☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年1月1日):プーチン大統領までもが、シリアのHTSがテロリストではなくなった、との見解
国際※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。
編集部注:ロシア政府はオスマン帝国とシオニストへの従属を続けている。この傾向は、10年以上前に戦争が始まって以来シリアの情勢を追ってきた人々を当惑させてきた。聖戦主義者に関するプーチンの発言の表面だけをちらっと見るだけであれば、その矛盾には気づけない。しかし、レバント地域のテロリスト集団の主な支援者がトルコであることを理解すれば、その矛盾点は、はるかに明確になる。そして、ロシアがなぜトルコによるシリアの違法占領を支持し、イスラエルの蛮行やゴラン高原への進出を決して阻止せず、パレスチナでの大量虐殺を止めるために意味のある行動を一度も起こさなかったのか、その理由を説明する道が開かれる。真の反ファシストなら、ナチスに関して持っている共通の歴史についてまったく無知でない限り、ウクライナでナチスと戦争状態にあると主張しながら、中東でムスリム同胞団やシオニストを支援することはないだろう。真の反ファシストなら、シオニズムをユダヤ教と混同したり、イスラム過激派をイスラム教徒と混同したりするほど愚かではない。しかし、このようなロシアの行為は一貫した誤りであり、ロシアにとって損害や恥辱となっている。(A.V.)
以下は、ジョー・ローリアによる記事の本文
木曜日(12月19日)の午後4時モスクワ記者会見でのプーチン大統領(クレムリン提供)
ロシア大統領は、シリアでロシアが実際に勝利したのは、ジハード主義者の脅威が明らかに終結し、それがロシア側の当初の目標だった、と述べた。しかし、同大統領はこの紛争における西側の役割について以前自分が言ったことを無視している、とジョー・ローリアは書いている。
プーチン大統領はシリアのアルカイダは改革された、と考えている
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、12月8日に権力を掌握した新生アルカイダ勢力が過激派としての過去を捨てたため、シリアにおけるジハード主義を打倒するというロシアの目標は実際に成功した、と述べた。
プーチン大統領は木曜日(12月19日)のモスクワでの記者会見 (動画)で西側の記者の質問に答えてこう述べた。
「あなた方に給料を払っている人たちは、シリアにおける現在の展開をロシアの敗北として提示したいようです。しかし、私はそうではないと断言します。その理由は以下のとおりです。わが国が10年前にシリアにやって来たのは、アフガニスタンなど他の国々で見られたようなテロ拠点がシリアに作られるのを防ぐためでした。我々はその目標を概ね達成しました。
当時アサド政権や政府軍と戦っていた勢力でさえ、内部で変化を遂げています。現在、多くの欧州諸国や米国が彼らとの関係を発展させようとしているのは驚くことではありません。もしこれらの勢力がテロ組織だったら、欧州諸国や米国がこのようなことをするでしょうか?これはこれらの勢力が変化したことを意味するのではないでしょうか? つまり、わが国の目標はある程度達成された、ということです。」
この発言は、ハイアット・タハリール・アル・シャーム(HTS)(旧ヌスラ戦線、さらにその前はシリアのアルカイダ)はもはやテロ組織ではなく、シリア統治にふさわしい勢力であると主張する西側諸国とプーチン大統領が同じことを言っている、ということだ。
HTSが政権を握ってから10日も経たないうちに出されたこの結論は、ロシアと西側諸国の双方に利益をもたらすような出来事だった、との解釈を試みている。両陣営は今、HTSを「改心した過激派」として描く必要がでてきている、ということだ。
プーチン大統領が、2015年のシリアにおけるロシア側の目標の少なくとも一つは「そこにテロ拠点が形成されるのを防ぐこと」だったと述べるのは正しい。
(他の目的には、現在も稼働中の可能性があるシリア国内のロシアの地中海基地を守ることと、ヨーロッパへの天然ガス販売(当時の話。現在は制裁によりその販売は失効している)を、競合していたカタールが主導するシリアからのヨーロッパへのパイプライン計画から守ることにあったようだ。この計画には、反対していたバッシャール・アル・アサド大統領を打倒する必要があった。)
木曜日(12月19日)のプーチン大統領の記者会見の模様(クレムリン提供)
プーチン大統領は2015年9月28日、ニューヨークの国連総会での演壇から、ロシアがシリア政府の要請で介入する数日前に、シリアでのジハード主義が拡大し、地域とロシアの安全が脅かされることのないよう、ジハード主義を打ち破ることがロシア当局の目的である、と語った。
ロシアは、その時点までにすでに、過激なイスラム主義による自国の影響圏への侵入に対する30年にわたる闘争で、西側諸国が支援するジハード主義者と戦っていた。
米国と湾岸アラブ諸国がこれらのテロ集団を支援したことで、アフガニスタンで始まり、北コーカサスからバルカン半島を経てシリアまで広がる、西側諸国とロシアの間に30年にわたる亀裂が生じた。
ロシアがシリア政権交代に反対していたのは、原則的な理由だけではなく、おそらく新政権はロシアの利益に敵対するイスラム主義政府によって率いられるからだ、と国連の分析感や外交官が2012年6月に私に伝えていた。
プーチン大統領は2015年の国連演説で、米国とソ連が共にナチズムと闘ったように、ISISやアルカイダ、その他の聖戦主義者という共通の敵に対する軍事作戦に米国がロシアと協力するよう訴えた。
オバマ政権は傲慢にもこの提案を即座に拒否し、一部の米国評論家はこの訴えを「ロシア帝国主義」と呼んだ。しかし、敵対国を帝国主義の冒険に招待するのは奇妙なことだ。
実際、米国はアサド政権打倒を目指すアルカイダやその他のジハード組織と同盟を組んでおり、彼らと戦うつもりはなかった。プーチン大統領は米国が長らくイスラム過激派を支援してきたことを理解していた。
2015年、第70回国連総会で演説するプーチン大統領。(国連写真/クレムリン提供)
彼は2015年に国連で次のように指摘した。
「状況は極めて危険です。このような状況で、テロの脅威について宣言しながら、同時に麻薬密売や違法な石油取引、武器取引からの収益など、テロリストへの資金提供と支援に使われている経路に目をつぶるのは、偽善的で無責任です。
過激派組織を操作し、政治的目的を達成するために利用し、後で彼らを排除したり、何らかの方法で排除したりする方法を見つけることを期待するのも、同様に無責任です。…あなたが対処している人々は残酷ですが、愚かではありません。彼らはあなたと同じくらい賢いです。したがって、ここでは誰が誰を騙しているのか、というのが大きな疑問です。…
国際法に依拠しながら、私たち全員が直面している問題に取り組む努力を結集し、真に幅広い対テロ国際連合を結成しなければなりません。反ヒトラー連合と同様に、ナチスのように人類に悪と憎しみを撒き散らす者たちに断固として立ち向かう意志のある幅広い勢力を結集できるでしょう。」(斜字体は筆者)
そこで疑問なのは、シリアのHTSと小規模過激派組織が本当に性格を変えたのか、という点だ。彼らは本当にジハーディストから米国建国の父のひとりジェファーソンのような勢力へと変貌したのか?
米国や英国、EUはHTSのテロ指定を解除する手続きを進めており、米国はHTSの指導者の首にかけられていた1000万ドルの賞金を解除する手続きを進めている。しかし、ダマスカスで名目上の責任者を務めるHTSはもはやテロリストではない、なぜなら、「もし彼らがテロ組織であるなら」西側諸国は彼らと「関係を築く」ことはないだろうからだ、とプーチン大統領が言うのは時期尚早のようだ。この発言は、短期的な戦略目標を達成するために、米国が何十年にもわたって世界で最も悪名高いテロリストの一部と関係を築いてきたというプーチン大統領が認識しているはずの事実と相反するものだ。
プーチン大統領が、HTSはもうテロリストではない、と言っているのは、ロシアがシリアでテロリストによる支配を阻止できなかった可能性を認めるのを避けるためなのかもしれない。プーチン大統領は、HTSが改心した殺人者であるとロシアの情報機関が言っている、とは言わなかったが、HTSは改心しなければならない、そうでなければ西側諸国は彼らと何の関係も持たないだろう、と述べた。HTSが公然とテロリストだったころ、西側諸国はこの勢力と多くの関わりを持っていたことをプーチン大統領は十分知っているはずだ。
この発言は、HTS が本当に改革されない限り、アサド政権打倒はロシアの敗北とみなされるという事実から抜け出す創造的な方法を見つけようとしているプーチン大統領の試みなのかもしれない。そして、HTSが改革されるかどうかは、まだ非常に不確実だが、もしそうなった場合、その背後にいるのはロシアではなく、米国とトルコだろう。
X上でこの記事にコメントした人の中には、「プーチン大統領は報道関係者をからかっているだけだ」という考えを示す人もいた。それは皮肉だったのかもしれないが、プーチンのこの発言は公にされたことであり、人々はプーチン大統領の言葉を真剣に受け止めている。
今後数ヶ月間にシリアで何が起こるかが、この物語の続きを物語るだろう。アラウィー派やキリスト教徒、その他の少数派は、思いのままに生きることを許されるのだろうか?
それとも、HTS はテロリストとして復活し、これらの弱い立場の人々を狙うのだろうか? プーチン大統領が考えているように、HTS はシリアとその地域の安定に寄与するのだろうか?
それとも、特に権力を握った今、彼らは昔からやってきた冗談に戻るのだろうか?
ジョー・ローリアはコンソーシアム・ニュースの編集長で、ウォール・ストリート・ジャーナル、ボストン・グローブ、モントリオール・ガゼット、ロンドン・デイリー・メール、スター・オブ・ヨハネスブルグなどの新聞の元国連特派員です。ロンドン・サンデー・タイムズの調査記者、ブルームバーグ・ニュースの金融記者を経て、19歳のときにニューヨーク・タイムズの特派員としてプロとしての経歴を開始。マイク・グラベル上院議員との共著でダニエル・エルズバーグが序文を書いた『A Political Odyssey』と、ジュリアン・アサンジが序文を書いた『How I Lost By Hillary Clinton』の2冊の著書がある。
※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS(2025年1月1日)「プーチン大統領までもが、シリアのHTSがテロリストではなくなった、との見解」
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また英文原稿はこちらです⇒Putin’s Narrative Reversal on Syria
筆者:ジョー・ローリア(Joe Lauria)
出典:Internationalist 360° 2024年12月19日
https://libya360.wordpress.com/2024/12/19/putins-narrative-reversal-on-syria/
国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授