【388回】年に想う大きなウミヘビ(アンデルセン) 2025/1/4
国際新年!西暦2025年、令和7年。そして干支(えと)は「巳(み)」即ちヘビだ。そこで想いはインターネットに跳ぶ。
と、といかにも突飛だが、その原点を東京・西新宿、(旧)KDD本社ビルの前にあるモニュメントに見ることができる。
そこにはデンマークの童話作家アンデルセンの童話を表した10枚のリリーフがある。
西新宿(旧)KDD本社前のリリーフ
正面には、A Fool愚か者、Th Sun太陽、A Mill-man風車、A Balloon風船、A Witch魔女の5枚。裏側の5枚はA Clown Dancer道化師、A Small Palace小さな宮殿、プリマドンナA Prima Ballerinaプリマドンナ、A Chinese Palace中国の宮殿、A Dancing Girl踊り子、だ。
1871年に長崎とウラジオストク/上海を結ぶ日本初の海底電信線をデンマークのグレート・ノーザン電信会社(現GNストア・ノードA/S)が敷設したことを記念して、1974年のKDD国際電電ビル竣工時に設置したもの。
そこで想起するのが、アンデルセンの晩年の作「The Great Sea-Serpent大きなウミヘビ」で、大西洋に敷設された世界最初の海底電信線を指す。
この童話は、ある日突然、上の方から沈んできた長いケーブルに対して、これはいったい何なのかと推測したり、攻撃を仕掛けたりする海の生物たちの物語。アンデルセンは、もし海の生物たちが種の違いを超えて互いに話ができたら、海底電信線の敷設に対してきっとこんなふうに大騒ぎになっただろうと想像しながら、この童話を作ったのであろう。
かつ、「大きなウミヘビ」の最後にはこんな記述もある。「それは力をまし、広くひろがって、年々伸びていき、すべての大洋をわたり、地球をめぐります」。「それ」とは、大きなウミヘビ、つまり海底電信線だ。
世界初の海底電信ケーブルは、1851年にイギリス・フランス間のドーバー海峡に敷設され、1866年にはイギリス?アメリカ間を結ぶ大西洋横断ケーブルが完成し、欧米諸国は海底電信網を大西洋、地中海、インド洋へと急速に拡張しはじめる。
そして、時は1873年4月。アンデルセンの母国、デンマーク。岩倉具視使節団は首都コペンハーゲンのボーデン宮での豪華な晩さん会に招かれている。何故か?その2年前1871年(明治4年)、このデンマークの大北電信会社(The Great Northern Telegraph. Co.)が長崎~上海、長崎~ウラジオストク(ロシア)間をつなぐ長距離海底電信ケーブルを敷設したことから日本の国際通信がはじまったのだ。
さて、150年後の現在、海底電線は日本とつながるものだけでおよそ30本、世界では400本以上にのぼり、総延長は130万キロに及ぶ。
スマホやパソコンと携帯の電波やWi-Fiでつながるインターネト。我々の手元は無線だが、基地局から先は有線のケーブルでつながれ、そこから海を渡り国境を越えてつなげるために使われるのが海底ケーブル。かつては通信衛星も使われてたが、現在は膨大なデータ量とスピードを確保するために、国際通信の99%を海底ケーブルが占めている。
つまり「大きなウミヘビ」The Great Sea-Serpent(=Submarine Cable海底ケーブル)があるからこそ、速度の遅延なく動画投稿サイトを見たり、クラウドに写真を保存したりといった当たり前の生活が可能なのだ。
さあ、AI人工知能をベースに世界中に情報が乱れ飛びだした2025年。原点「Human Intelligence=人間の知力」をしっかり踏みしめ、未来に備えよう。
本記事は、浜地道雄「異目異耳」【388回】年に想う大きなウミヘビ(アンデルセン) 2025/1/4 の記事の転載になります。
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国際ビジネスコンサルタント。1965年、慶応義塾大学経済学部卒業。同年、ニチメン(現・双日)入社。石油部員としてテヘラン、リヤド駐在。1988年、帝国データバンクに転職。同社米国社長としてNYCに赴任、2002年ビジネスコンサルタントとして独立。現在、(一財)グローバル人材開発顧問。「月刊グルーバル経営」誌にGlobal Business English Fileを長期連載中。