【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.02.10XML:米政権の対外援助凍結によってCIAの情報操作が混乱

櫻井春彦

 アメリカのドナルド・トランプ大統領は対外援助のほぼ全面的な凍結を命令、DOGE(政府効率化省)を率いるイーロン・マスクはUSAID(米国国際開発庁)を閉鎖する意向だと表明した。その影響が「独立」を掲げるメディア、つまりアメリカ支配層の意向に沿う情報を流してきたメディアに及んでいるようだ。

 そうした「独立系メディア」を支援してきた「国境なき記者団」によると、援助が凍結されたことで今年の「独立系メディアと情報の自由な流れ」に充てられる予定だった2億6800万ドルが凍結されたという。

 そうした「独立系メディア」で「濾過」した偽情報を西側の有力メディアは事実として垂れ流してきた。これは確信犯だろう。USAIDを経由して資金はアメリカのメディアへも流れたとされている。そのひとつがポリティコ。このメディアがUSAIDから受け取った金額は820万ドルに達すると指摘されている。ちなみに、ポリティコを「左翼メディア」だとする人もいるが、それは勿論、間違いだ。あえて言うなら体制派。

 USAIDは1961年11月、ジョン・F・ケネディ大統領の時代に民間の対外援助と開発援助の管理を担当するという名目で設立されたが、ケネディ大統領が暗殺されて以降、CIAの工作資金を流すためのパイプ役になった。

 1983年11月には同じ目的でNED(ナショナル民主主義基金)が創設され、そこからNDI(国家民主国際問題研究所)、IRI(国際共和研究所)、CIPE(国際私企業センター)、国際労働連帯アメリカン・センターなどへ資金は流れている。そうした資金の一部が情報操作のため、メディアの手に渡ってきたわけだ。

 支配層は大衆の心理や思考を操作するため、メディアをプロパガンダ機関として利用してきた。1883年4月12日、ニューヨーク・タイムズ紙の主任論説委員を務めていたジョン・スウィントンはニューヨークのトワイライト・クラブで次のように語っている:「アメリカには、田舎町にでもない限り、独立した報道機関など存在しない。君たちはみな奴隷だ。君たちはそれを知っているし、私も知っている。君たちの中で正直な意見を表明する勇気のある人はひとりもいない。もし表明したとしても、それが印刷物に載ることはないと前もって知っているはずだ。」

 アメリカでは第2次世界大戦後、組織的な情報操作が始まる。「モッキンバード」だ。これは1948年にスタートしたCIAの極秘プロジェクトで、責任者はコード・メイヤー。実際の工作で中心的な役割を果たしたのはアレン・ダレス、ダレスの側近だったフランク・ウィズナーとリチャード・ヘルムズ、そしてワシントン・ポスト紙の社主だったフィリップ・グラハムだという。(Deborah Davis, “Katharine The Great”, Sheridan Square Press, 1979)

 グラハムの死後、妻のキャサリーンが社主に就任、その下でワシントン・ポスト紙は「ウォーターゲート事件」を暴くのだが、その取材で中心的な役割を果たしたカール・バーンスタインは1977年に同紙を辞めて「CIAとメディア」というタイトルの記事をローリング・ストーン誌に書いている。

 その記事によると、1977年までの20年間にCIAの任務を秘密裏に実行していたジャーナリストは400名以上に達し、1950年から66年にかけてニューヨーク・タイムズ紙は少なくとも10名の工作員に架空の肩書きを提供したという。ニューズウィーク誌の編集者だったマルコム・ミュアは責任ある立場にある全記者と緊密な関係をCIAは維持していたと思うと述べたとしている。(Carl Bernstein, “CIA and the Media”, Rolling Stone, October 20, 1977)

 また​フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング(FAZ)紙の編集者だったウド・ウルフコテは2014年2月、ドイツにおけるCIAとメディアとの関係をテーマにした本を出版、その中で多くの国のジャーナリストがCIAに買収されていて、そうした工作が危険な状況を作り出していると告発している​。

 ウルフコテによると、CIAに買収されたジャーナリストは人びとがロシアに敵意を持つように誘導するプロパガンダを展開し、ロシアとの戦争へと導いて引き返すことのできないところまで来ていると彼は警鐘を鳴らしていた。実際、オバマ政権やバイデン政権はロシアを挑発、核戦争の危機はかつてないほど高まっている。

 最近ではインターネット企業にもCIAの「元職員」が入り込み、どのコンテンツが見られ、何が抑制されるかを決定するアルゴリズムを事実上制御しているという。シリコンバレーの巨大企業はアメリカの情報機関と一体化しつつある。そうした流れにTikTokも飲み込まれたと伝えられている。

 2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃された後に実権を握ったネオコンは03年3月にイラクをアメリカ主導軍で先制攻撃、サダム・フセイン体制を倒すが、その際、「大量破壊兵器」という嘘をメディアに宣伝させた。

 アメリカを含む国々は2011年3月、サラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団を主力とする武装集団を編成してシリアを攻撃させたが、その時には有力メディアの「報道」から事実を見つけ出すことが難しい状況だった。

 ​2012年6月、シリアへ入って戦乱の実態を調査したメルキト・ギリシャ典礼カトリック教会のフィリップ・トゥルニョル・クロス大主教はローマ教皇庁のフィデス通信に対し、「誰もが真実を語ればシリアの平和は守られる。紛争の1年後、現地の現実は、西側メディアの偽情報が押し付けるイメージとはかけ離れている」と報告している​。それ以降、現在に至るまで西側の有力メディアは真実を語ろうとしていない。

**********************************************

【​Sakurai’s Substack​】

**********************************************
【​Sakurai’s Substack​】
※なお、本稿は櫻井ジャーナルhttps://plaza.rakuten.co.jp/condor33/
「米政権の対外援助凍結によってCIAの情報操作が混乱](2025.02.10XML)からの転載であることをお断りします。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202502100000/
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

★ISF(独立言論フォーラム)「市民記者」募集のお知らせ:来たれ!真実探究&戦争廃絶の志のある仲間たち

※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202410130000/

ISF会員登録のご案内

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」

櫻井春彦 櫻井春彦

櫻井ジャーナル

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ