「日本保守党」伸張という病状

林田英明

写真説明=(左から)演説する百田尚樹氏、島田洋一氏、石平氏、平井宏治氏=2024年10月19日、兵庫県尼崎市で

●国政政党に衆院選で昇格

やはり国政政党になったか。それが昨年10月の衆院選での感想である。そう、3議席を獲得し、比例得票数が2%を超えて躍進した日本保守党のことだ。まずは、『新聞OB北九州』に寄せた拙文(2024年5月21日)を紹介する。

〈4月28日投開票された衆院3補欠選挙で注目すべきは、自民全敗のほうではなく日本保守党の動向だったのではないか。東京15区の出口調査では、イスラム思想研究者でユーチューバーの飯山陽氏が伸びていた。過去最低の投票率40.70%であるにもかかわらず2万4264票を獲得し、5万票近く得て当選した立憲民主党、酒井菜摘氏には及ばなかったものの2位に近い4位。有効得票数の14.2%という大善戦である▼昨年9月に発足した日本保守党はまだ諸派扱いの政治団体に過ぎないが、創設者の代表に作家の百田尚樹氏、事務総長にジャーナリストの有本香氏と右派論壇では知名度が高い2人が並ぶ。そこに「南京大虐殺はなかった」と主張する名古屋市長の河村たかし氏が共同代表に就き、侮れない存在となっていた▼党のホームページ(HP)を開けば、どアップの日の丸がゆっくりとなびく背景に「日本を豊かに、強く。」のスローガンが躍る。党員は3月段階で6万人を突破しており、X(ツイッター)のフォロワーは33万人を超え、自民党をも上回る。国体護持、軍事信奉を政策の重点項目にしていることから分かるようにナショナリストの集団である▼今回の補選結果は彼らの鼻息を荒くした。自民党の一定支持層は無論、無党派層もかなり引きつけたようだ。岸田文雄首相のまま次期衆院選を迎えれば、日本保守党は国政政党に昇格する可能性が極めて高い。SNS(ネット交流サービス)での漫談と見まがう百田氏らの話術にはつい引き込まれてしまう。「笑顔のファシズム」の内奥をよく見つめたい。〉

●「消費税減税」メインに

首相の座は岸田氏から石破茂氏に代わったが、有権者にとって刷新感は乏しい。これがもし高市早苗氏だったら、「岩盤支持層」の多くが自民党に投票しただろう。今回、日本保守党が獲得した比例114万票のうち、その層がどれくらいかは分からないものの、国政政党に届かなかったと思う。次回の参院選あるいは衆参同日選では政治団体のハンディがなくなることで、さらに浮動層を取り込んでいくこととなろう。

では、彼らが衆院選で主張した重点政策を見てみよう。チラシのように、「消費税減税」がメインになっている。有権者にアピールするうえで得策と考えており、選挙戦略上、賢明な判断である。政見放送でも有本氏が冒頭、こう語りかける。「日本はこの30年間、サラリーマンの平均給与が上がらない。税金、社会保険料、電気代もが上がる一方、国民の生活は苦しくなる一方です」。可処分所得が下がる労働者や家庭に食い込んでいく。消費税をまず8%に、そして5%へと呼びかける。しかし、HPでの8項目の順番は違う。①日本の国体、伝統文化を守る②安全保障③減税と国民負担率の軽減④外交⑤議員の家業化をやめる⑥移民政策の是正―国益を念頭に置いた政策へ⑦エネルギーと産業政策⑧教育と福祉――である。

●「核抑止力の保有」主眼

そこに彼らの本質が表れている。街頭演説も聞いてみた。百田氏が立て板に水の長広舌を振るうが、中身は政見放送と同じである。選挙戦中盤ということもあり、声はかすれ気味で疲れていたのだろう、次の演説者を紹介する際、「えー、誰やったっけ、忘れた」と失態を見せたが、近畿ブロックで当選することになる島田洋一氏は苦笑いで済ませ、マイクを握った。福井県立大名誉教授の肩書が衆院議員へと変わる彼は国際政治学者を名乗る。党が11月6日に設置した「北朝鮮による日本人拉致問題対策本部」の本部長に就任したように拉致問題に詳しい。だから、演説でもそこは熱く語っていたが、彼の持論は当選後のSNSでも公言している通り「日本独自の核抑止力の保有」である。「②安全保障」の中に「憲法9条改正(2項の一部削除)」が書かれている点を見逃してはならない。しかし演説では、そこまで言及することはなかった。いつものように「福島〝現実を〟みずほ」と、社民党党首を切れの乏しいやゆで批判的に取り上げることは忘れなかったが、刺激的な「核兵器」という言葉は場面によって隠す。
それはエネルギー政策にも関連してくる。政見放送では、火力発電を推奨し、自然エネルギーの再エネ付加金をヤリ玉に挙げていた。付加金は電気料金に明示され分かりやすいので共感を得やすい。しかし、東京電力福島第1原発事故後、それまでの電源開発促進税などにとどまらず、賠償金や廃炉にかかる費用も半永久的に消費者や国民負担となる。そもそも事故前から莫大な補助金が原発に投じられていたが、不透明な流れで全体像は見えない。さらに、原発回帰を鮮明にした政権与党は今後の原発新増設でも稼働前から消費者負担を図ろうとする動きがある。そんな見えにくい原発の闇も指摘してほしいものだ。だが、チラシの裏面を見ると、政見放送とHPではなかった「原子力」の文字が入っていた。「原子力、火力発電のさらなる活用、技術革新を支援」。「原子力」を先に表記している。そちらが本音であろう。核兵器には原発の維持が必要だからだ。

●逃げ道を作りながら暴言

百田氏の暴言は、予想された通り、頻出している。本人は「芸人」を自認しており、ウケ狙いでしゃべってしまうのだろうが、国政政党の代表としては、これまで以上にメディアで取り上げられてしまう。少子化問題に対して「小説家のSF」で「ええ言ってるんちゃうで」と逃げ道を作りながら「30超えたら、子宮を摘出するとか」などと女性に限定した発言を連発した。取ってよい臓器はないという前提以前に、女性を人間として見ていない彼の体質がよく表れていよう。憂国の士ではあっても、人権は二の次である。

彼の表層的な言葉は、書籍にも通じる。例えば『今こそ、韓国に謝ろう』(2017年、飛鳥新社)もその一冊である。1895年の閔妃(ミンピ)暗殺や朝鮮戦争特需で日本が復興したことなどを申し訳ないとわびるものでは無論ない。反語を駆使して、題名とは真反対の主張を展開している。批判を装う悪罵の腐臭が漂う。どのような国でも恥部や反省すべき歴史的事実はある。それは韓国だろうが日本だろうが例外はない。この本も「小説家のSF」と捉えていいかもしれない。1936年のベルリン・オリンピックのマラソンで優勝した孫基禎(ソン・ギジョン)に対して「日本政府が日本名を強制していなかったことの傍証」と記しているが、「そんきてい」として表彰台に立った孫の葛藤や苦悩を韓国映画『ボストン1947』(2023年)などで知ることを勧めたい。百田氏は、小説家として感動作を連発しているものの、偏った歴史観がその素晴らしい才能を無駄にしている。

●石丸氏と共通のSNS戦略

ここで、『新聞OB北九州』の拙文(2024年7月23日)を再録したい。

〈石丸伸二氏。7月の東京都知事選で旋風を巻き起こした前広島県安芸高田市長である。彼が出馬を表明した時、新聞でニュースを知る世代の私はその名を知らなかった。小池百合子氏の3選は確実視されていたから、都知事選の焦点は元参院議員の蓮舫氏がどこまで迫るかだと思われた▼ところが、選挙戦が進むにつれ石丸氏の伸びが著しい。そこでようやく私は石丸氏に注目したのだが、まさか165万票を得て、128万票の蓮舫氏に大きく差をつける次点になるとは想像を超えていた。投票率が前回を5.62ポイント上回る60.62%となったのは、石丸氏への投票意欲に他なるまい▼市長時代に市議をたしなめる動画を「痛快」と感じるファンは若者を中心に多く、SNS が日常生活に染みこんでいる世代にはヒーローと映るのだろう。だが、都知事選の結果を受けたインタビューでの石丸氏の表情や受け答えを見た私は、彼の冷笑が怖い。そもそも「完全無所属」をうたいながら告示前には日本維新の会に「応援」を願っていたポピュリストである▼もう一人、7位に入った、ひまそらあかね(本名・水原清晃)氏の11万票も予想を超えた数字だった。彼は、若年女性支援団体「Colabo(コラボ)」への名誉毀損容疑で警視庁に書類送検されている自称ユーチューバーだ。小池都政の継続を選んだ都民とはいえ、前回から74万票減らしており、大勝のように見えながら底流では選挙民の意思に無視できない動きがある。しかしそれが大衆迎合の方向であるなら、実はもっと怖い。〉

日本保守党のチラシに「外国人犯罪の増加」の項がある。安い労働力を求める経団連の意向もあって移民の数は段々と増えている。百田氏の「これでは日本人の賃金が上がらない」と憤る姿は共感をもって世に受け止められるだろう。有本氏と共に埼玉県川口市を訪れ、クルド人との対応に悩む住民の声を聞いて報告してはいても、クルド人の明確な言い分はなく、体感治安の悪化を増加させる効果のほうが高い。逆に、視聴数稼ぎで悪乗りする県外の同調者を生み出している気がする。スマホで勝手に写真や動画を撮られ「犯罪者」扱いでSNSにさらされ、ヘイトの脅迫を浴びせられるクルド人たちの恐怖も伝えてほしい。
日本保守党の主張に共鳴する部分はある。だが、彼らの神髄は既述した通りだ。衆院東京15区補選では蜜月だった飯山氏と百田氏にその後、亀裂が走り、衆院選では泥仕合を演じても影響はほぼなかったように、さらに党勢を広げるだろう。SNSをうまく活用して民心をつかんだ石丸氏のように。

●世界に向けた高い理想は

日本保守党にくみする人たちは「中道」か「自分はちょっと右」と感じているらしい。そして反対者には「左翼リベラル」あるいは「極左」のレッテルを貼る。自分の立ち位置を自覚できないようなのだ。世界水準では極右に分類されるだろう日本保守党の伸張という病状を憂えても意味はない。病気の根源を突き止めて地道に改善を図らない限り、さまざまな症状が体のあちこちに噴き出るだけだ。貧困家庭が増え続け、報われない社会が続く限り、耳目をひく扇動者になびいてしまうのが人間の弱さである。
百田氏は政見放送でも街頭演説でも最後に「日本は世界で最高の国」と熱く呼びかける。日本人はもっと幸福にならなければ、と力を込めて。スパイ防止法の制定も掲げるが、それで捕まる間抜けなスパイはいない。軍事国家は監視社会を必要とする。この国が「現実主義」の名の下、核抑止に頼る「普通の国」となってしまえば、どうなるだろう。日本国憲法前文には「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」とある。世界に向けて「名誉ある地位を占めたい」とする高い理想を捨てた時、日本という国家の意義は消滅する。

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(『九州から9条を活かす』38号より転載=2025年1月20日)

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林田英明 林田英明

1959年、北九州市生まれ。明治大学文学部卒業。毎日新聞社を2024年退職。単著に『戦争への抵抗力を培うために』(2008年、青雲印刷)、『それでもあなたは原発なのか』(2014年、南方新社)。共著に『不良老人伝』(2008年、東海大学出版会)ほか。

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