
☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年2月5日):米国はガザの飢餓について疑念を煽っている
国際※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。
飢餓に苦しむパレスチナ人が、2025年1月1日、ハーン・ユニスで慈善団体から配給される食事を受け取るための列に並んでいる。(写真:アブドラ・アブ・アル・カイル/APA Images)
12月23日、米国国際開発庁(USAID)が資金援助しているプロジェクト、飢饉早期警報システム・ネットワーク(the Famine Early Warning Systems Network _FEWSN)は、「北部ガザで展開され続けている飢饉シナリオ」を警告する報告書を発表した。
FEWSネットは、援助の不足と報告されている被災者の数から、「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)5(飢饉の食料消費量と急性栄養失調)の閾値を超えた可能性が高い」と結論づけた。同団体は、イスラエルの政策に変更がなければ、「2025年1月から3月の間に、非外傷死亡率が飢饉(IPC分類5)の閾値を超え、1日あたり少なくとも2〜15人が死亡する」と予測している。飢饉の閾値は、人口1万人当たり1日2人以上の死者である。
FEWSネットはイスラエルの攻撃が始まって以来、ガザの人道状況を監視している。
誤った議論
報告書が発表された翌日、イスラエル駐在のジャック・リュー(Jack Lew)米国大使はツイッターでこの報告書を公然と非難した。同氏は、FEWSネットの報告書は「不正確なデータに依拠している」とし、「このような報告書を発表するのは無責任だ」と主張した。
彼の反論の根拠は、現在ガザ北部にいる民間人の数だった。FEWSネットの報告書には、11月の評価で75,000人という数字が含まれていた。リュー大使は、COGAT*の5,000〜9,000人とUNRWA(国連難民救済事業機関)の7,000〜15,000人を合わせた、より最近の数字を引用した。リュー大使は、「ガザの民間人の数は、この報告書の根拠となっている65,000-75,000人ではなく、7,000-15,000人の範囲にあることが明らかになった」と書いている。リュー大使にとって、報告書に11月の数字が使われていることは、ガザ北部の現在の飢饉に関する報告書の結論を覆すものである。
COGAT*・・・領土内政府活動調整官。イスラエル国防省の部署で、ヨルダン川西岸地区の文民政策を監督し、イスラエルとガザ地区の間の後方調整を促進する任務を負っている。イスラエル政府や国防当局と協力して活動している。COGATはイスラエル国防相の権限の下で活動しており、イスラエル国防軍の参謀の一部である少将によって率いられている。現在、ガッサン・アリアン少将がこの地位にある。(ウィキペディア)
しかし、この不満は、わずか3ページの報告書を実際に読んでいない人にしか響かないだろう。報告書はより高い、より以前の数字を引用しているが、これが「この報告書の根拠」であるというのは全くの誤りである。FEWSネットの後の文章はOCHA(国連人道問題調整事務所)の11月の数字を引用し、報告書はUNRWAの12月の少ない数字を引用している:
より最近の衛星画像は、12月初旬に数千人が避難したことを示しており、残りの人口の推定規模を更新する努力が行なわれている。国連パレスチナ難民救済事業機関 (UNRWA) が12月22日に発表した最新情報によると、難民の数は1万人から1万5000人程度にとどまる可能性がある。
この引用では明らかにより少ない数を取り入れている。
1日の推定死亡者数の範囲(飢饉の粗死亡率の閾値である2人/10,000人/日を適用した2~15人/日)は、飢饉(IPC分類5)に分類される可能性のある最低基準人口を下限(10,000人)、最大基準人口を上限(75,000人)としている。
FEWSネット報告書は、UNRWAの数字が曖昧であることを認めている:「国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の更新情報の文言からすると、国連が北ガザの総人口を1万~1万5千人と示唆しているのか、それとも1万~1万5千人が一部の地域にとどまっているのかは不明である。
FEWSネットの報告書は、データ収集の限界についても明確に書いている:「飢饉(IPC分類5)の基準が満たされているかどうかを確定的に確認するために必要なデータ収集が、ますます実行不可能な状況になっている中、飢饉(IPC分類5)の可能性の分析は、予測、推論、経験的証拠、論理、専門家の判断に頼らざるを得ない。
ざっと読んだだけでも、「不正確で時代遅れの」数字が「この報告書の根拠」だというリュー大使の主張は完全に覆される。
歪曲された現実
国務省の攻撃には根拠がないにもかかわらず、FEWSネットは圧力に屈した。ニューヨーク・タイムズ紙は、FEWSネットが更新された数字に基づいて予測を修正する予定であると報じた。タイムズ紙はまた、FEWSネットがその評価を支持していると報じたが、その報告書はウェブサイトから削除されている(ウェイバックマシン経由ではまだアクセス可能)。実際、ガザに関する古い報告はまだ入手可能だが、FEWSネットの対話型ダッシュボードには、ガザに関する情報はまったく表示されていない。
1月6日現在、FEWSネット・インタラクティブのダッシュボードには、ガザ地区に関するレポートがウェブサイトに掲載されているにもかかわらず、関心のある地域として強調表示されていない。
援助・擁護団体は、米国の攻撃とFEWSネットの撤回に対して、迅速な非難で対応した。米国イスラム関係評議会(CAIR)は、報告書の削除を非難する声明を発表した:
ガザ北部の飢餓に関する報告書を拒否して、ガザが民族浄化に成功しているという事実を表向き自慢しているのは、バイデン政権高官がガザにおけるイスラエルの明確で公然の虐殺キャンペーンを支持し、それを可能にし、許している最新の例にすぎない。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのケン・ロス(Ken Roth)はこの論争を非難した。
「食糧を切望している人々の数をめぐるこの些細な言い争いは、イスラエル政府が事実上すべての食糧の搬入を妨げているという事実から政治的に目をそらしているように思える」。
リュー大使は報告書を即座に非難することで、メディア報道の焦点を報告書の結論から紛争に関する新たな話に移した。視聴者にとって、報告書の結論は後回しにされ、最も重要なストーリーはこの屁理屈のような議論になった。FEWSネットが報告書を削除したことは、この間違った方向に拍車をかけた。
クリスマスの日、ニューヨーク・タイムズ紙はこの騒動を詳述した記事を掲載し、リュー大使の不満を強調し、この話を数の論争として作り上げた。同紙は、FEWSネットはUNRWAのより最近の数字を引用しているという事実に言及していない。この報告書を読んでいないようだ。
( NYTの記事はこちら)
ガザ北部の飢饉警報が米国の非難と疑問を招く
この紛争は、ガザでのデータ収集の困難さを浮き彫りにしており、戦争が始まって以来、人道支援活動を妨げてきた。
タイムズ紙は、「この論争は、戦争が始まって以来、人道的努力を妨げてきたガザでのデータ収集の難しさを浮き彫りにしている」と書いた。タイムズ紙は、リュー大使の反論を構成する事実を調査・評価しようとはしなかった。その代わりに、イスラエルの弁明を無批判に掲載した。「イスラエルは、ガザへの物資供給を促進するために懸命に働いているが、略奪や無法が蔓延しているため、援助団体が援助を届けられないことがしばしばあると同国は述べている」。
タイムズ紙は、イスラエルが公式の人口削減政策の一環として意図的に援助を制限していることを示す膨大な証拠に言及しようとはしなかった。
破壊の意図
イスラエルをジェノサイドの罪に問う場合の中心的な柱のひとつは、飢餓と堕落を意図的に利用した戦術である。アムネスティは、「ガザのパレスチナ人に、肉体的破壊をもたらすような生活条件を意図的に与える」ことを目的としたイスラエルの行動を意図的と定義している。とりわけ、イスラエルが用いた主な方法は、「必要不可欠なサービス、人道支援、その他の救命物資の提供の拒否と妨害」であった。
FEWSネットの報告書の前日に発表された報告書の中で、オックスファム*は、10月8日から12月16日の間に、国連がガザ北部への137回の援助活動を試みたが、その90%以上がイスラエルによって拒否された、と警鐘を鳴らしている。正式にガザに入ることを許可された34台の援助トラックのうち、イスラエルの恣意的な遅延と制限の試練をくぐり抜け、実際に食糧や水を届けることができたのは12台だけである。
オックスファム*・・・(OXFAM)20の組織から編成される、貧困と不正を根絶するための持続的な支援・活動を90カ国以上で展開している団体。(ウィキペディア)
FEWSネットの主な後援者であるUSAIDは、過去1年半にわたるジェノサイドの、ガザでの状況に関する独自の評価を発表した。バイデン政権下で「人道支援のスーパースター」と呼ばれた米国際開発庁のサマンサ・パワー(Samantha Power)長官は、イスラエルが援助物資のガザ地区への搬入を妨げている主要な要因であることを認めた。この春、USAIDは、イスラエルがガザへの援助を意図的に妨害していると評価した。これは、米国のイスラエルへの軍事援助を米国および国際法の下で違法とする多くのイスラエルの行動の一つである。
ジャーナリストのスティーブン・セムラー(Stephen Semler)が指摘するように、イスラエルがガザへの援助を遮断するという自らの政策を確認する方法は、イスラエル自ら公表している数字を含め、数多くある。
イスラエルの飢餓政策は、イスラエル国内でもアメリカ国内でも公然と認められている。少なくとも10月以降、この政策は、ガザ北部を掃討するためのいわゆる「将軍の計画」によって具体化されてきた。将軍の計画とは、イスラエルのタカ派将軍ギオラ・アイランド(Giora Eiland)の文書につけられた名前で、北部の住民を強制的に追放し、その地域を封鎖して、残った者を軍事目標として扱うようイスラエル国防軍に促すものだ。
事実上、この計画は、IDF(イスラエル国防軍)の違法な命令に従うことができない、あるいは従う気がない多くの人々に対する暴力的な民族浄化作戦の基礎となっている。イスラエルの戦争遂行の一環としてガザでの伝染病の流行を許可または奨励するなどの過激な措置を支持してきたアイランド将軍は、イスラエルの報道機関で自分の計画を擁護した。
イスラエルでは、この計画はガザ北部の計画として公然と議論されている。イスラエルは、これは彼らの計画ではないと非公式に米国の担当者に保証したが、イスラエルはその計画を公に否定しようとはしなかった。
この計画の全体は、FEWSネットが報告した飢饉の状況によって進められている。
ガザ北部の人道的報告に関するこのインチキ論争は、こうした事実を曖昧にし、イスラエルによるガザの人々への攻撃継続に道を開くためのものだ。アムネスティ、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、そして多くの報告書が裏付けているように、イスラエルはパレスチナ人に対して大量虐殺行為を行なうという明確な意思を示している。アメリカの政府高官とメディアは、この犯罪を隠蔽するために手を貸してきた。
※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS(2025年2月5日)「米国はガザの飢餓について疑念を煽っている」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-2940.html
からの転載であることをお断りします。
また英文原稿はこちらです⇒The US is Manufacturing Doubt about Gaza’s Famine
出典:Internationalist 360° 2025年1月7日
筆者:ブライス・グリーン(Bryce Greene)
https://libya360.wordpress.com/2025/01/07/the-us-is-manufacturing-doubt-about-gazas-famine/