アーミッシュの死にまつわる話

レイチェル・クラーク

2年前、膵臓癌と診断されたMさんのお母さんが、2日前に亡くなったことを今朝知りました。沢山弔問客が来るので、拙宅の薪ストーブ(引っ越してくる前からあったもので、去年から使ってないもの)を売って欲しいと、義理の弟さんが訪ねてきたので、もちろん無料で差し上げました。重たいストーブと煙突を馬車に積んで、雪道を戻っていくのを見送りながら、「遂にくるべき時が来たのか。。。」と思いました。

Mさんのお母さん、Rさんは 、膵臓癌と診断されてから他州のアーミッシュの特別な診療施設に行って、4週間ですっかり元気になって戻ってきました。行きは大型キャンピングカーと運転手をチャーターして、家族数名が同乗して、Rさんは衰弱が激しかったので、車内のベッドに寝たまま出かけたのですが、4週間後は、一人で電車に乗って帰宅しました。

普通の病院なら、余命数ヶ月を放射線治療から始まって、最後の方は身体中にチューブをいっぱいつけて過ごしていたでしょう。(「スパゲッティ療法」と皮肉った呼び方があるそうですね。)Rさんは2年以上も普通に過ごすことができ、この数ヶ月でだんだん衰弱していったようです。春から秋の間は、フレッシュな野菜・果物が豊富だったので、私は生ジュースを作る度にRさんにお届けしてました。そんなことしかできなかったけど、喜んでもらえて嬉しかったです。

2週間ぐらい前から、成人した子どもたちとその配偶者たちが、毎日数時間おきにつきっきりでお母さんのお世話をしていました。

今日の夕方、Mさんのお宅にご挨拶に行ってきました。軽く100人ぐらいはいたかもしれません。農場にはびっしりと馬と「バギー」と呼ばれる馬車が並んでいました。皆さん、最後のお別れに訪れていて、お勝手にはサポートの女性たちが沢山いて、家の前のポーチには、若手の男性たちが、厚手のビニールを木材で固定しながら張り巡らす作業をしていました。あの大きな家にさらに応急の部屋を加えて、外で待つ弔問客が寒さで凍えないようにしていました。うちから持っていったストーブは多分あそこで使っているのかもしれません。

裏口から入って、Mさんとちょっとだけお話をしました。「母に会いますか?」と聞かれましたが、私は遠慮しました。お元気だった頃の思い出だけを大事に胸においておきたかったから。私はおばあちゃん子でしたが、祖母が亡くなった時に、「焼き場」に行きませんでした。祖母の思い出と、骨になった現実を一緒にしたくなかったから。今日も亡くなったRさんをドアの向こうの遠くにチラッと見て、これ以上は無理と思いました。

あのアーミッシュ独特の大きな家が所狭しと人々で埋まり、しかも電気が無いので灯油ランプのほのかな光だけの不思議な空間でした。皆さん正装して、敬意を表し、最後のお別れに訪れて、人間としての尊厳を最後の最後まできちんと保った終わり方だと思いました。

16世紀以降、さまざまなプロテスタントの宗派が生まれましたが、その中で、アーミッシュやメノナイトと呼ばれる人たちは、聖書に基づいた「平和」主義を貫き、いかなるいくさや戦争にも関わることを拒否し続けたクリスチャンです。そのことでいつも為政者からの厳しい差別政策を受け、「政府嫌い」がDNAに染み付いています。年金も健康保険も失業保険も断り、全て自分達グループ内の相互補助文化で生きています。物凄い勢いで人口増加しているこの特殊なグループが、国家政府に一切頼らずに自給自足・無農薬有機栽培・宗教の自由・個人の尊厳を実現している事実には、本当に驚かされます。

一方で、他の米国市民は、高い保険の掛け金に苦しみ、一旦病気になると保険をかけていても破産するほどの高額医療費に苦しみ、年金だけでは暮らしていけず、世界一高額の軍備費に税金が使われ、常に恐怖心を持つように誘導され、コントロールされています。だからアーミッシュになりたいとは思いませんが、現状を見直す機会に沢山恵まれていることと、温かな友情と人間愛に、感謝しています。

Rさんは、これからも私の心の中にずっと生きてます。生ジュース作る度に思い出すだろうなぁ。。。。

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レイチェル・クラーク レイチェル・クラーク

日系米国人、通訳・コンサルタント・国際コーディネイター ベテランズフォーピース(VFP) 終身会員 核のない世界のためのマンハッタンプロジェクト メンバー 2016年以来、毎年VFP ピース・スピーキングツアーをコーディネイトし、「戦争のリアル」を米国退役軍人が日本に伝える事によって、平和・反核・環境保護活動につなげている。

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