
韓国の「12・3戒厳」は、違憲で違法の内乱
弾劾は迅速に、内乱処罰は断固として/2025年1月現在、弾劾審判と刑事裁判にかけられている内乱首謀被疑者・尹錫悦
韓国・聖公会大学研究教授 李昤京(リ・リョンギョン)
1.尹錫悦、内乱首謀罪で現職の大統領として史上初拘束起訴される
2.民主主義の根幹である憲法と国民の基本権を守る最後の砦・憲法裁判所
3.憲法裁判所で進行中の弾劾審判――戒厳を正当化、内乱を否定する詭弁で内戦を煽っている尹錫悦側
(1)詭弁、その一:「合法で正当な戒厳」 / (2)詭弁、その二:戒厳の理由は国会と野党「共に民主党」の権力濫用と反国家行為 / (3)詭弁、その三:「不正選挙疑惑を明らかにするために戒厳をした」 / (4)詭弁、その四:「本気ではない平和な戒厳」、「国会封鎖は秩序維持のため」、「(国会)議員ではなく(戦闘)要員を引っ張り出せと言った」など数々の嘘
4.これからは「司法の時間」、内乱罪を構成する嫌疑は明白
本記事は、現代の理論第40号「特集 ● 混迷の世界をどう視る|韓国の「12・3戒厳」は、違憲で違法の内乱」の転載原稿になります。
2023年に私は「現代の理論」から尹錫悦政府の1年についての評価に関する論考を頼まれて、「韓国・尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権とは何か」について2回に分けて掲載させてもらった。その1「検察のための、検察による、検察の国」(「現代の理論」第35号)では、30年以上民主主義の基盤を強めて人権を守るための民主主義の裾野を広げてきた人たちの闘いと努力を踏みにじっている尹錫悦政府を「検察共和国」「検察国家」と評価した。続くその2「尹政権は、反人権・反民主・反憲法の「検察独裁」――9つの法案に拒否権を発動」(「現代の理論」第37号)では人権と民主主義のために必要な9つの法案に拒否権を発動する尹錫悦を「検察独裁」政権と評価していた。ところが、私自身も「独裁」と名付けたものの、まさか尹錫悦が非常戒厳までするとは想像もできなかった。2024年12月3日の非常戒厳宣布からもう2か月が経った。12・3事態は、非常戒厳という大統領の権限を借りて自分自身の権力を強化しようしたが失敗した「12・3親衛クーデター」で国憲を紊乱した「12・3内乱」だと、私は思う。尹錫悦や一部重要任務従事者たちは自分たちの正当性を主張しながら闘う姿勢を見せ、韓国社会を内戦状態に引き込んでいる。
「12・3内乱」という価値判断は、尹錫悦と与党「国民の力」を支持するかどうかという政治的立場や、保守か進歩かというイデオロギーの問題ではない。憲政秩序と民主主義を守るのかどうかという、民主共和国における極めて常識の問題である。言いかえれば、憲法体制を守護する勢力なのか内乱勢力なのか、のことだ。この件について中立などはないと、私は思う。2025年2月6日時点で、尹錫悦大統領を含め、軍と警察の内乱重要任務従事者9人が拘束・起訴されて裁判中だ。進行中の関連裁判を題材に12・3内乱を振り返ってみることにする。
1.尹錫悦、内乱首謀罪で現職の大統領として史上初拘束起訴される
2024年12月14日に国会議事堂の前で「内乱犯尹錫悦逮捕」と「弾劾可決」を求めている市民たち(撮影・提供 李昤京)
2025年1月26日の夜、尹錫悦大統領が起訴された。検察の非常戒厳特別捜査本部(以下、検察特捜本)が証拠隠滅の恐れが解消されていないことなどを理由に拘束したまま起訴した。罪名は現職大統領として内乱を引き起こした罪である。韓国の刑法87条[内乱]が定めている国憲を紊乱(びんらん)する目的で暴動を起こす罪、つまり内乱罪の首謀者だという嫌疑がかかっている。普通なら大統領は在職中に起訴と控訴を受けない特権(刑事上不訴追特権)が付与されている。大統領は国家主権の象徴であり、国民に委任されて主権を行使しうる最高統帥権者であるため国政運営の安定性を図るための特権なのである。しかし、内乱罪と外患罪だけは不訴追特権から除外されている(憲法第84条)。それほど内乱罪と外患罪は許し難い重い憲政秩序を破壊する犯罪という意味である。
検察の拘束起訴は、3日前に高位公職者犯罪捜査処(以下、公捜処)が尹錫悦を送検して起訴権のある検察に公訴提起(起訴)を求めたのを受けてのことだ。公捜処と警察の国家捜査本部(以下、警察)による捜査、そして検察による起訴。検察の権限を分散、牽制するための公捜処と警察改革のための国家捜査本部は2021年1月に新設された組織だ。今回の尹錫悦に対する捜査と起訴の分離は、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府の時から試みていた課題だった検察・警察の捜査権の調停、検察改革の一つが形になったことだと言えるだろう。
非常戒厳の翌日の2024年12月4日から捜査を始めていた公捜処は、尹錫悦が金龍顕(キム・ヨンヒョン) 国防部長官と共謀して憲法機関の正常な機能を麻痺させてかつ国憲を紊乱する目的で2024年12月3日に非常戒厳を宣言して暴動を起こしたと判断した。公捜処の主導で警察と国防部とで作った合同捜査本部が調べた約3万頁に及ぶ捜査記録物69件を検察に送った。
検察特捜本による現職大統領尹錫悦の拘束起訴は、12月3日の非常戒厳宣告の「12・3内乱」から54日目のことだ。公捜処とは別途に検察特捜本はこれまで、尹錫悦と内乱を共謀したとして軍や警察の幹部ら10名を拘束起訴し裁判にかけている。その過程ですでに尹錫悦の内乱首謀容疑を裏付ける共犯事件の供述や証拠を相当確保してきたので、検察での尹錫悦に対する対面捜査なしに起訴へ進んだ(『BBC NEWS korea』2025.01.26)。
私はやっと一山を超えた気がする。検察が拘束起訴を決定したことで、尹錫悦は内乱首謀被疑者から被告人になった。2月から最長6か月間拘束状態で拘置所と裁判所を行き来しながら1審裁判を受けなければならない。内乱首謀者の法定刑は死刑、無期懲役または無期禁錮しかない。
現職大統領が裁判にかけられるのは初めてでのことなので、△出国禁止(2024.12.9)△逮捕令状請求(1次2024.12.30と2次2025.01.06)△逮捕令状発布(1次2024.12.31と2次2025.01.07) △逮捕および調査(2025.01.15)△拘束令状請求(2025.01.17)△拘束(2025.01.19)△起訴(2025.01.26)など捜査手続きが行われるたびに、「憲政史上初」という言葉が連日続いている。そのうえ、2025年2月7日現在においても尹錫悦やその支持者と与党「国民の力」は「合法で正当な戒厳」「平和な戒厳」「野党の弾劾こそが内乱」などの詭弁を繰り返しながらこれまで出されたすべての司法判断と法の手続きを否定している。その意味においても「憲政史上初」が続いている。
2.民主主義の根幹である憲法と国民の基本権を守る最後の砦・憲法裁判所
尹錫悦の内乱罪を問う刑事裁判より先に、尹錫悦の弾劾の妥当性を問う憲法裁判所における弾劾審判が始まっている。弾劾審判についての詳しい内容を見る前に、日本にはない韓国の憲法裁判所について簡単に紹介しよう。憲法裁判所は1988年に新設された。市民の手で軍事独裁を終わらせた1987年6月民主化抗争の成果である第9次改憲憲法によるものである。第9次改憲の主要内容をみてみよう。
①前文の改正:大韓民国臨時政府の法統と、不義に抗拒した4・19革命の民主理念の継承及び祖国の民主改革の使命を明示
②大統領の権限を弱化:大統領を5年単任制に、非常措置権及び国会解散権廃止、国務委員に対する解任議決権を解任提案権に代替
③国会の権限強化:国政監査権、年間会期日数制限の削除、定期会を90日から100日に延長(国家記録院「オンライン展示館 憲法の物語」2025.02.07アクセス)
④国民の基本権強化:刑事被疑者の権利拡大、報道、出版、集会、結社に対する許可と検閲の禁止など
⑤憲法裁判所制度を強化して憲法裁判所を新設。つまり、憲法裁判所は民主主義の根幹である憲法を守り、国民の基本権を守る最後の砦として設計されたのである。現在韓国では改憲についての議論が始まっているので、第9次改憲の内容と2025年の改憲議論については次の機会に紹介できればと思っている。
憲法裁判所法第2条が定めている憲法裁判所の管掌事項は以下の五つだ。
①法律の違憲可否の審判 ②弾劾審判 ③政党の解散審判 ④国家機関の間、国家機関と地方自治体の間、及び地方自治体の間の紛争に関する審判 ⑤憲法訴願に関する審判
①違憲審判の代表的な例として、2005年に戸主制に対して憲法不合致決定(2001憲가9)を下し、韓国の家族関係登録制度の革新をもたらした。③政党の解散審判は2014年に統合進歩党を違憲政党という理由で解散決定(2013憲다1)を下した件と、⑤憲法訴願については、2011年に憲法裁判所が、日本軍「慰安婦」被害者たちが国家の無責任な対日外交で幸福追求権を侵害されたとして提起した憲法訴願(2006憲마788)で国家の不作為が違憲であることを確認する決定を下した件と、在日や在米韓国人など在外国民の国政選挙権を制限したのは違憲だと決定した件(2004憲마644)もある。
②弾劾審判、今回の「12・3内乱」件もある弾劾審判の代表的な例はやはり2017年3月に下された、朴槿恵(パク・クネ)前大統領の弾劾を妥当とする判決を下した罷免決定(2016憲나1)だ。ただし、2016年の朴槿恵前大統領の弾劾事由は職権濫用と公務上の秘密漏洩(ろうえい)、強要、賄賂の収受などだ。検察の捜査と起訴後に弾劾が推進されたため、公訴状をもとに朴前大統領の弾劾訴追案が作成された。2024年の尹錫悦は内乱罪に関わる違法で反憲法の行為が弾劾事由になっている。
弾劾審判についても少し述べておこう。弾劾裁判は、一般的な司法手続きや懲戒手続きに従って訴追したり懲戒するのが難しい行政の高位職公務員や裁判官、検察などのように身分が保証された公務員が職務上重大な違法を行った場合に、弾劾審判請求(弾劾訴追)権を持っている議会がそれを訴追して処罰したり罷免する手続きである。すなわち、高位公務員などに対して、刑事上の責任を問うのではなく、政治的責任を問う「罷免」手続きである。よって弾劾審判は、高位公職者による憲法侵害から憲法を保護すること、つまり国の憲政秩序を守ることを目的とする。2017年の朴槿恵大統領の罷免決定も憲政秩序を守るためのことだったので、「韓国憲政史上初、他にも前例のない司法措置による権力の平和的な移行」(『法律新聞』2018.08.30)と評価されている。
3.憲法裁判所で進行中の弾劾審判――戒厳を正当化、内乱を否定する詭弁で内戦を煽っている尹錫悦側
このような憲法裁判所法の弾劾審判に基づいて、国会が違法で違憲の非常戒厳を宣告した尹錫悦大統領の弾劾訴追案を発議、去年12月14日に国会本会議で可決する。尹大統領は職務停止となり、国会は弾劾訴追議決書を憲法裁判所に提出した。憲法裁は9人の憲法裁判官で構成されて、6人以上の賛成で弾劾が認定される仕組みだ。審判の期間は事件の受付から宣告まで最長180日(6月12日)までだ。2025年1月14日に始まった弁論は1月23日に4次まで進んだ。詳しい予定は表を参考にしてほしい。
2025年2月7日現在、尹錫悦大統領の弾劾審判現況と予定
12.14 受付け
01.14 1次弁論 尹錫悦不出席で弁論終了
01.16 2次弁論 尹錫悦不出席
01.21 3次弁論 尹錫悦出席
01.23 4次弁論 尹錫悦出席、証人審問:金龍顕前国防部長官
02.04 5次弁論 尹錫悦出席、証人審問:李鎭雨(イ・ジヌ)前首都防衛司令官、呂寅兄(ヨ・イニョン)前国軍防諜司令官、洪壯源(ホン・ジャンウォン)国家情報院前第1次長
02.06 6次弁論 尹錫悦出席、証人審問:キム・ヒョンテ第707特殊任務団長、郭鍾根(クァク・ジョングン)前特殊戦司令官、朴春燮(パク・チュンソプ)大統領室の経済首席秘書官
02.11 7次弁論 証人審問予定:前行政安全部長官、キム・ヨンビン中央選挙管理委員会事務総長、シン・ウォンシク国家安保室長、ベク・ジョンウク前国家情報院3次長
02.13 8次弁論 証人審問予定:チョ・テウン国家情報院長、チョ・ジホ警察庁長、キム・ボンシク前ソウル警察庁長
〜06.12 〜宣告期限
2024年12月27日に行われた1次弁論準備期日で、主審裁判官は国会側の弾劾訴追事由になる被訴追者の行為など事実関係を、以下の四つに整理した。
①尹錫悦大統領が戒厳を宣布した行為
②戒厳令司令官に布告令第1号を発令させた行為
③軍と警察を動員して国会を封鎖し進入して、国会の活動を妨害した行為
④軍隊を動員して令状なしに憲法機関である中央選挙管理委員会を押収捜索した行為
(後で選挙管理委員会職員の携帯電話を押収捜索した行為を追加)
①②はさすがに被請求人尹錫悦側も認めている行為事実だが、彼らは①②を合法だと主張する。韓国において戒厳とは大韓民国憲法第77条が定めている大統領の行使できる最も強大な権限なので12・3非常戒厳は法にかなっている適法な統治行為、つまり戒厳は合法だという詭弁だ。確かに文面上ではそうだが、尹錫悦の戒厳は違法で反憲法な権限の行使だ。
③④についての事実関係が問われている。③④の行為事実が大統領職から罷免されるほど重大な違憲的行為だったのかが審判の争点になっている。だが、1月23日の4次弁論まで尹錫悦と弁護団はひたすら詭弁だけを述べて、大事な論点に対する裁判官の質問についてはまともな答えができていない。2月4日からは尹錫悦と金龍顕の③④の行為事実を国会や検察と警察で証言・陳述した軍司令官などが証人として憲法裁判所に出席している。
これからは尹錫悦側の詭弁を中心に12・3戒厳が如何に違法で反憲法な内乱なのかを考察しよう。
(1)詭弁、その一:「合法で正当な戒厳」
まず、「詭弁」の一つは、戒厳の合法論だ。1月23日に現職大統領として初めて憲法裁判所の法廷に出た尹錫悦と金龍顕は戒厳の手続きにおいても違法の行為はなかったと主張した。
非常戒厳を含む戒厳宣言の手続き的要件は、①国務会議の審議(憲法第89条第5号)、②国防長官または行政安全部長官の国務総理を経る建議(戒厳法第2条第6項)、③戒厳宣言時の公告手続き(戒厳法第3条)、④戒厳司令官任命時の国防長官推薦及び国務会議での審議(戒厳法第5条第1項)、⑤戒厳宣言の際には直ちに国会通告(憲法第77条第4項)、⑥憲法上文書主義と行政署名制度(憲法第82条)などである。金龍顕は12月3日に①の国務会議だけ触れながら開催したので合法な戒厳だと主張しているが、その会議に出席した総理などは国務会議といえる会議はなかったと繰り返して言っている。検察作成の尹錫悦の公訴状(日本の起訴状、ここでは公訴状とする)によると、①〜⑥を何一つ守っていない(『東亜日報』はA4 用紙101頁にもなる尹錫悦の公訴状全文をネットに公開している)。手続きの側面において違法で違憲だった12・3非常戒厳を、元検事尹錫悦と彼の弁護士団という法の専門家たちは合法だと主張している。
そして、12・3非常戒厳は、非常戒厳宣布に必要な実体的要件(尹錫悦側がいう戒厳の理由)も満たしていない違憲でなお「大統領の正当な統治行為」でもない。
大統領の決断で非常戒厳を宣言すれば、国民多数の核心基本権である「出版・集会・結社の自由」の制限ができる。そして「令状制度、政府や裁判所の権限に関して特別な措置」をとることで一度にあらゆる国民の権利も制限できる(憲法第77条3項)。非常戒厳がこれほど強大な権限を与える措置だからこそ、同法77条1項は戒厳宣言をするにおいて必要な客観的要件を厳格に定めてある。
大韓民国の大統領が非常戒厳の宣言ができる時は、国が戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態に陥って兵力として軍事上の必要性に応じたり、公共の安寧秩序を維持する必要がある時に限る。それでも大統領が戒厳権を牽制するために、憲法第77条は「戒厳を宣告した場合に大統領は直ちに国会に通告しなければならない」4項と「国会が在籍議員過半数の賛成で戒厳の解除を求めた場合に大統領はこれを解除しなければならない」5項を設けている。
では、戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態とは具体的に如何なる状況なのか。それを決めているのは戒厳法だ。同法2条では、非常戒厳における戦時とは敵との交戦状態だと、事変とは社会秩序が極度に撹乱され行政及び司法機能が著しく困難な国内の騒擾事態だと、定めている。
ならば、2024年12月3日の韓国はどうだったのか。非常戒厳が宣言される前まで、韓国では国家非常事態と見なすような如何なる異常兆候も見当たらず、必ず「兵力として」これに応じなければならなかったいかなる状況もなかった。むしろ、平穏な普通の日が非常戒厳宣告によって非常状態に陥って混乱が続いている。だから、大統領選挙で尹錫悦を選んだ人も常識的に「合法で正当な戒厳だ」が詭弁としか聞こえないのである。
(2)詭弁、その二:戒厳の理由は国会と野党「共に民主党」の権力濫用と反国家行為
1月23日4次弁論に出席した尹錫悦と弁護団は、戒厳の理由を「民主党の権力濫用と巨大野党の独走を警告するため」だと主張した。これは尹錫悦が戒厳談話からずっと述べている内容で、少し長くなるが戒厳談話を引用しながら見ることにする。私は戒厳談話こそが「戒厳の理由」ではなく「検察共和国」の実像を明らかにしていると思うからだ。
2024年12月3日22時23分に緊急国民談話を始めた尹錫悦大統領は、3分48秒後に非常戒厳を宣告した。彼は「大統領として血を吐くような心境で国民の皆様に訴え」るといい、国会と野党「共に民主党」の「立法独裁」(国会での22件の政府官僚弾劾訴追を発議と10人目の弾劾、そして予算減額)のせいで戒厳をするのだと言っていた。生でそれを見ていた私は、納得がいかなかった。
尊敬する国民の皆様、私は大統領として血を吐くような心境で国民の皆様に訴えます。これまで国会は、韓国政府発足以来、22件の政府官僚の弾劾訴追を発議し、今年6月に22代国会発足後10人目の弾劾を推進しています。これは世界のどの国にも前例がないだけでなく、韓国建国以降に全く前例がなかった状況です。
裁判官を脅かし、①多数の検事を弾劾するなど司法業務を麻痺させ、②行政安全部(行安部)長官の弾劾、放送通信委員会長の弾劾、監査院長の弾劾、国防長官の弾劾未遂などで行政部さえ麻痺させています。(強調は筆者)
ここから戒厳の第1対象が憲法機関である国会であることと、国会と巨大野党の権力濫用が検事や政府官僚に対する弾劾であることがわかる。
確かに、2024年12月2日まで弾劾訴追の対象になった検事は、野党が12月2日に発議するとした検事3人を含め合計10名で、①多数の検事が弾劾対象になっている。ここで必要なのは、なぜ野党は10人もの検事に対して弾劾訴追案を出したのか、という問いだ。
10人それぞれの弾劾理由を述べるのは紙面上難しいので代表的な例だけ述べよう。それは、2023年9月19日に弾劾訴追案が発議されたアン・ドンワン検事のことである。この件は韓国の憲政史上初の現職検事に対する弾劾訴追であって、2日後の21日に国会で可決された。アン検事の弾劾訴追の理由は、「公訴権を乱用」だ。
ことの始まりは2012年に国家保安法違反(北朝鮮のスパイとの嫌疑)で起訴されるが無罪が確定した「ソウル市公務員スパイ捏造事件」だ。裁判で検察と国家情報院が証拠を捏造したことが明らかになり、2014年4月25日に被害者ユ・ウソンさんに無罪が言い渡され、5月1日に彼を起訴したイ・シウォン検事らが懲戒を受けた。
ところが、8日後の5月9日にアン検事はユ・ウソンさんを、2010年に検察自ら起訴猶予処分した対北朝鮮送金の容疑(外国為替取引法違反)で裁判にかける。この「報復起訴」といわれる件は、2021年に大法院がアン検事の起訴を「公訴権濫用」と判断することで終わる。だが、検察は違法な起訴で一人の市民の人権を侵害して苦痛に陥れたアン検事に対してなんの内部監査をせず懲戒も下さなかった。
ユ・ウソンさんは大法院の判決から1か月後に高位公職者犯罪捜査処(以下、公捜処)にアン検事をはじめ、当時の指揮ラインだった検事らを捜査・処罰するように告訴したが、公捜処は2022年11月に公訴時効が過ぎたという理由で不起訴処分を下した。その間アン検事は2022年7月に法務部と公捜処を管轄におく水原(スウォン)東部地検の安養(アニャン)地庁の次長検事を経て2023年7月には検察人事において特殊捜査を指揮する釜山地検2次長に任命された。尹錫悦の検察共和国でアン・ドンワンは昇進し続けていたのである。ユ・ウソン事件の捏造に加担したイ・シウォン検事も懲戒処分は受けたものの、尹錫悦政権の大統領府の公職綱紀秘書官へ栄転した。つまり、これまで韓国ではイ・シウォンやアン・ドンワン検事のように、検察組織が指示するまま従えば問題になることがなく昇進もできていたのである。
検事は法律に違反して民主主義を破壊する行為をしても懲戒するすべがない。唯一、検事懲戒法に基づいて検察総長が懲戒を請求すれば懲戒できる方法が、これまでの検察はほとんどそうしなかった。だから、共に民主党ら野党が今度こそ「検事も間違いを犯すと処罰されて懲戒処分にさせる」ため、検事の弾劾へ挑んだのだ(「ohmynews」 2023.09.19)。
他の検事たちのうち、戒厳の前日である12月2日に野党が弾劾訴追案を発議すると言っていた検事は、10月17日に大統領夫人金建希(キム・ゴニ)を「嫌疑なし」で不起訴処分した3人である。金建希は、輸入車ディーラー「ドイツ・モーターズ」の株価操作事件に関与したとして資本市場法違反の疑いが持たれていた。検察は判決後の会見で、「大統領夫人金建希の住居・事務所・携帯電話に対して家宅捜索令状を請求したが、裁判所に全て棄却された」と発表したが、その後、虚偽であることが判明した。
不起訴そのものも国民の怒りを買ったが検察による捜査のやり方も問題が多かった。検察は金建希に対して2回の書面調査しかしなかった。だから、金建希に対しても厳しい捜査が必要だという指摘が多くなり、告発から4年3か月過ぎてやっと対面調査が行われた。だが、それも検事が大統領警護処の施設に出向いて行われたため、特別待遇を受けたという批判が殺到した。検察が4年6か月間、時間稼ぎをしたのではないかという指摘や、政界からの特別検察官の導入を求める声などが広がった(『KBS world』2024.10.17)。しかも、尹錫悦は「金建希女史株価操作疑惑特別検察官任命法」に対して拒否権の行使していたため(「尹政権は、反人権・反民主・反憲法の「検察独裁」――9つの法案に拒否権を発動」の4)-⑦を参考)、尹政権の退陣を求める各界の団体・個人が10月8日に「変えようのない政権! 我慢せずに参与しよう! 尹錫悦退陣国民投票 突入宣布 記者会見」を開催して退陣運動を始めた。戒厳の前日の12月2日まで国民投票に参加した市民が40万人を超えていた(『ハンギョレ』2024.12.02)。
このような状況の中で野党が検事の弾劾訴追へ進んだのに、検事弾劾の理由を鑑みず尹錫悦は「検察共和国」の大統領らしく検事への弾劾を戒厳の理由としてあげている。だから、尹錫悦は検察と身内金建希を守るために戒厳を宣布したと、「愛のために戒厳までした男」と揶揄されている。
尹錫悦が「戒厳理由」とあげている国会と巨大野党の「権力濫用」とは、戒厳談話の②行政安全部(行安部)長官の弾劾、放送通信委員会長の弾劾、監査院長の弾劾のことである。具体的には、これも弾劾訴追の背景と理由を見ると戒厳の理由にはならない詭弁なのがわかる。
まず、李祥敏(イ・サンミン)行政安全部長官は、「尹政権は、反人権・反民主・反憲法の「検察独裁」――9つの法案に拒否権を発動」でも述べたように、梨泰院転倒事故が起きた際に適切な措置を取らず「警察などの事前配置で解決できる問題ではなかった」などの不適切な発言(『中央日報』2023年2月6日)を続けていた。民主党と正義党、基本所得党の所属議員176人が、李祥敏長官に対して、梨泰院惨事から100日目の2023年2月6日に「災害・安全管理業務の責任者として関連計画を立て予防措置を講じるべきだったにもかかわらず、これを放棄しただけでなく、大惨事の後も何の措置も取らず災害を拡大させ、災害安全法と国家公務員法に違反した」とみて弾劾案を発議した(『ハンギョレ』2023.02.6)。
放送通信委員会(放通委)の委員長と委員長の職務代行の弾劾訴追案についてだが、これは「成立初期から前政府が任命した言論関連機関及び言論社の議決機構を交代して言論を掌握した」(『ハンギョレ21』2024.06.01)尹錫悦の暴挙を食い止めるためだった。弾劾訴追案が出された放通委員長李東官(イ・ドンクァン)は、次の言論掌握の流れ(以前の政府が任命した放送通信委員会長を国務会議から排除―監査院による監査(2022.6)―放通委の委員長や職員に対する検察の家宅捜査(2022.9〜2023.2)と起訴(23.5.2)―政府の免職手続き(23.5.11)―大統領の免職処分案裁可(23.5.30)―新しい放送通信委員会長の任命(23.8)―放送通信審議委員長らの解嘱(23.8)・新しい委員長選出(23.9)―KBSとMBCの理事長や理事と社長の解任(23.8〜9)―政府よりの幹部任命―政府に批判的なプログラムの廃止・縮小と政府よりの報道操作」)(「尹政権は、反人権・反民主・反憲法の「検察独裁」――9つの法案に拒否権を発動」の3)―(4))の中で任命された人物だ。2023年に検察出身の彼の放通委員長任命に対して、現職の記者80%(韓国記者協会の調査)が彼は「李明博(イ・ミョンパク)政権で言論弾圧の先頭に立った人物で、現職の大統領室の人を放通委員長に任命するのは放通委の独立性を侵害する」と大反対をして、一般国民も60%も反対(「ニューストマト」調査)していた(「ohmynews」2023.07.06)。
李東官は国会で弾劾案が発議される直前に自ら辞退、彼の委員長の職務代行も同じく自ら辞退した。そして、尹錫悦は戒厳談話で「放送通信委員長の弾劾」と述べていたが、その時点ではまだ憲法裁判所に係留中で弾劾されていなかった件である。彼はこれ以外も間違った事実を平然と戒厳談話で述べている。
2025年2月5日に与党「国民の力」が野党の予算削減を批判するために公式facebookに載せたポスター(国民の力のfacebookからキャプチャー)
尹錫悦は野党による予算の削減を「予算の暴挙」と戒厳の理由として言っている。まだ起きてもいない翌年の予算のことで戒厳とは。むろん、上記で見たように予算の削減が戒厳の理由である「戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態」に入らないのはいう必要もない。しかし、この詭弁も憲法裁判所で述べられたが、思わぬことが起きた。
去年12月12日の談話で尹錫悦は野党主導の予算案の削減が戒厳につながったと主張しながら例として東海深海ガス田事業、いわゆる「シロナガスクジラプロジェクト」をあげていた。大統領側の主張に力を添えようと大統領側は朴春燮(パク・チュンソプ)大統領室の経済首席秘書官を2月6日審理の証人と申請する。これに合わせて与党は野党の予算削減を批判して写真のポスター[共に民主党はどこの国の政党なのか。国民の力はシロナガスクジラプロジェクト予算を必ず取り戻します]を5日に載せる。そして翌日に朴春燮証人は野党の予算削減が戒厳の理由になるという同じ主張をしたが、ちょうどその1時間前に政府は「政務的影響があった」といい「経済性が足りない」と発表をしたのである。このプロジェクトは当初から「(2024年)4・10総選挙敗北以降、反転のカードが切実だった尹錫悦大統領が局面転換のために不確実性が大きい事業をバラ色に包装して一方的に押しやったという疑惑」(『東亜日報』2025.02.08)が大きかった。
最後は監査院長の弾劾だが、崔載海(チェ・ジェヘ)監査院長は文在寅(ムン・ジェイン)政府で任用された人物だが、尹錫悦の元で「監査院は監査を通じて大統領の国政運営を支援する機関」と発言して物議を醸した。韓国における監査院とは、国家の歳入歳出を検査して公共機関などの会計を監督し、公務員職務を監察する権限もある機関だ。憲法と監査院法によって大統領所属機構になっているが、職務に関しては独立的な地位を持つ。中立的に行政を監視・牽制しろという趣旨だ。監査院本来の役名とは違って、崔監査院長は大統領官邸移転疑惑に対してまともな監査を行わず、証拠を隠蔽するなど現政権に服務していた。
戒厳の理由の残り、国会と野党「共に民主党」の反国家行為についても戒厳談話からみよう。
国政は麻痺し、国民のため息は増えています。これは自由大韓民国の憲法秩序を踏みにじり、憲法と法によって建てられた正当な国家機関を撹乱させることで内乱を画策する明らかな反国家行為です。国民の生活は気にも留めず、ひたすら弾劾と特検(特別検察制度)、野党代表の防弾で国政が麻痺状態にあります。今我が国の国会は犯罪者集団の巣窟となり、立法独裁を通じて国家の司法行政システムを麻痺させ、自由民主主義体制の転覆を図っています。……(中略)私は北韓(北朝鮮)共産勢力の脅威から自由大韓民国を守護して、我が国民の自由と幸福を略奪している破廉恥な従北反国家勢力を一挙に根絶して、自由憲政秩序を守るために非常戒厳を宣言します。(強調は筆者)
この12・3戒厳談話からすると、上記で考察した「弾劾」が国会と野党の反国家行為のはずだ。しかも国会と野党を内乱画策勢力、犯罪者集団と決めつけている。そして、ここで突然「反国家勢力」などが登場する。大統領自身もこれでは戒厳の理由として物足りないと気付いたのか、末尾に何の蓋然性もなく突然「北韓(北朝鮮)共産勢力の脅威」「従北反国家勢力」を付け加えているのだ。
1月16日に行われた弾劾審判2次弁論で尹の弁護団は以上の内容などで1時間以上「非常戒厳は反国家的行為を防ぐために必要な行為」だったと主張していた。しかし、裁判官の「その反国家的行為の実態は何か」という質問に、弁護団は答えられなかった。そして、裁判官は「国会に兵力を投入したことと野党の亡国的行態を知らせることにどんな相関関係があるのか」とも質問したが、それにも弁護団は答えられなかった。
(3)詭弁、その三:「不正選挙疑惑を明らかにするために戒厳をした」
1月16日の弾劾審判2次弁論で、大統領側弁護士は不正選挙論をとうとうと述べ「今朝の新聞にも水原(スウォン)の中央選挙管理委員会研修院にいた中国人90人あまりが日本国内の米軍部隊に行って調査を受け、不正選挙関連の自白をしたという内容があった」と紹介した。弁護士らがいう新聞とは2011年にネット新聞で始めた「スカイデイリー(SkyeDaily)」のことだ。この新聞は2023年「5・18光州に北朝鮮が介入した」とのフェイクニュースや「2020年総選挙は不正選挙だ」などの陰謀論の温床と批判されている。むろん、この不正選挙の主張のすべてが嘘で陰謀論だということは、これまで韓国の司法部判断によっても明白になった。しかし、今回は米軍云々まで主張しているため米軍関係者までもが事実無根だと発表した次第である。
当初、12・3戒厳談話に不正選挙に関する言及はない。大統領の口から不正選挙疑惑が初めて出たのは12月12日、2回目の弾劾訴追案可決(14日)の直前だ。
この不正選挙疑惑は弾劾審判の主な論点、④軍隊を動員して令状なしに憲法機関である中央選挙管理委員会を押収捜索した行為と選挙管理委員会職員の携帯電話を押収捜索した行為に関わる。2月4日憲法裁判所の法廷で尹錫悦は「選管委員会に軍を投入しろ」という指示を本人が直接下したと認めた。ただし、「(戒厳)布告令による捜査次元ではなく、政府省庁や公共機関には戒厳軍が入れられると思って投入したものだ」と主張した。去年の12月3日に出された戒厳布告令第1号は「国会と地方議会、政党の活動と政治的結社、集会、デモなど一切の政治活動を禁じる」という内容で、今回の非常戒厳で最も違憲・違法な内容とされている。戒厳布告令の違憲・違法の余地を尹錫悦も知った上での発言だろうけど、弾劾の理由を自白したのと同様だと、私は思う。それにもかかわらず、尹錫悦と与党が不正選挙陰謀論を言い続けて広めた結果、いまだに韓国では選挙不正陰謀論が猛威を振るって、中国などへのヘイト発言が横行している。尹錫悦と与党はこれで支持を集め、そして一部のYouTuber(ユーチューバー)たちはこれで稼いでいる。これらが1月18〜19日、尹錫悦支持者たちがソウル西部地裁の建物内に乱入して器物を破損するなどの暴動へつながった。
(4)詭弁、その四:「本気ではない平和な戒厳」、「国会封鎖は秩序維持のため」、「(国会)議員ではなく(戦闘)要員を引っ張り出せと言った」など数々の嘘
「12・3内乱」から何より呆れた主張は「平和な戒厳」だ。負傷者や逮捕者一人も出ていない、「何も起きていない」と主張している。確かに尹錫悦のクーデターは2時間半後の4日01時に国会が満場一致で戒厳解除決議案を採択することで、失敗に終わった。ところが、それは尹錫悦がそのようにしたからではない。2時半という短時間に「無血かつ平和な方法」で戒厳を解除させ内乱を食い止めたのは、①権力の暴挙の前に怯まず立ち向かった市民や国会議員と職員、②違法の命令に消極的な形で「抗命」をした軍人たちの民主主義への切実な思い、③当日天気が悪くて予想より国会へ向かう軍のヘリコプターの出発が30分以上遅れたこと、である。徐々に伝わる当日の映像や証言を聞くと、奇跡としかいえない。この奇跡を尹錫悦ら内乱勢力は自分たちの「功績」のように言っている。
国会へ駆けつけなかった市民は祈る思いで非常戒厳宣布と解除の様子を伝えるテレビのニュース特報やYouTubeのライブ配信を見守り、解除の瞬間には一斉に万歳をしていた。深夜にもかかわらず7.4%を記録したMBCニュース特報の視聴率(3日22時48分〜4日01時59分)と、戒厳の3日にYouTubeのOhmyTVの最高同時アクセス者の数が約65万名を記録したこと(1週間前に1位をしたプログラムの3.3倍)がその思いを示している(『ハンギョレ』2024.12.4)。このできことについて外信も戒厳を食い止めた韓国の民主主義のシステムと国民の熱望だと注目し、韓国社会の民主主義の脆弱性とともに回復力を見せたと評価していた(『連合ニュース』2024.12.5、『YTN』2024.12.4)。こうやって一人の犠牲者も逮捕者も出さず頓挫させた「戒厳」を、尹錫悦など内乱勢力は自分たちが「本気ではなかった」「平和な戒厳」だったので逮捕者も犠牲者もなかったとの詭弁を言い張っているのだ。
弾劾審判の論点③軍と警察を動員して国会を封鎖し進入して、国会の活動を妨害した行為は、生で市民が目撃している。そして、関連捜査を終えた検察は公訴状に、「非常戒厳宣言後、軍と警察を動員してまず国会を封鎖し、国会、選挙管理委員会3か所(果川庁舎、冠岳庁舎、水原選挙研修院)、共に民主党の党舎、世論調査「花」を掌握した後、戒厳布告令に基づき、国会議員や政治家など主要人物と選挙管理委員会関係者を令状なしで逮捕拘禁しようとし、法律上根拠なく選挙管理委員会の電算資料を令状なしで押収して不正選挙及び世論操作関連証拠を確保しようとし、国会議員の非常戒厳解除要求案の議決を阻止しようとし、国会を無力化させた後に別途の非常立法機構を創設しようとするなど、憲法上保証される政党制度と憲法機関である国会及び選挙管理委員会の権限行使を不可能にしようとした」と摘示している。
この公訴状の国会議員逮捕について1月23日4次弁論で尹錫悦と金龍顕前国防部長官は、引き出すよう指示したのは「議員」ではなく「要員」だと言い出した。高校の先生である金さんは、全国民に「ヒアリングテスト」をさせていると怒りをこえて呆れている。
続く5・6次弾劾裁判で尹錫悦と金龍顕の嘘を暴く証言が続いた。洪壯源(ホン・ジャンウォン)国家情報院前第1次長と、キム・ヒョンテ第707特殊任務団長が、容疑を全面否定している尹大統領の面前で、真っ向から反論していたのだ。洪壯源前次長は2月4日の裁判で、尹大統領が「これを機に全員捕まえろ。全部片づけろ。国家情報院にも対共捜査権を与えるから、まず防諜司令部を助け、支援しろ。資金はもちろん人材もとにかく助けろと指示した」という従来の供述を再び確認しながら、非常戒厳当日に尹大統領と電話で話した内容を「一言一句、すべて覚えている」と話した。そして、呂寅兄(ヨ・イニョン)前防諜司令官と電話で話して逮捕者リストを書き取った状況についても詳細に証言した。
2月6日の裁判では郭鍾根(クァク・ジョングン)前特殊戦司令官が、引き出すように指示されたのは「要員」ではなく「議員」だと改めて証言し、707特殊任務団のキム・ヒョンテ団長は非常戒厳当日、クァク前司令官から「(国会議員が)150人を超えてはならないというが、(国会本会議場に)入れないか」と言われたと述べた。このようなやりとりは当日「隷下部隊全体にリアルタイムでそのまま流れた」ようだ。郭前司令官がマイクを「オフにせず、終わるまでオンにしていた」からだ。キム・ヒョンテ団長は実弾を準備していたこと、銃器使用の可能性もあったことも明らかにした。キム・ヒョンテ団長は戒厳当日、北朝鮮関連の任務だと思って出動したのが国会であり、現場で市民と出くわしたとも言っている。その軍人たちの戸惑いと躊躇を、人びとは生で見ていた。
郭鍾根前司令官は、12・3戒厳後一貫して、大統領と長官の不当な指示に対抗できず、部下たちにとんでもない指示をしたという遅すぎる後悔を述べながら全ての法的責任は自分が取ると、述べている。このような裁判の様子もまた録画映像やニュースで見た人たちは、これこそが指揮官の姿勢だと思っている。
詭弁を言い張っている尹錫悦と金龍顕の卑怯な行動と対比を成す。二人は詭弁と嘘で責任を逃れようと必死だ。自分の不当な命令のためにすべてを失うことになったこの軍人たちに申し訳ない気持ちが少しもないようだ。尹錫悦は自分に不利な事実をありのまま証言した、洪壯源(ホン・ジャンウォン)国家情報院第1次長と郭鍾根(クァク・ジョングン)前特殊戦司令官だけをターゲットに攻撃を始めている。二人と「共に民主党」が野合して「内乱工作」をしたという陰謀論だ。
4.これからは「司法の時間」、内乱罪を構成する嫌疑は明白
これからは「司法の時間」だ。私は、遅かれ早かれ、憲法裁判所で弾劾が容認されると思っている。憲法裁判所が大統領の職務停止状態が長引かないよう「迅速な処理」をすると表明して、6日からの審理は午前10時から始まっている。弾劾審判は2月末か3月初めには終わるだろうと予想されている。内乱罪を構成する嫌疑は極めて明白なので刑事裁判で有罪になることを、私は疑わない。
韓国の憲法は大統領が罷免された場合、60日以内に大統領選挙を実施すると定めている。
内乱ではないという彼らの詭弁と世論調査の結果に引っ張られる必要はないと思う。これからは、検察と警察の捜査過程と刑事裁判の過程でいかなる証拠と陳述が出ているのか、弾劾審判の過程でいかなる論理といかなる主張がぶつかっているのかを注目し続けなければならない。
そして、1日でも早く国会で「特別検事法」を作って、憲法裁判所で尹錫悦の罷免が決まると同時に特別検事が追加起訴をすべきである。尹錫悦の内乱罪は「12・3内乱」の一部に過ぎない。まだ外患の疑いが残っている。尹錫悦ら内乱勢力がしつこく北朝鮮の攻撃を挑発して非常戒厳の名分を作ろうとした情況や証言などが出ている。まさに外患罪に当たるといえる。12月26日に北方限界線(NLL)接境地域の住民たちをはじめとする市民1439名が、尹錫悦大統領、金龍顕前国防長官、呂寅兄前防諜司令官、ノ・サンウォン前国軍情報司令官など4人を外患罪に該当する「一般利敵罪」の容疑で警察庁国家捜査本部に告発した。また、「共に民主党」も12月9日に、尹錫悦大統領と金龍顕前国防長官を外患罪容疑で告発した。だが、これに関する捜査はあまり進んでいない。「尹錫悦即時退陣・社会大改革非常行動」が1月20日に国家捜査本部の前で記者会見を開き、軍の外患罪容疑関連証拠隠滅の試みを強く非難しながら、内乱主導者たちの外患容疑に対する捜査機関の徹底的な捜査を促した(『労働と世界』2025.01.20)。
尹錫悦は非常戒厳が必要で、非常戒厳をするには戦争が必要だった。政治的目的で国民を戦争の脅威に追い込もうとしたという話だ。北朝鮮攻撃を主導したという疑いを受けるシン・ウォンシク(国家安全保障室長)とキム・テヒョ(国家安全保障室次長)などは依然として席を守っている。1月12日の記者会見でチョン・ドンヨン議員(共に民主党)は「親衛クーデターのコントロールタワーが依然として生きて動いている」とし「内乱はまだ終わっていない」と特別検事法の必要性を強調した(『全州MBC』2025.01.12)。
現在、崔相穆 (チェ・サンモク)大統領権限代行が「内乱特別検事法」について拒否権を行使してまだ法ができていない。崔権限代行の「与野党の合意がない」「拘束起訴されたので特別検事はいらない」という理由は話にならない。そもそも積極的に内乱首謀者尹錫悦を庇って戒厳の正当性を主張している与党と合意ができる事案ではない。そして、尹錫悦に対する外患と職権濫用などの疑いについては起訴できず、押収捜査もできてないのである。1月30日の『京郷新聞』社説は「非常戒厳宣言当日、自分が尹錫悦側から受け取ったメモに関する特検捜査を避けようとしているのではないかと疑うしかない」と崔権限代行を批判している。受け取ったメモではなくA4に作成した書類には、賃金をはじめとする国会資金を「完全遮断」しろという内容が盛り込まれていた。単に国会運営費を断つという指示ではなく、すべての資金を遮断しろという趣旨だ。このようなメッセージの内容を把握した検察は、尹錫悦が憲法機関である国会の無力化を試みたと判断した。内乱罪に該当するということだ(『ハンギョレ』2025.01.05)。
「12・3内乱」は、尹錫悦と内乱重要任務従事者たちの責任追及が完全に終わるまで終わりではない。今、韓国で必要なのは「弾劾は迅速に、内乱処罰は断固として」「内乱の完全な制圧」をしなければならない。そのために熾烈な社会大改革と早期大統領選挙で憲政秩序を破壊して法治主義を否定する勢力に対して大勝利をしなければならない。
本記事は、現代の理論第40号「特集 ● 混迷の世界をどう視る|韓国の「12・3戒厳」は、違憲で違法の内乱」の転載原稿になります。
★ISF(独立言論フォーラム)「市民記者」募集のお知らせ:来たれ!真実探究&戦争廃絶の志のある仲間たち
※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
ISF会員登録のご案内