【櫻井ジャーナル】2025.01.15XML: ジハード傭兵とイスラエル、束の間の蜜月
国際政治経済戦争に負けたシリア
ピーター・フォードは2003年から06年までシリア駐在イギリス大使を務めた元外交官である。彼はバシャール・アル・アサド政権の最後が脆かった理由について、10年以上にわたる西側諸国の経済攻撃(兵糧攻め)によってシリア経済が悲惨な状況に陥って空洞化、国民の不満が高まり、軍も疲弊したからだとしている。しかも、東部の油田地帯はアメリカ軍のその傀儡であるクルドが抑えていた。
オバマ政権の体制転覆作戦
シリアでの戦乱はバラク・オバマ大統領が2010年8月にPSD-11を承認、ムスリム同胞団を利用し、地中海の南部や東部の沿岸で体制転覆工作を仕掛けたところから始まる。体制の転覆を目指す動きを西側の有力メディアは「アラブの春」と呼んでいた。
ロラン・デュマ元仏外相によると、2009年にイギリスを訪問した際に彼はイギリス政府の高官からシリアで工作の準備をしていると告げられたというが、ネオコンは1980年代からイラク、シリア、イランを制圧する計画を立てていた。
また、欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)の最高司令官を務めたウェズリー・クラークによると、2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎が攻撃されてから10日ほど後、彼は統合参謀本部で見た攻撃予定国のリストを見ている。そのリストにはイラク、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、そして最後にイランが記載されていた。(3月、10月)北アフリカや中東の地中海沿岸で体制転覆運動が自然に発生したわけではない。
ネオコンは1980年代からイラクのサダム・フセイン体制を倒して親イスラエル体制を築いてシリアとイランを分断、その上で両国を破壊するという計画を持っていたのだが、副大統領だったジョージ・H・W・ブッシュ、ジェームズ・ベイカー財務長官、ロバート・ゲーツCIA副長官はフセインをペルシャ湾岸の利権を守る手先だと認識して対立していた。その対立により、一部勢力によるイラクへの武器密輸が反フセイン派に暴露されている。いわゆる「イラクゲート事件」だ。
ジョージ・W・ブッシュ(ジュニア)政権は2003年3月にイラクを先制攻撃、フセイン体制の打倒に成功するが、親イスラエル体制の樹立には失敗。そこでブッシュ・ジュニア政権は戦術を変更、フセインの残党を含むスンニ派の戦闘集団を編成し、手先として使い始めた。
シーモア・ハーシュが2007年3月にニューヨーカー誌で書いた記事によると、ブッシュ政権はイスラエルやサウジアラビアと手を組み、シリア、イラン、そしてレバノンのヒズボラを叩き潰そうと考えた。これはズビグネフ・ブレジンスキーが1970年代に始めた戦術。2009年にアメリカ大統領となったオバマの師はそのブレジンスキーだ。
シリアでは2011年3月にムスリム同胞団やアル・カイダ系武装勢力による侵略戦争が始まった。これに「内戦」というタグをつけることは正しくない。西側の有力メディアはそうしたことを理解していただろう。読者や視聴者をミスリードすることが彼らの目的だったと考えざるをえない。
シリアより1カ月早く侵略戦争が始まったリビアでは2011年10月にムアンマル・アル・カダフィ政権が崩壊、カダフィ本人は惨殺されているが、シリア政府は倒れなかった。それだけシリア政府軍は強く、国民にも支持されていた。侵略軍の後ろ盾はアメリカのほか、サイクス・ピコ協定コンビのイギリスとフランス、ムスリム同胞団と関係が深く、パイプライン建設でおシリアと対立していたカタールやトルコだ。
こうした外部の侵攻勢力はアメリカ/NATO軍を介入させるため、住民虐殺や化学兵器の使用といった話を広めようとするが、いずれも嘘が短期間のうちに発覚している。そうした中、オバマ政権は政権転覆を目指す侵略軍への支援を強化したが、そうした行為は危険だと警告する機関がアメリカにも存在した。アメリカ軍の情報機関DIA(国防情報局)である。
DIAはオバマ政権のジハード傭兵を利用した計画を危険だとする報告書を2012年に政府へ提出している。反シリア政府軍の主力はAQIであり、その集団の中心はサラフィ主義者やムスリム同胞団だと指摘、さらにオバマ政権の政策はシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配地域を作ることになると警告したのだ。その時にDIAを率いていた軍人がマイケル・フリン中将にほかならない。
この警告通り、2014年には新たな武装集団ダーイッシュが登場、この集団はこの年の1月にイラクのファルージャで「イスラム首長国」の建国を宣言、6月にはモスルを制圧。その際にトヨタ製の真新しい小型トラック、ハイラックスを連ねてパレードし、その後、残虐さをアピールする。そうした危険な武装勢力を制圧するためにアメリカ/NATO軍が介入する必要があるという筋書きだった。
そうした動きに合わせ、オバマ大統領は2015年2月に国防長官をチャック・ヘーゲルからアシュトン・カーターへ、同年9月には統合参謀本部議長をマーチン・デンプシーからジョセフ・ダンフォードへというように戦争慎重派から好戦派へ交代させているが、アメリカ/NATO軍が介入する前にロシア軍がシリア政府の要請で介入、侵略勢力の手先は敗走、イドリブへ逃げ込んだ。イドリブを攻撃しようとする動きもあったのだが、実行されない。アサド政権にとってこれが致命傷になった。
ジハード傭兵とイスラエル
ハヤト・タハリール・アル・シャム(HTS)の後ろ盾はトルコだと言われているが、フォード元大使はその指導者、モハメド・アブ・ジョラニ)の背後にはイギリスの顧問がいる可能性が高く、声明文の語学的な分析からアメリカの情報機関、CIAが関係していることも推測できる。トルコと軍事衝突がすでに始まっているクルドもアメリカを後ろ盾にしている。
HTSはズビグネフ・ブレジンスキーが1970年代に作った傭兵の登録リスト、いわゆるアル・カイダから出てきたわけで、アメリカやイギリスの影響を受けていても不思議ではない。こうした国々のほか、イスラエルも関係していると見られている。HTSはイスラエルに対して友好的な姿勢を見せ、パレスチナ人が虐殺されていることを気にしていない。
ダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国とも表記)を含むアル・カイダ系武装集団はこれまでイスラエルと戦っていない。相手はイスラム教徒やキリスト教徒だ。HTSやRCA(革命コマンド軍)はアル・カイダやダーイッシュの旗を掲げながら脅迫、威嚇、没収、略奪を繰り広げているほか、降伏したキリスト教徒やアラウィ派の兵士を路上での処刑している。一部の例外を除いてキリスト教の高位聖職者たちはジハード傭兵に従う道を選び、結果として自分たちのコミュニティを裏切ったと見なされている。ジハード傭兵が掲げるスローガンは「キリスト教徒をベイルートへ、アラウィー派は墓場へ」だ。
ジャーナリストのエバ・バートレットはシリアの「新政府」によって少数民族が追い詰められ、拷問され、殺害されていると報告、そうしたことを記録した映像の存在も指摘している。アラウィー派だというだけで殺され、キリスト教徒が弾圧されているが、パレスチナ人と同じように、西側の「民主主義国」はそうした虐殺を気にしないようだ。
その一方、イスラエル軍がシリア軍の生き残りやインフラを破壊、シリアの領土を奪いつつあり、HTSと衝突する可能性もある。イスラエルの新聞、エルサレム・ポスト紙によると、ヤコブ・ナゲル議員を委員長とする「ナゲル委員会」は、トルコがオスマン帝国時代の影響力を回復しようとする野望によってイスラエルとの緊張が高まる可能性があると指摘、直接対決に備える必要があると警告しているが、そこにはイスラエルの「大イスラエル構想」も隠れている。
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