【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.01.09XML:米国が引き起こした戦乱はエネルギー資源が深く関係している

櫻井春彦

 ウクライナ、シリア、ガザ、いずれの戦乱ともエネルギー資源が深く関係している。

 ウクライナの戦乱は2013年11月、ユーロマイダンで始まったカーニバル的な集まりから始まった。ロシア軍云々と西側の有力メディアは主張し続けているが、これは事実に反したプロパガンダにすぎない。

 2014年に入るとステパン・バンデラを信奉するネオ・ナチのグループが前面に現れて様相は一変。2月に入るとそのメンバーはチェーン、ナイフ、棍棒を手に石や火炎瓶を投げ始め、さらにトラクターやトラックを持ち出す。

 2月中旬になると広場で無差別の狙撃が始まり、抗議活動の参加者も警官隊も狙われている。西側の政府やメディアはビクトル・ヤヌコビッチ大統領が狙撃の黒幕だと宣伝していたが、後にネオ・ナチのアンドレイ・パルビーが指揮していたことが判明。​2月25日にキエフ入りして調査したエストニアのウルマス・パエト外相もネオ・ナチが実行した可能性が高いと報告している。​

 ネオ・ナチを操っていたのはアメリカのバラク・オバマ政権。クーデターでウクライナをアメリカの属国にすることが目的であり、ロシアから見ると新たなバルバロッサ作戦の始まりだ。

 1991年12月にソ連が消滅するが、その前、90年にウクライナ議会はソ連からの独立を可決した。それに対し、南部のクリミアでは91年1月にウクライナからの独立を問う住民投票を実施、94%以上が賛成している。西側はウクライナ議会の議決を承認する一方、クリミアの議決を拒否した。クリミアを含む南部、そしてロシアに近い東部はロシア文化圏に属し、住民の大半は自分たちをロシア人だと考えていた。

 そうした状況だったことから独立を宣言した後のウクライナは中立を掲げるのだが、それは西側の支配層にとって受け入れ難いことだった。そこで、中立政策を潰すためにアメリカはオレンジ革命、そしてネオ・ナチを使ったクーデターを仕掛けたのだ。ウクライナを自分たちの属国にするひとつの理由はロシアに対する軍事的な圧力を強めることにあったが、それ以外にも目的があった。

 アメリカにとってヨーロッパは自分たちの属国なのだが、当時、ロシアとの関係を強めていた。ヨーロッパとロシアを結びつけていたのは天然ガスにほかならない。その天然ガスを輸送するパイプラインの多くはウクライナを通過、そこで、ウクライナを制圧することで天然ガスの輸送をアメリカが管理することができる。

 クーデター後、ベラルーシとポーランドを経由してドイツへつながるヤマル-ヨーロッパ・パイプライン、ウクライナを経由するソユーズ・パイプラインがアメリカによって寸断された。

 それに対し、ロシアとドイツはウクライナを迂回するパイプラインのプロジェクトがあった。1997年にスタートしたノード・ストリームである。最初のパイプランは2011年11月に、また次のラインは翌年の10月に完成した。オバマ政権がクーデターを実行する前の話である。これが「ノルド・ストリーム1」だ。

 輸送力を増強するため、2018年位は新たなパイプラインの建設が始まり、21年9月に完成するが、ドイツのオラフ・ショルツ首相は認証しない。2022年9月には「ノード・ストリーム1」と「ノード・ストリーム2」は爆破されてしまう。

 ふたつのパイプラインの破壊をアメリカ政府は予告していた。例えばビクトリア・ヌランド国務次官は2022年1月27日、ロシアがウクライナを侵略したらノード・ストリーム2は前進しないと発言、同年2月7日にはジョー・バイデン大統領がノード・ストリーム2を終わらせると主張、記者に実行を約束している。

 ​調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュは2023年2月8日、アメリカ海軍のダイバーがノルウェーの手を借りてノードストリームを爆破したとする記事を発表した​。工作の拠点はノルウェーだという。ハーシュによると、ジョー・バイデン米大統領は2021年後半にジェイク・サリバン国家安全保障補佐官を中心とする対ロシア工作のためのチームを編成し、その中には統合参謀本部、CIA、国務省、そして財務省の代表が参加している。12月にはどのような工作を実行するか話し合い、2022年初頭にはCIAがサリバンのチームに対し、パイプライン爆破を具申した。

 ノルウェー海軍はアメリカと連携、デンマークのボーンホルム島から数キロメートル離れたバルト海の浅瀬で3本のパイプラインにプラスチック爆弾C4を設置、2022年9月26日にノルウェー海軍のP8偵察機が一ソナーブイを投下、信号はノード・ストリーム1とノード・ストリーム2に伝わり、数時間後に爆発したという。

 バラク・オバマ大統領は2010年8月にPSD-11を承認、ムスリム同胞団を利用し、地中海の南部や東部の沿岸で体制転覆プロジェクトを始めた。いわゆる「アラブの春」だ。2011年2月にはリビア、そして同年3月にはシリアを傭兵に攻撃させている。傭兵の主力はサラフィ主義者やムスリム同胞団で、アル・カイダ系武装集団とも言える。ハヤト・タハリール・アル・シャム(HTS)もその流れだ。

 シリアへの軍事侵略にはアメリカのほか、サイクス・ピコ協定コンビのイギリスやフランス、ムスリム同胞団と関係が深いカタールやトルコが関係している。

 このうちカタールとトルコはシリア経由でカタール産天然ガスを運ぶパイプラインを建設する計画を立てていたのだが、同じ時期にイラン産天然ガスをイラクとシリアを経由してヨーロッパへパイプラインで運計画があり、シリアはカタールとトルコの計画を拒否した。カタールとトルコがシリア侵略に加担した理由のひとつはここにあるとされている。

 イスラエルはガザを攻撃、すでに4万5338名のパレスチナ人を殺害している。そのうち約4割が子どもであり、女性を含めると約7割に達し、そのほか医療関係者やジャーナリストも狙われている。

 ガザでの戦闘は2023年10月7日に始まったが、同年4月にイスラエルの警官隊がイスラムの聖地であるアル・アクサ・モスクへ突入している。その年の10月3日にはイスラエル軍に保護されながら同じモスクへ832人のイスラエル人が侵入してイスラム教徒を挑発、そして10月7日のハマスによる「奇襲攻撃」に繋がった。

 ガザ沖に推定埋蔵量約4500億立方メートルの大規模なガス田を存在するとノーブル・エナジーが発表したのは2010年のことだった。USGS(アメリカ地質調査所)の推定によると、エジプトからギリシャにかけての海域には9兆8000億立方メートルの天然ガスと34億バーレルの原油が眠っている。ビル・クリントン元米大統領はノーブル・エナジーのロビイストだ。

 10月7日にハマスがイスラエルを攻撃した直後、​ベンヤミン・ネタニヤフ首相は「われわれの聖書(キリスト教における「旧約聖書」と重なる)」を持ち出した​。聖書の中でユダヤ人と敵だとされている「アマレク人があなたたちにしたことを思い出しなさい」(申命記25章17節から19節)という部分を彼は引用、「アマレク人」をイスラエルが敵視しているパレスチナ人に重ねたのである。その記述の中で、「アマレク人」を家畜と一緒に殺した後、「イスラエルの民」は「天の下からアマレクの記憶を消し去る」ことを神は命じている。

 サムエル記上15章3節には「アマレクを討ち、アマレクに属するものは一切滅ぼし尽くせ。男も女も、子供も乳飲み子も牛も羊も、らくだもろばも打ち殺せ。容赦してはならない。」と書かれている。これこそがガザでイスラエルによって行われていることだと言えるだろう。ネタニヤフによると「われわれは光の民であり、彼らは闇の民」なのである。

 いずれの戦乱ともエネルギー資源が関係している。アメリカがベネズエラを執拗に乗っ取ろうとしている理由もそこにあるだろう。ウクライナは現在、そのエネルギー資源を使い、ヨーロッパを恫喝、EU加盟国との関係が悪化している。アメリカからの圧力にもかかわらず、ロシアは今でもヨーロッパにとって重要な天然ガス供給国なのだが、その供給を止めたなら、ヨーロッパは衰退で止まらず、崩壊する可能性がある。

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