【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.03.10XML: アサド政権崩壊後のシリアでは住民の虐殺が拡大、凄惨な状況になっている

櫻井春彦

 シリアのバシャール・アル・アサド政権はトルコを後ろ盾とするハヤト・タハリール・アル・シャム(HTS)やアメリカやイギリスに雇われているRCA(革命コマンド軍)を中心とする武装勢力によって倒され、HTSのリーダー、アーメド・フセイン・アル-シャラー(アブ・モハメド・アル-ジュラニ)が暫定大統領に据えられた。アル-シャラーは背広とネクタイを着込んでイメージ・チェンジを図ったが、その実態に変化はない。占領軍に対する抵抗運動が始まったとする報告がある。

 HTSはアル・カイダ系戦闘グループのアル・ヌスラ戦線を改名した組織。アル・ヌスラはシリアで活動を始める前、AQI(イラクのアル・カイダ)」と呼ばれていた。この集団には、殺害の際に首を切り落とすことで知られている新疆ウイグルの人間も含まれているという。

 西側の有力メディアはシリアの状況にさして興味がないようだが、新体制の武装グループによる虐殺が続き、その凄惨な状況を示す映像がインターネット上で伝えられている。狙われているのはキリスト教徒、アラウィー派、シーア派が中心で、すでに女性が子どもを含む数千人が犠牲になっているとされていると伝えられているが、新たなデータが出るたびに犠牲者数は急速に増えているため、その実態は明確でない。

 ​シーモア・ハーシュが2007年3月にニューヨーカー誌で書いた記事によると、ブッシュ政権はイスラエルやサウジアラビアと手を組み、シリア、イラン、そしてレバノンのヒズボラを叩き潰そうと考えた​。これはズビグネフ・ブレジンスキーが1970年代に始めた戦術。2009年にアメリカ大統領となったバラク・オバマの師はそのブレジンスキーだ。

 オバマ大統領が2010年8月にPSD-11を承認した。ムスリム同胞団を利用し、地中海の南部や東部の沿岸で体制転覆工作を仕掛けるという計画だった。その計画に基づいて北アフリカや中東の地中海沿岸で体制転覆を目指す運動が活発化、有力メディアはそれを「アラブの春」と呼んでいた。シリアやリビアに対する軍事攻撃もその中で引き起こされている。

 しかし、そうした体制転覆工作はその前から始まっているようだ。ネオコンは1980年代からイラク、シリア、イランの制圧を目論んでいた。欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)の最高司令官を務めた経験のあるウェズリー・クラークによると、2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎が攻撃されてから10日ほど後、彼は統合参謀本部で見た攻撃予定国のリストを見ている。そのリストにはイラク、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、そして最後にイランが記載されていた。(​3月​、​10月​)またロラン・デュマ元仏外相によると、2009年に彼がイギリスを訪問した際、イギリス政府の高官からシリアで工作の準備をしていると告げられたという。

 ネオコンは1980年代、まずイラクのサダム・フセイン政権を倒して親イスラエル体制を樹立、シリアとイランを分断してそれぞれを個別撃破する計画を立てていた。その計画は2003年3月、アメリカ主導軍によるイラクへの先制攻撃という形で実現したが、その攻撃を正当化するために利用されたのが2001年9月11日の攻撃だ。この攻撃を誰が何のために行ったのかは詳しく調査されず、今でも「不明」だ。イラクが大量破壊兵器を保有、アメリカに対する攻撃に使うと西側の有力メディアが宣伝していたが、嘘だった。

 アサド政権が倒された後、シリアでは住民が虐殺されている。シリアを含む地中海沿岸諸国に対する攻撃を始めたのはバラク・オバマ政権であり、そのプロジェクトをドナルド・トランプ政権やジョー・バイデン政権も踏襲。そして現在、シリアは混乱状態であり、破綻国家と化しつつある。リビアのような無法地帯に向かっているとも言えるだろう。欧米の帝国主義諸国が計画した通りだ。

 アル・カイダ系武装集団はイスラエルを攻撃してこなかった。HTSやRCAも例外ではない。そのイスラエルが軍隊をシリアへ侵攻させ、シリア軍の生き残りを殺害、インフラを破壊している。イスラエルの新聞、エルサレム・ポスト紙によると、​ヤコブ・ナゲル議員を委員長とする「ナゲル委員会」は、トルコがオスマン帝国時代の影響力を回復しようとする野望によってイスラエルとの緊張が高まる可能性があると指摘、直接対決に備える必要があると警告している​が、そこにはイスラエルの「大イスラエル構想」も隠れている。トランプ政権の現閣僚はそのイスラエルを支持している。

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