植草一秀【連載】知られざる真実/2024年12月21日 (土) 北陸新幹線を米原延伸で決着
社会・経済北陸新幹線の延伸ルートをめぐって与党の整備委員会が12月18日に開かれたが、年内中に予定していた京都駅周辺を通るルートの絞り込みを断念した。
与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームは2016年12月に北陸新幹線の敦賀―新大阪間について「小浜ルート」の採用を決定。
国土交通省の試算では、小浜ルートの事業費は約2兆1千億円、工期は15年だった。
ところが、本年8月7日に開かれた与党整備委の会合では、「小浜ルート」の事業費が最大約5兆3千億円、工期は最長28年と示された。
8年が経過して「小浜ルート」の事業費と工期が激変。
このことから、再び「米原ルート」が浮上している。
2016年の時点で米原ルートは事業費約5900億円、工期10年だった。
「小浜ルート」では京都駅との接続等に関して3つの異なるルート案が提示されている。
1.京都市中心部を東西に横切る形で線路を通し、JR京都駅と平行な位置に新幹線の駅を設ける「東西案」
2.京都市中心部を南北に通ってJR京都駅の線路と直角となる位置に新幹線の駅を設ける「南北案」
3.JR京都駅から2駅先のJR桂川駅近くに駅を設ける「桂川案」
今後の物価上昇を見込んだ事業費と工期は
「東西案」が5兆3000億円程度・28年程度、
「南北案」が5兆2000億円程度・25年程度、
「桂川案」が4兆8000億円程度・26年程度とされる。
どの案でも事業費は当初の想定から激増。
工期も驚くべき長さに転じているr。
前提条件が激変した以上、米原ルートなどを含めて敦賀延伸の事業全体を見直すべきだ。
石川県の県議会議員などは、与党の整備委員会が年内に予定していた京都駅周辺を通る3ルートの絞り込みを断念した12月18日に、都内で自民党の森山幹事長と面会し、現在の「小浜・京都ルート」よりも区間が短い「米原ルート」を含めて再考するよう求める要望書を手渡した。
与党のプロジェクトチームは「小浜・京都ルート」は既定の路線だとするが、既述の通り、前提条件が激変した。
事業費は当初の想定よりも2倍以上に跳ね上がっており、工期も著しく長期化することから、抜本的に見直すべきことは当然だ。
石川県の県議会議員などは、同日、国会内で石破首相にも面会し、米原ルートの検討を求めた。
「小浜・京都ルート」には事業費膨張、工期長期化以外にも重大な問題が顕在化している。
第一は新幹線建設が行われる京都市内において地下水に重大な影響が生じることが懸念されていること。
京都市が全面的に新幹線建設に反対すれば「小浜・京都ルート」は挫折する。
第二は「小浜ルート」延伸計画」では敦賀から新大阪まで140キロメートルの80%がトンネルであるため、工事に伴う発生土が大量になり、その発生土に重大な問題が存在すると見られていること。
発生土は880万㎥に達し、その発生土にヒ素などの猛毒の重金属が含まれていると見られている。
鉄道運輸機構はヒ素など「対策土の含有率は30%」と認めている。
京都北中部での由良川など河川や地下水の枯渇漏出による用水や生活への影響、
京都市内での「巨大トンネル」による地下水の枯渇や鴨川などの河川への影響、
活断層への影響が懸念されている。
まったく同じ問題はJR東海のリニア中央新幹線でも懸念されており、今後問題はさらに拡大することが予想される。
本年夏、JR東海は東海道新幹線を何度も運休させた。
東京と大阪を結ぶ大動脈が不通になれば影響は大きい。
多くの利用者が京都-東京間を北陸新幹線を利用して迂回した。
「東海道新幹線運休続発への対応」
https://x.gd/YmvWK
「新幹線運休続発の裏にある事情」
https://foomii.com/00050
JR東海は東海道新幹線を止めてリニア新幹線建設に対する要望を盛り上げようとしたのだと思われる。
しかし、リニア新幹線は無用の長物。
一刻も早く断念するべきだ。
この点も含めて考えれば北陸新幹線のバイパス機能確保を早期に実現すべきである。
費用、工期を踏まえて敦賀-米原を延伸するのが賢明だ。
自公の与党が賢明に判断する能力を持ち合わせないなら、日本の主権者は自公に与党の立場からの退出を求めることになるだろう。
停滞する日本の現状を踏まえて身の丈に合う選択を早期に示すべきだ。
※なお、この記事は下記からの転載であることをお断りします。
植草一秀の『知られざる真実』2024年12月21日 (土)「北陸新幹線を米原延伸で決着」
http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2024/12/post-910a7b.html
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植草一秀(うえくさ かずひで) 1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。 経済金融情勢分析情報誌刊行業務の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」を発行。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門1位。『現代日本経済政策論』(岩波書店、石橋湛山賞受賞)、『日本の独立』(飛鳥新社)、『アベノリスク』(講談社)、『国家はいつも嘘をつく』(祥伝社新書)、『25%の人が政治を私物化する国』(詩想社新書)、『低金利時代、低迷経済を打破する最強資金運用術』(コスミック出版)、『出る杭の世直し白書』(共著、ビジネス社)、『日本経済の黒い霧』(ビジネス社)、『千載一遇の金融大波乱』(ビジネス社、2023年1月刊)など著書多数。 スリーネーションズリサーチ株式会社 http://www.uekusa-tri.co.jp/index.html メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」 http://foomii.com/00050