【櫻井ジャーナル】2024.12.26/櫻井春彦 :残虐なテロリストをシリアの傀儡政権にしようと必死の西側の政府とメディア カテゴリ:カテゴリ未分類
国際政治バシャール・アル・アサド政権が崩壊した後のシリアで最も注目されているのはハヤト・タハリール・アル・シャム(HTS)とその指導者とされているモハメド・アル・ジュラニだろう。アメリカをはじめとする西側諸国はHTSを傀儡として利用、シリアを乗っ取ろうとしている。アル・ジュラニは2011年から12年にかけての期間、アブ・バクル・アル-バグダディと連携していた。
アル-バグダディはMSC(ムジャヒディーン・シュラ評議会)に参加していたが、この組織が2006年10月に解散すると、新たに設立されたISI(イラクのイスラム国)へ入り、10年には最高指導者に選ばれたとされている。この集団は2013年3月からISIL(イラクとレバントのイスラム国)を名乗るようになり、翌年の6月には「イスラム首長国」、つまりダーイッシュになった。
しかし、こうした武装集団の始まりは1970年代に始まったズビグネフ・ブレジンスキーの対ロシア戦略。パキスタンのベナジル・ブット首相の特別補佐官を務めていたナシルラー・ババールが1989年に語ったところによると、アメリカはブレジンスキーの戦略に基づき、73年からアフガニスタンの反体制派へ資金援助しはじめている。1973年1月にアメリカはパリ和平協定に調印しているが、これはアメリカが北ベトナムに敗北したことを意味する。
自国軍を投入して敗北したアメリカはアフガニスタンで傭兵を使うことにしたわけだ。そこで目をつけたのがクルブディン・ヘクマチアルだが、その選定はパキスタンの情報機関ISIのアドバイスに基づくとされている。ヘクマチアルはカブール大学で学んだ後、ムスリム青年団のリーダーになったが、この組織はCIAから支援を受けていた。戦闘員はサウジアラビアの協力でサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団の協力で集められた。(Robert Dreyfuss, “Devil’s Game”, Henry Holt, 2005)
この工作を進めるため、CIAやISIは政治的な障害になっていたズルフィカル・アリ・ブット政権を倒すことにする。ズルフィカルはベナジルの父親だ。
ズルフィカル・アリ・ブット政権は1977年に軍事クーデターで排除され、ブット自身は79年に処刑された。クーデターを主導したのはムハンマド・ジア・ウル・ハク陸軍参謀長だ。
ハクはムスリム同胞団系の団体に所属、ノースカロライナ州のフォート・ブラグで訓練を受けた経験がある。その一方、イギリスはソ連の中央アジア地域を混乱させ、イスラエルのために中東をバルカン化、つまり分割して対立させようと活動していた。(Thierry Meyssan, “Before Our Very Eyes,” Pregressivepress, 2019)
そして2019年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃されると、ジョージ・W・ブッシュ政権は詳しい調査をせずに「アル・カイダの犯行だ」と断定、それを口実にしてイラクを先制攻撃、アル・カイダ系武装集団を弾圧していたサダム・フセイン体制を倒した。その段階でネオコンはイラク、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、そしてイランを攻撃、破壊する計画が作成されていた。(3月、10月)
ブレジンスキーのコロンビア大学における弟子だとされているオバマは2010年8月にPSD-11を承認、ムスリム同胞団を利用し、地中海の南部や東部の沿岸で体制転覆工作を仕掛けた。いわゆる「アラブの春」である。
バラク・オバマ政権は2011年春、リビアやシリアを含む地中海沿岸諸国で体制転覆工作を始めた。同年10月にリビアのムアンマル・アル・カダフィ政権を倒したが、そこでNATO軍がアル・カイダ系武装集団と手を組んでいることが発覚してしまう。アル・カイダの象徴的な存在だったオサマ・ビン・ラディンをオバマ政権は2011年5月2日に暗殺したとされている。
オバマ政権がシリアのアサド政権を倒す工作を始められたのは2011年3月。同年2月にアメリカなどが軍事介入したリビアでは10月に体制が崩壊、そこからシリアへ戦闘員や兵器が運ばれている。そこからオバマ政権はシリアの反政府軍に対する支援を強化。CIAはイギリスやサウジアラビアなどの情報機関からの協力を得て兵器の供給と戦闘員の訓練を本格的に始める。ティンバー・シカモア作戦だ。2017年まで続いたとされている。
現在、国家安全保障大統領補佐官を務めているジェイク・サリバンはオバマ政権でも要職についていた。2011年2月から13年2月にかけて政策企画本部長、13年2月から14年8月まで国家安全保障問題担当副大統領補佐官だ。サリバンは2012年2月、ヒラリー・クリントン宛電子メールで「AQ(アル・カイダ)はシリアで我々の味方だ」と書いている。
オバマ政権は軍事支援している相手を「穏健派」だと主張していたのだが、そうしたオバマ政権の方針を危険だと警告する報告書が2012年8月に同政権へ提出された。反シリア政府の武装集団に「穏健派」などは存在しない。
報告書を作成したのはアメリカ軍の情報機関DIA(国防情報局)。反シリア政府軍の主力はAQI(イラクのアル・カイダ)であり、その集団の中心はサラフィ主義者やムスリム同胞団だと指摘、さらにオバマ政権の政策はシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配地域を作ることになると警告したのだ。その時にDIAを率いていた軍人がマイケル・フリン中将にほかならない。
DIAの警告通り、シリアでは2014年に新たな武装集団ダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国などとも表記)が出現。この年の1月にこの武装集団はイラクのファルージャで「イスラム首長国」の建国を宣言、6月にはモスルを制圧。そして8月にフリン中将は解任された。
HTSはかつてアル・ヌスラ戦線と呼ばれていたが、この集団がそれ以前に使っていたタグはAQI。いずれもアル・カイダ系武装集団だ。故ロビン・クック元英外相は2005年7月、アル・カイダはCIAの訓練を受けた「ムジャヒディン」の登録リストだと説明している。アル・カイダは組織ではなく、傭兵の登録リストにすぎない。活動の目的は雇い主次第だと言える。
これまでの歴史を振り返ればHTSやモハメド・アル・ジュラニが穏健派だという主張が嘘だということは明白だが、有力メディアはシリアの刑務所に関する怪しげな話も盛んに流している。そうした有力メディアの情報操作に関する報告も発表されている。(例えばココやココ)
CIAの元分析官、ラリー・ジョンソンも偽情報の流布を懸念しているひとり。情報機関が政治指導者に嘘をつき、その指導者がその嘘に基づいて間違ったことをするとしているが、その通りだろう。有力メディアの嘘は人びとの判断を誤らせる。
シリアの戦乱が始まった翌年の2012年6月、メルキト・ギリシャ典礼カトリック教会のフィリップ・トゥルニョル・クロス大主教はシリアを調査、ローマ教皇庁のフィデス通信に対し、「誰もが真実を語れば、シリアの平和は守られる。紛争の1年後、現地の現実は、西側メディアの偽情報が押し付けるイメージとはかけ離れている」と報告している。西側有力メディアの情報操作を批判したのだ。こうした状況は今でも変化していない。
クロス大主教も反シリア政府軍の戦闘員はサラフ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)とムスリム同胞団であり、出身国はリビア、レバノン、ペルシャ湾岸諸国、アフガニスタン、トルコなどだと指摘、イスラム教徒とキリスト教徒の間に伝統的に存在した友愛関係を破壊しようとしているとも語っている。
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