【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年2月26日):トランプがウクライナに鳴らした警鐘:今トランプが指摘していることは、ロシアがずっと主張してきたことと同じだ。

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。


ホワイトハウスに戻るところのトランプ米大統領。2025年2月19日、ワシントンDC© Win McNamee / Getty Images

こんなゲームをしてみよう。題して、「プーチンが話せばトランプも同じことを言う」ゲームだ。というのも、何年ものあいだ続いてきた、米露が全てのことがらに関して一致できなかった状況が最近すっかり変わってしまったからだ。これまでは、世界の秩序という壮大な問題から、「1インチも許さない」という短いことばの解釈に至るまで、米露は一致できなかった。ところが突然、米露の両指導者が同じようなことばを話し始めただけはなく、多くの点で同意するようになったのだ。

特にウクライナの問題に関してそうなのだ。この問題は米露にとって同意を結ぶことができない爆心地のような問題だったのだが。この状況を飲み込めない方のために言っておくが、これはいいことだ。例えば、世界が戦火で燃やされてしまうことは避けられたのだから。本当にそうだ。米大統領は、バイデン・ハリス(あるいはその後ろにいる実際の権力者)の政権下では、第三次世界大戦が起こる可能性があったことを見て取っていたのだ。その見立ては正しい。かの有名な「原子力科学者会報の世界終末時計」の針が、「真夜中」に「過去最接近」しているとされたことには理由があるからだ。

いま、米・露両大統領がウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が大統領でいるには選挙が一回不足している事実に同意している。実際、トランプは、ソーシャル・メディア上の辛辣な投稿において、こうハッキリと記している。「ゼレンスキーは『独裁者』だ」と。

ドナルド・トランプもヴラジーミル・プーチンもこのウクライナでの戦争の根本的原因について、同じ意見を持っている。それはNATOだ。はっきり言えば、それは米国だ。壊滅的な結果を招くことは予想できたことなのに、NATOや米国が、病的なほど頑固にNATO拡大政策に固執してきたことが原因だった、というのだ。となれば、トランプもプーチンも賢明で幾分伝統的な考え方共有したことになる。だが、その考え方は、西側の指導者層の多くがなんとか忘れようとしてきたものだ。つまり、全ての大国はその近隣において国家安全保障上の利益を有している、という考え方だ。

米露両当局がここまで同じ意見を共有できていることを頭に置けば、両国が国益に基づいて、両国関係を賢明で相互に敬意を有した形で進めていこうとする方向性にも同意できる、ということは疑いがない。


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そして国益について言えば、トランプはゼレンスキー政権や彼の戦争、ウクライナの巨大な腐敗に何十億ドルも止むことなく投入し続けることを許す気はないことをずっと明らかにしてきた。確かに、同米大統領は数字を間違えたのかもしれないが、NAFO(北大西洋同志機構)公認のすべての「事実確認者たち(つまりは情報戦争の戦士たちのことだ)」にはこう言いたい。「バカ言っちゃいけない」と。トランプの主張の主眼は、5000億ドルであれ、1000億~2000億ドルであれ、米国がこの血塗られた愚かな事業に無駄な大金をつぎこんでいることへの怒りである。

トランプがゼレンスキーを「独裁者」呼ばわりしているのも、同じことだ。私には分かっていることだが、西側の多くの人々にとって、その真実に向き合うことは、歯の根幹を抜くほどの痛みを伴うものだ。だが、ゼレンスキー政権は権威主義的であり、その指導者であるゼレンスキーには、前回の選挙を免除する権利はなかったはずだ。だからこそ、ゼレンスキーの任期は2024年5月20日の時点で切れていたはずだ。好む好まないに関わらず、それ以降のゼレンスキーの大統領としての正当性は、どれだけ控えめに言っても、極端に怪しいものなのだ。さらに、ゼレンスキーが虚勢を張り始めた理由は、2022年2月の軍事的緊張の高まりのせいではなかった。実のところ、この戦争が起こる前から、ゼレンスキーの反対勢力や批判者は、(それは正しいことだったのだが)、2021年の時点で既にゼレンスキーの激しく権威的な態度を批判していた。

そしてお間違えになってはいけないことは、ゼレンスキー政権は、「穏健な」権威主義ではない、という点だ。この政権は報道機関を黙らせていた「だけ」ではない。なお報道機関を黙らせていたことは、頑健な好戦派として知られているニューヨーク・タイムズ紙でさえ認めていた。ただそれだけではなく、この政権は、牙も爪も激しい抑圧を加えたいという欲求もある政権なのだ。ゼレンスキー政権が長らく抑圧していた11、そうだ11あった野党の支持者たちに聞いてみればいい。あるいはウクライナ正教会(UOC)の聖職者や信者たちでもいい。この宗教は完全に禁止されたのだから。警察国家的手法で抑圧された人々もいるし、拘留中に殺害されたものさえいる。例えば、社会主義活動家のボーダン・シュローティアクさんの事例がある。彼は現在政治犯として裁判に掛けられている。あるいは自由主義者のゴンザーロ・リラさんの事例もある。彼は米国民でありソーシャル・メディア上の記者であるが、この代理戦争とゼレンスキー政権(及び自身を拘束したことについて)批判をおこなったために、ウクライナ当局により拷問を受け、殺害された。

現時点ではっきりしているはずのことだが、トランプやプーチン、さらには米露のより広い範囲においても同意に至っていない理由は、ロシアに関する暗黒の情報が戦争の魔法によりかけられているからだ。ゼレンスキーが愚かにも、さらに非常に傲慢でもあるのだが、米国大統領をロシアからの「偽情報」の救いようのない被害者であると描こうと画策したことは、トランプをさらに怒らせることにしかならなかった。それは当然のことだ。米露間で同意を結ぼうとする機運が高まっている理由は簡単。ウクライナに関して、トランプ政権下の米国政府は現実を再発見しているからだ。

その現実には、ウクライナ当局が聞きたくないもう一つの事実も含まれている。それは、トランプのことばを借りれば、この戦争で「カード」を持っているのはロシア側である、という点だ。これもまた真実である。戦場においてはロシア側が優位に立っており、この無意味な戦争を本当に終わらせることを目的とした交渉は、その現実を受け入れるところから始めなければならない。そうでなければ、この戦争は終わらないだろう。

たしかに、正気の沙汰とは思えないことだが、EU―欧州諸国がさらにこの激戦地にさらに7000億ユーロを投入するのでは、という噂があるのは事実だ。(その理由の一つには、「ロシアは360度政策を転換する必要がある」と間違って発言したドイツ外相のアンナレーナ・ベアボックが外交を慎重に進めること(これは驚きだ!)に手慣れていないこともある)。しかし欧州のおとぎ話はうまくいかないことが多い。さらに今回うまくいったとしても、この先に起こるであろうことはすべて、EU経済の沈滞をさらに悪化させ、ウクライナの敗北をずっと厳しいものにすることにしかならないだろう。


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そういう意味では、トランプがゼレンスキーやその政権に厳しく当たっていることについて、単純ではあるが非常に重要な問題があることを見過ごさないようにしよう。米国のマイク・ウォルツ国家安全保障問題担当大統領補佐官がフォックス・ニュースで強調していたとおり、米国大統領はこの戦争を外交努力で終わらせるよう圧力をかけている。その点に関して、もちろんトランプは完全に正しい。というのも、この戦争が続く一日一日が無駄なものでしかないからだ。この戦争は起こるべきでなかっただけではなく、すでにもう終わっているからだ。希望的観測や政治思想により目が塞がれていない人には、この戦争の結果は明らかなのだ。ロシアの勝利だ。この無駄で狂気の戦争が早く終われば終わるほど、死ななくてすむ、怪我をしなくてすむ、一生ものの負傷をしなくてすむ、ウクライナ国民、ロシア国民もだが、が少なくなるのだから。続けてもなんの違いも生じない、こんな戦争で被害を受けるのは全くの無意味だ。

もちろん、トランプの政敵らは「裏切り者!」という声を浴びせて、この瞬間を台無しにしようとしている。一例を挙げると民主党のリチャード・ブルーメンソール上院議員だ。おまけのように、この上院議員は、トランプ大統領のこの動きを「完全に卑劣」で「嫌気がさす」と非難している。同議員の主張によれば、トランプは「真実」を軽視し、「自分たちや私たちの自由を支えている勇敢な(ウクライナ国民)男性および女性の命を犠牲にしている」という。

本当だろうか?では真実をお伝えしよう。本当のところ、ウクライナ国民が犠牲になっているのは真実だが、それはだれかの「自由」のためではない。ウクライナ国民は代理戦争における砲弾の餌食として利用されてきたのだ。そしてこの代理戦争は、明らかにある戦略を実行するために起こされたものだ。その戦略とは、ロシアを完膚なきまで叩き潰すことだった。ウクライナは荒廃させられてきたが、それは何ら高尚な価値をえるためではないし、「自由」や「民主主義」、ゲイの人々の行進、多様な性別の人が利用できるトイレを作るためでもなかった。ウクライナが犠牲を強いられたのは、これまでの多くの事例と同じで、米国が地政学的優位を得ようとしたためだった。

トランプがこれらのすべての栓を抜こうとするのは正しいことだ。ゼレンスキーや彼の政権を甘やかすのをやめようとするのも正しい。さらには、両国側が現実を直視した上でプーチンと合意を結ぼうとすることも、正しいことだ。

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS(2025年2月26日)「トランプがウクライナに鳴らした警鐘:今トランプが指摘していることは、ロシアがずっと主張してきたことと同じだ。」
http://tmmethod.blog.fc2.com/
からの転載であることをお断りします。

また英文原稿はこちらです⇒Trump’s Ukraine wake-up call: Points he’s now making are what Russia said all along>
嘘で打ち立てられた戦争の和平交渉で傷つけられることになるのは、嘘をついてきたものたちのほうだ。
筆者:タリック・シリル・アマール(Tarik Cyril Amar :イスタンブールのコチ大学でロシアやウクライナ、東欧、第二次世界大戦の歴史、文化的冷戦、記憶の政治について研究しているドイツ出身の歴史家)
出典:RT  2025年2月20日
https://www.rt.com/news/613070-trump-arguments-russia-ukraine/

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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