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☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年2月11日):中国の開発したDeepSeekはアメリカの「技術覇権主義(テック・ヘゲモニー)」に対する重要な勝利だ。
国際※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。
以下に、最近リリースされた DeepSeek R1 に関する 3つの記事を再掲する。DeepSeek R1は、米国の大手競合他社と同等かそれ以上の性能を発揮する人工知能 (AI) モデルだ。コストはわずかで、比較的低品質の半導体を使用している。
最初の記事は、マルクス経済学者マイケル・ロバーツ(Michael Roberts)によるもので、DeepSeek R1 は完全にオープンソースであり、その背後にあるコードは世界中のプログラマーに完全に公開されており、自由に使用および変更できると指摘している。「これは、OpenAI や Google の Gemini が利益を最大化するために「ブラックボックス」に閉じ込めている「独自の」秘密に対する大きな打撃だ。つまり、ブランド医薬品とジェネリック医薬品の関係に似ている」。確かに、DeepSeek の全体的な方向性は、いかなる犠牲を払ってでも利益を追求することではなく、科学的研究と社会財の生産に向けられている。
マイケルによると、DeepSeekは米国のテクノロジー株に前例のない損失をもたらしたと言う。「チップメーカーのNvidia社と、いわゆる「ハイパースケーラー[訳注:100万台以上の巨大なサーバーリソースを保有する企業]」であるAlphabet、Amazon、Microsoft、Meta Platformsは合わせて、1日で株式市場価値の約7500億ドルを失った」。つまり、巨大テクノロジー企業がコンピューター計算能力の拡張に数十億ドルを費やすことは本質的に不必要であることが明らかになったからだ。これらの企業はすべての卵をハードウェアのバスケットに入れているが、中国の小規模な研究者チームは、数学的/アルゴリズム的要素が少なくとも同じくらい重要であることを示した。
一方、DeepSeek 現象は、米国の「チップ戦争」が期待どおりの効果を生んでいないことを強力に実証している:
トランプに媚びへつらうハイテク・オリガルヒたちを激怒させているのは、米国による中国企業への制裁や半導体輸出禁止措置が、米国との技術・半導体戦争における中国のさらなる躍進を阻止していないことだ。中国は、最も強力な半導体とそれを作るのに必要な先進的なツールの両方を中国から奪うことを目的としたバイデン政権による輸出規制にもかかわらず、AI分野で技術的飛躍を遂げている。
マイケルはさらに、この状況の政治経済を指摘し、「中国による国家主導の技術と技術スキルへの計画的な投資は、大物実業家が率いる巨大な民間テック企業に頼るよりもはるかにうまくいく」と指摘した。彼は億万長者のテクノロジー投資家レイ・ダリオ(Ray Dalio)の言葉を引用している:「私たちのシステムでは、概して、より産業複合型の政策に移行しつつあり、そこでは政府が命令し、政府の影響を受ける活動が行なわれています。なぜなら、それは非常に重要だからです・・・資本主義だけ、つまり利益の動機だけでは、この戦いに勝つことはできません」。
2 番目の記事は、ゲアリー・ウィルソン(Gary Wilson)の「Struggle La Lucha」で、「チップ戦争」の地政学とDeepSeek の成功の重要性について概説している。
DeepSeekはOpenAIの最良版よりも性能が優れており、使用するデータもコンピューター計算能力も少なく、コストもわずかだ。さらに注目すべきは、DeepSeekがオープンソースであることだ。つまり、誰でもそれを利用し、修正し、構築することができる。これは、OpenAIの閉鎖的で利益主導のアプローチとは全く対照的だ。
ゲアリー・ウィルソンの記事は、DeepSeekのビジネスモデル、そして中国のAIに対する全体的なアプローチを、米国の大手テクノロジー企業と比較し続けている:
企業の支配者たちは、AI に労働者を監視し、賃金を下げ、労働組合を潰し、あるいは仕事全体を機械にシフトさせ、人員削減や解雇につなげたいと考えている。世界経済フォーラムは、2030 年までに AI が何百万人もの「役に立たない」人間の労働者に取って代わると予測したことで有名だ。独占支配を求める米国のテクノロジー企業とは異なり、DeepSeek は AI を電気やインターネットのように扱い、誰もが利用できる基本的なツールとしている・・・公共事業としての AI は、人間の労働を補完し、安全性を高め、重労働を減らし、より高給の仕事を排除するのではなく創出するために使用できる。
これは、社会におけるテクノロジーの役割という、より広範な問題に触れている。資本主義のもとでは、AIは利潤を最大化するために使われ、それはしばしば人間の労働力をアルゴリズムに置き換えることを意味し、それによって失業を深刻化させ、最終的には利潤率を低下させることによってシステム全体の長期的な存続可能性に影響を与える。一方、労働者階級のリーダーシップのもとでは、テクノロジーはすべての人の生活の質を向上させるために活用することが可能だ。
1月28日付のモーニングスター紙の社説は、米国による対中国技術制裁の逆効果を繰り返している。「中国へのマイクロチップ輸出に制裁を加えることで、中国国内の開発者はより効率的にチップを使うことを余儀なくされた」。
さらに、DeepSeekは中国が技術大国として台頭していることを示している。「中国の経済発展が、他国で開発された技術革新に大きく依存していた時代は終わった。そのため、「今週の出来事は、アメリカの覇権が衰退し、世界の多極化が進展する上で画期的な出来事である。いろいろな矛盾や争いはありながら、それはひたすら歓迎すべきことだ」。
– Friends of Socialist China
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DeepSeekへ向かうAI
ほとんどの読者はもうこのニュースをご存知だろう。中国のAI企業であるDeepSeek社は、R1と呼ばれるAIモデルを発表した。このAIモデルは、OpenAIやアントロピック、メタなどの企業が提供する最高のモデルに匹敵する能力を持ちながら、最先端のGPUチップを使用せず、根本的に低コストで学習させたものである。DeepSeek社はまた、他の人が自分のコンピューターにおいて無償で実行できるよう、モデルの詳細を公開した。
DeepSeekは、米国のハイテク企業 7 社を水面下で直撃した魚雷だ。DeepSeekは、Nvidia社の最新かつ最高のチップやソフトウェアを使用していない。米国のライバル企業のように AI モデルのトレーニングに多額の費用をかける必要もない。それでいながら、同様に多くの便利なアプリケーションを提供する。
DeepSeekはR1を、米国の制裁により中国への輸出が許可されたNvidia社の古くて遅いチップで構築した。より優れたチップやAIモデルの開発には莫大なコストがかかるため、米国政府と巨大IT企業はAI開発を独占していると考えていた。しかしDeepSeekのR1は、資金の少ない企業が競争力のあるAIモデルをすぐに運用できることを示唆している。R1は少ない予算で、はるかに少ないコンピューター計算能力で使用できる。さらに、R1は「推論」(ユーザーがモデルに質問して答えを得ることを意味するAIの専門用語) においても競合他社と同じくらい優れている。また、あらゆる種類の企業のサーバー上で動作するため、OpenAIのような企業から巨額の「レンタル」をする必要はない。
最も重要なのは、DeepSeekのR1が「オープンソース」であること、つまりコーディングとトレーニング方法が、誰でもコピーして開発できるように公開されていることだ。これは、OpenAIやGoogleのGeminiが利益を最大化するために「ブラックボックス」に閉じ込める「独占的」秘密に対する真の打撃である。これは譬えて言えば、ブランド医薬品とジェネリック医薬品のようなものだ。
米国のAI企業とその投資家にとっての大きな問題は、十分な成果を達成するために、高価なチップを複数搭載する巨大なデータセンターを建設する必要がない可能性があることだ。これまで、米国企業は巨額の支出計画を徐々に増やし、そのために巨額の資金を調達しようとしてきた。実際、DeepSeekのR1がニュースになったまさに月曜日(1月27日)に、Metaはさらに650億ドルの投資を発表し、そのわずか数日前には、トランプ大統領がいわゆるStargateプロジェクトの一環としてハイテク大手に5000億ドルの政府補助金を出すと発表した。その一方では、皮肉なことに、Metaの最高経営責任者であるマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)は、「AIの世界標準は中国ではなく米国に設定してほしい」と述べた。やれやれ。
DeepSeek社がAIアプリを10分の1のコストで提供できるのであれば、この支出は不要であり、さらに言えば、アメリカ企業の収益性に打撃を与えるだろうと投資家は懸念している。チップメーカーのNvidia(エヌビディア)、いわゆる「ハイパースケーラー」であるAlphabet、Amazon、Microsoft、Meta PlatformsといったAIに関連する5大テクノロジー銘柄は、1日で株式市場価値の約7,500億ドルを失った。
そしてDeepSeekは、マグニフィセント・セブン(*)による巨大な「規模拡大」の恩恵を期待するデータセンター企業や水道事業者、電力事業者の利益を実際脅かしている。米国の株式市場の好況は「マグニフィセント・セブン」に集中している。
*巨大ハイテク企業であるTesla,Microsoft,Alphabet,Apple,Nvidia,Meta,Amazonを指す。同名のハリウッド映画もある
では、DeepSeekは米国のハイテク株の巨大な株式市場バブルをパンクさせたのだろうか? 億万長者の投資家レイ・ダリオはそう考えている。同氏はフィナンシャル・タイムズ紙に「株価は高水準に達しているが、同時に金利リスクもある。この組み合わせがバブルを破裂させる可能性がある・・・現在の景気循環の状況は、1998年か1999年の間にあった状況と非常に似ている」と語った。「言い換えれば、確実に世界を変え、成功するであろう大きな新技術がある。しかし、一部の人々はそれを投資の成功と混同している」。
しかし、少なくとも今のところはそうではないかもしれない。AIチップ企業Nvidiaの株価は今週急落したかもしれないが、同社の「独自」プログラミング言語であるCudaは依然として米国の業界標準だ。同社の株価は17%近く下落したが、それでも9月の(非常に高い)水準に戻っただけだ。
多くは、インフレ率の低下が反転したため米連邦準備制度理事会が金利を高く維持するかどうか、また、インフレを加速させるだけの関税や移民の脅威をトランプ大統領が本格的に推進するかどうかなど、他の要因に左右されるだろう。
トランプに媚びへつらうハイテク・オリガルヒたちを激怒させているのは、米国による中国企業への制裁や半導体輸出禁止措置が、米国との技術・半導体戦争における中国のさらなる躍進を阻んでいないことだ。最も強力な半導体とそれを作るのに必要な先進的なツールの両方を中国から奪うことを目的としたバイデン政権による輸出規制にもかかわらず、中国はAI分野で技術的飛躍を遂げている。
中国のハイテク大手ファーウェイ社は、中国で「推論」チップの分野でNvidia社の最大のライバルとして浮上した。同社はDeepSeek社などのAI企業と協力し、Nvidia社のGPUでトレーニングしたモデルを自社のアセンドチップ[訳注:ファーウェイ社が2018年より展開している高性能チップ(昇騰)シリーズ]で推論を実行できるようにしている。「ファーウェイ社は良くなってきている。政府が大手ハイテク企業に同社のチップを購入し推論に使うよう指示しているので、彼らにはチャンスがある」と北京のある半導体投資家は語った。
これは、中国による国家主導の科学技術とその活用技術への計画的な投資が、大物実業家たちが率いる巨大な民間テック企業に頼るよりもはるかに効果的であることを示している。レイ・ダロ(Ray Dallo)が言っている:「私たちのシステムでは、概して、より産業複合型の政策に移行しつつあり、そこでは政府が命令し、政府の影響を受ける活動が行なわれています。なぜなら、それが要だからです・・・資本主義だけ、つまり利益の動機だけでは、この戦いに勝つことはできません」。
とはいえ、AIのタイタン(巨人)たちはまだ沈没した「タイタニック号」のようにはなっていない。彼らは、データセンターとより高度なチップにさらに数十億ドルをつぎ込むことで、「規模拡大」を進めている。これではコンピューターの使う電気を指数関数的に食い尽くしてしまう。
そしてもちろん、主流派の経済学者が「外部性(*)」と遠回しに呼びたがるものについては、まったく考慮されていない。ゴールドマン・サックスのレポートによると、ChatGPTのクエリはGoogleの検索クエリの約10倍の電力を必要とする。研究者のジェシー・ダッジは、AIチャットボットが使用するエネルギー量について、ざっと計算してみた。「ChatGPTへの1回のクエリ(質問)は、電球1個を約20分間点灯させるのと同じくらいの電力を使用します」と彼は言う。「何百万人もの人々が毎日このようなものを使っているのですから、膨大な電力量になることは想像に難くありません。電力消費が増えるということは、エネルギー生産が増えるということであり、特に化石燃料による温室効果ガスの排出が増えることを意味します」。
*ある経済主体の意思決定が他の経済主体の意思決定に影響を及ぼすことをいう。一般に経済学では、ある経済主体の意思決定は他の経済主体の意思決定に影響を及ぼさないと仮定するが、現実には他の経済主体の影響を無視できない場合がある。そこで、そのような場合に対処するために考案された概念が外部性である。
Googleは2030年までに(CO2)排出量を実質ゼロにするという目標を掲げている。同社は2007年以降、排出量に見合ったCO 2オフセット(相殺)を購入しているため、自社の事業はカーボンニュートラル(名目上のCO2排出量ゼロ)だとしている。しかし、2023年にGoogleはサステナビリティ報告書の中で、もはや「事業活動におけるカーボンニュートラルの維持」は目指さないと記した。2030年における(CO2)排出量を実質ゼロの目標は引き続き押し進める、と同社は言っている。が、「Googleの本当の動機は、最高のAIシステムを構築することです」と、ダッジは言う。「そして、彼らはそのために膨大な資源を注ぎ込もうとしています。例えば、AIシステムを訓練する大規模なデータセンターからスーパーコンピューターなどへ、です。それは膨大な電力消費とCO2排出量を必要とするのです」。
そして水の問題もある。米国が干ばつや山火事に見舞われる中、AI企業はチップを守るため、巨大データセンターを「冷却」するために深層水を汲み上げている。それだけでなく、シリコンバレーの企業は、ニーズを満たすために水供給インフラの管理をますます行なっている。例えば、研究によると、Microsoftのデータ施設でChatGPT-3をトレーニングしたマシーンを冷却するために約70万リットルの水が使用された可能性があるという。
AIモデルのトレーニングは、ヨーロッパ1都市の6,000倍のエネルギーを消費する。さらに、リチウムやコバルトなどの鉱物は、自動車分野のバッテリーに幅広く関連しているが、データセンターで使用されるバッテリーにとっても重要だ。抽出プロセスはしばしば大量の水を使用し、汚染につながり、水の安全保障を損なう可能性がある。
以前はOpen AIの非営利のヒーローだったサム・アルトマン(Sam Altman)は、いまやマイクロソフトの利益を最大化しようとしているのだが、こう主張している。まあ確かに、残念ながら短期的には「妥協」が必要だが、それはいわゆるAGI(*)に到達するために必要なことであり、AGIはその後、私たちがこれらすべての問題を解決するのに役立つので、「外部性」の妥協はそれに値すると。
*汎用人工知能 (Artificial general intelligence)とは、人間が実現可能なあらゆる知的作業を理解・学習・実行することができる人工知能である。人工知能の研究においては主要かつ最終的な目標であるとみなされており、未来学やSFにおいて話題に上がることが多い。(ウィキペディア)
AGI? これは何?。AI (Artificial Generalized Intelligence) (AGI) は、AI開発者の究極の目標だ。つまり、AIモデルは人間の知能をはるかに超える「超知能」になるということだ。それが実現すれば、AGIを内包したAIは1人の労働者の仕事をこなすだけでなく、すべての労働者の仕事をこなせるようになるとアルトマンは約束している。「AIは組織の仕事をこなすことができます」。これは、運用、開発、マーケティングのすべてをAIマシーンが引き継ぐことで、企業の労働者を排除(AI企業でさえ?)し、収益性を最大化する究極の方法となるだろう。これは資本の黙示録的な夢である。(労働者にとっては悪夢だ。仕事も収入もないのだから)
だからこそ、アルトマンをはじめとするAI業界の大物たちは、DeepSeekが彼らの現行モデルを打ち負かしたからといって、データセンターの拡張やさらに高度なチップの開発をやめることはないだろう。調査会社ロゼンブラットは、ハイテク大手各社の反応を「一般的には、支出の削減よりも、能力の向上、汎用人工知能への加速が優先されると拙社は予想しています」と言っている。超知能AIの目標を止めるものは何もない。
AGIの達成に向けた競争は、人類そのものに対する脅威だと考える人もいる。カリフォルニア大学バークレー校でコンピューター科学を教えるスチュアート・ラッセル教授は、「競争に参加しているCEOでさえ、誰が勝っても、その過程で人類を絶滅させる可能性が高い。なぜなら、私たちは自分よりも知的なシステムを制御する方法を知らないからです」と述べている。「つまり、AGIレースは崖っぷちに向かうレースなのです」。
そうかもしれない。私は人間の「知性」が機械の「知性」に取って代わる可能性について疑問を禁じ得ない。機械は潜在的で質的な変化を考えることができないのだ。新しい知識は、そのような変化(人間)から生まれるのであって、既存の知識の拡張(機械)から生まれるのではない。人間の知性だけが社会的であり、人類と自然にとってより良い生活につながる変化、特に社会的変化の可能性を見出すことができる。
DeepSeek の登場が示したのは、AI は人類とその社会的ニーズを支援できるレベルまで開発できるということだ。AI は無料かつオープンであり、最小のユーザーや開発者さえも利用できる。営利目的で、または利益を上げるために開発されたものではない。ある評論家は次のように述べている。「洗濯や皿洗いは AI にやってもらい、私は芸術や執筆をしたいのです。AI が芸術や執筆をやり、私が洗濯や皿洗いをする状態を望んでいるわけではありません」。管理者たちがAIを導入しているのは「例えば、創造的な仕事のように、AI を使うべきではないと多くの人が考えるものを犠牲にして、管理上の問題を容易にするためです。AI が機能するには、ボトムアップで導入する必要があります。そうしないと、職場のほとんどの人にとって AI は役に立たなくなります」。
利益を上げるためにAIを開発して人間の雇用や生活を減らすのではなく、共通の所有権と計画のもとでAIを開発すれば、すべての人間の労働時間を減らし、人間を労苦から解放して、人間の知性だけが提供できる創造的な仕事に人間を集中させることができる。「聖杯」はヴィクトリア朝のフィクションであり、後にダン・ブラウン(*)のフィクションにもなったことを忘れてはならない。
*1964年生まれ。アメリカ合衆国の小説家。ニューハンプシャー州出身。アメリカ合衆国ニューハンプシャー州エクセターにあるフィリップス・エクセター・アカデミーとアマースト大学を卒業。母校フィリップス・エクセター・アカデミーの英語教師を勤めながら、作家業を開始する。2003年に発表した第4作の推理小説『ダ・ヴィンチ・コード』は、世界的な大ベストセラーとなった(ウィキペディア)。
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オープンソース対クローズドソース:中国のDeepSeekはどのように米国AIの独占を打ち破ったか
中国のDeepSeek社のAIがテクノロジー界に衝撃を与えた。OpenAIのような米国のハイテク大手が高価なクローズドソースのAIモデルを構築してきたのに対し、DeepSeek社は米国のモデルと同等かそれ以上の性能を持ち、運用コストが97%安く、誰でも自由にダウンロードして使用できるオープンソースのAIを発表したのだ。
米国は中国への経済制裁や半導体技術の対中禁輸でAIを独占しようとしていたが、技術に長けた中国の労働力はこうした障壁を回避するために黙々と働いていた。
トランプ政権がスターゲイトと呼ばれる5000億ドル規模のAIの無駄遣いの構築作業に忙殺されている間に、DeepSeekは技術的な飛躍的進歩を遂げ、高額なスターゲイトの茶番劇全体が富裕層へのもうひとつの景品にすぎないことを暴露した。
DeepSeekはより少ないデータ、より少ないコンピューター計算能力、そしてわずかなコストで、OpenAI の最良版を上回った。さらに注目すべきは、DeepSeekはオープンソースであるため、誰でも使用、変更、構築できるのだ。これは、OpenAI の閉鎖的で利益重視のアプローチとはまったく対照的だ。
企業の支配者たちは、AI に労働者を監視し、賃金を下げ、労働組合を潰し、あるいは仕事全体を機械にシフトさせ、人員削減や解雇につなげたいと考えている。世界経済フォーラムは、2030 年までに AI が何百万人もの「役に立たない」人間の労働者に取って代わると予測したことで有名だ。
独占支配を求める米国のテクノロジー企業とは異なり、DeepSeek社 は AI を電気やインターネットのように、誰もが利用できる基本的なツールとして扱っている。
強力なAIシステムをこれほど低コストで、しかもオープンアクセスで提供できることは、AIは有料で制限され企業によって管理されなければならないという主張を根底から覆すものだ。独占資本主義とは対照的に、このアプローチは技術革新を促進し、社会全般に利益をもたらす代替案を提供する。
公共事業としての AI は、人間の労働を補完し、安全性を高め、重労働を減らし、より高給の仕事を排除するのではなく創出するために使用できる。
中国は単なる製造業を超えて、ファーウェイの通信、BYDの電気自動車、CATLの次世代バッテリー技術、東衛ソーラーの先進的な太陽光発電システムなど、世界市場を支配する技術エコシステムを整然と構築してきた。
わずか 15 年で、世界の技術情勢は一変した。2003 年から 2007 年にかけて、米国は 64 の主要技術のうち 60 でトップだった。2022 年ごろにはこの優位性は逆転し、中国が 52 の技術でトップに立つようになった。
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中国のAIの進歩派米国の覇権を揺るがしている
今週、中国の技術開発が初めて米国株式市場の企業価値を少なくとも1兆ドル吹き飛ばす結果をもたらしたことは、歴史が作られたと言えるかもしれない。
人工知能 (AI) 企業のDeepSeek社は、米国発のAI独占企業と同じ結果を、わずかなコストで提供できることを示したことで、この暴落を引き起こした。
これは少なくとも部分的には、米国政府のオウンゴール(自殺点)の結果である。中国へのマイクロチップ輸出に制裁を課すことで、中国国内の開発者はチップをより効率的に使用せざるを得なくなったからだ。
つまり、OpenAIやMeta、Google、その他の米国企業が開発した製品と同じタスクをこなすのに使用するメモリが少なくて済むということだ。
これは、人工知能開発に数千億ドルを費やすために投資家の支援を求めているこれらの独占企業にとって悪いニュースだ。
導体メーカーのエヌビディア(Nividia)社は株式市場で特に大きな打撃を受けている。DeepSeekの進出により、中国の技術が業界標準になれば、同社製品の必要性が低下するからだ。
しかし、もっと大きな教訓がある。中国の経済発展が、他国で開発された技術革新に大きく依存していた時代は終わったのだ。
DeepSeekの創業者である梁文峰(Liang Wenfen)は次のように説明する:「長年、中国企業は、技術革新は他社が行ない、我々はアプリケーションの収益化に専念、という図式に慣れてきた。」
「この波の中で、私たちの出発点は、すぐに利益を得る機会ではなく、むしろ技術的な最前線に到達し、エコシステム全体の発展を推進することです・・・経済が発展するにつれて、中国はただ乗りするのではなく、徐々に貢献者になるべきだと私たちは信じています」。
これは、1957年にソ連が地球を周回する最初の衛星を打ち上げた「スプートニク・ショック」と比較されている。
しかし、ソ連の科学技術の進歩は人類の宇宙進出において世界をリードする存在となったが、その進歩は経済全体に浸透することはなく、ソ連は最後まで、生産性の決定的な指標のほとんどにおいて先進資本主義諸国に遅れをとり続けた。
今日、米国の覇権に対する挑戦はより重大になっている。人工知能は、宇宙探査よりもさらに大きな影響を人類の生活に与える可能性がある。
そして中国経済は持続的な成長率で力強く前進しており、一人当たりベースでは依然として遅れをとっているものの、国内総生産(GDP)では米国とほぼ肩を並べている。
市場の刺激策を社会主義的な計画や規制と組み合わせることで、国家が独自の条件で開発を管理する能力を備えているため、中国経済の一部が現在達成していることが、数年以内に中国の産業全体の標準になる可能性が高い。
したがって、ドナルド・トランプ大統領がDeepSeekの開発を「警鐘」と呼んだのも不思議ではない。国際政策において、トランプ大統領の政権は大国間の競争によって特徴づけられることになるだろう。
中国はトランプ大統領の最大のターゲットだ。なぜなら、世界で拡大する中国の経済的、政治的影響力は、崩壊しつつある米国主導の世界秩序に対する大きな脅威だからだ。
米国企業はもちろん、DeepSeekのチップ効率の高い手法を自社製品として採用しようとするだろう。規制緩和や市場コントロールが叫ばれているにもかかわらず、国家主導の安全保障上の懸念が、「スプートニク・ショック」をめぐってそうであったように、ワシントンの反応を後押しするだろう。
当然のことながら、AI の制御と開発に関する幅広い懸念、そして何よりも AI が労働に与える影響を管理する必要性は、その成長を誰が主導するかにかかわらず、依然として残る。
しかし、今週の出来事は、アメリカの覇権が衰退し、世界の多極化が進展する上で画期的な出来事であることに何の疑いもない。いろいろな矛盾や争いはありながら、それはひたすら歓迎すべきことだ
※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS(2025年2月11日)「中国の開発したDeepSeekはアメリカの「技術覇権主義(テック・ヘゲモニー)」に対する重要な勝利だ。」
http://tmmethod.blog.fc2.com/
からの転載であることをお断りします。
また英文原稿はこちらです⇒China’s DeepSeek AI:An Important Victory Against US Tech Hegemony
出典:Internationalist 360° 2025年1月30日
https://libya360.wordpress.com/2025/01/30/chinas-deepseek-ai-an-important-victory-against-us-tech-hegemony/