【キーパーソン】ISF代表理事・岡田元治 怒れる企業人の反乱

岡田元治

・リスクを越える“超越人”

言論行為にはリスクがつきもの。とくにネット社会において憲法や原発、近年では新型コロナウイルスに対する考え方などの世論を二分するテーマについて発信する際は、発言内容によって話者の政治的スタンスから人格、教養、背景(交友関係など)までが丸裸にされるため、実名での意見表明を躊躇するのが「普通の人」としての常識的しぐさだ。

近年はそうした社会問題から一定の距離を保ち、冷静に併論することで自身の賢さやスマートさをアピールする態度が主流となりつつある。熱く語り、議論することからあえて距離を置く人も少なくない。それって、ポジショントーク(正しさよりも、論者の立ち位置を優先して出た意見)ですよね? と指摘する冷静さ(=冷笑系)こそが議論における正しい・大人の距離の取り方というわけだ(そうした態度がじつは何も解決しないことはとりあえず置くとして)。

ビジネスの世界はとくにそうだろう。「右」か「左」かといったイデオロギー的立ち位置を鮮明にすることはもちろん、社会問題について公に発信することは通常はビジネス(=利益)を妨げるリスクにしかなりえず、ゆえにビジネスマンのとるべき態度ではないと早くから叩き込まれるのは、当然といえば当然のこと。

しかし……世の中にはそういった普通の身の処し方を「物足りない」、あるいは「退屈」だと考え、軽く飛び越えてしまう“超越人”がいる。しかも本業一本でさえ青息吐息のこのご時世に、ビジネスと超越人を両立させたうえで本業においても卓越した実績を残すのだから、まさにトンデモない人物たちだ。

・日本は米国から独立できていない

岡田元治氏(67)は、昨年10月に設立された(一社)「独立言論フォーラム(ISF)」の代表理事であると同時に、クラウドホスティング事業を行う(株)リンクの代表を務めている。

岡田 元治 氏(リンク社HPより)
岡田 元治 氏

 

ISFは、「左右のイデオロギーを問わず平和と人権を重んじる普遍的な平和主義・民主主義・人道主義の立場から、(中略)自律した市民のための独立系メディア」(設立趣旨より)を標ぼうする。鳩山由紀夫元首相が推薦していること、さらに同サイトの執筆陣ラインナップからみてもリベラル系あるいは左派系メディアに分類されることは、誰よりも設立した理事たち自身が自覚しているところだ。

いわゆる「色つき」にもみえるメディアの代表理事にあえて名乗りをあげた岡田氏だが、重視しているのはイデオロギーに基づいた発言というよりは、人間の感情のより核(コア)な部分で感じた違和感や怒りの正体を見極めたいという、どうしても譲れない義侠心のような感情の塊だ。

今年3月に出版された『終わらない占領との決別』(かもがわ出版)に収録された岡田氏の論考「見果てぬ夢を次代につなぐ」によると、岡田氏の言論活動の原点は、「30年ほど前から、日本はどうやら米国から独立できていないのではないかという獏とした感じを抱いた」ことに始まるという。もともと広告制作を生業としていた岡田氏、眠る時間を削って仕事に打ち込む一途さと同じ情熱を傾けて関連文献を読み漁り、米軍による日本統治システムの正体やマスコミによる情報操作の裏側について、自分なりの結論にたどり着いた。

嘘や欺瞞を許せないという真摯な態度は経営者としての資質にもマッチしたのか、岡田氏が舵を取るリンク社は2016年から6期連続で増収をはたしており、25年には単年度売上高100億円の大台越えを目指している。売上構成は2010年ごろまでは他社開発のホスティング事業「At+link」の売上が9割以上を占めていたが、現在ではリンク社が主導して実現した企業向けクラウド型テレフォニーサービス「BIZTEL」が6割近くを占めるまで伸びており、今後はBIZTELに加えてホスティング事業と決済系サービスの伸長を図りつつ、27~28年には売上高120億円を目指す。

・全員正規雇用で「安心の日常」を守る

岡田氏の超越人たるところは、「口だけ」正論の経営者ではなく、自社内の雇用制度でも「まっとうさ」を実現しているところだ。長くなるが、岡田氏が自社の雇用制度について語った「深彫りリンク」(リンク社の独自メディア)から、岡田氏の発言を引用する。

社内制度として「全員正規雇用」「変動定年制(年金受給開始年まで勤務可)」「累進子ども手当(1人目2万円、2人目3万円、3人目4万円・月額)」を実施しています。会社というのはできるだけ多くの人に安心して働いてもらえる、安心して過ごせる日常を提供することが役割です。それが派遣社員として働いていて、いつ首を切られるかわからない状況だったら、安心して生活できないでしょうし、そんな人が会社に対して当事者意識をもてるかといったら、それは無理だと思います。会社と働いている人がお互いに支え合う関係がない組織は、健全にはならない。だから「正規雇用」というのは決して特別なことではなく、私の世代の経営者にとってはまだ当たり前のことでしたし、人を安易なコスト削減として扱うのは大きな間違いです。とくにうちの場合、サーバというお客さまの大切なデータを管理しているインフラ部分を担っていますから、人が常に入れ替わっているような会社だったら安心して任せられないでしょう。会社というのは社会のなかにあるわけです。それなのに社会を壊すようなことばかりやっているといずれ会社自体も壊れてしまう。そうならないためにもリンクはできるだけ社員が安心していられる会社でいたいと考えています。

 

・まともな食とまともな農業に関わるのは企業の責任

2010年からは、岩手県下閉伊郡岩泉町の放牧牧場「なかほら牧場」の運営にも乗り出した。なかほら牧場では、一年を通して昼夜問わず牛を放牧する山地酪農を実践している。できるだけありのままの姿で牛を育てることを目指し、野草や国産の農薬不使用乾草を餌にし、牛の食性や行動を守る酪農手法……言うは易く、時間と手間をかける放牧には管理型とは比較にならないほどの経費がかかる。

通販ギフトサイト事業でなかほら牧場を知った岡田氏は牧場経営が赤字続きなのを知り、当初は終身雇用を守るため、高齢化する社員の受け皿になればという思いで経営を引き受けることに。

「人間の体は食べ物と飲み物でつくられています。どんなに医療が発展しようとも、この2つがまともなものでなかったら病気になる。まともな食とまともな農業に関わるのは、企業の責任とは言いませんが、知ってしまった以上は支えようと(中略)こういう時代だからこそ、我々の胃袋を支えてくれる農業をこちらが支え返さないといけない。それは貢献でも、還元でもなく、自分の体を守ることであり、当たり前のことだと思います」。

(「深彫りリンク」より)

 

岡田氏を貫くのは、努めて「まっとう」であろうとする、かつてはあちらこちらで見ることができたはずの大人(オトナ)の矜持だ。どこか懐かしく感じるのは気のせいだろうか。

<COMPANY INFORMATION>

(株)リンク(LINK, INC.)
代 表:岡田 元治
所在地:東京都港区北青山2-14-4
設 立:1987年 11月
資本金:1,000万円
売上高:(22/5)約84億円
URL:https://www.link.co.jp/

(NetIB-Newsより転載)

 

【岡田元治氏の関連記事】

☆記事 2007.12.24~2009.07.14
https://link.co.jp/aboutus/data/fsbi.pdf
リンクの組織づくりに関する考え方は
連載の(5)~(9):2008.05.01~05.29 に載っています。

☆コラム2022.03.10  LINK Watch!
https://watch.link.co.jp/column/27
深掘りリンク 「今の時代が忘れてしまった“当たり前”を大切にする」 代表取締役社長 岡田 元治

☆大事なのは 真面目に、正直に、 お客様に寄り添うこと ~自らの仕事に最後まで責任を持てる事業をめざして~
株式会社リンク 代表取締役社長 岡田 元治氏
JPNIC会員 企業紹介 https://www.nic.ad.jp/ja/newsletter/No79/NL79_0410.pdf

☆上場は考えず、非正規雇用全廃。牧場経営へ――異端のIT企業家、リンク岡田元治社長に聞く
時代の変化に合った働き方(1/3 ページ)ITmedia エンタープライズ
https://www.itmedia.co.jp/bizid/articles/1309/24/news009.html

☆事実を探り当てて行動に活かす 2010.10
https://isfweb.org/wp-content/uploads/2022/08/60dee16282eda325f9b9ede77e670332.pdf

 

※ご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。

https://isfweb.org/2790-2/

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」の動画を作成しました!

岡田元治 岡田元治

独立言論フォーラム・代表理事。1955年京都市生まれ。横浜の全寮制(当時)、山手学院中・高等学校を経て、早稲田大学商学部卒。翻訳・編集・広告制作で修行ののち、1987年、32歳のときに独立創業し、現在はIT関連事業(東京)および自然放牧場(岩手)を運営。嘘にまみれたマスコミ情報空間、歪んだ対米関係・国際関係、壊れゆく組織、当たり前の理屈が通らない世の中等々に憤りつつ、負けっぱなしの日々を送る。事実好きの酒好き。 

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