【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2024.12.12/櫻井春彦 : ソ連と同じように西側を信じてシリアのアサド政権は崩壊したという見方

櫻井春彦

 イランでは国政全般にわたる最終決定権を持っている人物は大統領でなく「最高指導者」だ。現在の最高指導者であるアリ・ハメネイ師はシリアのバシャール・アル・アサド政権の崩壊について、アメリカとシオニストが共同して企てたものだと語っている。常識的な見方だと言えるだろう。

 シリア側はイランがガーセム・ソレイマーニーが打ち出した「抵抗の枢軸」戦略を放棄したと考え、イランはイスラエルやアメリカと秘密協定を結び、クルドとの関係を修復させようとしているという疑いの声も聞こえてきた。親欧米派のマスード・ペゼシュキヤーンが大統領になったことも不信を高める一因になったかも知れない。アサド政権はトルコも信用できなくなっていたという。

 アサド政権を倒したハヤト・タハリール・アル・シャム(HTS)はアル・カイダ系のアル・ヌスラ戦線を改名した組織で、そのアル・ヌスラはシリアで活動を始める前はAQI(イラクのアル・カイダ)」と呼ばれていた。

 ​アル・カイダとはCIAの訓練を受けた「ムジャヒディン」の登録リストだとイギリスの外務大臣を1997年5月から2001年6月まで務めたロビン・クックは05年7月8日付けガーディアン紙で説明している​。その仕組みを作り上げたのがズビグネフ・ブレジンスキーだ。戦闘員はサウジアラビアの協力で集められたが、その中心はサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団だった。ちなみに、クックは2005年8月6日、休暇先のスコットランドで散歩中に心臓発作で急死している。

 HTSを含むアル・カイダ系武装集団はジハード(聖戦)なる看板を掲げる傭兵で、現在、HTSを雇っているのはトルコ政府だとされているのだが、そもそもアル・カイダの仕組みを作ったのはアメリカ。こうしたジハード傭兵はこれまでイスラム教徒やキリスト教徒を大量殺戮してきたが、イスラエルを攻撃していない。ムスリム同胞団は歴史的にイギリスとの関係が深く、ムスリム同胞団から派生したハマスをイスラエルが支えていたことも知られている。HTSについてもイスラエルから好意的な発言が聞こえてくる。

 2001年9月11日に何者かがニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)を攻撃した。それから10日ほど後、統合参謀本部で見た攻撃予定国のリストを見たとウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官は語っている。そこにはイラク、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、そして最後にイランが記載されていたという。そのリスト通りに破壊されてきた。残るはイランだ。(​3月​、​10月​)

 この予定表に従い、ジョージ・W・ブッシュ政権は2003年3月、イラクが「大量破壊兵器」を保有しているという偽情報を主張しながらアメリカ主導軍にイラクを侵略させ、破壊した。イラクのサダム・フセイン体制を倒して親イスラエル体制を築いてシリアとイランを分断するという計画はネオコンが1980年代から主張していたことだ。

 バラク・オバマ政権はリビアとシリアを含む地中海沿岸諸国の政権をムスリム同胞団やサラフィ主義者を利用して倒し始める。シリアに対する攻撃は2011年3月に開始された。

 その年の10月にアメリカなど侵略の黒幕国はムアンマル・アル・カダフィを惨殺、リビアの体制転覆に成功したが、その際にNATO軍とアル・カイダ系武装集団、LIFG(リビア・イスラム戦闘団)の連携が明白になっている。ちなみに、「アル・カイダ」のアイコン的な存在だったオサマ・ビン・ラディンの殺害をオバマ政権が宣伝したのは2011年5月のこと。それ以降、2001年9月11日の出来事は忘れられた。

 シリアの体制を倒すことに手間取ったオバマ政権は反シリア政府軍に対する支援を強化するだけでなく、新たな戦闘集団を編成するのだが、​そうしたオバマ政権の方針を危険だとアメリカ軍の情報機関DIA(国防情報局)は2012年に報告書を提出​した。反シリア政府軍の主力はAQIであり、その集団の中心はサラフィ主義者やムスリム同胞団だと指摘、さらにオバマ政権の政策はシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配地域を作ることになると警告したのだ。その時にDIAを率いていた軍人がマイケル・フリン中将にほかならない。

 この警告通り、2014年には新たな武装集団ダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国などとも表記)が登場する。この武装集団はこの年の1月にイラクのファルージャで「イスラム首長国」の建国を宣言、6月にはモスルを制圧。その際にトヨタ製の真新しい小型トラック、ハイラックスを連ねてパレードし、その後、残虐さをアピールする。ロシアがアサド政権の要請で軍事介入したのは翌年の9月だった。

 こうしたジハード傭兵を使った侵略戦争をアメリカは1970年代にアフガニスタンで始めている。その矛先は中東だけでなく、チェチェンや新疆ウイグル自治区へも向けられてきた。オバマがシリアに対する軍事侵略を始めた時、ロシアはイスラム系カルトの政権ができることを恐れていたと言われているが、その恐れが現実になる可能性がある。

 それに対し、トルコとイランはロシアとシリア情勢についてドーハで話し合っていた。ダマスカスを守り、トルコにHTSを管理させようとしていたというが、アサドは「アラブの指導者」を介してNATOの約束を間に受け、トルコ、イラン、ロシアのプランに乗らなかったとも伝えられている。アサド大統領は「新たなアラブ同盟国」が自分を守ってくれると信じたというのだ。シリア政府は闘い気力をなくし、イランやロシアからの警告を無視していたとも言われている。

 HTSがイスラエルと友好的な関係を結ぶとしても、アメリカを後ろ盾とするクルドを放置することはないだろう。アフガニスタンではアメリカがジハード傭兵を使ってソ連軍と戦い、ソ連軍が撤退して数年後、傀儡政権を作らせるためにタリバーンを作ったのだが、アメリカの傀儡にはならなかった。

 タリバーン政権が成立する前からアフガニスタンに食い込んでいたアメリカの石油会社UNOCALは1995年10月にトルクメニスタン政府とパイプライン敷設計画に合意、調印した。タリバーンがカブールを制圧したのは1996年9月のことだ。

 タリバーン政権は1998年1月、トルクメニスタン(T)からアフガニスタン(A)とパキスタン(P)を経由してインド(I)に至るTAPIパイプラインの敷設を計画するのだが、UNOCALでなくアルゼンチンのブリダスを選び、アメリカと対立する。それ以降、アメリカとタリバーンは敵同士だ。HTSがアメリカ、トルコ、ウクライナ、イスラエルなどと友好的な関係を維持するかどうかわからない。

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