【連載】安斎育郎のウクライナ情報

2月2日のウクライナ情報

安斎育郎

2月2日分です。

安斎育郎

2月2日のウクライナ情報
安斎育郎

❶夏までに停戦しないと国家存続の危機=ウクライナ情報総局長官(2025年1月31日)
ウクライナ国防省情報総局のブダノフ長官(ロシアでテロリストに指定)は早期交渉の必要性に触れた中で、国家存続の危機を認めた。
「ウクライナの真実」紙によると、最高会議(国会)で行われた非公開の会議でブダノフ長官は夏までに本格的な交渉がなければ「ウクライナの存立にとって非常に危険なプロセス」が始まると述べた。会議には国軍参謀本部、議会各派の代表などが出席していたという。
会議が非公式だったにもかかわらず情報が漏えいしたことから、保安庁は調査を行い、リークに関与した人物らを刑事告発するとしている。
トランプ政権もまた、国家存続の危機だと警告している。ルビオ国務長官によると、今回の紛争でウクライナは人口が大量に流出し、「100年前の状態に戻った」という。さらに流出した難民が帰国することはないとも分析している。
ウクライナの民主主義イニシアティブ財団が行った世論調査によると、国境が解放されたら祖国を捨てると回答した国民の割合は全体の20.7%に達した。男性の間では特に18歳から29歳の間で出国を願う割合が多かった(33%)。
出国を希望する理由として多い順に、「成長の可能性がない」(30.5%)、「戦闘継続による命の危機」(29%)、「国による社会保障が十分ではない」(29%)、「離れた家族と再会」(26%)、「仕事がない」(21%)と続いている。
アンケートは2024年11月29日から12月14日にかけて行われ、1518人の国民が回答した。
https://sputniknews.jp/20250131/19545647.html

❷欧州で再びエネルギー不安? 難しいロシア依存脱却(NHK,2025年1月14日)
ロシアのウクライナ侵攻からまもなく3年になるのを前にウクライナ経由のロシア産天然ガスのヨーロッパへの輸出が停止しました。なぜ今なのか、またどのような影響があるのでしょうか。

Q.戦闘が続いているのにまだロシアの天然ガスがウクライナを通じて輸出されていたのですか?
そうなのです。ウクライナ政府はロシアの国営ガス会社ガスプロムと天然ガスをヨーロッパに輸送する契約を結び、戦時下でもパイプラインは破壊されることなくスロバキアやチェコ、オーストリアなどに供給してきました。これによって得られる年間9億ドルから10億ドルの通過料がウクライナの貴重な収入源となっていましたが、ロシアの侵攻が続く中でウクライナ政府は5年間の契約終了後の延長を拒否したため、今月1日をもってガスの供給が止まりました。ロシア側の損失はおよそ50億ドルに上ると見られ、ウクライナ政府は「ロシアは市場と収入を失い始めるだろう」と意義を強調しています。

Q.これでロシアからヨーロッパへの天然ガスは完全に止まったのでしょうか?
ロシアの侵略後、バルト海を経由してドイツに向かう「ノルドストリーム」とベラルーシ経由のパイプラインが止まりました。今回ウクライナ経由が止まったことで残る主要ルートはトルコ経由だけです。ヨーロッパはロシア依存からの脱却を進めており、ロシア産の安いエネルギーに頼る時代は終わりつつあるといえますが、今回の措置にはロシアだけでなく周辺の国々から戸惑いと反発の声が上がっているのです。

Q.反発とは、どういうことですか?
今もロシアにエネルギーを頼っている国々で様々な混乱が起きているのです。モルドバでは発電用のガスが不足して一部の地域で計画停電を余儀なくされ、暖房が止まったり工場が稼働できなくなったりしました。また、スロバキアは首相がウクライナへの電力の供給停止や難民支援の縮小など報復措置をとる可能性を示唆し、ウクライナとの対立を深めています。紛争が長期化するにつれてロシアだけでなくウクライナに批判の矛先を向けている国もあるのです。さらに、ヨーロッパでは今年の冬は厳しい寒さが続き、エネルギー価格の上昇が懸念されています。ロシア依存からの脱却の難しさを改めて浮き彫りにしています。
https://www.nhk.jp/p/ohayou/ts/QLP4RZ8ZY3/blog/bl/pDodEAXj7Y/bp/pL2MxRwQ7z/
※安斎注:ノルドストリームをアメリカとノルウェーが爆破した事件に触れないところは、さすがNHKという感じですね。

❸欧州エネルギーシステムの危機(NPO法人 国際環境経済研究所(IEEI)HPに掲載(2022年10月27日)
監訳 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志 訳 木村史子
本稿は、Alexander Stahel, The Crisis of the European Energy System, The Global Warming Policy Foundation Note 35
The Crisis of the European Energy System (thegwpf.org)を、The Global Warming Policy Foundationの許可を得て翻訳したものである。

欧州エネルギーシステムの危機
欧州の電力網は、現代の奇跡といえる。それは世界最大の同期電力網(接続電力による)である。モロッコやトルコなど欧州連合に加盟していない国も含め、32カ国の5億2千万人のエンドユーザーと相互接続しているのだ。2019年、大陸の電力網全体の純電力消費量は2兆6350億キロワット時(kWh)だった。同期はしていないがつながっている国であるイギリス、アイルランド、北欧諸国、バルト諸国を加えると、3兆3000億kWh以上にもなる。これは大変な電力量である。
電力網はイデオロギーではなく、あくまでも物理学に基づいて作られている。例えば、ある物理法則によれば、電力網を流れる交流電流の発電量は、常に消費量と一致しなければならない。つまり、1年=525,960分の間、常に消費量(専門用語では「負荷」)と一致しなければならないのである。この単純な事実が、我々が直面している問題を理解する上で重要なことである。
欧州全域の需要を満たすために、15分単位の短いブロックで常に電力負荷が予測され、何千もの発電機がその需要を満たすために競り合いを行っている。また、ネットワークの周波数は、電力網の健全性を測る重要な指標である。局所的に測定されるが、超地域的な重要性を持ち、需要と供給の間の不均衡を示す最初の指標となる。この周波数は、非常に狭い範囲内に収めなければならない。それができなければ、インフラへのダメージやシステムの完全な停止につながる恐れがあるためだ。
周波数がズレる事象(インシデント)はさまざまな理由で発生するが、風力や太陽光発電の比率が高まるにつれて、より一般的な事象になってきた。再生可能エネルギーは需要に合わせた出力の調整できないため、供給不足に対応する目的で分単位で出力を上げることができない。そのため、電力網の観点からは信頼性に欠ける。その普及の影響は、周波数事故が2020年の33時間から2021年には52時間以上と、わずか1年で50%以上増加していることからも明らかである。2021年だけでも、欧州電力網では2件の重大(「スケール2」)インシデントが発生し、電力網運営会社Entso-e(欧州送電事業者ネットワーク)の専門委員会が最終説明報告書を作成しなければならなかった。
欧州の電力網は、需要に見合うだけの電力を供給することが難しくなってきている。Figure 1はその問題を示している。ほとんどの国が電力の純輸入国であり、フランスとドイツ、そしてわずかにチェコに依存しているのが実態である。言い換えれば、ほとんどのヨーロッパ諸国は、自国のエネルギー安全保障に責任を負っていないのである。
特に問題があるのは次の数カ国である。
イタリアは、1990年代に原子力発電所を閉鎖し、陸上風力発電所を数カ所建設しただけで、洋上風力発電所はまったく建設していない。現在ではほぼ完全に天然ガスに発電を依存しており(訳注;イタリアの天然ガス火力の発電シェアは約50%)、しかも信頼できる供給を確保することができないでいる。
オーストリアは水力発電と天然ガスを併用しているが、電力需給のバランスをとるためにドイツに依存している。ドイツが過去20年間、原子力や化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を図る「エネルギー革命(Energiewende)」に取り組んでいることは、オーストリアの指導者の目には留まらなかったようである。
ハンガリーは電力網の燃料をロシアからの天然ガスに頼っている。
スロバキアとフィンランドは、少なくともいくつかの新しい原子力を稼働させることができたが、それは困難を極めており、費用もかかり、まだそのプロセスは完了していない。
オランダは天然ガスに依存しており、巨大なフローニンゲン・ガス田を保有しているが、そこでの生産を段階的に停止することを決定し、国際液化天然ガス(LNG)市場の言いなりになっている。
全体として、かつて電力の主要輸出者であった欧州大陸の電力網は、現在、ノルウェー、スウェーデン、イギリスからの輸入に頼っている。しかし、短期的には4つの大きな問題があり、長期的には1つの巨大な構造的問題があるため、欧州大陸の政策立案者たちには警鐘を鳴らす必要がある。短期的な問題点は次の通りである。

フランスの原子力
フランスは欧州の原子力発電のリーダーとして、年間4500億kWhを供給できるはずである。しかし、設備の腐食の問題により、その出力は著しく低下しており、運営を担当する国営電力会社EDF
が発表した指針によると、2022年には3150億kWh、つまり生産能力のわずか59%にまで低下する可能性がある。EDFは過去に過大な期待を持たせておいて、実現しなかった経緯があるため、この数字を実現することさえ難しいかもしれない。
その結果、フランスは最近、数十年ぶりに電力の純輸入国になり、電力価格が高騰している。イギリスとベルギーにあるEDFの原子炉の出力も大幅に低下している。

ドイツの原子力
EDFの原子力発電所はメンテナンスが悪い。しかし、ドイツはそのようなことはなく、長い間90%をはるかに超える稼働率で運転している。また、理論的にはウラン燃料の安定供給が確保されている(実際には確保されていないが)。原子力発電はもちろんゼロ・カーボンであり、極めて安全である。しかし、2011年、メルケル首相の率いるドイツキリスト教民主同盟(CDU)は、連立政権への圧力を受けてドイツの全原発を廃止し、発電量のシェアを25%からゼロにすることを決断した。そして2022年12月には最後の3基の原子力発電所(出力合計400万kWh)が閉鎖され(訳注:現在の予定では2基は閉鎖されず来年4月まで稼働可能な状態で維持される)、これまで欧州第2位の電力輸出国であったドイツが再び電力の純輸入国になる可能性がある。このことは、現在電力需要のかなりの部分を輸入に頼っているすべての国、特にイタリア、オーストリア、ルクセンブルクに深刻な影響を与えるだろう。
ドイツでは、原発の代わりに休止中の石炭火力発電所を稼働させることが期待されているが、ロイターの報道によると、ほとんどの発電所が老朽化しており、再稼働させることができないとのことで、どれだけの発電所が稼働できるかは不明である(訳注:既に石炭火力と褐炭火力の稼働が決まったとの報道がある)。ロシアから供給されるはずの石炭の入手が困難な発電所や(訳注:8月からロシア炭は輸入禁止となった)、現在の石炭価格の高騰が経営を圧迫している発電所もある。そのため、ドイツ、ひいては欧州の多くの国々がガスに依存しており、ガスは現在非常に不足している。

ノルウェーの水力発電
欧州は、ほぼすべての国が輸入国であり、残りのほとんどの国も間もなく輸入国になるため、供給不足を補うためにノルウェーとスウェーデンの水力発電に期待している。しかし、昨冬の降雪不足で貯水池の水位が低く、ノルウェー政府は輸出の制限を検討している。もしそうなれば、欧州の電力網は需要を満たせなくなる。
ウクライナ
3月、ロシアの侵攻を受け、欧州とウクライナの電力網が接続された。この措置は、ウクライナの電力網に重要な支援を提供したが、欧州のエネルギー安全保障にとってはさらなるリスクをもたらした。
https://cigs.canon/article/20221115_7102.html

❹米志願兵ら20人超不明に ウクライナ、身元確認難航(2025年1月31日)
【キーウ共同】米CNNテレビは30日、ロシアによる侵攻を巡り、ウクライナ軍に入隊した志願兵ら米国人20人以上が前線で行方不明になっていると報じた。死亡したとの情報があったとしても、ロシア側からすぐに遺体が返還されないなど身元確認が難航するケースが相次いでいるとした。
侵攻で犠牲になった外国人の遺族を支援する米財団によると、死亡または行方不明になった18
カ国88人の身元などを調査しており、半数が米国人という。ロシア側の交流サイト(SNS)で遺体の画像が遺族の住所と共に共有され、遺族が苦しむこともあるという。
一方、ウクライナ北東部スムイでは29日夜から30日未明、イラン製無人機「シャヘド」による集合住宅への攻撃があり、検察当局によると9人が死亡、14人が負傷した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は30日、救助隊が負傷者らを搬送する動画をSNSに投稿し「非道なロシアによる犯罪だ」と訴えた。
https://www.msn.com/ja-jp/news/world/

❺日本再軍備警戒、撤回せず 米国家情報長官候補(2025年1月31日)
【ワシントン共同】米国家情報長官候補のトゥルシ・ギャバード氏は30日の上院情報特別委員会の公聴会で、過去に日本の再軍備に警戒感を示したことについて「日本が自衛からより攻撃的な姿勢へと転換すれば緊張の高まりにつながりかねない」と指摘したものだと釈明した。撤回はしなかった。
ギャバード氏は真珠湾攻撃から82年の2023年12月、「日本の太平洋侵略を思い出せば、現在の日本の再軍備は本当に良いのか」と交流サイト(SNS)に投稿した。
公聴会で議員に真意を問われ「日本は米国の強力な同盟国だ。私もハワイ州の州兵として日本で自衛隊と訓練したことがある」と述べた。
https://www.msn.com/ja-jp/news/world/

❻プーチンは「非合法」と指摘するが…とっくに任期を過ぎているゼレンスキーがまだ大統領なのはなぜ?(2025年1月29日)
ウクライナへの軍事侵攻をめぐり、プーチン大統領は1月28日、ロシア側も停戦の交渉担当者を任命する考えがあることを示した。ただし、ゼレンスキー大統領は本来の任期を過ぎたまま政権についているため、交渉する権限がないと指摘している。
「交渉なら誰とでもできる」とプーチンは語る。「だが(ゼレンスキーは大統領として)非合法であるため、署名する権利がない。もし彼が交渉に参加したいのであれば、担当する人物をこちらも派遣しよう。だが問題は、最終的に署名できるかだ」
一方でゼレンスキーは、次のように反論している。
「プーチン大統領は今日、交渉を恐れ、強い指導者を恐れ、戦争を長引かせるためにあらゆる手段を講じていることを、改めて証明した。彼が取るあらゆる手段、あらゆる冷笑的な策略は、この戦争を終わらせないことを目的としている」
ウクライナメディア「キーウ・インディペンデント」によれば、2022年2月24日、ロシアによる侵攻が始まった後にウクライナで可決された戒厳令により、大統領選挙や議会選挙、地方選挙は禁止されている。政府は定期的な投票でこれを延長しているが、戒厳令が敷かれていなければ、次期大統領選挙は2024年3月31日に実施され、ゼレンスキーの任期は2024年5月20日に終了していたはずだった。
https://courrier.jp/news/archives/390026

2025年2月2日 ウクライナ情報pdf → こちら


 

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安斎育郎 安斎育郎

1940年、東京生まれ。1944~49年、福島県で疎開生活。東大工学部原子力工学科第1期生。工学博士。東京大学医学部助手、東京医科大学客員助教授を経て、1986年、立命館大学経済学部教授、88年国際関係学部教授。1995年、同大学国際平和ミュージアム館長。2008年より、立命館大学国際平和ミュージアム・終身名誉館長。現在、立命館大学名誉教授。専門は放射線防護学、平和学。2011年、定年とともに、「安斎科学・平和事務所」(Anzai Science & Peace Office, ASAP)を立ち上げ、以来、2022年4月までに福島原発事故について99回の調査・相談・学習活動。International Network of Museums for Peace(平和のための博物館国相ネットワーク)のジェネラル・コ^ディ ネータを務めた後、現在は、名誉ジェネラル・コーディネータ。日本の「平和のための博物館市民ネットワーク」代表。日本平和学会・理事。ノーモアヒロシマ・ナガサキ記憶遺産を継承する会・副代表。2021年3月11日、福島県双葉郡浪江町の古刹・宝鏡寺境内に第30世住職・早川篤雄氏と連名で「原発悔恨・伝言の碑」を建立するとともに、隣接して、平和博物館「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマ伝言館」を開設。マジックを趣味とし、東大時代は奇術愛好会第3代会長。「国境なき手品師団」(Magicians without Borders)名誉会員。Japan Skeptics(超自然現象を科学的・批判的に究明する会)会長を務め、現在名誉会員。NHK『だます心だまされる心」(全8回)、『日曜美術館』(だまし絵)、日本テレビ『世界一受けたい授業』などに出演。2003年、ベトナム政府より「文化情報事業功労者記章」受章。2011年、「第22回久保医療文化賞」、韓国ノグンリ国際平和財団「第4回人権賞」、2013年、日本平和学会「第4回平和賞」、2021年、ウィーン・ユネスコ・クラブ「地球市民賞」などを受賞。著書は『人はなぜ騙されるのか』(朝日新聞)、『だます心だまされる心』(岩波書店)、『からだのなかの放射能』(合同出版)、『語りつごうヒロシマ・ナガサキ』(新日本出版、全5巻)など100数十点あるが、最近著に『核なき時代を生きる君たちへ━核不拡散条約50年と核兵器禁止条約』(2021年3月1日)、『私の反原発人生と「福島プロジェクト」の足跡』(2021年3月11日)、『戦争と科学者─知的探求心と非人道性の葛藤』(2022年4月1日、いずれも、かもがわ出版)など。

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