダ系武装集団がシリア政府軍に攻撃開始

櫻井春彦

 トルコ政府とウクライナの情報機関から支援を受けたスンニ派の武装集団、ハヤト・タハリール・アル・シャム(HTS)が11月27日、レバノンでの停戦開始に合わせてシリア軍を奇襲攻撃、イドリブやアレッポで戦闘が激化した。その前、11月20日にはイスラエル軍がアメリカ軍の協力をえてパルミラを攻撃しているが、その際、イスラエルの戦闘機はシリア東部にアメリカ軍が違法建設したアル・タンフ基地から発進したという。

 HTSはアル・カイダ系のアル・ヌスラ戦線を改名した組織だとされているが、そのアル・ヌスラはシリアで活動を始める前はAQI(イラクのアル・カイダ)」と呼ばれていた。

 アル・カイダとはCIAがアフガニスタンでソ連軍と戦わせるために訓練した戦闘員の登録リスト。​イギリスの外務大臣を1997年5月から2001年6月まで務めたロビン・クックも05年7月、「アル・カイダ」についてCIAの訓練を受けた「ムジャヒディン」の登録リストだと説明している。​この指摘をした翌月、2005年8月6日にクックは休暇先のスコットランドで散歩中に心臓発作で急死した。

 アメリカのジョージ・W・ブッシュ政権は2003年3月、アメリカ軍の従属国の軍隊にイラクを先制攻撃させた。イラクが「大量破壊兵器」を保有、今にもアメリカを攻撃するかのような宣伝を繰り広げ、攻撃の口実にしたのだが、そうした事実はなかった。

 ネオコンの計画通りイラクのサダム・フセイン政権をアメリカ主導軍は倒すことに成功したが、親イスラエル体制の樹立には失敗、シーア派の政権た誕生、イランとの関係が強まる。そこでアメリカはスンニ派が多かったフセインの残党と手を組み、武装集団を編成して「テロ活動」を繰り広げてきた。

 バラク・オバマ政権は2011年春からムスリム同胞団を使い、地中海沿岸国の政権を転覆させるが、その中にはリビアとシリアも含まれていた。オバマ政権は2011年2月にリビアで、3月にシリアでムスリム同胞団やサラフィ主義者を主力とする傭兵部隊を編成、侵略作戦を開始。その年の10月にアメリカなど侵略の黒幕国はムアンマル・アル・カダフィを惨殺、リビアの体制転覆に成功した。その際にNATO軍とアル・カイダ系武装集団、LIFG(リビア・イスラム戦闘団)の連携が明白になっている。ちなみに、「アル・カイダ」のアイコン的な存在だったオサマ・ビン・ラディンの殺害をオバマ政権が宣伝したのは2011年5月のこと。

 しかし、シリアではNATOを軍事介入させることができず、リビアから兵器や戦闘員をシリアへ移動させたものの、バシャール・アル・アサド政権を倒せない。そこでオバマ政権は反シリア政府軍に対する支援を強化、新たな戦闘集団を編成する。

 ​そうしたオバマ政権の方針を危険だとアメリカ軍の情報機関DIA(国防情報局)は2012年に報告書を提出する​。反シリア政府軍の主力はAQIであり、その集団の中心はサラフィ主義者やムスリム同胞団だと指摘、さらにオバマ政権の政策はシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配地域を作ることになると警告したのだ。その時にDIAを率いていた軍人がマイケル・フリン中将にほかならない。

 この警告通り、2014年には新たな武装集団ダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国などとも表記)が登場する。この武装集団はこの年の1月にイラクのファルージャで「イスラム首長国」の建国を宣言、6月にはモスルを制圧。その際にトヨタ製の真新しい小型トラック、ハイラックスを連ねてパレードし、その後、残虐さをアピールする。

 オバマ大統領はジハード傭兵を危険だと考える人物からシリアの体制転覆に積極的な好戦派へ替えていく。2015年2月に国防長官をチャック・ヘーゲルからアシュトン・カーターへ、同年9月には統合参謀本部議長をマーチン・デンプシーからジョセフ・ダンフォードへ交代させた。

 ところが、デンプシーが統合参謀本部議長の座を降りてから5日後の9月30日、ロシア軍がシリア政府の要請で介入し、ジハード傭兵を攻撃して占領地域を急速に縮小させていく。この軍事介入はシリア政府を助けただけでなく、ロシア軍の強さを世界へ示すことになった。

 今年11月27日に始まったHTSの攻撃に対する反撃は始まり、HTSの司令部へのミサイル攻撃が継続的に行われているようだ。ロシアの航空宇宙軍とシリアの空軍がシリア領内で合同演習を実施したとロシア国防省は11月9日に発表している。その日、イスラエル軍はシリアのアル・マシア丘の頂上にあるレーダー施設を攻撃した。すでにアル・カイダ系武装集団がイドリブでシリア政府軍に対する大規模攻撃を準備していると伝えられていたので、その対策だと言われていた。つまり、11月27日の攻撃を予測していたということだろう。

**********************************************
【​Sakurai’s Substack​】
※なお、本稿は櫻井ジャーナルhttps://plaza.rakuten.co.jp/condor33/
「レバノンでの停戦に合わせ、アル・カイダ系武装集団がシリア政府軍に攻撃開始」(2024.11.30XML)からの転載であることをお断りします。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202411300000/
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

★ISF(独立言論フォーラム)「市民記者」募集のお知らせ:来たれ!真実探究&戦争廃絶の志のある仲間たち

※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202410130000/

ISF会員登録のご案内

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」

櫻井春彦 櫻井春彦

櫻井ジャーナル

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ