【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.01.17XML:西側メディアの協力なしにガザでの虐殺はなく、停戦で虐殺が終わる保証もない

櫻井春彦

 イスラエルとハマスが合意した42日間の停戦は1月19日に発効するという。​1月11日にイスラエルへ乗り込んだドナルド・トランプ次期大統領の中東特使、スティーブン・ウィトコフが実現したと言われている​。ジョー・バイデン政権が1年以上かけてできなかったことを1日で成し遂げたというわけだ。

 しかし、これでイスラエル軍によるパレスチナ人虐殺が終わると考える人は多くないだろう。​2023年10月、ガザで戦闘が始まった直後、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は「われわれの聖書(キリスト教における「旧約聖書」と重なる)」を持ち出し、ユダヤ人の敵だとされている「アマレク人」を家畜と一緒に殺した後、「イスラエルの民」は「天の下からアマレクの記憶を消し去る」ことを神は命じたと主張してパレスチナ人虐殺を正当化している​のだ。

 サムエル記上15章3節には「アマレクを討ち、アマレクに属するものは一切滅ぼし尽くせ。男も女も、子供も乳飲み子も牛も羊も、らくだもろばも打ち殺せ。容赦してはならない。」と書かれている。これこそがガザでイスラエルによって行われていることであり、これは彼らの「大イスラエル構想」につながる。その目的を彼らは達成していない。

 著名な医学雑誌​「ランセット」は1月9日、2023年10月7日から24年6月30日までの間にガザで外傷によって死亡した人数の推計値が6万4260人に達し、そのうち女性、18歳未満、65歳以上が59.1%だとする論文を発表​した。

 ガザの保健省は24年6月30日時点の戦争による死亡者数を3万7877人と報告しているが、これはランセットの推計値の59%にすぎない。この時点で国連などは1万人以上の遺体が瓦礫の下に埋まっていると推定されていた。病気、あるいは飢餓で死亡する人は戦闘で殺される人よりも多いと見られている。現在、パレスチナ側は4万5338名が殺されたと発表しているので、それにランセットの推計を適用すると7万7000人近くに達する。

 生活物資や軍事物資を国外からの支援に頼っているイスラエルは自力で戦争することはできない。そうした支援国はイスラエルによる破壊、虐殺、略奪の共犯者だ。​SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)によると、軍事物資の69%はアメリカから、30%はドイツから供給されている​。輸送などでの支援にイギリスが果たしている役割も小さくない。

 ガザでの戦闘が始まった直後、キプロスのアクロティリ基地にはアメリカの輸送機が40機以上、イギリスの輸送機が20機、そして7機の大型輸送ヘリコプターが到着した。装備品、武器、兵員を輸送したと見られている。そのほかオランダの輸送機が4機、緊急対応部隊を乗せたドイツの輸送機が4機派遣され、カナダ空軍は数機の輸送機を向かわせた。キプロスにはイギリス陸軍のSAS(特種空挺部隊)も待機中だと伝えられている。

 そのほか、ヨルダンの空軍基地には25機以上のアメリカ軍の大型輸送機が飛来、通常はイギリスにいるアメリカ空軍のF-15E飛行隊がヨルダン基地に配備され、ドイツの輸送機9機も同基地に到着したという。イギリス空軍は連日ガザ上空を偵察飛行してきたとも伝えられている。

 イスラエルの挑発で始まったガザにおけるイスラエル軍による住民虐殺を西側の有力メディアはきちんと伝えてこなかった。​イギリスのBBCもそうしたメディアに含まれる​。

 その​BBCで中東デスクを率いるラフィ・バーグはガザでの戦闘に関するオンライン報道をほぼ完全にコントロール、全ての報道をイスラエルにとって有利になるように編集していると告発されている​。会社側は否定しているようだが、こうした偏向報道は構造的なものであり、長年にわたって強制されてきたという。

 BBCにおいてガザでの報道をコントロールしているこの上級編集者はこの放送局へ入る3年前、アメリカ国務省のFBIS(外国放送情報局)に勤務していた。この部署はCIAが隠れ蓑に使っていたのだが、2005年11月に新しく設立されたオープン・ソース・センターに統合されると発表されている。バーグは自分がCIAで働いていたことを否定していないが、イスラエルの情報機関、モサドとも関係している。

 ガザの問題に限らず、西側の有力メディアは西側支配層にとって都合の悪い情報を隠蔽、あるいは書き換えてきた。バラク・オバマ政権が仕掛けたクーデターで始まったウクライナにおける戦乱の実態、あるいはアメリカの国防総省が始めたCOVID-19(2019年-コロナウイルス感染症)プロジェクトもそうだ。

 アメリカでは第2次世界大戦後、組織的な情報操作が始まる。「モッキンバード」だ。これは1948年にスタートしたCIAの極秘プロジェクトで、責任者はコード・メイヤー。実際の工作で中心的な役割を果たしたのはアレン・ダレス、ダレスの側近だったフランク・ウィズナーとリチャード・ヘルムズ、そしてワシントン・ポスト紙の社主だったフィリップ・グラハムだという。(Deborah Davis, “Katharine The Great”, Sheridan Square Press, 1979)

 グラハムの死後、妻のキャサリーンが社主に就任、その下でワシントン・ポスト紙は「ウォーターゲート事件」を暴くのだが、その取材で中心的な役割を果たしたカール・バーンスタインは1977年に同紙を辞めて「CIAとメディア」というタイトルの記事をローリング・ストーン誌に書いている。

 その記事によると、1977年までの20年間にCIAの任務を秘密裏に実行していたジャーナリストは400名以上に達し、1950年から66年にかけてニューヨーク・タイムズ紙は少なくとも10名の工作員に架空の肩書きを提供したという。ニューズウィーク誌の編集者だったマルコム・ミュアは責任ある立場にある全記者と緊密な関係をCIAは維持していたと思うと述べたとしている。(Carl Bernstein, “CIA and the Media”, Rolling Stone, October 20, 1977)

 また​フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング(FAZ)紙の編集者だったウド・ウルフコテは2014年2月、ドイツにおけるCIAとメディアとの関係をテーマにした本を出版、その中で多くの国のジャーナリストがCIAに買収されていて、そうした工作が危険な状況を作り出していると告発している​。

 ウルフコテによると、CIAに買収されたジャーナリストは人びとがロシアに敵意を持つように誘導するプロパガンダを展開し、ロシアとの戦争へと導いて引き返すことのできないところまで来ていると彼は警鐘を鳴らしていた。実際、オバマ政権やバイデン政権はロシアを挑発、核戦争の危機はかつてないほど高まっている。

 アメリカのメディアは19世紀からプロパガンダ機関として機能している。ニューヨーク・タイムズ紙の主任論説委員を務めたジョン・スウィントンは1883年4月12日にニューヨークのトワイライト・クラブで次のように語っている。

「アメリカには、田舎町にでもない限り、独立した報道機関など存在しない。君たちはみな奴隷だ。君たちはそれを知っているし、私も知っている。君たちの中で正直な意見を表明する勇気のある人はひとりもいない。もし表明したとしても、それが印刷物に載ることはないと前もって知っているはずだ。」

 最近ではインターネット企業にもCIAの「元職員」が入り込み、どのコンテンツが見られ、何が抑制されるかを決定するアルゴリズムを事実上制御しているという。シリコンバレーの巨大企業はアメリカの情報機関と一体化しつつある。そうした流れにTikTokも飲み込まれたと伝えられている。

 2012年6月、シリアへ入って戦乱の実態を調査したメルキト・ギリシャ典礼カトリック教会のフィリップ・トゥルニョル・クロス大主教はローマ教皇庁のフィデス通信に対し、​「誰もが真実を語ればシリアの平和は守られる。紛争の1年後、現地の現実は、西側メディアの偽情報が押し付けるイメージとはかけ離れている」と報告している​。

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