新潟県知事選、「ウクライナ危機」に乗じた原発再稼働を止める闘い
政治・新潟の戦いが永田町にも波及
かつてない盛り上がりを見せる新潟県知事選が、その2カ月後の7月の参院選を占う前哨戦のような意味を持つのは言うまでもない。ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、日本のエネルギー政策をめぐる国論が二分しつつあり、参院選でも一大争点になるのは間違いないからだ。
侵攻直後の2月28日、日本維新の会代表の松井一郎・大阪市長は、原発再稼働を短期的に容認する考えを明らかにした。「日本のエネルギーが高コストになってしまう。電気料金の値上がりにつながると生活が成り立たない」というのが理由だった。
これに呼応するかのように、自民党の「電力安定供給推進議員連盟」(会長・細田博之衆院議長)も3月15日、速やかな原発再稼働を萩生田光一経産大臣に求めた。そして原子力規制委員会に対しても緊急提言を行ない、「(福島原発事故を受けて出来た)新規制基準で設置が義務づけられているテロ対策施設の完成前でも再稼働を可能とすべき」と運用の見直しを求めたのだ。
こうした再稼働推進の動きと一線を画したのが、立憲民主党の泉健太代表だ。3月18日の記者会見で、私の質問に対して次のように答えた。
「福島原発事故を受けて安全基準等々を厳格にしているのだから、エネルギーの世界的な動きによって安全性を変えるのはあってはならないと思っている。われわれはそういった議論には与しない」。
ちょうど、この会見の前日に片桐氏が出馬会見で、ウクライナでの原発攻撃を受け「原発ゼロを加速すべき」と訴えていた。この「安全保障上も日本に原発を置いておくのは危険」という主張についても聞くと、泉代表からこんな回答が返ってきた。
「侵攻前に話をした時に、ウクライナの大使も、国内の15機の原発に対してもしロシアが攻撃を仕掛けてくると、ものすごい国家的なリスクになることを懸念していた。いま間違いなく、そこは一つの懸念材料だと思っている。そういうことを含めてわれわれとしては、すぐに(原発)ゼロにできるとか、するということではないにしても、できる限りの努力をして、この原発のリスクを減らしていく。それが立憲民主党です」。
二つの政治勢力が対峙していることが浮き彫りになる。ウクライナ侵攻による価格高騰を理由に原発再稼働を促進する人々と、原発攻撃リスクを直視して原発ゼロの加速を目指す人々が激突し始めたのだ。実際、泉代表はこの日の会見で「参院選の争点になっていく可能性はあると思う」と語っていた。
このとき私は、「新潟県知事選を参院選の前哨戦と位置づけ、立憲民主党は片桐氏を支援するに違いない」と予測した。前日の出馬会見で、片桐氏は次のように訴えていたのだ。
「今回のウクライナのことで、“安全な原発”でも危険なことがわかった。花角(英世)知事とか自民党の方は『安全な原発を確保して、そして(再稼働を)進めればいいのではないか』みたいな話をするが、そうではないことが証明されたのではないか。安全な原発というものはない」。
「戦争による原発攻撃リスクがはっきりした。北朝鮮のミサイルが間違って当たるかもしれない。ウクライナの戦争を見たら、原油が高くなろうが安くなろうが生きていないとダメ。『命の重さ』『県民の命、未来』を軸に私は訴えていきたい」。
このように泉代表と片桐氏の主張はほぼ一致している。ところが、立民は新潟県知事選で自主投票を決めた。
新潟県の県政ウォッチャーが言う。
「立憲民主党などを支援する連合新潟は、花角知事が2月16日に出馬表明をする前、1月末の段階で支援の方針を決定した。これに影響を受けたのは確実です。米山隆一知事(現在は新潟5区の衆院議員)が誕生した2016年10月の新潟県知事選と同じパターンです。同党の森裕子参院議員(新潟選挙区・定数1)が7月の参院選で改選となるため、現職知事の対抗馬を立民が支援した場合、連合新潟との関係悪化で森氏当選のマイナス要因になることを恐れたのでしょう」。
実際、6年前の県知事選でも連合新潟は自公推薦の森民夫・前長岡市長を支援する一方、当時の民進党は自主投票だった。それでも、脱原発派の国会議員が自主的に米山氏を応援し、終盤には蓮舫代表(当時)が新潟入り。連合の顔を立てて「自主投票」としながらも、党所属の国会議員が実質的な支援をしたわけだが、「今回も立民の国会議員は同じような対応をとると聞いている」と前出の県政ウォッチャー。
表立って片桐氏支援をアピールするのは控えるものの、実質的な支援体制に大きな違いはないというのだ。
・隠れ原発推進派
実際に4月10日の集会には、立民の森参院議員や菊田まきこ衆院議員(新潟4区)が駆け付けて挨拶もしていた。
原発再稼働に高いハードル(検証委員会)を設けた米山県政継承を訴えて当選した花角知事だが、次第に“隠れ原発推進派”の実態が露わになりつつあった。片桐氏が出馬会見で花角知事について「当初は脱原発を目指すと主張していたが、進めておらず不満だ」と批判したのはこのためだ。
「福島原発事故の検証が不十分」と主張して柏崎刈羽原発再稼働を認めなかった泉田裕彦・元新潟県知事(現衆院議員)と同様、米山前知事(同)も県独自の検証委員会を継続。花角知事も2018年の県知事選で、この路線を引き継ぐと訴えてはいた。
しかし3つの検証委員会を束ねる総括委員会の運営を巡り、池内了委員長と花角知事の認識の違いが生じて休眠状態が続いているのである。
2021年10月1日付の朝日新聞は「花角知事『委員長と意見相違で開催できず』 原発事故の検証総括委」と題して次のように報じた。
「総括委は米山隆一前知事の下で2018年に1回開催されたが、花角知事が就任してからは今年1月に開かれたのみ。池内委員長は、①県民の意見を募り総括委の議論へ反映、②総括委でも柏崎刈羽原発の安全性を確認、③同原発を運転する適格性が東電にあるかを評価、などを求めている。県はいずれも許容しない意向」。
検証総括委員会の不開催については、片桐氏も出馬会見でこんな批判をしていた。
「総括委員会は5年間で2回しか開かれていない。検証は検証できちっと続けていくと、(再稼働)できないということになると思う」。
「『(福島原発事故関連の)検証の対象が福島で、新潟ではない』と花角知事は言っているが、新潟県の税金を使って検証委員会をやっているのに理屈が合わないではないか。『新潟県(の柏崎刈羽原発)の検証をしない』というのは逃げです。本当に検証すれば、(原発事
故時の)避難問題も無理なのです」。
新潟県村上市にある市民団体「映像から暮らしと環境を考える会」は、池内委員長ら関係者への取材を元にした動画を公開。それを見ると、花角知事が検証委員会を骨抜きにして再稼働に誘導していこうとしているのではないかとの疑問が強くなっていく。「花角知事再選なら原発再稼働の可能性が高い」という懸念が片桐氏出馬の大きな要因だったのである。
7月の参院選にむけた焦点が明確になってきた。それは、ウクライナ侵攻に乗じて原発再稼働を促進しようとする自民・維新や追随する現職知事と、原発ゼロ加速を目指す4野党(立憲・共産・社民・れいわ)や脱原発新人候補が激突するというものだ。
新潟県知事選では花角知事が勝利した。その原因といえる背景については「紙の爆弾」などで論じることとしたいが、来る参院選に向けても、原発再稼働の是非は主要な焦点だ。原発が安全保障上も危険な存在として見なされるのか、それとも原油高騰による電気料金値下げの有効手段と捉えられるのか。有権者がどちらを選ぶのかが注目される。
(月刊「紙の爆弾」2022年6月号より)
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1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。