【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.02.08XML:トランプは実現不可能な計画を意図的に打ち出しているのか?

櫻井春彦

 ドナルド・トランプ米大統領はウクライナでもパレスチナでも実現が困難な計画を口にしている。キエフ政権の敗北が決定的なウクライナでは現実とかけ離れた前提で停戦を呼びかけ、パレスチナでも非現実的な話をしているのだ。

 ウクライナの戦闘をロシア政府が話し合いで凍結するとは思えず、また​約200万人と言われるパレスチナ人をヨルダンやエジプトへ移住させた後、ガザをアメリカが所有するという案​をイスラム世界が受け入れるとも思えない。実際、​エジプト、ヨルダン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、パレスチナ自治政府、アラブ連盟はガザとヨルダン川西岸からパレスチナ人を移住させるいかなる計画も拒否するとする共同声明を発表​している。

 大統領へ正確な情報が届いていないように見えるのだが、​元CIA分析官のラリー・ジョンソン​のように、そうではないと推測する人もいる。実現不可能な計画は計画でなく、カモフラージュの御伽噺だということなのだろう。

 ホワイトハウスのカロリン・リービット報道官はガザの状況を破壊現場と表現、そうした悲惨な場所で暮らすべきだとするのは、邪悪だとしている。ガザがイスラエルによる無差別爆撃で破壊され、住民が虐殺されたことは事実だ。

 しかし、そうした悲惨な状況を作り出したのはイスラエルであり、そのイスラエルをアメリカ、イギリス、ドイツをはじめとする西側の「民主主義国」は支援してきた。その段階でトランプ大統領はパレスチナ人の「移住」を言い始めたわけで、民族浄化だと非難されるのは当然だが、移住先になるであろうアラブ諸国の反応を見れば、その計画を実現することが困難だということはわかる。

 そうした実現困難な計画を打ち出したトランプ大統領は愚かだと考えることもできるが、実現する気がないと解釈することもできるとジョンソンは考えているのだろう。移住は戦闘が終わった後にのみ可能なのだが、ハマスは健在であり、戦闘が終わる見通しは立っていない。またアメリカは移住の費用を負担せず、地上部隊も派遣しない。つまり、ガザの人びとが近いうちに故郷から追い出される可能性は低いとジョンソンは判断している。

 その一方、アメリカでは支配層の内部で抗争が起こっていることは間違いない。体制を変える「革命」ではなく、権力バランスを変えるための「抗争」だ。ジェラルド・フォード政権(1974年8月から77年1月)に台頭したネオコンは1980年代に中東戦略をめぐってジョージ・H・W・ブッシュたち非ネオコン派と対立、2001年9月11日の後に主導権を握った。

 ネオコンは1980年代からイラクのサダム・フセイン体制を倒して親イスラエル政権を樹立、シリアとイランを分断してそれぞれを倒そうとしていたのだが、ブッシュたちはフセインをペルシャ湾岸諸国の防波堤だと認識、対立していたのだ。

 非ネオコン派に属していたと見られるヘンリー・キッシンジャーはネオコンのNATO拡大政策を危険だと非難、ロシアとの関係を必死に悪化させていたバラク・オバマに続き、2015年にヒラリー・クリントンが次期大統領に内定すると、モスクワへ乗り込んで米露の関係改善に乗り出している。その後に台頭してきたのがトランプだ。選挙戦でトランプはロシアとの関係修復を打ち出し、ヒラリーを担ぐ勢力から激しく攻撃された。その勢力には民主党だけでなく、CIAやFBIも含まれていた。結局トランプの第1期目はネオコンに押し切られ、バイデンはロシアとの戦争へ突き進んだ。

 そしてトランプの第2期目。ロシアとの戦争を回避したいとは願っているだろうが、戦争を望んでいるネオコンが根絶されたわけではない。またトランプの後ろ盾の勢力も富を独占し、貧富の差を拡大させる政策を推進しようとしているだろう。ネオコン前のアメリカも傲慢な帝国主義国だった。トランプを英雄視する人びとを見ていると、かつての左翼党派を思い出す。妄想の中で生きているのだ。

**********************************************

【​Sakurai’s Substack​】

**********************************************
【​Sakurai’s Substack​】
※なお、本稿は櫻井ジャーナルhttps://plaza.rakuten.co.jp/condor33/
「トランプは実現不可能な計画を意図的に打ち出しているのか?](2025.02.08XML)からの転載であることをお断りします。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202502080000/
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

★ISF(独立言論フォーラム)「市民記者」募集のお知らせ:来たれ!真実探究&戦争廃絶の志のある仲間たち

※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202410130000/

ISF会員登録のご案内

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」

櫻井春彦 櫻井春彦

櫻井ジャーナル

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ