【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.02.14XML:ウクライナ問題でトランプ大統領がロシア側の要求を受け入れ、停戦に向かう動き

櫻井春彦

 ドナルド・トランプ米大統領とウラジミル・プーチン露大統領が2月12日に電話で会談したことが明らかになった。​トランプによると、ウクライナ、中東、エネルギー、人工知能、ドルなどの問題について話し合った​という。

 ウクライナに関しては、NATOに加盟せず、アメリカやNATOではなくヨーロッパがウクライナの安全保障の責任を負わねばならず、アメリカは地上軍を派遣しないといったことが合意されたようだ。

 電話会談が行われたその日にピート・ヘグセス国防長官はウクライナがNATOに加盟することはないとしたうえで、2014年当時の国境に戻そうとするのは「非現実的」だとしている。言うまでもなく、2014年はバラク・オバマ政権がネオ・ナチを使ったクーデターでウクライナのビクトル・ヤヌコビッチを排除、ヤヌコビッチの支持基盤だった東部で内戦が勃発した年。へぐセスの発言はウォロディミル・ゼレンスキーが主張していた「交渉再開の前提条件」を否定するものだ。

 今後、ロシアとの交渉はマルコ・ルビオ国務長官、ジョン・ラトクリフCIA長官、マイケル・ウォルツ国家安全保障担当大統領補佐官、そして中東担当特使のスティーブ・ウィトコフが主導するとトランプは表明したが、その中にウクライナ/ロシア担当特使のキース・ケロッグが含まれていないことに注目する人もいる。

 ケロッグは彼と同じトランプの安全保障政策顧問を務めていたフレデリック・フライツとふたりで昨年6月、ウクライナにおけるロシアとの戦争を終結させるための和平プランをトランプに提示した。ロシアとウクライナ、両国に和平交渉を強制するというものだが、そのプランの前提はロシアが軍事的にも経済的にも疲弊していること。その前提が間違いだということは本ブログでも繰り返し書いてきた。

 トランプは第2次世界大戦のことにも触れ、「ロシア」の犠牲について語っている。この大戦でドイツ軍は1941年6月22日に約300万人のドイツ軍は西側に約90万人を残してソ連に対する軍事侵攻を開始、そのドイツ軍をソ連軍が倒したのだが、その事実を西側世界は隠蔽する工作を続けてきた。

 ドイツと英仏との不可解な動きはドイツ軍がソ連を軍事侵攻する前にもあった。1940年5月下旬から6月上旬にかけての時期にイギリス軍とフランス軍34万人はフランスの港町ダンケルクから撤退しているが、その際にアドルフ・ヒトラーは追撃していたドイツ機甲部隊に進撃を停止するように命令したいるのだ。その命令がなければ英仏軍の部隊は降伏するか全滅していたはずである。

 ソ連へ攻め込んだドイツ軍は1941年7月にレニングラード(現在のサンクトペテルブルク)を包囲、9月にはモスクワまで80キロメートルの地点まで迫る。1941年10月2日からドイツ軍はモスクワに対する攻撃を開始、10月3日にヒトラーはソ連軍が再び立ち上がることはないとベルリンで語っている。同じ頃、ウィンストン・チャーチル英首相の軍事首席補佐官を務めていたヘイスティングス・イスメイは3週間以内にモスクワは陥落すると推測しているが、それでもイギリスは動かなかった。(Susan Butler, “Roosevelt And Stalin,” Alfred A. Knopf, 2015)

 ドイツ軍は1942年8月にスターリングラード市内へ突入して市街戦が始まる。当初はドイツ軍が優勢に見えたが、11月にソ連軍が猛反撃に転じ、ドイツ軍25万人はソ連軍に完全包囲され、43年1月に生き残ったドイツの将兵9万1000名は降伏する。ドイツの敗北はこの時点で決定的になった。その1月にウィンストン・チャーチルとフランクリン・ルーズベルトはカサブランカで会談、シチリア島とイタリア本土への上陸を決め、「無条件降伏」を要求を打ち出している。

 計画通り、その年の7月にアメリカ軍とイギリス軍はシチリア島に上陸。ハスキー計画だ。9月にはイタリア本土を占領、イタリアは無条件降伏する。ドイツ軍の主力は東部戦線で壊滅していたわけで、難しい作戦ではなかった。

 つまり第2次世界大戦でドイツ軍と戦ったのは事実上、ソ連。ドイツはソ連に負けたのだ。ところがジョー・バイデンを担いでいたネオコンはこの歴史的な事実を否定している。そうした御伽話を人びとに信じ込ませる上で重要な役割を果たしてきたのがハリウッド映画にほかならない。

 ドイツ軍によるソ連への軍事侵攻、いわゆるバルバロッサ作戦はウクライナとベラルーシに対する攻撃から始まる。同じ動きをNATOはソ連が消滅してから見せ、2004年から05年にかけて「オレンジ革命」でウクライナ制圧に取り掛かる。そして2014年2月のクーデターだ。

 ネオコンは新たなバルバロッサ作戦を始めた。ロシアでもアメリカでもプーチンの動きが鈍かったと批判する人がいるのはそのためであり、動き出したロシアを止めることは困難である。トランプもそのように判断した可能性がある。

 大統領に就任した直後、トランプはウクライナにおける戦闘でウクライナ兵の戦死者は約70万人だが、ロシア兵はそれを上回る100万人近くだと主張していた。ところが今回、「ロシア/ウクライナとの戦争で数百万人の死者が出るのを止める」ことで両首脳は合意したとトランプ大統領は述べた。ウクライナよりロシアの方が死傷者が多いという主張を撤回したように見える。

 オバマ政権やバイデン政権はウクライナでCOVID-19プロジェクトを含む生物化学兵器の研究開発、資金援助に絡むマネーロンダリング、武器弾薬の横流し、人身売買、臓器密売などの不正行為に利用されてきたと言われている。ウクライナでの戦闘が終結すれば、こうした不正が摘発される可能性がある。摘発が実現すれば、2001年9月11日に主導権を握ったネオコンの天下が揺らぐかもしれない。

 トランプとプーチンは「中東和平」についても話し合ったというのだが、パレスチナでは停戦合意が崩壊寸前だ。ウィトコフ中東担当特使は1月10日にイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に電話、ガザでの停戦にこぎつけたが、停戦合意が1月19日に発効した後でもイスラエル軍はガザで住民を殺害、3週間足らずで110人が殺害されたという。ガザに住む約200万人をヨルダンやエジプトへ移住させ、人のいなくなった土地を「中東のリビエラ」にするという地上げ屋的な計画はイスラム諸国から拒絶されている。ここでもロシアの力を借りざるをえないのかもしれない。

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