【連載】知られざる地政学(塩原俊彦)

「知られざる地政学」連載(75):フジテレビ報道は日本のマスメディアの「腐敗」そのものである(上)

塩原俊彦

 

今週は話題のフジテレビをウクライナと関連づけながら論じたい。それは、日本の主要マスメディアの糾弾につなげるべき緊急事態である。

(1)報道機関としてのフジテレビの惨状

1月18日、「現代ビジネス」に拙稿「フジテレビが港社長の「こっ恥ずかしい会見」の最中にウクライナ問題で誤報!」という記事を公表した。FNNプライムオンラインが2025年1月16日午後4時15分に、「兵士不足のウクライナでゼレンスキー大統領が徴兵対象を17歳に引き下げる法案に署名 違反だと最大で約9万2000円の罰金」というタイトルで誤報を報じた件について紹介したのである。

この記事が出ると、フジは下記の写真からわかるように、「兵士不足のウクライナでゼレンスキー大統領が徴兵と兵役に関する法案に署名 17歳の男性に対して軍への個人情報の登録を義務づけへ」にタイトルを改め、最後に「(18日午後8時45分追記)これまでは「徴兵の対象年齢を17歳に引き下げる法案に署名した」と表記しておりましたが、正確な表現に改めました。」と書いた。

それだけである。だが、最初のフジの報道は、見出しが間違っているだけでなく、ウクライナにおける徴兵と兵員の動員とを区別しないまま、「徴兵対象を17歳に引き下げる」と書いていた。そんな事実はまったくないから「大嘘」を報じていたことになる。しかも、「現代ビジネス」に書いたように、戒厳令下のウクライナでは、徴兵制は停止されている。はっきり言えば、この記事を書いた者はまったくの不勉強であり、嘘を日本中にばら撒いたことになる。この登録制は、徴兵制に代わって導入しようとしている基礎軍事訓練(BMT)のためのものなのだ。せっかく訂正するのであれば、そこまで書くことで、自らの不明を恥じるのが当然なのである。

(出所)https://www.fnn.jp/articles/-/815158

誤報なのだから、しっかり訂正するというのが礼儀だろう。しかし、それを「不正確な表現」から「正確な表現」に改めたというフジの姿勢こそ、今般の中居正広の「性的暴行事件」を「女性トラブル」と不正確に表現している日本全体の主要マスメディアの「腐敗」の象徴であるように思う。要するに、事実に肉薄しようとする気概そのものが欠如しており、ただ取り繕うだけのお粗末な姿勢しか感じられないのだ。これは不誠実であり、17日のような記者会見を開いたのも、会社全体を不誠実が覆っているからにほかならない、と私は思う。

面と向かって「商品」と言われた屈辱

このどうしようもない「腐敗」は、フジの報道部門にも確実に広がっている。2015年3月17日、私は、「BSフジ プライムニュース」において午後8時から9時45分まで、「ロシアにどう向きあうか」をテーマにウクライナ危機を論じたことがある。

このとき、控室でフジの幹部から、「先生はいま売り時の商品ですから」といった趣旨の言葉をかけられたことを、いまでも鮮明に覚えている。フジは、この番組に出る学者や政治家を「商品」とみなしているのかと驚いた。自分が「商品」であると、面と向かって言われたのは、60年以上生きてきて初めての出来事だったからである。

いま思うと、芸能人もアナウンサーも記者も含めて、「商品」であり、必要とあれば、上納するというシステムができていても不思議はない体質が報道部門にも当時からしっかりと根づいていたのだなあ、と思う。人間をカネで売り買いできる「商品」とみなす体質がフジの報道部門にもたしかに存在したことは、その後、バラエティー番組と報道番組が混じり合った「ハイブリッド」番組をつくり出し、ますます「商品」としてしか人間をみない社風が広まったに違いない(ニュース番組に登場する人物がCMに登場する傲慢を許すようになったのはいつ頃からなのだろうか)。

おそらく、ウクライナについていい加減な情報ばかりを流しているフジに登場する専門家はみな「商品」として視聴率を稼げるのだろう。だが、私に言わせれば、「不正確」で皮相な情報しか提供できない「アホ」ばかりが登場しているのであって、その報道の質は低水準にとどまっている。

自分の流した報道を誠実に訂正することすらできないフジに、そもそも、報道機関を名乗る資格があるとは思えない。「目利き」もできないまま、「商品」なる「似非専門家」を並べて浅薄な情報を流しているだけなのだ。本来であれば、優れた業績のある専門家に平身低頭して登場してもらうべきものであるにもかかわらず、だれが優れた専門家であるかさえ判断できない(私は、一橋大学大学院経済学研究科でロシアの経済政策を修了後、朝日新聞に入ったが、ロシア経済の専門家と話すとき、自分よりも優秀であると感じた学者はごく少数にすぎなかった)。肩書きに騙されて、結果として、視聴者を騙すことの繰り返しを公共の電波を使って行っているのである。

(2)日本のマスメディアの惨状:めちゃくちゃな情報操作

このとんでもない不誠実は、他のマスメディアについても共通している。日本のマスメディアは例外なく「腐敗」している。露骨な情報操作(マニピュレーション)が幅を利かせているのだ。つまり、読者や視聴者を騙すことを厭わないのである。

中居正広の事件でいえば、そもそも「女性トラブル」という表現は「不正確」である。1月24日付に掲載された「ニューヨークタイムズ」の記事は、この事件を “a case of sexual assault”、すなわち「性的暴行事件」と表現している。他方で、日本の主要マスメディアはもっぱら「女性トラブル」と報じるだけで、「性的暴行事件」と「正確に」のべた報道を、私は知らない。私に言わせれば、すべて「誤報」である。性根が歪んでいるのだ。

この性根の歪みは、「核発電所」(nuclear power plants)をずっと「原子力発電所」と誤訳しつづけてきた日本全体の根性にかかわっている(拙著『知られざる地政学』〈上巻〉、111頁)。この歪みは、「暗号通貨」(cryptocurrencies)を暗号資産と訳すという、訳のわからない規制にマスメディアが従っていることにも現れている(拙著『知られざる地政学』〈下巻〉、327~328頁)。御用学者もそれに倣っている。絶望的な状況にあるのだ。

連載(72)「アルコール飲料とがんリスク」()において論じたように、日本のマスメディアは、アルコール摂取とがんリスク増加の高い因果関係を無視して、広告・宣伝を行い、警告表示の義務化にまったく後ろ向きだ。まさに、日本国民の生命を平然と毀損している。これもまた、情報操作によって、重大な情報を隠蔽することによって行っているのである。

ウクライナ報道で日本国民を騙す主要マスメディア

ここでは、ウクライナ報道に関する最近の情報操作について書いておきたい。第一に、ドナルド・トランプが大統領就任後に初めてウォロディミル・ゼレンスキーを批判したインタビューについて、日本の主要マスメディアはすべて無視し、報道していない。これはおぞましいほどの情報操作そのものである。「現代ビジネス」の拙稿「【報じられない真実】3年目の新年、すでにウクライナ戦争の勝負は決している!」などで、何度も書いてきたように、すでにウクライナは実質的に戦争に負けている。それでも、戦争を止めないとすれば、ウクライナ国民は犬死しているだけだ。もちろん、ロシア国民も。そして、北朝鮮国民も。

事実関係を説明しよう。ドナルド・トランプ大統領は1月22日、FOXニュースの司会者ショーン・ハニティとの独占インタビューに応じた。それが、報道されると、23日、FOXニュースは、「トランプ、ゼレンスキーは「天使ではない」と発言」という見出しを立てて報道した(下の写真)。それにはビデオがついていて、10分過ぎのところで、たしかにトランプは “He is no angel”とのべた。

この重大発言について、Newsweekは24日になって、「ドナルド・トランプ、ゼレンスキーを攻撃 「彼は天使ではない」」というタイトルの記事をきわめて真っ当に報道した。しかし、「ニューヨークタイムズ」(NYT)も「ワシントンポスト」(WP)もネグった。要するに、トランプがゼレンスキーを批判した事実を隠蔽することで、ゼレンスキーを擁護する姿勢をとったのである。

FOXニュースにおいて独占インタビューに答えるトランプ大統領
(出所)https://www.foxnews.com/video/6367602293112?msockid=1c714e17947d622e3ab1438095ec639e

このNYTやWPの不誠実をそっくりそのまま日本のすべての主要マスメディアは踏襲した。戦争継続を願ってやまないゼレンスキーは、ジョー・バイデン前大統領派と結託して、戦争終結・和平に向かいかねない情報を遮断することで、自分たちの好戦的な姿勢を糊塗しつつ戦争をつづけようとしている。

大統領の任期切れのまま法的根拠のない状態で大統領をつづけるゼレンスキーは戒厳令をつづけることでしか自分の権力を保持できない。選挙になれば、ヴァレリー・ザルジニー前ウクライナ軍総司令官に敗れるとみられている。このため、ゼレンスキーはザルジニーの出馬を断念させるための工作を現在、いろいろと進めている。簡単に言えば、出馬したら裁判にかけると脅している。

バイデンについては、米国内の軍産複合体企業からの絶大な支援があった。バイデンは本来、好戦派であり、戦争をしたくて仕方がなかったと言える。その意味で、1月24日、ウラジーミル・プーチン大統領がインタビューで、「もし彼(トランプ)が大統領であったなら、もし彼が2020年に勝利を奪われなかったなら、2022年にウクライナで起きた危機はなかったかもしれない、と私は彼に同意せざるを得ない」と発言したのは、まったくその通りなのである。そのあたりの事情は、拙著『ウクライナ・ゲート』、『プーチン3.0』、『ウクライナ3.0』を読んでもらえばわかるだろう。

(75):フジテレビ報道は日本のマスメディアの「腐敗」そのものである(下)に続く

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塩原俊彦 塩原俊彦

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。『帝国主義ロシアの野望』によって2024年度「岡倉天心記念賞」を受賞(ほかにも、『ウクライナ3.0』などの一連の作品が高く評価されている)。 【ウクライナ】 『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社、2023)、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社、2022)『ウクライナ3.0』(同、2022)、『ウクライナ2.0』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート』(同、2014) 【ロシア】 『プーチン3.0』(社会評論社、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち』(同、2016)、『プーチン2.0』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオ KGB 帝国:ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。 【エネルギー】 『核なき世界論』(東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)などがある。 【権力】 『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet、2013)などがある。 【サイバー空間】 『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』(社会評論社、2019)がある。 【地政学】 『知られざる地政学』〈上下巻〉(社会評論社、2023)がある。

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