【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年1月22日):帝国主義丸出しの、トランプ大統領の発言。しかしカナダとグリーンランド併合の発言は無視すべきではない側面も!!

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。


次期米国大統領に選ばれているドナルド・トランプ氏 © AP Photo/Evan Vucci

米国で最も露骨で最も活発なトランプとその仲間たちを見るのはある意味面白い。彼らが求めていることが爽快なくらい真っ直ぐだからだ。脅し方も気持ちよくなるくらい真っ直ぐだ。まるで米国のもつ野蛮な強さにどっぷり浸かって、自分たちの力強さを楽しんでいるように見える。「この街で、我が米国は最強の武器をもち、一番金持ちの組だ。新しいドンは映画のスカーフェイスよりも欲深くて、ドラマのトニー・ソプラノより下品なんだぞ!!」と。

「欧州諸国よ、俺たちの国から目が飛び出でるほど高い天然ガスを買いやがれ。そうでもしないともっともっとお前たちの国の経済を潰してやるぜ!! カナダよ、俺たちの計画はどんな計画も全部飲みやがれ。さもないと、俺たちがアラスカへつながる陸橋を欲しがっていることを思い出させてやるぜ。お前たちの州の形をした陸橋をな。(おっと!州じゃなくて国だったな。ごめん、ごめん)!! パナマよ、お前たちが自分たちのものだと思っているものはみな、俺たちのものだってこと、忘れちゃいけねぇ! さもないと、俺たちが攻め込むぜ。本気だぜ。第82空挺師団やAC-130攻撃機でな。覚えとけよ(前にやったとおりにな)。今回の攻撃は1989年の『大義名分作戦(Operation Just Cause)』なんて名前じゃなくて、『ただなんとなく作戦(Operation Just Because)』で十分だろ! デンマークよ、よく聞け。グリーンランドは自分たちのものだと思っているようだが、俺たちのほうがグリーンランドには詳しいんだぜ。グリーンランドはマジで俺たちのものだし、唯一の問題はそれをはっきりさせるのに優しいやり方でやるか、キツイ方法でやるか、だけだ。だって、北極は大事だし、あのあくどい中国とロシアがいるんだぜ!! だから俺たちの言うことを黙って聞きな。」

ご注意いただきたいのは、トランプがいじめの対象にしているのはすべて、米国の公式の同盟国である、という点だ。カナダの場合、米国の手荒な扱いのせいだけで、首相が退陣に追いやられることになってしまった。可哀想に、ジャスティン・トルドーは新しいボスのご機嫌伺いにマール・ア・ラーゴという別荘にまで出かけていったのに、難を逃れることはできなかった。上から目線の物言いで他国の政権転覆を成し遂げる。これは新しい手だ。またぞろ、古い教訓が思い浮かぶ。「気を遣われる敵でいる方が、足蹴にされる友でいるよりも安全」なのだ。

トランプのぼやきや要求は、どう見ても全くなんの根拠もない。米国がこのことを議論の対象にする国だとしたら、誰も気にも止めないようなしろものだ。「カナダは主権国家だろ。4000万のカナダ国民のほとんどが米国に編入されて米国の51番目の州になることに興味がないんだ。話はそこまで」と。

トランプと仲間たちは、米国がパナマ運河でろくな扱いを受けていないとグチをこぼしているが、そんな話の裏は取れていない。非国民的報道機関では全くないウォール・ストリート・ジャーナル誌でさえ、ポッドキャスト上で以下のように詳しく報じている。「そんなことはない。米国は『パナマ運河でボッタクられてはいない』。米国の船舶が他の国のものよりひどい扱いを受けているわけではないし、高い費用を要求されているわけでもない。米国が運河の修理の費用を出しているわけでもない。1999・2000年に運河の譲渡が完了したあとは、その業務は運河管理局に移行した。つまり事実上企業の業務のもとに置かれている」と。最後になるが、中国はパナマ運河区域に軍を送ってはいない。トランプはそう主張しているが。いつものことだが、トランプの「中国が!! 中国が!!」はかなり盛られた内容なのだから。


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グリーンランドのことは、後に触れよう。

だがこれら全てのトランプ主義者たちの大ボラを深刻に受け取らないことは大きな間違いを招くことになるだろう。総じて言えば、こんなことがまかり通っているのは、米国がこんなことを問題視する習慣がある国ではないからだ。米国には政治の風潮として、ズルをしたり暴力に訴える傾向が強い。だからこそ、米国は「ルールに基づく秩序」が大好物なのだ。米国以外誰もしらない「ルール」、そのルールを行使できる時期も米国のみが分かっている「ルール」だ。さらにそのルールは国際法を毛嫌いしている。特に、トランプ主義者たちの「愛想は皆無、与えるのは害のみ」という攻撃法を、支配力を確立し権力を得るための、権力移行に伴う「福袋」であるかのように軽んじて捉えてしまうことは、賢明ではない。言い換えれば、この騒ぎを政治上や貿易上で様々な利点を得るために繰り出している、中身のない騒音にすぎない、と考えることが、である。そう考えるのはおしゃれかもしれないが、近視眼的で、慎重さに欠ける。

実際のところ、物事はそう単純ではない。米国のいわゆる「同盟諸国」にとってはなおさらだ。「同盟諸国」といっても実際のところは、「従属国や陪臣国」だ。その理由を理解するのには、グリーンランドの件をとりあげるのが一番わかりやすい。ただしこの件に関して、合法的な権利と不当な主張を数え上げるだけでは不十分だ。全てがかなり曖昧だからだ。米国はグリーンランドを買いたがっているが、ちなみに今回が初めてではない。ジャクソン大統領やトルーマン大統領もグリーンランド購入を視野に入れていた。

総じて、米国には征服したり民族浄化をおこなうことで、求めるものを手に入れてきただけではなく、買うこと(もちろん強制的な購入も含めて)で欲しいものを手に入れてきた歴史がある。ただし、グリーンランドは500年以上も前からデンマークが所有している。デンマークは、米国同様主権国家だ。だから理論上は、米国が出来るのは「お願い」であって「要求」ではない。ウクライナの事例で繰り返し分からせられているとおり、デンマークにも「国家機関」は存在する。そのデンマーク国家が「だめ」と、一度ならずも主張するのであれば、それで終わりだ。理論上は。

ただし現実世界においては、歴史が何度も証明しているとおり、法的に正しい状況であるかどうかという判断は、これから面白いことが起こる出発点にすぎない。二つの理由があげられる。一つはかなり明白で、もう一つの理由はそうでもない。まず、明白な理由から見てみよう。ニューヨーク・タイムズ紙の記事のとおり、トランプは、職業柄、真の不動産屋だ。真の不動産王として、相手側が「だめ」といったとしても、それはただの始まりにすぎず、そこから強力な説得や値段つり上げ合戦がはじまるのだ。「毅然とした拒絶」はそれ以上進めない理由にはならない。

グリーンランドはトランプから見れば、トランプ自身が既に明らかにしているとおり、手に入れるべきまたとない新たな不動産のひとつなのだ。その理由は十分明白だ。グリーンランドは氷が解けつつある北極を挟んだ戦略的に重要な位置にある。北極は現在の新たな地政学的「グレート・ゲーム」の舞台になっている。そしてその舞台上の試合はまさに今、白熱している。(こんな皮肉がある。米国共和党は欲深くなったときは、地球温暖化が事実であると認めるようだ)。


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また、グリーンランドには魅力的な天然資源の鉱脈がある。だからこそ、一例を挙げれば、EUはグリーンランドの鉱物資源局と特別な合意を結んでいる。であるので、米国が巨大な悪者のロシアと中国から守るという口実でグリーンランドを引き受けることになれば、またぞろ、素敵な副反応が、可哀想で従順で、自己破壊的な欧州を苦しめることになってしまうだろう。利益が得られるのはいいことだから、そのおまけがちょっとあることに、何か問題でも?と米国側は言うかもしれない。

嫌がられることは何だろう? もちろん、国際法だ。国際法に従えば、欲しいものは自動的には手に入らない。欲しいものに対する権利も必要となるだろう。さて、またもや問題発生。米国にはそんな権利はないからだ。だからといって、そんな理由が米国を止めたことがあるだろうか?

さらに、米国はデンマークの憲法上の欠陥を利用しようとしている。まるで、米国には他国の政権転覆するのが習慣であるかのようだ! この件に関しては、グリーンランドには特別な状況があるという考え方がある。具体的には2009年に制定された「グリーンランド自治政府法」であり、人口が6000人以下しかない点だ。これらの島民が、脅しとうまい話を浴びせられて、デンマークから完全に分離するよう説得されたとしたらどうだろう? そうなればもちろん、あの手この手で、すぐに米国に再編入されるだろう。事実上の保護領になる、という形も含めて。この考え方は、トランプの元顧問アレクサンダー・グレイが堂々と披露している。手口はおわかりだろうか? アンクル・サム(米国)はこういうだろう。「あなた方が独立を実現するお手伝いをさせてください」と。それからこういうだろう。「その後でまた独立を手放してください。我が国に」と。これはグレイ自作の展開だろうか? いや。ご安心を。こんな古くさいやり口を思いつくのはグレイだけじゃないだろう。

そして最後に、より明白でないほうの理由を説明しよう。こちらのほうが大事な理由なのだが。それは、とりわけ米国の同盟諸国が現在米国で進行中のグリーンランドに対する動きに懸念すべきなのかについての理由だ。本質を見てみよう。米国の指導者層はデンマークに3つのことを伝えている。一つ目。我が米国は、貴国の敵がどこかを(もちろんロシアと中国だが)知っているし、決める国だ。貴国はその決定に楯突くことはできない。主権国家ぶるのはやめていただきたい。二つ目。我が国が貴国の敵を定義した限りは、言わせてもらうが、その敵国は我々すべて(西側諸国やNATOなど)の敵になるのだ。さらに言わせてもらうが、貴国は我々の敵に対する共通の防衛に貢献する義務がある。貴国ではなく、我が国が正しいと考える方法で、だ。三つ目。我が国は貴国がその防衛に十分尽くしていないと見れば、我が国が貴国を代わりに守っていることに対して、貴国に支払いを強制する権利がある。それができないのであれば、貴国の職員を我が国に預けよ。この手口こそ、先日フォックス・ニュースで、トランプのもうひとりの元顧問ロバート・オブライアンが語った内容だ。

この手口がなんの手口か、お分かりだろう。まさに正真正銘マフィアのやり方だ。いいカッコやご機嫌とりは、もうなしだ。「そのどこが新しいのか?」と聞く人もいるだろう。これはトランプのよく使う手でさえないのでは? 甘い言葉は一切使わない、米国のいつもの基本的な手口でしょ、と。そのとおり。でもそうだとしても、その厚かましさに、今までにない何か特別なものが見えるのだ。そしてその厚かましさの中にある基本姿勢が堂々と公開されているのだ。そのあからさまな状況がどの国にも影響を及ぼしうる現状が、米国の全ての「同盟国」を戦々恐々とさせているのだ。

ドイツを例に見てみよう。ここ何十年ものあいだ、「時代の変わり目」に置かれたままのドイツは、いまだに自国軍を十分整備できてないと主張することで米国に媚びを売ってきた。意図的に自虐的な言い回しをされてきたこの主張が、自分たちを背後から襲わせる状況を呼ぶことになるかもしれない。いつかトランプがこういうのを仮定してみよう「分かっているか、ドイツ当局。お前たちの言っていることは正しい。お前たちの国はロシアや中国から我々を防衛することが十分にできていない。我が米国は、お前たちにまたもや騙された、と感じている。もしそうなら、我が国にもっと金を支払え。さもないと、貴国の領土であるバイエルン『自由州』がもつ特別な地位は、貴国の不十分な扱いを受けるには素晴らしすぎることになり、代わりに我が国が支配することになろう」と。

馬鹿げている? 確かにそうだ。だが、なぜそうすることが不可能なのか、教えていただきたい。ただし、もう一度言うが、現在西欧諸国の「指導者層」は、自国を売り渡すことに慣れているから、もはや気にさえしないだろう。

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS(2025年1月22日)「帝国主義丸出しの、トランプ大統領の発言。しかしカナダとグリーンランド併合の発言は無視すべきではない側面も!!」
http://tmmethod.blog.fc2.com/
からの転載であることをお断りします。

また英文原稿はこちらです⇒Here’s why Trump’s talk of annexing Canada and Greenland should not be dismissed
次期米国大統領に選ばれたトランプが他所の国の持ち物を「買い物車」に放り込もうとしている行為に、米国の従属諸国は気をもんでいるはずだ。
筆者:タリック・シリル・アマール(Tarik Cyril Amar :イスタンブールのコチ大学でロシアやウクライナ、東欧、第二次世界大戦の歴史、文化的冷戦、記憶の政治について研究しているドイツ出身の歴史家)
出典:RT 2025年1月7日
https://www.rt.com/news/610533-trump-annex-canada-greenland/

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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