新潟県知事選、「ウクライナ危機」に乗じた原発再稼働を止める闘い
政治・脱原発が争点に
5月12日告示・29日投開票の新潟県知事選を控えた4月10日、「3.11から11年…どうする原発再稼働!」と銘打った集会が新潟市内で開かれ、脱原発派の論客が勢ぞろいした。
元改革派経産官僚の古賀茂明氏や前滋賀県知事で現参院議員の嘉田由紀子氏、「環境エネルギー政策研究所」所長の飯田哲也氏や小泉純一郎元首相らがステージに並んでリレートーク。世界最大の東京電力「柏崎刈羽原子力発電所」(新潟県柏崎市・刈羽村)の再稼働阻止がメインテーマだったが、ロシアのウクライナ侵攻を機に県知事選への出馬を決意した会社役員の片桐奈保美氏(72歳)が開始早々に登壇したことから、同氏への応援のメッセージが相次ぐことにもなったのだ。
片桐氏は冒頭の挨拶で、「年をとっても、あんな危険なもの(原発)をこのまま、もしかしたら、戦争になったらターゲットになるような危険なものを残して死ねない。そう思って、この結果です」と切り出したとたん、大きな拍手が沸き起こった。
続いて司会の佐々木寛・新潟国際情報大学教授が「普通なら1人で1時間以上講演する人たちですが、今日は5分です」と釘を刺したあと、指名したのが小泉元首相だった。
「片桐さんが選挙に出るので少しでも力になればと。女性でも男性でも、原発ゼロにしていこうと意欲がある人を応援していこうと思って、今日はやってきました」と話し始め、脱原発を訴える全国行脚講演の核心部分を紹介したのち、次のような熱っぽい言葉で締め括った。
「これだけの、さまざまな意見を持っている方々が片桐さんを必死に応援してくれれば、いい結果が出ると信じております。選挙はやってみないとわからない。本当にそうですよ。今は名前が売れていないと思いますが、これから始まるのです」。
「片桐さんに大いに頑張ってもらって、まず新潟から『原発ゼロにしよう』という声を全国に広げる。片桐さんが当選すれば、新潟だけではない。日本を動かしますよ」。
この小泉発言に反応したのが元経産官僚の古賀氏だった。
「僕、驚いたのです。小泉元総理、あんなに片桐さんのことを応援するかなと。(拍手)本当ですよ。小泉さん、そう簡単には政治的には、選挙にはあまり関与しないということでずっと貫いておられる方ですから。(元首相の)細川さんの時だけは違いましたが、それ以外は抑えているのに、あれだけ前に出られるのはよっぽど(片桐氏に)期待をされているのだろうなと。今日は、片桐さんは謙遜されていましたが、『ああ、勝てるな』と思いました」。
かくいう私も驚いていた。東電福島原発事故以降、全国各地で「原発ゼロ」を訴える小泉氏を取材してきたが、この日ほど踏み込んだ発言を耳にしたのは初めてだったからだ。まさに、14年の東京都知事選に出馬した細川護熙元首相を応援して以降、封印していた政治的発言を再び解き放った瞬間だった。
「新潟から日本の政治を変えよう」という小泉元首相の呼びかけを、グローバルな視点から意義付けたのが「環境エネルギー政策研究所」の飯田所長だ。古賀氏とともに、維新創設者の橋下徹・元大阪市長が脱原発派だった頃にブレーンを務め、12年7月の山口県知事選にも出馬し善戦した経歴を持つ論客だが、福島原発事故がまるでなかったかのように原発推進へと回帰した自民党政治を転換させる機会になると、飯田氏もハイテンションで訴えたのだ。
「いま人類史的な大転換が起きている。去年風力発電は6.4%、太陽光発電は4%で合わせて10%と、この10年間で10倍になったのです。あと10年間で100%にはならないにしろ、数十%にはなる。(太陽光や風力発電のコストダウンが進んで)日本とロシアを除くほとんどの国で、太陽光が1番安くて風力が2番目に安いエネルギー源になったのです。それは、政治がきちんとした市場を作ったからです。しかし、今の自民党政権はむしろ(再生可能エネルギーの)市場を潰す方向に来ているので、いま日本の太陽光と風力の市場はもう風前の灯のような形になっている。
世界的な大転換から日本だけが取り残されているのを変えるには、ボトムアップで変えないといけない。(新潟で)原発の再稼働をしても結局、電気もお金も東京に行くだけです。上からの変化では変わらないのです。片桐さんが知事になって、世界の遅れを取り戻しながら、日本、ひいては世界のトップランナーをやっていく。世界の文明史的大転換を新潟がつかんで、自分たちのエネルギーと自分たちの経済を作り上げていく。新潟と日本の未来を変える重要な選挙になると思います」。
・脱原発でGDP15%増
リレートークが進むにつれて、片桐知事が誕生した場合の目玉政策が明確になっていった。小泉元首相の全国講演行脚に同行することが多い、城南信用金庫元理事長で現顧問の吉原毅氏は、こんな近未来図を描いてみせた。
「たとえばですよ。(柏崎刈羽)原発を動かさなくたって(新潟―東京間には)立派な送電線があるのです。新潟で同じくらい自然エネルギーをやると、私の計算で1兆数千億円ぐらいの年間のGDPが増えます。新潟のGDPはたしか毎年9兆円くらいだから、1兆数千億円といったら1割5分以上ですよ。東京に電気を売ってお金が入ってくる。
田んぼで太陽光発電をして電気料金が入ってくる『ソーラーシェアリング』という技術があり、経産省や農水省が推進をしている。新潟はお米を作って自然エネルギーでも大儲けをして、どんどん発展できるのです。そんなことも、片桐さんなら実現してくれるのではないかなと思います」。
集会後の懇親会でも、会場内に満ちた高揚感は消えることはなかった。嘉田参院議員が「奇跡の逆転勝利はある」と断言。自身が2006年に当選した滋賀県知事選を回想、巨大政党や各種団体からなる“軍艦”に“手漕ぎ船”が打ち勝ったことを振り返りながら、片桐氏にこう助言した。
「熱伝導です。候補者が『私が知事をやらせて下さい』と言って構想を語る。『石油に頼らず、原発に頼らず、お天道様と風の力と大地の力と水の力に頼る新潟、これが日本の未来です』と」。
さらに嘉田氏が「新潟から日本を変える」と力説すると、隣にいた飯田氏は「滋賀で勝ったということは、新潟では完全に勝つ」「太陽の力と県民の力で新潟を変える」と付け加えた。
1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。