【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2024.12.21/櫻井春彦 : 「大イスラエル構想」と「オスマン帝国構想」は衝突するのか

櫻井春彦

 11月27日にシリア軍を奇襲攻撃、バシャール・アル・アサド政権を倒したハヤト・タハリール・アル・シャム(HTS)はトルコの支援を受けていたが、その歴史を辿るとアル・カイダ系だということがわかる。​アル・カイダとはロビン・クック元英外相が2005年7月に説明したように、CIAの訓練を受けた「ムジャヒディン」の登録リスト​。つまり共通の政治的な目的を持つ集団でなく、カネ目当ての傭兵にほかならない。

 アメリカのバラク・オバマ政権はムスリム同胞団やアル・カイダ系武装集団を使い、2011年3月からシリアに対する軍事侵攻を始めたが、リビアと違って倒せない。そこでサダム・フセイン体制の兵士を吸収して新たな武装集団ダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国とも表記)を編成したが、2015年にシリア政府の要請を受けたロシアが軍事介入して西側の計画は潰された。

 オバマ政権が2010年8月に承認した「PSD(大統領研究指針)11」で「アラブの春」を始めたが、​ロラン・デュマ元仏外相によると、09年にイギリスを訪問した際、イギリス政府の高官からシリアで工作の準備をしていると告げられた​という。「抑圧的なアサド政権に対する民衆のデモが勃発した2011年3月」に戦闘が始まったのではない。

 アメリカは2017年10からシリアとの貿易を全面的に禁止するなど経済封鎖を開始、国連がシリアの復興に参加することも禁止されている。その兵糧攻めが有効で、アサド政権はイラクのフセイン体制と同じように崩壊したと言えるだろう。

 イランの最高指導者であるアリ・ハメネイ師はシリアのバシャール・アル・アサド政権の崩壊について、アメリカとイスラエルの司令室で計画されたことに疑いの余地はないと12月11日に語っている。

 アブ・ムハンマド・アル・ジュラニがHTSの指導者とされているが、この人物にしても雇い主の命令に従っているだけ。アサド政権の崩壊が決定的になった頃から、アル・ジュラニはヨーロッパ風のシャツに着替えてイメージ・チェンジを図った。

 さまざまな人がアサド政権が簡単に崩壊した理由を分析しているが、いずれにしろ、ガザの住民を虐殺しているイスラエルと戦うヒズボラの兵站線がダメージを受けたことは間違いない。

 そのイスラエル軍はシリア領内に対する大規模な空爆を実施、最初の数日で、450回以上の空爆を実施、さらに地上部隊を軍事侵攻させ、ダマスカスに迫っているようだが、アル・ジュラニはシリアからイスラエルを攻撃することを許さないと語り、ガザでの虐殺に触れない。ゴラン高原でもイスラエル軍は占領地を拡大しているのだが、その地下に石油があるとイスラエルの地質学者は判断している。

 アメリカやイギリスもこれまでHTSをテロ組織だと指定され、アメリカでは1000万ドルの懸賞金をかけられていたが、すでに西側の同盟者として扱われはじめている。アサド政権の打倒によってアル・カイダ系傭兵の役割は終了、西側の傀儡政権を樹立させようとしているのだろうが、その思惑通りに進むかどうかは不明だ。

 ズビグネフ・ブレジンスキーがアル・カイダという傭兵システムを作ったのは1970年代のこと。ソ連軍をアフガニスタンへ誘い込み、ジハード傭兵と戦わせた。ソ連軍が撤退した後、アメリカの傀儡政権としてタリバーンを組織したのだが、石油利権でアメリカの巨大資本と対立、今ではアメリカから敵視されている。雇い主の敵と戦うという役割が終わると、制御が難しくなるようだ。そうしたことがシリアでも起こる可能性がある。

 すでにHTSの内部では派閥抗争が始まり、人びとの自由が侵害され、社会は混乱し、略奪、そして路上での処刑が横行していると伝えられている。アサド政権が守ってきたキリスト教徒は特に恐怖を感じているだろう。

 さらに、シリアという緩衝地帯の消滅により、今後、スンニ派とシーア派、あるいはトルコとイスラエルが直接衝突する可能性が高まると見られている。HTSが拠点にしていたイドリブには約3万人のウイグル人がいてトルコの軍事訓練を受け、今回のシリア攻撃でも重要な役割を果たしたと言われている。中国にとっても人ごとではない。

 そこにアメリカをはじめとする欧米諸国の歴史的な欲望が加わり、混乱を予想する人もいる。中東がバルカン化して混乱することは好ましいとイギリスの支配層は考えていた。

 イギリス/シオニストは「大イスラエル構想」、トルコは「オスマン帝国構想」を持っているとも言われているが、そうした構想が共存できるとは思えない。

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