【櫻井ジャーナル】2024.12.31XML: HTS指導者:シリアとの関係を損なう形で露国が撤退することを望まない
国際政治バシャール・アル・アサド政権を倒し、シリアで実権を握ったハヤト・タハリール・アル・シャム(HTS)の指導者とされるアブ・ムハンマド・アル・ジュラニは12月29日、アル・アラビヤ・ニュースのインタビューで、シリアとの関係を損なう形でロシアが撤退することは望んでいないと語った。ロシアは世界で2番目に強力な国であり、戦略的な利益があるというのだ。ジュラニ体制はロシアの軍事施設を撤退するように求めていないと受け取られている。
ロシアはシリアの地中海沿岸にフメイミム空軍基地とタルトゥースにある兵站支援センターを保有しているが、現在、アメリカやイギリスに雇われているRCA(革命コマンド軍)に占拠されているようだ。
ロシアとシリアは2017年、ロシア軍を49年間駐留させることで合意している。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は12月29日、ロシア軍のシリア駐留を規定する協定は有効であり、国際法の規範に基づいて締結されたと述べ、移行期間が終了した後、ロシアはダマスカスの新当局と軍事施設の将来について協議する用意があると語った。
それに対し、HTSがダマスカスを制圧した後、オランダのカスパー・フェルドカンプ外相はシリアに対する制裁解除の条件としてロシア軍の撤退を求めていた。ロシアのメディアは、アメリカやイギリスがシリア領内のロシア軍基地に対するテロ攻撃を準備、ダーイッシュに攻撃用のドローンを供給していると報じている。HTS側は西側諸国の要求を呑んでいないようだ。
HTSはアル・カイダ系武装集団であり、アル・カイダとはロビン・クック元英外相が2005年7月に説明したように、CIAの訓練を受けた「ムジャヒディン」の登録リストにほかならない。つまり共通の政治的な目的を持つ集団ではなく、傭兵だ。
この傭兵登録システムは1970年代にズビグネフ・ブレジンスキーが作り上げた。ソ連軍をアフガニスタンへ誘い込み、そのソ連軍と戦わせる戦闘集団を編成するためだ。コロンビア大学でブレジンスキーの教え子だったというバラク・オバマは2010年8月に「PSD(大統領研究指針)11」を承認して「アラブの春」を開始、翌年の3月、シリアに対する軍事侵攻を始めた。
シリアより一足先、2011年2月にアメリカなどはリビアへ軍事介入、同国のムアンマル・アル・カダフィ体制は同年10月に崩壊、そこからシリアへ戦闘員や兵器が運ばれている。
こうしたオバマ政権の政策は危険だとアメリカ軍の情報機関DIAが警告した2012年夏、そのオバマ政権は10億ドル以上を投入し、サラフィ主義者やムスリム同胞団を主体とする戦闘員を訓練を始めた。その際、CIAだけでなくイギリスやサウジアラビアなどの情報機関からの協力を得ている。これが「ティンバー・シカモア作戦」だ。2017年まで続いたとされている。
アサド政権の打倒に手間取ったオバマ政権は2014年にNATO軍を軍事介入させる動きを見せる。そこで新たな傭兵集団として作り出されたのがダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国とも表記)だが、2015年9月末にロシア軍がバシャール・アル・アサド政権の要請で介入、アメリカが使っていたジハード傭兵は敗走。NATO軍の介入は難しくなった。そこでアメリカ軍を秘密裏にシリアへ侵入させ、クルドを支援、石油を盗掘し始めている。
その一方、ジハード傭兵の一部はトルコに隣接するイドリブへ逃げ込み、そこを拠点にして活動し始めるが、その時点で雇い主はアメリカでなくトルコになったと言われている。「シリアとの関係を損なう形でロシアが撤退することは望んでいない」というジュラニの発言にはトルコとロシアとの関係が反映されているのだろう。
一方、アメリカは新たな手先としてクルドを選んだのだが、HTSを支援していたとも伝えられている。イギリスのテレグラフ紙によると、アサド政権打倒でHTSと協力関係にあったRCAの戦闘員はイギリスとアメリカに訓練されていた。
そうした繋がりがあるため、アメリカ政府は「攻撃についてかなり前から知っていた」だけでなく、「その規模に関する正確な情報」も持っていたという。雇い主が別々の武装集団が連携していたということなのだろう。
また、ウクライナの支援も受けていたとされている。ワシントン・ポスト紙によると、ウクライナの情報機関GURは4、5週間前、イドリブにあるHTSにドローン約150機を供与、その本部に熟練したドローン操縦士約20人を派遣した。
HTSがダマスカスを制圧した後、新たな戦乱の兆候がある。戦闘員がアラウィー派の人びとを拉致、処刑しはじめた。首を切る様子を撮影した映像など、殺戮の場面がインターネット上に流れ始め、キリスト教徒も攻撃の対象にしていると伝えられている。これまで反アサド政権でまとまっていた傭兵集団の内部で対立が激化する可能性もある。そうした混乱にアメリカやイギリスが巻き込まれるかもしれない。
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「HTS指導者:シリアとの関係を損なう形で露国が撤退することを望まない」(2024.12.31XML)
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