【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2024.12.16/櫻井春彦 : CIAが作った仕組みから生まれたHTSはシリアを攻撃してもイスラエルには友好的

櫻井春彦

 シリアのバシャール・アル・アサド政権は11月27日、ハヤト・タハリール・アル・シャム(HTS)の奇襲攻撃を切っ掛けにして崩壊した。

 HTSはアル・カイダ系の武装集団であり、傭兵の集まりだ。​ロビン・クック元英外相が説明したように、アル・カイダとはCIAの訓練を受けた「ムジャヒディン」の登録リストにほかならない​。つまり、アル・カイダという組織は存在しない。現在、HTSと呼ばれる傭兵を雇っているのはトルコ政府だと言われている。いわばHTSはトルコ政府の操り人形だが、一般的にはアブ・ムハンマド・アル・ジュラニが率いているとされている。しかもCIAの影響を受けているはずだ。

 事実上、CIAはウォール街、MI6はシティの情報機関であり、ウォール街とシティが緊密な関係にあることを考えれば、CIAとMI6が緊密な関係にあることも必然だ。

 これまでもイスラエルはシリアを執拗に空爆してきたが、HTSがダマスカスを制圧して以来、イスラエルはシリアを300回以上にわたって空爆、さらに地上部隊を侵攻させているのだが、こうしたことについてHTSは沈黙している。ガザでの大虐殺を怒っているようにも思えない。

 そして12月14日、ジュラニはイスラエルとの紛争に巻き込まれたくないと語った。ダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国とも表記)と同じように、イスラム諸国を荒らしまわる一方、イスラエルの「三光作戦(殺し尽くし、焼き尽くし、奪い尽くす)」を容認しているが、HTSの背景を考えれば必然である。

 これまでアサド政権を攻撃してきた勢力の背景は概ね同じなのだが、団結しているわけではない。アメリカを背景にし、トルコに雇われているHTSはアメリカやイスラエルの手先になっているクルドと対立関係にあり、そこにトルコ、イスラエル、アメリカ、そしてシリア軍の残党が絡んで内乱が始まる可能性もある。

 シリアに住む人びとにとってこうした「バルカン化」は好ましくないが、イスラエル、イギリス、アメリカをはじめとする欧米諸国にとっては好都合だ。小国、小集団が互いに殺し合ってくれれば支配しやすい。イスラエル、イギリス、アメリカはそうしたプランを持っていた。

 そもそも、パレスチナに「ユダヤ人の国」を作るというシオニズムはイギリスで生まれたカルトだ。そのためには、パレスチナに住むアラブ系の住民を「浄化」する必要があり、「三光作戦」が始まったのは必然だった。

 イギリスにシオニズムが登場したのは、エリザベス1世が統治していた16世紀後半のことのようだ。イギリスではアングロ-サクソン-ケルトが「イスラエルの失われた十支族」であり、自分たちこそがダビデ王の末裔だとする信仰がこの時期に出現した。ブリティッシュ・イスラエル主義とも呼ばれている。

 17世紀初頭にイギリス王として君臨したジェームズ1世は自分を「イスラエルの王」だと信じていたという。その息子であるチャールズ1世はピューリタン革命で処刑されたが、その革命で中心的な役割を果たしたオリヴァー・クロムウェルなどピューリタンもそうした話を信じていたようだ。

 イギリス政府は1838年、エルサレムに領事館を建設、その翌年にはスコットランド教会がパレスチナにおけるユダヤ教徒の状況を調査し、イギリスの首相を務めていたベンジャミン・ディズレーリは1875年にスエズ運河運河を買収。そして1917年11月、アーサー・バルフォアがウォルター・ロスチャイルドへ書簡を出す。いわゆる「バルフォア宣言」だ。

 イギリスは1920年から48年の間パレスチナを委任統治、ユダヤ人の入植を進めたが、1920年代に入るとパレスチナのアラブ系住民は入植の動きに対する反発を強める。

 そうした動きを抑え込むため、デイビッド・ロイド・ジョージ政権で植民地大臣に就任したウィンストン・チャーチルはパレスチナへ送り込む警官隊の創設するという案に賛成、アイルランドの独立戦争で投入された「ブラック・アンド・タンズ」のメンバーを採用した。

 この組織はIRA(アイルランド共和国軍)を制圧するために設立されたのだが、殺人、放火、略奪など残虐さで有名だった。そして1936年から39年にかけてパレスチナ人は蜂起。アラブ大反乱だ。

 1938年以降、イギリス政府は10万人以上の軍隊をパレスチナに派遣する一方、植民地のインドで警察組織を率いていたチャールズ・テガートをパレスチナへ派遣、収容所を建設する一方、残忍な取り調べ方法を訓練した。イギリス軍はパトロールの際、民間のパレスチナ人を強制的に同行させていたともいう。

 反乱が終わるまでにアラブ系住民のうち成人男性の10パーセントがイギリス軍によって殺害、負傷、投獄、または追放された。植民地長官だったマルコム・マクドナルドは1939年5月、パレスチナには13の収容所があり、4816人が収容されていると議会で語っている。その結果、パレスチナ社会は荒廃した。イスラエルによるパレスチナ人虐殺はこの延長線上にある。

 こうした殺戮、破壊、略奪を「経済活動」として行うのが帝国主義。19世紀のイギリスで帝国主義の中心にいたのはシティの支配者だったナサニエル・ロスチャイルド、その資金を使って南部アフリカを侵略し、ダイヤモンドや金を手にしたセシル・ローズ、そのほかウィリアム・ステッド、レジナルド・ブレット、アルフレッド・ミルナーたちがいる。

 世界支配の戦略を立てたのはローズだと言われているが、この人物は1877年にオックスフォード大学を拠点とする秘密結社「アポロ・ユニバーシティ・ロッジNo.357」へ入会、その直後に「信仰告白」を書いた。その中でローズはアングロ・サクソンが「世界で最も優れた種族」だと主張、アングロ・サクソンが住む地域が広くなればなるほど人類にとって良いと主張、そうした戦略を実現するために秘密結社は必要だとしている。シリアを破壊したのもローズの後継者たちだ。

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