登校拒否新聞8号:オール1
社会・経済10月3日、琉球新報社が「学校では「オール1」の成績になることも」と報じた。
さまざまな理由で学校に通っていない児童生徒や保護者の支援などを目的に、県内のフリースクールなど20団体が連携し、「沖縄フリースクール居場所等連絡協議会」を1日に立ち上げた。同日、南城市の珊瑚舎スコーレで設立総会を開き、規約や活動計画などを承認した。協議会設立の呼びかけ人で同校職員の西山哲平さん(44)が代表に就任した。フリースクールに通う生徒は高校受験などの際、出席日数や内申点などで不利益を受ける場合があり、県や市町村教育委員会などと協議して必要な仕組みづくりを進めたい考え。現状、出席は学校長判断で一定程度認められる場合もあるが、成績はオール1となることも珍しくないという。
https://ryukyushimpo.jp/news/national/entry-3515907.html
同日、沖縄ニュースは「フリースクールの課題解決に向け連携」と報じている。
学校に通うことが出来ない子どもの居場所や多様な学びを提案するフリースクールなどが、連携して課題解決を目指すことになりました。フリースクール連絡協議会は、沖縄県内のフリースクールや子どもの居場所などの団体が連携し、学校や教育委員会と協議しながら、子どもたちのより良い学びの環境を整えることを目指します。小中学校に在籍しながら民間で学ぶ子どもたちは、学校の出席日数や成績の評価が難しいこと、授業料の補助がないことなどが課題となっていますが、これまでは個人や団体が個別に取り組まざるをえませんでした。
https://www.otv.co.jp/okitive/news/post/00011717/index.html
「学校に通うことが出来ない子どもの居場所」なのか「多様な学びを提案する」のか、どっちなのか、という気もするが大同団結。居場所「等」ということで「フリースクール」「フリースペース」「デモクラティックスクール」「オルタナティブスクール」などが集まった。珊瑚舎スコーレの他、フリースペースさくら、デモクラティックスクールみんと、オルタナティブスクールらしく、よみたん自然学校、侍学園、ミライワライ、暮らしの学校ツナグみらい、みんなの家、沖縄シュタイナー学園、琉究学舎こてらす、多様な学び沖縄、まるまる学校、琉球GLOCALキッズ、やんばる森のがっこう、フリースペースSONOMAMA、多様な学びユンタク会やんばる、トリプルヘリックス、こども自然図書館、トーキョーコーヒー沖縄で計20団体。事務局は珊瑚舎スコーレさん内に置かれている。
https://sangosya.com/uncategorized/kyogikai_info/
中には自然学校や年齢制限のない学校も混じっている。多様な学び沖縄は親の会だ。トーキョーコーヒーは「登校拒否」のアナグラム学校ということで、その沖縄拠点があるらしい。こども自然図書館は廃校を利用した子ども第三の居場所ということだが実態が掴めない。在籍者数も公表されていないのに「寄付のお願い」とあったりして、コンセプト倒れの印象のある所もある。
さくらさんは「学校外で育つ子どもと保護者の居場所」だ。児童館や公民館などに間借りすることで利用料を無料にした。
みんとさんはサドベリースクールだからオルタナ学校。
暮らしの学校はフリーでもありオルタナでもあるらしい。林間学校のような雰囲気だが黒板のある教室があり月謝制だ。
こてらすはco-terraceという造語で、子と共に照らす広場という感じの意味らしい。コザ1番街にキャンパスがある。クラファンで資金を調達した。
https://rescuex.jp/trn_project/55396
沖縄シュタイナー学園については、琉球新報社の過去記事「教科書使わずに個性伸ばす 南風原にシュタイナー学園開校へ」で紹介されている。それによると、地球(ほし)の輪というフリースクールを前身として開校されたもので、当初は教会に間借りしていた。11人が通い、5名の教員を擁した。
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1352075.html
その後、連絡協議会の加盟団体は26団体にまで増えた。沖縄ニュースの続報「負担重くのしかかるフリースクール 初のアンケートで現状明らかに」は11月27日付。少し長いので、飛ばしながら引用する。
法律で定められた学校でないことや、明確な定義がないことから、フリースクールやオルタナティブスクール、子どもの居場所など、県内にある施設の数は教育委員会なども全て把握していません。その実態を把握するため連絡協議会の設立に奔走した西山代表はこうした施設を対象とした初めてとなるアンケート調査を実施、21団体から回答を得ました。西山哲平さん「予想していた通り、利用されている児童生徒や保護者にとって授業料や利用料がすごく高額になっているという事実。働いているスタッフの雇用環境や給与の面も予想通り厳しい結果だったというところが実感です。」利用料について、週5日間子どもたちを受け入れている団体では一人あたり月平均4万6000円余りと、高額な負担が保護者にかかっていることが明らかとなりました。自由記述では、保護者の負担に対し行政による補助を求める声や週5日間毎日開校して子どもたちを受け入れたいが、資金面で開けていないという声や、スタッフが集まらないという課題も明らかに。「家庭への経済的負担が大きく、本当に必要な子どもたちに届けることができない。」「親御さんから学費に関する相談もあるので、行政から家庭へ資金の支援が必要と感じている。」「公立小中の給食費の減免や補助があるなら、フリースクール居場所に通う児童生徒にも適用してほしい。」「経営の安定や働くスタッフの給与の保証などを考えると公的資金を施設側にも投入してほしい。」昨年度、県内の小中学校における不登校の児童生徒の数は、前年度より1251人増加した7013人で過去最多を更新しています。県のこども若者政策課は「不登校の子どもの受け皿を担っている居場所やフリースクールの役割は大きい」として、来年の県こども計画の策定に向けアンケート結果を関係部署で共有し連絡協議会の意見を聞き取っていきたいとしています。
https://www.otv.co.jp/okitive/news/post/00012165/index.html
ここでは略されたのか、調査では働き手の平均報酬も調べている。それによると、無報酬を含め半分程度が月給15万円。最高で25万円と開きが大きい。「資金面で開けていない」「スタッフが集まらない」とあるのは、そうした事情があるからだ。
この動きが全国的に報じられたのは、琉球放送が「突き付けられた「オール1」の通知表 フリースクールで学ぶ不登校生徒 今後の進路まで狭めてよいのか」という番組を流したからだ。これが12月3日付で記事になっている。
子どもが中学生のころにフリースクールを利用していたという母親は、我が子が在籍した中学校から受け取った1年生当時の通知表を見て驚いた。ずらりと並ぶ「C」の評価。「オール1」だった。フリースクールなどを利用する子どもの成績評価は、通っているスクールではなく、在籍する学校の校長が権限を持つ。しかし、フリースクールでの学びを在籍校の成績にどう反映させるか、対応は学校によってまちまちだ。フリースクールでの学習状況を見ないままに低い評価をつけられ、進学に影響することも少なくない。
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/rbc/1593905?display=1
記者の山田耕平さんは琉究学舎こてらす代表の翁長有希さんに取材した。それによると「現状、フリースクールって何なのか、ということをきちんと理解していらっしゃる先生方はあまりいないんじゃないか。なんか“子どもたちが不登校になって、どこか居場所を見つけたんだな”ぐらいの感じで」「フリースクールを始めて、フリースクールが何軒あるとか、どこにあるとか、どこも把握してないんだなというのがすごくびっくりして」「県内にどれくらいのフリースクールがあるのか、そこに県内の子どもたちがどれぐらい通っているのか。我々運営者自身も、県内のフリースクール、子どもたちの現状をお互いに把握することが必要だと思います」ということだ。
あまり競合相手を見ずに開設されたのか。数が増えれば競争が生じることは不可避だ。「どこか居場所を見つけたんだな」というのは居場所という言葉の常識的な用法である。それを業界用語にして「居場所が必要」と大上段に構える人がいるけれど、それがスクールという形態を取る必然性はない。中学不就学の頃、私は映画館の待合席やイオンモールのような所の椅子でよく本を読んでいた。居場所は用意されるものではなく自分で見つけるものだ。
さて、上の琉球放送の記事である。これはヤフーニュースで再配信された。この記事を書いている段階で2468件のコメントが寄せられている。『登校拒否新聞』ではヤフーニュースのコメント欄を何度か参照してきた。誰でも匿名で投稿することができるためにヤフコメ民と呼ばれる人たちの民度は低いとも言われるが、それだけに生の声が聞けて勉強になる。ところがヤフーニュースの記事はすぐに削除されてしまう。再配信されたものだからオリジナルの記事を探すことは難しくない。惜しいのはコメントが消えてしまうことだ。2468件のコメントのすべてに目を通すことは難しい。しかし『登校拒否新聞』はそれをやる。まず――、
登校拒否の姪は国立大学に合格しましたが、根源は、高校教育がダメすぎ。(匿名)
逸脱するって覚悟もなく安易に「登校拒否」を受け入れるからこんな図々しいこと言う。蛇の道選んだんだからそっちでなんとかしなよ。(匿名)
この二つの意見だけが「登校拒否」という言葉を使っている。だから本当にすべてのコメントを見たのである!蛇の道を行く『登校拒否新聞』としてはピックアップせざるを得ない。コトバに敏感な人はいるものだ。
不登校という表現は問題。いつまでこの表現を続けるのだろう?教育界のイノベーションの無さに呆れる。教育も登校も、大人のそれも上からの目線の表現。大人、教師主体の言葉。教育には、学問、学んで問うという生徒、学生主体の言葉も並列に扱うのが大切。教育と学問。通学は、昔のお城が山の上、丘の上にあったところから登城、それから官庁では登庁が生まれている。要するにこれも殿様、官庁トップを上に見ての表現。今は学校がお城。それで登校。普通に通学、通勤を使えばいいわけで、通学していなければ不通学。(ひかりごけ)
社会に出たら不出社は難しいよ。(匿名)
ひかりごけさんは「不登校」に代えて「不通学」を提案される。登校という言葉が登城から来たというのは事実である。「不出社」はないと反問されれば「不通学」でも答えにならないけれど、ひかりごけさんの言っている「上からの目線の表現」ということはよくわかる。であるから、あなたはなぜ不登校になりましたか?不登校をして良かったと思いますか?というような「不登校」ありきの調査では実態は掴めない。コトバに対する疑問のないところ思想はない。
最初にフリースクールに関するコメントだけ集めてみる。
フリースクールに通うには、経費がかかります。フリースクールのみに通い学校に全く登校しない生徒に1以外の成績をつければ、家庭の経済状況によって、生徒の成績に格差が出ることになりませんか。家庭で自力で勉強している生徒は、学力があっても評価されません。(匿名)
民間教育に従事しています。仮にフリースクールで内申をつけられるようになれば、「うちは不登校でも高い内申つけますよ」と言い出すところが出てくると予想します。受験や内申のためだけにわざわざそこに通わせる保護者も出そうです。継続して学校に通えない子供たちが、内申を必要とする公立の学校に進学することが本人たちのためになるのかは議論が必要だと考えます。進路が狭まるというのはその通りですが、その中で内申を重視しない受験システムも一部導入するなど、選択肢を広げる方が現実的なのではと思います。付け加えて言うなら、仕事上いくつかフリースクールや通信制高校に行く機会がありますが、生徒だけ集めて後はタブレット授業で放置、時間になれば勝手に帰って、先生と一言も言葉を交わさない、みたいなところもあります。まだまだ玉石混交の業界ですし、慎重な検討が必要だと思います。(匿名)
フリースクールの評価を内申に含めてしまったら、高評価乱発するフリースクールを使った内申稼ぎビジネスが生まれるよ。(匿名)
フリースクールについての知識があまりないのですが、指導者は教員免許を持っているのでしょうか?持っているのが最低限の条件だと思いますが、もし持っていないのであれば評価する資格はないと思います。教員免許を持っていても子供を評価するのはかなり難しいことです。「1」がどうとかという議論よりも、問題があると思うなら制度や仕組みの構築についての議論が先ではないでしょうか。今の制度や仕組みがあるわけですから「1」がつくことに違和感や不満を言うだけでは何も解決しないと思います。(匿名)
フリースクールの先生というのは教員免許を持っているんでしょうか?高い学費を払い大学に行き、教員免許を取ったのに、無償や月15万円の給料でフリースクールで働きますか?(匿名)
フリースクールを目のかたきにしている公立学校の先生は結構います。(匿名)
そもそもフリースクール自体が学校と認定されてないので、フリースクールに通いながら成績評価は在籍校という扱いになるからこんな事態が起こる。文部省自体フリースクールを勧めておきながら非公認で私塾扱いなんてダブルスタンダードはやめて、公認の学校として在籍出来るように整備してくれないと解決しないよ。(匿名)
フリースクールで高卒認定まで取らせればいいんだよ。不登校の子をわざわざ高校に行かせる必要ないじゃん。(匿名)
義務教育は私立の一条校に通う時は届けを出すんですよね。フリースクールやインターナショナルスクールは一条校じゃないから学区の学校に籍を置いたまま通います。(飄々)
フリースクールで内申点がつくと「不登校ビジネス」になるという意見は少なくなかった。「家庭で自力で勉強している生徒」の評価はどうするのか。私もその一人であった。「多様な学び」を説く人たちは家で「学校の勉強」をしている子の存在を等閑視している。塾が「居場所等」に入らないというのも同じ理由からだ。そもそも、点数というのは教科学習の習得に対してつけるものである。学びなどという得体の知れないものを評価するということ自体が矛盾を孕んでいる。
インターナショナルスクールは盲点を突かれた気がする。一条校(学校教育法に定める学校)でも「居場所等」でもない学校がある。では評価はどうなっているのか?
教員免許の問題はある。自治体によればフリースクールのスタッフでも教員免許のあることが望ましいという方針を採用している。「教員免許を取ったのに、無償や月15万円の給料でフリースクールで働きますか?」という問いは辛辣だが、非正規雇用の実態を考えればあり得る話だ。フリースクールには「元教員」がいる場合がある。人手不足とは言いながら休職の末、退職という教員も多いから今後はフリースクールに入る「元教員」も増えることだろう。中途退職した教員の再雇用の場として「居場所等」は確かに選択肢の一つだ。案外にそういう雇用の面からフリースクールの公教育化が進むのではないか。(次号に続く)
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1984年生。文学博士。中学不就学・通信高卒。学校哲学専攻。 著書に『メンデルスゾーンの形而上学:また一つの哲学史』(2017年)『不登校とは何であったか?:心因性登校拒否、その社会病理化の論理』(2017年)『戦後教育闘争史:法の精神と主体の意識』(2021年)『盟休入りした子どもたち:学校ヲ休ミニスル』 (2022年)など。共著に『在野学の冒険:知と経験の織りなす想像力の空間へ』(2016年)がある。 ISFの市民記者でもある。