
【櫻井ジャーナル】2025.03.13XML: ウクライナの敗北が決定的な中、米政府は露政府を交渉の席につけて利権確保へ
国際政治ロシア軍は3月上旬にクルスクのスジャにある工業地帯の北部へ入り込み、ウクライナ軍の背後を制圧して補給路を断つことに成功した。退却できなくなったウクライナ軍はパニック状態だという。
スジャへの侵入は地下に埋設された直径1.4メートルのパイプラインが利用されたと伝えられている。パイプのひとつから天然ガスを排出、酸素を注入した上で特殊部隊がパイプラインから近くの森へ入り、約800名の兵士が続いたという。
ウクライナでの戦闘を話し合いで停止させると言いながら動き回っていたドナルド・トランプ米大統領や、トランプの任期が切れる4年後までロシアとの戦闘を維持しようと目論んでいるというEUのリーダたちもこの展開には驚いたようだ。
そうした中、ウォロディミル・ゼレンスキーはドナルド・トランプ政権が提案したロシアとの「即時暫定30日間停戦」に同意し、アメリカがウクライナの重要な資源にアクセスできるようにする協定に「できるだけ早く」署名する用意があると表明したと伝えられているが、ロシア政府はすでに公表している条件が達成されないかぎり、戦闘を継続するだろう。ロシア政府は西側を全く信用していない。
2023年の段階からロシア軍は優勢で、マリウポリ、ソレダル、マリインカ、アウディーウカの地下要塞を結ぶ要塞戦が2024年2月までに突破された段階でウクライナの敗北は決定的だった。時間の経過に伴ってアメリカが手にできる利権が減っていく。そこでトランプ政権は早く停戦に持ち込みたいのかもしれないが、ロシア側は目的を達成するまで停戦に応じないと見られている。
ロシアの目的は当初からNATOの拡大を止めること、モスクワを標的にできる攻撃システムをロシアの隣国へ配備しない法的な保証、NATOなど西側諸国によるロシア国境近くでの演習を禁止すること、NATOの船舶や航空機はロシア国境から一定の距離より内側へ入らないこと、定期的な軍同士の協議、ヨーロッパに中距離核兵器を配備しないことなどだ。ネオ・ナチの排除も求めるだろう。
しかし、ウォロディミル・ゼレンスキー政権で大統領府長官を務めているアンドリー・イェルマークは「平和な生活」がすぐにでも実現するかのような幻想を振り撒いている。停戦合意の裏付けになる安全保障、ヨーロッパのロシアに対する「制裁」の強化、「凍結」されたロシアの資産をヨーロッパが「管理」してウクライナへの支援に使うという条件を提示している。アメリカ/NATOの軍隊をウクライナへ入れ、ロシアに対する経済戦争を強化、ロシア資産を没収してウクライナへ提供するということだが、そうしたことをロシア政府が看過するとは思えない。
トランプはフォクス・ニュースのインタビューで「ウクライナはいずれにしても生き残れないかもしれない」と指摘、「この戦争は起こってはならないものだ」と発言した。
2014年から8年かけてアメリカをはじめとするNATO諸国はウクライナのクーデター体制の戦力を増強した。2014年のミンスク1と15年のミンスク2が時間稼ぎに使われた。アンゲラ・メルケル元独首相やフランソワ・オランド元仏大統領は後に、この合意がキエフのクーデター体制の軍事力を強化するための時間稼ぎに使われたと証言している。そして2022年に入るとクーデター軍は反クーデター派の住民に対する砲撃を強めた。春にはドンバスに対する本格的な軍事侵攻を開始、ロシア軍を要塞線の内側へ誘い込み、その一方でクリミアを別働隊に攻撃させる計画だったとも推測されているが、2022年2月21日にロシアのウラジミル・プーチン大統領はドンバスの独立を承認、2月24日にロシア軍はウクライナの軍事基地や生物化学兵器の研究開発施設などを巡航ミサイルなどで攻撃しはじめた。
ジョー・バイデン政権はロシア軍による攻撃を「予言」していたが、その当時、ロシア側はまだ戦争の準備はできていなかった。そこでロシア軍の戦力は当初、ウクライナ軍の数分の1だったと言われているが、ミサイルによる攻撃が効果的だったようで、短期間にキエフ政権側は大きなダメージを受け、そして停戦交渉が始まった。
その交渉を仲介したのはイスラエルの首相だったナフタリ・ベネットやトルコ政府。2023年2月4日に公開されたインタビューの中で、ロシアとウクライナはともに妥協、停戦は実現しそうだったと語っている。
2022年3月5日にベネットはモスクワでプーチンと数時間にわたって話し合い、ゼレンスキーを殺害しないという約束をとりつけた。その足でベネットはドイツへ向かい、オラフ・シュルツ首相と会っている。ウクライナの治安機関SBUがキエフの路上でゼレンスキー政権の交渉チームに加わっていたデニス・キリーエフを射殺したのはその3月5日だ。
4月に入ると西側の有力メディアはロシア軍がブチャで住民を虐殺したと宣伝し始める。マクサー・テクノロジーズなる会社から提供された写真を持ち出し、3月19日に死体が路上に存在していたと主張しているが、ロシア軍が撤退した時点では住民の殺戮は証言されていない。
ウクライナ軍の撤退は停戦交渉の進展に基づくもので、3月30日にはブチャから撤退を完了。31日にはブチャのアナトリー・フェドルク市長がフェイスブックで喜びを伝えているが、虐殺の話は出ていない。その後に街へウクライナ内務省の親衛隊が入り、「ロシア軍に寛容だった」とみなされた住民が虐殺されたと言われている。
そして4月9日、イギリスの首相だったボリス・ジョンソンがキエフへ乗り込み、ロシアとの停戦交渉を止めるように命令、その後も姿勢を変えることはなかった。4月30日にはナンシー・ペロシ米下院議長が下院議員団を率いてウクライナを訪問、ゼレンスキー大統領に対してウクライナへの「支援継続」を誓い、戦争の継続を求めている。こうした動きを見てロシア政府は話し合いで問題を解決できないと腹を括ったようで、2022年9月に部分的動員を発表した。
国家安全保障補佐官だったジェイク・サリバンは2023年2月、CNNのタウンホールで「ロシアはすでに負けている」と主張。軍事の素人である彼は本気でそう信じていたようだ。その際、USAID(米国際開発庁)のサマンサ・パワー長官も同席していた。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は2022年当時、ロシア軍は洗濯機からチップを調達していると主張していたが、最近はロシア軍からの差し迫った脅威を叫び、軍事費を膨らませることを正当化している。すでに詐欺師の領域に入っていると言えるだろう。
現在、ウクライナ軍は降伏するか全滅するしかない状態だが、イギリスやフランスを含む反ロシア感情の強い国々はロシアの要求を拒否する姿勢を見せている。イギリスのキール・スターマー首相は3月2日に安全保障サミットを開催し、ウクライナへの軍事援助を継続、ロシアに対する経済的圧力を強め続けると主張している。
さらに西側諸国は地上部隊をウクライナへ派遣、イギリスは地上軍と空軍でその部隊を支援する用意があるとしているのだが、ヨーロッパ諸国の軍隊にはロシア軍と戦う能力はなく、その兵器庫は空だと言われている。アメリカ軍を引き込まなければロシアとの戦争を継続することはできない。
トランプ後に反ロシア政権がアメリカに誕生することをイギリスやフランスは願っているのかもしれないが、トランプ政権もロシアの完全勝利は望んでいないと見られ、ロシアが再び交渉のテーブルに着くことを望んでいるだろう。ロシアが交渉のテーブルにつけば、ウクライナの利権を手にできる可能性があるからだ。バイデン政権に仲介役は不可能だが、トランプ政権なら可能だとする読みもあると見られている。ともかくトランプ大統領は「公正な仲介役」を演じる一方、ロシアを交渉の席へつくまでウクライナ軍を戦わせなければならない。
**********************************************
【Sakurai’s Substack】
**********************************************
【Sakurai’s Substack】
※なお、本稿は櫻井ジャーナルhttps://plaza.rakuten.co.jp/condor33/
「ウクライナの敗北が決定的な中、米政府は露政府を交渉の席につけて利権確保へ」(2025.03.13XML)
からの転載であることをお断りします。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202503120000/
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
★ISF(独立言論フォーラム)「市民記者」募集のお知らせ:来たれ!真実探究&戦争廃絶の志のある仲間たち
※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202410130000/
ISF会員登録のご案内