【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2024年12月2日):極超音速ミサイル「オレシュニク」が発射されたことで、トランプは中国をどうこうするずっと以前にウクライナについての自分の立ち位置を考えなければならないだろう。

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。

オレシュニクが登場したことで、覇権国(米国)が中国を攻撃しようとするあらゆる場所でロシアとも対峙しなければならなくなるだろう。

この最先端のロシア兵器に関しては、レイ・マクガバン氏が「MICIMATT(軍・産・議会・諜報機関・報道機関・学術機関・政策研究所)」と定義した米国の複合体全体が永久に呆然自失状態にあるようだ。

カリブルやサルマト、キンザル、ジルコン、アバンガルドが発表されるまで、彼らはそれらのミサイルについて何も知らなかった。ロシアがミサイル実験が迫っており、核兵器ではないと30分前に警告するまで、彼らはオレシュニク(「ハシバミ」)についても何も知らなかった。米国は、北極圏で日常的におこなわれている弾道ミサイル実験に過ぎないだろう、と想定していた。

プーチン大統領でさえ、オレシュニクが脚光を浴びる準備ができていることを最後の瞬間まで知らなかった。そしてクレムリンのペスコフ報道官は、オレシュニクの存在を知っていたのはごく限られた人々だけだった、と認めた。

一言で言えば、MICIMATT はロシアが示したものだけを、発生した時にしか見ていないのだ。ロシアの軍事複合体に浸透している、漏洩防止の秘密保持の誓いとでも呼べばいいものの成果だといえる。ちなみに、ロシアの軍事複合体は、いくつかの民間部門を含む巨大な国営企業である。

そして、その結果ロシア政府は、自惚れた西側諸国連合が有するどんなものよりも優れた工学や優れた物理学、優れた数学をもたらすことを可能にしている。さらに最終的には優れた結果がもたらされる。

運動エネルギーを利用した兵器体系であるオレシュニクは、軍事技術と戦争に関して、1つではなく、実際には複数の意味で画期的な革命を起こすことが認められている。単純な物理学の知識があれば分かることなのだが、十分な運動エネルギーと質量を組み合わせることで、低~中出力の核兵器に匹敵する完全な破壊が保証されるのだ。さらには放射線が出ないという利点もある。

オレシュニクは中距離弾道ミサイル(IRBM)であり、2019年にトランプ大統領が米国をINF条約から離脱させる前から、ロシアが(他のシステムとともに)開発を進めていた。

いくつかの簡潔な分析では、オレシュニクが大陸間(斜字は筆者)非核ミサイルに搭載可能であることが指摘されている。ロシアは現在非常に外交的姿勢をとっているので、オレシュニクがロシア極東から発射された場合、米国のほとんどの緯度に容易に到達できることを強調していない。

さらに、オレシュニクの技術を戦術ミサイルに適用することで(プーチン大統領は先週末、すでにこれがおこなわれていると述べた)、戦術領域全体が変化する。

新たな脅威は、ロシアが、標的の周辺地域から退避するよう民間人に警告した後、文字どおり世界中のどこにでも超高速運動エネルギー兵器を発射できる能力を持っていることだ。そして、どの国もそれに対する防御策はまったく有していない。

逃げる場所も隠れる場所もない

ウォーク派の傲慢で無知なMICIMATT、そしてNATOと洗脳された西側諸国全体が、一見すると突然何が起こったのか全く分かっていないのは、かなり予想どおりだ。

簡単に言えばこのミサイルは、戦術核兵器の破壊力を持ちながら、一流の狙撃兵の銃弾の精度を備えた体系なのだ。

したがって、格好の標的である数十億ドルの航空母艦や800を超える基地帝国(米国)全体、さまざまな地下防空壕、ICBM発射台、海軍造船所、そして言うまでもなくブリュッセルのNATO本部、レズィコボ(ポーランド)のイージス・アショア基地、オランダのNATO統合軍センター、ナポリのNATO南部司令部など、これらすべての莫大な費用がかかる資産は、マッハ10を超える速度でわずか数分飛行するだけで一瞬にして粉々にすることができる非核兵器のオレシュニクにとっては格好の標的である。

今では世界中の多くの人が、オレシュニクがベルリンに11分、ロンドンに19分で到着できることを知っている。また、ロシア南部から発射されたオレシュニクは、カタールの米空軍基地に13分で到着できる。極東のカムチャッカ半島から発射された場合は、グアムに22分で到着できる 。チュクチ半島から発射された場合は、モンタナ州のミニットマンIIIサイロに23分で到着できる。
1960 年代のレコード会社モータウンのヒット曲ではないが、「逃げる場所なんてどこにもない、ベイビー、隠れる場所なんてどこにもない」だ。

MICIMATTとNATO が自分たちに何が襲いかかり、またこの先何が襲いかかるのか全く分かっていないことは、オレシュニクの弾頭がドニプロペトロフスクのミサイル工場を木っ端微塵にした後でさえも攻撃を激化しようとしている愚かさの中に鮮明に表れている。ロシア側が地球上のどこでも攻撃したいものを攻撃するのに核兵器は必要ないということを非常に明確にした後だというのに。

MICIMATTとNATOは連携してクルスクに対して ATACMSミサイルを2回発射したのは、ウクライナ側に核兵器を送るという自殺行為の可能性を示す宣伝広告の試し打ちのためだった。そしてNATO は企業に「戦時体勢」に入るよう警告し、NATOの机上の空論を語るオランダ人の無名の提督ロブ・バウアーはロシアへの先制爆撃を提唱し、フランスのル・プチ・ロワ(小皇帝)大統領と蒼ざめた英国首相はウクライナへの「軍隊派遣」の策略を再開した (英国のスターマー首相は後に撤回)。そして最後に、かつてウクライナ駐独大使にリバー・ソーセージと揶揄された独政権は地下鉄の駅を防空壕として使う計画を描き始めた。

こうした戦争を激化しようとする妄想は、汚い砂場で遊んでいる泣き叫ぶ子どもたちさながらだ。なぜなら、実質的には、この激化劇を支配しているのはロシアだからだ。

ロシアと中国の分断は困難

そして、このような状況が第二次トランプ政権につながる。

ディープステートは、トランプがNATOの崩壊しつつあるウクライナ計画に関して何か実のあることをしようとする前から、すでにトランプを残忍な戦争、つまりトランプによる反乱に対する先制攻撃を繰りかえしている。

トランプが理想とする出口は、米国のアフガニスタン撤退と同じような形だろう。つまり全ての厄介ごとをNATOのチワワの群れに託してしまう、というものだ。しかし、それは実現しないだろう。

アンドレイ・スシェンツォフはヴァルダイ・クラブの計画部長であり、MGIMO(モスクワ国際関係大学)国際関係学部の学部長でもある。彼はロシアの代表的な分析家の一人だ。スシェンツォフは、他の情報とともに、以下の秘話をTASS通信に明かした。

「トランプ氏はウクライナ危機の終結を検討していますが、それはロシアへの思い入れからではなく、ウクライナが勝つ現実的な見込みがないと認めているからです。トランプ氏の目標は、ウクライナを米国の利益のための道具として維持することであり、紛争の解決よりも凍結に焦点を当てています。その結果、トランプ政権下では、ロシアに対抗するという長期戦略が続くことになります。どの政権が権力を握ろうとも、米国はウクライナ危機から利益を手にし続ける」と。

スシェンツォフは、「米国の国家制度は、米国の利益に反するとみなされる決定に抵抗する慣性構造であり、したがってトランプ氏の考えのすべてが実現するわけではない」ことを十分に認識している。

この見解は、ロシア当局が第二次トランプ政権について全く幻想を抱いていないことを示す、数多くの実例のうちの1つにすぎない。ウクライナ問題を解くためにプーチンが出す条件は、少なくとも6月からわかっていた。ウクライナ側がドンバスとノヴォロシアから完全に撤退すること、ウクライナがNATOに加盟しないこと、西側諸国による1万5000以上の制裁がすべて終了すること、そしてウクライナが非同盟で核兵器を持たないこと、だ。

そうだ。すべては交渉の余地がない。そうでなければ、ウクライナが全面降伏するまで、ロシアが適切と考える方法によって戦場で戦争が続くことになる。

明らかに、ファイブアイズ(実際には2カ国(米国と英国)のみ)とその手先であるフランスは、ディープステート内部の最も強力な閉ざされた組織とともに、永遠の戦争の精神の重要な部分であるウクライナ計画への取り組みを倍増するようトランプに強制し続けるだろう。

トランプにできる最善のことは、旧約聖書に出てくるような精神病理的大量虐殺者をテルアビブに、そしてイランとの戦争を強いることに執着する(ネオコンならぬ)「ジオ(シオニスト)コン」の大群をワシントンに配置させることで、ウクライナ計画から注意をそらすことくらいだ。彼の言う「永遠の戦争」の焦点を少し逸らす程度だろう。

イランはエネルギーの大半を中国に輸出しているだけでなく、ユーラシア大陸を東西南北に縦横に走る国際南北輸送回廊(INSTC)や一帯一路(BRI)の絶対的に不可欠な拠点でもある。

それが本当の戦争の選択となるだろう。BRICS三カ国(ロシア、中国、イラン)に対して同時に戦争を起こすことになるのだ。結局のところ、米国の支配階級はBRICSに対する生死を分ける複合型戦争にすでに投資しているのだ。

それでも、第二次トランプ政権と中国の対決は、1月20日から始まる覇権国(米国)の外交政策の支点となるだろう。トランプが任命したほぼすべての人物は、どれほど見当違いかもしれないが、ロシアと中国の包括的戦略的友好関係を破壊し、中国がイランからエネルギーを購入するのを阻止することが可能だ、と信じている。

インド洋沿岸の海上シルクロードから北極圏の北極海航路に至るまで、航路や補給線を混乱させようとする試みがおこなわれるだろう。インドのムンバイとロシアのモスクワを結ぶINSTC(南北輸送回路)沿いでは偽旗作戦がおこなわれる可能性もある。

しかし、オレシュニクが登場したことで、覇権国米国が中国を攻撃しようとするあらゆる場所でロシアとも対峙しなければならなくなった。したがって、ウクライナ計画とNATOによるロシア西部国境への侵略を終わらせたいという誘惑は常にトランプの心の奥底にあるだろう。これは「ロシアを誘惑して中国を弱体化させる」症候群の一部である。

覇権国米国にとっての問題は、BRICS/SCO全体にわたるロシア、中国、イランの戦略的連携には、オレシュニクとはまた別の(運動エネルギー的な)考えがある点だ。

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS(2024年11月29日)「極超音速ミサイル「オレシュニク」が発射されたことで、トランプは中国をどうこうするずっと以前にウクライナについての自分の立ち位置を考えなければならないだろう。」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-2837.html
からの転載であることをお断りします。
また英文原稿はこちらです⇒Trump may be Oreshniked on Ukraine even before he gets to China
筆者:ぺぺ・エスコバル(Pepe Escobar)
出典:Strategic Culture Foundation  2024年11月27日
https://strategic-culture.su/news/2024/11/27/trump-may-be-oreshniked-on-ukraine-even-before-he-gets-china/

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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