【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.03.09XML: ウクライナをめぐる露国と米国の協議は合意が近いとする推測が流れている

櫻井春彦

 バラク・オバマ政権のネイコンがウクライナで始めたロシアとの戦争をドナルド・トランプ大統領は本気で終結させようとしているようだ。そのためにウラジミル・プーチン政権と協議、合意が近いと推測する人がいる。

 アメリカ政府とロシア政府の協議は2月18日にサウジアラビアのリヤドで始まったと見られている。その際、さまざまな問題に対処するための専門グループを編成することで米露両国は合意したという。ひとつは戦略的安全保障と軍備管理に関するグループ、第2に地球規模の安全保障構造を見直すグループ、第3に両国相互の外交に関するグループ、第4にエネルギーや制裁に関するグループ、第5にウクライナにおける戦闘の決着をつけるためのグループ、第6にはパレスチナや北極圏を含む国際問題に関するグループだ。

 ​ウクライナに関する問題については話し合いが進んでいると推測する人がいる​。2月24日にエマニュエル・マクロン仏大統領がホワイト・ハウスを訪問、27日にキール・スターマー英首相もホワイト・ハウスを訪れている。そしてウォロディミル・ゼレンスキーが28日にやはりホワイト・ハウスへ入り、トランプ大統領と口論になったわけだ。ゼレンスキー、スターマー、マクロンらの言動を見ると、トランプとプーチンの間で話し合われている内容に彼らは不満を持っているように思えるが、受け入れざるを得ないと考えられている。

 その28日にロシア政府は連邦安全保障会議のセルゲイ・ショイグを中国へ派遣、その際、習近平主席が出迎えているのだが、その4日前に習近平主席とプーチン首相は電話で会談している。ロシアと中国は新たな戦略安全保障協議を始めるとも伝えられている。

 トランプ大統領はホワイト・ハウスでゼレンスキーとレアアースに関する協定に署名する予定だったとされている。レアアースはウクライナ問題のキーワードとして使われているのだが、ウクライナの地下に豊富なレアアースがあるとは考えられていない。少々奇妙だ。

 しかし、レアアースを開発するという口実でアメリカ企業がウクライナへ入ることになれば、アメリカとロシアが新たな戦争を始める可能性は小さくなるとも言える。トランプ大統領はそうした発言をしている。そうなれば「平和維持軍」という口実でNATO軍を配備することが難しくなるだろう。軍事的な中立地帯を作ることにもなり、ネオコンが突き進んでいた「第3次世界大戦」を防ぐことにもなる。ゼレンスキーがレアアースに関する協定に署名しなかったのは予定通りだったのではないかと推測する人もいるが、この試みは失敗に終わったようだ。

 ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマ、そしてジョー・バイデンを支えてきたネオコンはロシアの制圧を目指していた。これはイギリスのエリートが作成した長期戦略に基づくもので、1904年にハルフォード・マッキンダーという学者がまとめ、発表している。ジョージ・ケナンの「封じ込め政策」やズビグネフ・ブレジンスキーの「グランド・チェスボード」もその理論がベースになっている。

 中期的な戦略では、ロシアとヨーロッパが経済的に結びつくことを防ぐことがウクライナ制圧の目的だった。ロシアとヨーロッパはロシア産天然ガスで関係を強めていたが、そのガスを輸送する主要なパイプラインがウクライナを通過していたため、ウクライナを制圧することでロシアとヨーロッパを分断できる。そうなればロシアから巨大なマーケットを奪い、ヨーロッパから安いエネルギー資源の供給源を潰せ、いずれも弱体化させられる。

 ロシアとドイツはこうしたリスクを認識していたようで、ウクライナを迂回するため、バルト海を通る2本のパイプライン「ノードストリーム(NS1)」と「ノードストリーム2(NS2)」を建設したのだが、バイデン政権はそれらを2022年9月に爆破した。

 ネオコンを含むアメリカの一部支配層は1991年12月にソ連が消滅した段階で自分たちが世界の覇者になったと信じ、1992年2月にアメリカ国防総省のDPG(国防計画指針)草案として世界制覇プロジェクトを作成した。この草案はポール・ウォルフォウィッツが中心になって書き上げられたことから「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。

 冷戦に勝利したと信じたアメリカの好戦派は核戦争でもロシアや中国に勝ってると信じたことは、​外交問題評議会(CFR)が発行している定期刊行物「フォーリン・アフェアーズ」の2006年3/4月号に掲載されたキール・リーバーとダリル・プレスの論文​を読んでも推測できる。そこにはロシアと中国の長距離核兵器をアメリカ軍の先制第1撃で破壊できるようになる日は近いと書かれている。

 北京の夏季オリンピックに合わせ、2008年8月にジョージア軍が南オセチアを奇襲攻撃したが、この攻撃はイスラエルとアメリカが兵器など軍事物資を供給、将兵を訓練しただけでなく、イスラエルが作戦を立てたと言われている。その攻撃でジョージア軍はロシア軍に完敗した。しかも2015年9月にシリア政府の要請で軍事介入したロシア軍は自分たちの戦闘能力が高く、ロシア製兵器の能力が高いことを世界に示したのだが、それでもネオコンたちはロシアが弱いと信じ、バイデンは「ルビコン」を渡った。

 2022年4月7日付けRFE/RL(ラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティー)に掲載された記事の中で、​2013年5月から16年5月まで欧州連合軍の最高司令官(SACEUR)を務めたフィリップ・ブリードラブ米空軍退役大将は、「核兵器と第三次世界大戦を非常に心配していたため、完全に抑止されてしまった」と語っている​。ロシアとの核戦争を恐れるべきではないという主張だ。

 2022年2月にロシア軍がウクライナへの攻撃を始めた当時、投入されたロシア軍の戦力はウクライナ軍の数分の1だったとされている。戦争の準備ができていない段階で、軍事作戦を始めねばならない事情が生じたということだが、それでもロシア軍は優勢。その年の9月にロシア政府が部分的動員を発表した後になると、ウクライナ軍の敗北は不可避だと見られていた。それでも戦争を続けようとしたのがネオコン。彼らにとってウクライナでの敗北は自分たちの破滅につながりかねないからである。

 ウクライナで追い詰められた彼らは戦車やF-16戦闘機を含む兵器を供与、バイデン政権はATACMS(陸軍戦術ミサイル・システム)ミサイルの使用をキエフ政権に許可、ロシアの深奥部に対する攻撃で使われている。その直後、イギリス製ストームシャドウとHIMARSミサイルも使用された。

 しかし、これらはウクライナ軍だけで使うことはできない。オペレーターのほか、地上だけでなく衛星からの情報、あるいはミサイルを誘導するためのシステムが必要。つまりNATO諸国の軍が関与していたのである。

 ATACMSの使用許可はロシアに核攻撃させることが目的だった可能性があるのだが、ATACMSなどの攻撃の直後、ロシア軍はマッハ10という極超音速で飛行する中距離弾道ミサイル、オレーシニクでドニプロにあるユジュマシュの工場を攻撃した。射程距離は約6000キロメートルだとされている。これは新型極超音速中距離ミサイルのテストを兼ねた警告だ。ロシアは核兵器を使わずにNATOの主要施設を破壊できることを示したのだ。

 ​ロシア軍は3月1日、イスカンデル・ミサイルでドネプロペトロフスク州にあるウクライナ軍の試験場を攻撃し、外国人教官最大30人を含む武装勢力最大150人を殺害した​と伝えられている。この訓練場にはウクライナ軍の第157独立機械化旅団の兵士が駐留していたという。当初、この攻撃をウクライナ側が認めなかったことから、被害は深刻なのだろうと推測する人もいた。ロシア軍は外国から入っている「教官」を意図的に狙ったのだろう。

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