【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年1月24日):シリア:その隠された歴史

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。

この記事は、シリア軍の司令官だった旧友との会話に端を発している。彼の勇気は中東全域で高く評価され、認められている。今の時代には合わないような真の社会主義者であり、自分の考えを話すことを決して恐れず、矛盾や異なる政治的見解にもかかわらず、自国と自国政府への支持を決して裏切ることはなかった。

彼は海外で組織的な活動に携わっており、名前を明かしたくないということなので、私たちは彼を架空の名前であるラムと呼ぶことにする。彼の言葉に同意するかどうかは別として、これは祖国と国民のために戦い、今や人生で最も悲惨な敗北を味わっているシリア人の証言である。

ラムとの再会

ラムの個人書斎には充実した人生が漂っている。壁にはシリアの風景を描いた様々な絵画、コーランの祈祷文、彼が参加した戦闘を記念したテラコッタ(素焼きの焼き物)が掛けられている。本棚にはアラビア語の古い本が数冊、様々な言語で書かれた文書のポスターが多数置かれている。あちこちに、迷彩服を着た男たちが砂漠で撮影した色あせた写真が飾られている。入り口の方を見ると、戦場から持ち去られてすぐに旗竿に掲げられたかのように、バッシャール・アル・アサドの顔が描かれたシリア国旗が掲げられている。中央には、黒い喪服のケフィアを被った、聡明でハンサムなアラブ人の父親の写真がある。

私たちは何年も前から知り合いだった。私は地政学の古典を読み、世界を理解したいという願望を持って世界を見るような子供だった。彼は信じられないような状況を生き抜き、私生活に隠遁し、世の注目を浴びることはなかったが、別の方法で国のために働き続けた戦士だった。彼が記憶の中から引っ張り出してくる逸話を聞くたびに私は聞き耳を立てた。それはまるで別の世界に飛び込んだようで、西洋とは「別世界」と思えないほどだった。とりわけ、戦争、自由のための闘争、異なる政治状況が何十年も昔のことではなく、傷跡がまだ開き血が噴き出しているような新鮮な出来事に思えた。

彼は私個人と私のシリアの大義に対する支持をとても尊敬してくれていたので、会うことを許してくれたのだ。彼は、何千年もの間、歓迎と統合の能力で有名なシリア国民特有の温かさ、尊敬、そして心のこもった対応で私を迎えてくれた。彼は私に「ロング・コーヒー」(エスプレッソにホットウォーターを加えたもの)を勧め、私たちは話を始めた。

「ラム、何を考えているの?」と私。

会ったときの喜びは突然消えた。彼の顔は真剣なものになり、深く考え込んでいるかのように頭を前に傾けた。数秒後、彼は顔を上げて言った。「今まで誰にも話したことがなかった。私が知っていること、見たことを話す時が来たのかもしれない」。

以下は、最初から最後の一言まで、大きな感情と明らかな痛みを伴って私に伝えられた彼の証言だ。
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われわれは最初からわかっていた

     「今回起こったことはだれひとり予想していなかった。ただし私のように2011年にはすでにいろいろな出来事の筋書きを垣間見ており、おそらく信頼できる関係者から予想を得ていた人間は別だ」。

「われわれは最初からわかっていた。バッシャール・アル=アサドが他国の支配者たちと何かを準備していること、中東での支持が崩壊したり、事態が悪化した瞬間にうまく退場できるように準備していることは知っていた」。彼の真剣な話の様子から皮肉や嫌味が入る余地は一切ない。ラムは真剣で、私の研究者としてのプロ意識と彼と私の間に築かれた信頼を信じて、自分の言葉の重大さを賢明に私に理解してもらおうとした。

彼が支持し、私に詳細に説明してくれた説は、引用された情報の微妙な内容のため一部は報告できないが、バッシャール・アル・アサドは西側の人々ときわめて親しい関係にあった:JPモルガンなどの銀行に勤務したことのある彼の妻、英国での夕食会、フリーメーソンとの関わりのうわさ、政治家や軍高官の汚職に対するある種の消極的態度など。多くのシリア人が好まない要素が多すぎ、彼が権力を握った2000年には既に、ラムのように革命のために命を危険にさらした人々の間で疑念と失望を引き起こしていた。

     われわれは二度裏切られた。国としては、敵に攻撃を許したロシアに、シリア国民としては、自己保身のためにわれわれ全員を売り渡した大統領に」。

2011年から2013年にかけての出来事、国内の反乱、ジハード主義テロはすべて、過去の過ちの結果だった。アサドは西側諸国に目配りしすぎた・・・同時に東側諸国にも。たとえばロシアに対して。「告白するが、私はロシアを信じていたし、期待していた。プーチンなら本当に状況が変わる可能性がある。私は他の統治者を信頼したことはなかったが、彼はテロを倒すために本当に不可欠な支援を提供し、シリアに最低限の国際安全保障を保証してくれたので、信頼した」と彼はいろいろ記憶を振り返りながら私に語った。「しかし、ロシアも合意に関与していたので、助けにはならなかった。われわれは二度裏切られた。国として、敵に攻撃を許したロシアに。シリア国民として、自己保身のためにわれわれ全員を売り渡した大統領に」。ラムの目には怒りが宿っていた。嘘を許さない厳粛な怒りだった。

「さらに言おう。私にとって、この協定はイスラエルと米国が一致協力して締結されたものだ。アメリカのユダヤ人は大イスラエル計画と第三神殿*の建設を実現するために中東に関心があり、ロシアのユダヤ人はウクライナ、旧ハザール王国に関心がある。どちらに転んでもユダヤ人の勝利なのだ。イスラエルは今回の侵攻に軍隊を送る前から勝利していた」。実際に戦争を経験した指揮官にふさわしい力強く的確な言葉だ。
第三神殿*・・・エルサレムに再建される仮想の神殿を指す。前者は紀元前587年頃のバビロニアによるエルサレム包囲で破壊され、後者は紀元70年のローマによるエルサレム包囲で破壊された。ユダヤ教、特に正統派ユダヤ教では、第三神殿の概念とその願望は神聖なものである。それはユダヤ人にとって最も神聖な礼拝の場となる。ヘブライ語聖書は、ユダヤ教の預言者たちが、メシア時代に先立って、あるいはメシア時代と同時に、第三神殿の建設を求めたとしている。第三神殿の建設は、キリスト教の終末論の解釈においても重要な役割を果たしている。(ウィキペディア)

そして、アサドの逃亡とシリアをやすやす敵に引き渡すことについては、すでに2、3カ月前から情報が流れていたが、あまり信用されるような噂ではなく、その内容は矛盾していたり、不正確だったりした。しかし、何かが動いているのは明らかだった。

彼は、自分が戦っていたとき、自分が守った都市、そして他国での紛争に参加したときの逸話を私に語ってくれた。「私はこれまで、敵がベイルート、ダマスカス、アレッポ、ハマ、ホムスにやってくるのを見てきた。

     私は、敵が自分たちの勝利を確信させることに成功し、その後、私たち兵士の勇気によって一掃されるのを見てきた。もう終わりだと思ったこともあったし、戦争に負けたと思ったこともあった。しかしその都度レジスタンスにはそれを前に推し進める何かが起きたのだ。今回―私の生涯で初めて―敗北(defeat)を目の当たりにした」。

ここがいちばん痛苦に感じるところだ。「われわれは負けた(lost)のではなく、敗北した(defeated)のだ。これはもっとひどい。『敗者(vanquished)に悲しみあれ!』とラテン人は言った。長年の指揮官にとって、敗北は最も恐ろしいことだ。シリア国民は常に英雄的な抵抗を示してきたが、どこかで何かがおかしくなった。

「この前向こうに行ったとき、私がそこで何を見たかわかりますか。貧困、飢餓。電気も水も食糧も燃料さえもない。軍隊は絶対的に不安定な状況で自活するように放置されている」。彼は、約70万人の若いシリア人が敵との戦いに命を捧げていると教えてくれた。

血、血、血。中東が絶えず血の海に浸されなければならない、そんなことがあっていいのか?

それから彼は、軍が監視もせずに賄賂を受け取っていた検問所から、高級自家用車、別荘、西側の土産品で買収された高官まで、自分が目にしてきた腐敗について私に説明してくれた。

「ダマスカスからホムスに向かって車を運転していた時、道端で制服を着た2人のとても若い男性に会ったことがある。彼らは痩せていて、タバコを吸っていた。私は2人を呼び止めて、そこで何をしているのか尋ねた。彼らは、ホムスに行くお金も、24時間の休暇を過ごすお金も、食べるお金もないと答えた。2人を車に乗せて出発した。車中の会話で、彼らは基地での生活の悲惨さを話してくれた。彼らの毎日の食料はトマト1個とジャガイモ1個だった。週に一度、彼らは8人で分け合うためにチキンを与えられた。私の時代には食料があり、軍隊はいつでも戦えるように十分な食料を与えることは義務だった。どうしてこんなことが起こるのか? 過去13年間で、政府は軍を完全に駄目にしてしまったのだ:将校の腐敗、物資の不足、国家の大義のための戦いからの離脱」。

ソレイマーニー、ライシ、ナスララ― いずれも裏切られた将軍や政治家たちだ
ガーセム・ソレイマーニーは、イランの軍人。イスラム革命防衛隊の一部門で、イラン国外でも特殊作戦を行うゴドス部隊の司令官を務めた。2020年1月3日, イラク バグダッドで暗殺される。
セイイェド・エブラーヒーム・ライシは、イランの政治家、司法関係者、イスラム教シーア派ウラマー。同国第8代大統領。マシュハドのエマーム・レザー廟を管理する慈善団体アースターン・ゴドス・ラザヴィーの2代目守護者。検事総長、司法府第一副長官、司法府長官を歴任した。 2024年5月19日、ディズマー(イラン)で暗殺される。
ハサン・ナスララ は、レバノンのシーア派イスラム主義組織、ヒズボラの3代目書記長であり、レバノン南部に多いシーア派信徒らの指導者的存在だった。2024年9月27日, ダーヒア(インド)で暗殺される(以上すべてウィキペディア)

     「若い兵士として知っていたソレイマーニー将軍が2020年にアメリカの悪魔によって殺されたとき、私はすぐに何かがおかしくなり始めていると感じた。

彼を「将軍」という言葉で括ることは到底できることではなかった。彼は本物の男であり、リーダーであり、生きた手本だった。彼の後、残念なことに、レジスタンスには、異なる国、宗教、民族からの何千人もの男性を同じように調整することができる兵士がいなかった。これは戦略的に非常に不利だった」。われわれは、「レジスタンスの枢軸」の歴史を簡単に振り返り、中東全体に対する地政学的意味合いについて共に推論した。

     ライシの死を聞いたとき、信じたくなかった。あり得ないと思った。その瞬間から、すべてが下り坂になった。毎日、もっと恐ろしいことが起こるかもしれないという恐怖とともにニュースを見た。ヒズボラやハマスの指導者たちが次々と殺されたのだ。悲劇的な事実を、私はただ確認することしかできなかった。

     敵がレバノンのレジスタンスの軍事指導者たちを次々と抹殺したスピードは信じられないほどで、CIA、MI6、モサドといった機関がその大仕事をやってのけたのだ。これは紛れもない事実である。数ヶ月の間に、中東の政治地理全体が、何年やっても成功しなかった異変を起こしたのだ。

「誰がナスララの地下壕の座標を知っていたのか?世界で3人くらいだろう: ハメネイ、ソレイマーニー、アサドだ。ハメネイなら裏切るどころか、ライフルを手に死を覚悟するだろう。ソレイマーニーはすでに始末されている。残るはただ一人・・・」。この言葉に、私は開いた口がふさがらなかった。ソレイマーニー司令官はアサド大統領の悪口を言ったことはなかったが、政治的にはすべてにおいて大統領を支持しているわけではないことは知っていた。怒り、失望、そして痛みが、真実の言葉を引き出した。賭けだったが、それでも真実だ。

なぜなら、未解決の大きな疑問の一つは、「誰が」ナスララの正確な居場所を明かしたのか、ということである。諜報員か? スパイか? 金で手に入れた情報か? それとも裏切り者か? 事実として、ナスララはもういない。そしてラムの言葉によれば、これは次に陥落するのはレバノンであり、結果としてパレスチナは世界中に散らばった最後のアラブ人の記憶の中にしか存在しなくなることを意味する。

     「シリアが数日で陥落したのは、すでにシリアを売り渡した支配者たちの意のままになったからだ。7万人の兵士が、軍用車ではなくタクシー(多額の費用がかかる)でイラクとの国境まで移動し、数時間で陥落した。すべて計画どおりだった。この侵攻では一発の銃弾も発射されていない。これは私の知っているシリア軍ではない。この『偉大な組織』は尊厳のない倒錯と成り下がったのだ」。

彼は後ろの写真を指差した。私は制服を着た兵士の姿に目をやった。兵役を終えたときに両親に送るような絵葉書写真の一つだ。「あそこの少年を見てほしい。22歳だ。あいつらは彼の喉を切り裂いたのだ」。彼は涙で目を腫らして、しばらく動かなかった。それは彼の親友の息子だった。

次に何が起こるのか?

ラムは、これからの数日、数週間、数か月について話す気はない。アラブと世俗のシリアはもう存在しない。敗者(the defeated)の言葉にはほとんど価値がないのだ。

 「最近、考えられないようなことが起きている。メディアでは、あまりに生々しすぎるので、このことについては何も報道されていない。70年間の民族的、文化的、宗教的憎悪を想像してみてほしい。彼らは報復しているのだ。こんなことを言えば、体は恐怖で震え上がるばかりだ。彼にはイスラム教の聖職者の兄弟と甥や姪が何人かいることを思い出し、少し心配しながら、彼らはどうなのかと尋ねると、彼はこう答えた。「親族をシリアから連れ出そうとしているのだが、12月8日以来、連絡すら取れない。これはあの土地の何千人もの人々が受けている悲劇なのだ」。

     約1時間に及んだ会話の最後に、ラムはほとんど「予言的」な予想を口にした。明日はレバノン。そしてイエメン。イエメンとレバノンが陥落したら、次はイランだ。イラクはアメリカの武装集団に囲まれたガソリンスタンドだ。トランプ大統領はイランを滅ぼす準備ができており、情報機関はすでにそれを知っている。ハメネイが死ねば、イランは崩壊する」。数秒の沈黙。ハメネイは最後に残された『世界的』イスラム権威であり、レジスタンス最後の後ろ盾だ。

     「次はロシアの番だ。過激主義の匂いを漂わせる何百万人ものスンニ派イスラム移民がすでにロシアの都市の路上にいる。彼らは無差別に(移民を)入国させ、そのツケを払うことになるだろう。次はローマの番だ。次は北京の番だ。私は『長いひげ』たちが赤の広場やサン・ピエトロ広場に行進してくる日を待っている。その恐ろしい日が来る前に死にたい」。

ここで私たちの会話は終わる。深い沈黙が数分続く。私たちは別れを告げるために立ち上がる。ため息をつきながら、私は正式にその場を去り、ラムが戦った愛国戦争の遺物を最後にもう一度眺めた。私はそういう英雄や愛国者たちのように自分の命を捧げる心構えはできているのだろうか? 彼らは、今はもうこの世にいないが、その模範的行動は永遠に残ることになるだろう。

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ロレンツォ・マリア・パッチーニは、ベッルーノ大学の政治哲学と地政学の准教授。戦略分析、情報、国際関係のコンサルタント。

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS(2025年1月24日)「シリア:その隠された歴史」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-2912.html
からの転載であることをお断りします。

また英文原稿はこちらです⇒Dr Abu Safiya Symbolised Humanity in Gaza. Israel and the West Are Destroying It
筆者:ジョナサン・クック(Jonathan Cook)
出典:The Unz Review 2025年1月8日
https://www.unz.com/jcook/dr-abu-safiya-symbolised-humanity-in-gaza-israel-and-the-west-are-destroying-it/

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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