【連載】植草一秀の「知られざる真実」

植草一秀【連載】知られざる真実/2024年12月22日 (日) 事故忘れ原発に突き進む日本

植草一秀

「歴史から教訓を学ばぬ者は、過ちを繰り返して滅びる」

日本人は歴史から教訓を学ばず、過ちを繰り返して滅ぶことになるのだろう。

2011年3月11日。

東日本大震災が発生。

福島第一原子力発電所は全署停電に陥り人類史上最悪レベルの原発事故を引き起こした。

東日本が滅亡の危機に直面したが、二重、三重の奇跡が重なり、東日本滅亡を免れた。

この事故発生からまもなく14年の時間が経過する。

事故が発生した原因は地震と津波。

東北地方では過去にも巨大津波が発生している。

西暦869年7月9日(旧暦貞観11年5月26日)に巨大地震と巨大津波が発生したことがわかっている。

西暦1896年に発生した明治三陸地震でも海抜38.2メートルの津波遡及高が観測されている。

2011年の巨大地震と巨大津波は「想定外」であり、「未曾有」の災害と称されたが、事実は「想定外」でも「未曾有」でもなかった。

産業総合研究所の海溝型地震履歴研究グループは、450〜800年間隔で東北地方を津波が襲っていたことを明らかにし、今後も巨大地震と巨大津波が発生する可能性があるとする研究報告を2010年に国に報告していた。

そして、その研究成果を踏まえて、東北地方沿岸を襲う可能性のある津波の最新予測を政府の地震調査研究推進本部(地震本部)がまとめ、2011年3月9日に発表する予定になっていた。

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予測をとりまとめた島崎邦彦東大名誉教授は、東電旧経営陣が強制起訴された刑事裁判(2018年5月)で次のように証言した。

「順調にいけば、3月の9日ですね。水曜日に評価をして、その晩の7時のニュースと、翌日10日の朝刊で、東北地方には海岸から3キロ、4キロまでくる津波があるんだという警告が載ったでしょう。

そうすれば、その翌日の津波に遭遇した人は、ひょっとして、昨日見た、ああいう津波があったというのを思い出されて、おそらく何人かの方は助かったに違いないと思うわけです。」

「貞観津波について、報告書では、海岸から非常に遠いところまで津波がくるんだ、これが本当に一般の人に知らせたいことなんだということで、報告書を途中で書き直してもらったぐらい、そのことは考えていましたので、なんで4月に延期したのかと思って、自分を責めました。

ああ、これで一体何人の方が命を救われなくなったのだろうか。

これは、確かに私もその責任の一半はあるんだと思いました。」

3月9日に予定されていた発表は4月に先送りされた。

「3・11の2日前に予定されていた大津波の予測発表、なぜ直前で延期されたか」
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/74004?page=4

によると、公表が先送りされた背景に次のような事情があった。

「3月の公表予定が4月に延びた理由の一つは、地震本部の事務局(文部科学省)が、貞観地震の危険性を一般に公開する前に、その影響を受ける原発を持つ東電、東北電力(女川)、日本原子力発電(東海第二)に見せ、情報交換する場を設けるためだったとみられている。

2月17日に地震本部の事務局は、東電などに報告書の事前説明を提案するメールを送り、同じ日に島崎さんには公表延期を提案するメールを送っている。」

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「3月3日(東日本大震災8日前)に、公表予定の報告書を文部科学省から見せられた東電の津波想定担当社員は「貞観地震の震源はまだ特定できていない、と読めるようにしていただきたい」「貞観地震が繰り返して発生しているかのようにも読めるので、表現を工夫していただきたい」と要望した。

地震本部が貞観地震の報告書を公開すれば、東電がそれに備えていないことが明確になることを恐れ、報告書を改変させようとしたのだろう。

地震本部の事務局は東電の要望に応じ、報告書をまとめた島崎さんらに無断で、貞観地震のリスクがまだ不確定であるように書き換えてしまった。」

福島原発を巨大津波が襲う可能性はすでに2010年に伝えられていた。

上記記事は次のように記述する。

「実は、この報告書書き換えの約1年半前、宍倉さんらの所属する産総研活断層・地震研究センターの岡村行信センター長は、東電の津波想定担当者に「(産総研の研究成果を考慮した)対策をした方がいい」とすでに伝えていた」

のである。

巨大津波によって福島原発が壊滅的な打撃を受けることが予想され、対策が提言されていたにもかかわらず、東電は対策を講じなかった。

その結果として悲惨な原発事故が発生した。

原発事故を引き起こした原因は地震と津波であるが、日本の原発は巨大地震に耐える設計で建造されていない。

このことを根拠に原発運転停止命令を発したのが福井地方裁判所の樋口英明裁判長である。

この状況は現時点で何も変わっていない。

ところが、日本政府は12月17日、2011年のフクシマ原発事故以降、一貫して盛り込んできた

「原子力依存度を可能な限り低減する」

との文言をエネルギー基本計画から削除する第7次計画の原案を公表した。

日本は歴史から教訓を学ばず、過ちを繰り返して滅ぶことになるのだろう。

※なお、この記事は下記からの転載であることをお断りします。
植草一秀の『知られざる真実』2024年12月22日 (日) 「事故忘れ原発に突き進む日本」
http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2024/12/post-4d67f8.html
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植草一秀 植草一秀

植草一秀(うえくさ かずひで) 1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。 経済金融情勢分析情報誌刊行業務の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」を発行。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門1位。『現代日本経済政策論』(岩波書店、石橋湛山賞受賞)、『日本の独立』(飛鳥新社)、『アベノリスク』(講談社)、『国家はいつも嘘をつく』(祥伝社新書)、『25%の人が政治を私物化する国』(詩想社新書)、『低金利時代、低迷経済を打破する最強資金運用術』(コスミック出版)、『出る杭の世直し白書』(共著、ビジネス社)、『日本経済の黒い霧』(ビジネス社)、『千載一遇の金融大波乱』(ビジネス社、2023年1月刊)など著書多数。 スリーネーションズリサーチ株式会社 http://www.uekusa-tri.co.jp/index.html メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」 http://foomii.com/00050

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