
☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年3月18日):いま米国は青天井の下で展開される世界最高の劇場だ。トランプの言動が米・英だけでなく西側世界の偽善性を目の前で見せてくれる。
国際※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。
アメリカ合衆国は世界最高の劇場だ。青天井のもと、スタンドアップコメディ(*)が上演中だ。
*一人で舞台に立って、話術の面白さで観客を笑わせる芸
昔々、ゼレンスキーとトランプ、ヴァンスという男たちがいました…。
我々は国際関係史上最も荒々しい芝居の一つを目撃した。リングの一方のコーナーにはドナルド・トランプ大統領とJ・D・ヴァンス副大統領、もう一方のコーナーにはウォロディミル・ゼレンスキーがいた。この試合は、いじめと傲慢さに基づく米国政治にふさわしい、動物的ことばの応酬で戦われた不平等な戦いだった。
双方にとって、綿密に仕組まれた罠だったこの試合を細部まで見逃さないように準備万端の記者が詰めかけた部屋で、冗談の応酬が繰り広げられた。トランプとその仲間たちにとっては、米国の戦争努力に関する選挙公約の一部を果たす好機であると同時に、5月9日を前にしてプーチン大統領に気に入られる方法も考えなければならず、大西洋の向こう側にある従兄弟たちである英国側に打撃を与えるべき動きもあり、前政権が仕掛けた番犬たちの一部を解体する内部的な動きでもあった(ただし、ゼレンスキーはこれまではトランプに嫌われたことはなく、むしろその逆だった…)。ゼレンスキーにとっては、トランプを困らせる、少なくともそれを試みる好機だった。
事実、トランプは煽り屋であり、米国のレストランで話すのにふさわしい政治的な言い方を持ち、人々の腹に訴えるのが得意だ。彼は政治の世界の出身ではなく、事業家なので、要点を押さえる方法を知っており、通常は事前に知らされた手順には従わない。彼は、最近も含め、事業をうまくおこなうことによって世界中で政治的な恩恵を得られることを何度も示してきた。彼はこれをどうやっておこなうかを知っており、実際におこなっている。
一方、ヴァンスは政治家として生まれ、十分に準備されたトランプの後継者となるだろう。彼はトランプとは異なる視点を持ち、異なる言葉遣いで話し、おそらく異なる野心を持っている。ゼレンスキーとの対決におけるヴァンスは、トランプよりもはるかに鋭く、より恥知らずだった。彼の攻撃性や演説に介入するタイミング、ゼレンスキーの特定の側面を指摘し、それを巧みに攻撃するための誤謬として利用したことなど、すべてが、これから起こることを非常に正確に研究していたことを示唆している。
一方、ゼレンスキーは、相手を罠に引きずり込もうと、あまりに些細な議論を繰り広げたため、その戦略は刺激を抑えた策としてしか受け止められなかった。おそらく、軍事協定がうまくいかなかいことは予め知っていたのだろう。彼の存在はむしろ(悪い)行儀の問題であり、すでに何度も示されたこの悪趣味は、挑発的な発言とリングでの打撃に耐えることが著しくできない姿をみせることで再確認された。
ゼレンスキーの明らかな敗北には誰もが注目した。問題は、もし彼が勝つつもりはなく、ただ出席して自分の役割を果たし、その後ロンドンに戻って報告するつもりだったとしたらどうなるか、だ。
この光景が何十億もの人々の記憶に永遠に残ることは間違いない。ヨーロッパにおける英米の軍事的、政治的占領の副産物であるウクライナは、ゼレンスキー大統領によって嘲笑されたが、彼は主人たちによって秩序を取り戻した。
政治的意義
トランプとヴァンス、ゼレンスキー会談の核心を理解している人はほとんどいない。
まず、マクロンの仲裁の試みは、顔には笑みが浮かんでいたにもかかわらず(マクロン自身も大統領就任当初からトランプに接近しようとしていたことを思い出そう)、大失敗に終わったことは明らかだ。次に、特に活動的な副大統領であり、トランプの後継者候補でもあるヴァンスの役割を強調することが極めて重要だ。
ヴァンスが擁護するいわゆる民主主義的価値観は見せかけに過ぎない。伝統に従い、米国政府は自らを「民主主義」と称してはいるが、現実には可能な限り非民主的となるように設計されている。ヴァンスの主な思想の源流の中に、「非公式産業独裁」の理論家であり提唱者であるカーティス・ヤービンがいるのは偶然ではない。
もう一度言うが、今の新政権に特に独創的な点はない。米国の歴史には、技術産業の効率性(テイラー主義)の神話や、技術的進歩主義が社会的保守主義と融合する繁栄の神話など、同様の考えが流れてきた。このため、MAGA運動やトランプとマスクの考えを20 世紀のヨーロッパの全体主義の経験と関連付けようとする人は、明らかな間違いを犯している。トランプ主義は、米国の歴史的軌跡と完全に一致している(2020年の議会襲撃でさえ、19世紀のアンドリュー・ ジャクソン大統領に関連した歴史的前例があることを考えると、革命的なことは何もない)。喧伝の点では、ジョン・デューイは、これが大衆を教育する上でいかに重要であるかを理解していた。
同様にトランプの孤立主義とも言われているが、これについても簡単に説明しておく必要がある。米国が自らを孤立させることができる、という考えは誤解を招く。なぜなら、米国は(歴史的に)完全に孤立したことはないからだ。第一次世界大戦後、フーバー大統領がウィルソン主義と国際連盟への加盟を拒否したときでさえ、米国が国際舞台から完全に撤退したわけではなかった。米国は単に国際機構に加盟せず、独立して行動することを選んだだけであった。
ヴァンスは、米国はウクライナの破壊を避けたい、と述べている。この副大統領の発言には「人道的」なところはまったくない。ウクライナの惨事の責任はトランプ政権第1期に大きくあったという事実にもかかわらず、ロシアが地上で過剰な行動に出ないようにするには、米国が今交渉し(そしてすぐに合意に達する)必要があることをヴァンスは暗に認めている。実際、地政学的に、戦争が続くと、ロシア側がウクライナを黒海から孤立させるという危険を伴うだろう。
そうなれば、米国の長期的な戦略的利益を損ない、ロシアの国際的立場を著しく強化することになるため、このような状況は、いかなる犠牲を払ってでも回避すべき可能性である。
最初はワシントン、次にロンドン
2つの催しの画像がすべてを物語っている。ワシントンでの最初の状況では、男性的な姿勢で広い脚、頑強な男性の姿。次のロンドンでは、スターマー(英国首相)は脚を組んで淑女らしく、より公的な状況である。
どう振舞っていいか曖昧だったヨーロッパは第2案を選択した。それは、戦争に綿菓子とユニコーン、つまり金と武器を送り込むことを提案し、ロシア人はそれらを恐れるだろうと主張することだった。
支配的な言説は、ヨーロッパはロシアの拡張主義に対抗するために武装しなければならない、というものだ。ウクライナは負けるわけにはいかない、勝たなければならない、さもなければプーチンは止まらずポルトガルにまでやってくるだろう。何十億ポンドと何十億ユーロもの資金が、要塞を築くために公共事業から流用されている。8000億ユーロの話だ。そうだ8000億ユーロだ。健康や学校、社会保障のための資金は決してないが、戦争をするためにはそんな資金はすぐに見つかる。それがなぜかは誰にも分からない…
ゼレンスキー大統領のホワイトハウス訪問の光景は、外交上の惨事というだけでなく、何十年も支配してきた世界秩序に対する残酷な現実を突きつけるものだった。かつて「自由」と「民主主義」の言葉に包まれていた西側諸国は、ついにその仮面を脱ぎ捨てた。トランプは、ウクライナは交渉の材料であって同盟国ではないことを取り繕うとさえしていない。これこそ、衰退する帝国に未来を託す者たちの運命だ。
この瞬間の影響はウクライナ当局や米国当局だけにとどまらない。世界はすでに、死にゆく一極体制に固執する者と、新たな多極体制を創り出そうとする者の間で分裂している。亀裂は広がり、同盟は緊密になり、絶望が軽率な決断につながるにつれ、私たちは現代最後の大戦争にどんどん近づいている。
ゼレンスキーは、周知のとおり、マイダン後の2019年に、米国務省の資金と指導のもと、トランプ大統領の下で就任した。再びゼレンスキーは米国側からの命令でロシアと交渉しないように命じられ、再びトランプ政権下で、NATOによるウクライナへの最初の武器移転が始まった。
ゼレンスキーが最初にワシントンに行き、その後ロンドンに行ったという事実は、彼がもはや決定的に役に立たなくなって奈落の底に消えてしまう前に、彼にとってこの両国のうちどちらがより重要なのか、あるいは、どちらが彼を生き延びさせることにもっと関心があるのかを私たちに考えさせるはずだ。
ヨーロッパは停止
ヨーロッパ諸国は、トランプに反対することでどのような結果になるか想像もつかずに、自分たちが困難な立場に置かれていることに気付いた。いずれにせよ、たとえ望んだとしても、ウクライナの対ロシア戦争を実際に支持することはできない、と気付いたのだ。
欧州と英国の意図は部分的にはったりだった。つまり、プーチン大統領に交渉を迫るために、あと1年かそこら紛争を継続させることだったのだ。プーチン大統領はすでに交渉に応じるつもりだ(だが、今のように彼自身の条件でのみだ。なぜなら、欧州の支援を受けたウクライナが来年ロシアに戦略的な損害を与える見込みはないからだ)。
1年後には戦場の状況が交渉でウクライナに有利になるかもしれないという考えは、ヨーロッパ側の誤った希望であり、おそらく自らを正当化しようとすることと国民に提示する物語を持つことの間のどこかにあるのだろう。スターマーは最高の紛争専門家ではないが、戦争を1年延長してもウクライナに何十万人もの死者を出す以外に何の意味もないことを彼はよく理解していると思う。
したがって、私たちは、戦争継続しようとする皮肉な主張に直面しているが、同時に、ゼレンスキーにトランプとの対話を再開するよう説得する必要がある。なぜなら、結局、ヨーロッパ自身が、失敗に次ぐ失敗を重ねてきた戦争を自分たちの国民世論に永遠に売り込み続けることはできないからだ。米国民主党の言葉遣いに非常に敏感なヨーロッパの支配階級が、「独裁国家」や悪いロシア国民との戦いについて偽善的な叙事詩を語りたがることには、多くの政治思想的動機があるが、結局、支配階級は自分たちの政治的一貫性の欠如を露呈することを恐れているのだ。彼らは、打開策を見つけなければならないことを知っており、わずかな常識で、言説を変え、対話の時が来たことを国民に説明し、ロシアが本当に勝ったのではない、と人々に信じ込ませるために、時間を使う必要があることを理解している。この展開では、ヨーロッパの指導者たちは、少なくともわずかな常識を持っているかもしれない。ホワイトハウスの立場は徐々に改善されるだろうが、明らかな亀裂は生じないだろう。ヨーロッパは、自国の政治家が嘲笑される危険を冒して、もうしばらくウクライナの戦争活動に資金援助を続けるかもしれない。スターマーの最近の発言から判断すると、彼らはトランプと直接対決することを望んでいないようだ。
ほぼ確実に、一部の欧州政治家は、このNATO危機を利用して、必要ではないと考えられている主権をさらに譲渡することになる共通の欧州防衛政策という考えを推進しようとするだろう。
米国は今日、(逆説的にロシアよりも)そうする必要があるにもかかわらず、依然として相対的に強い立場から交渉することができる。
ゼレンスキーの政治的冒険はここでほぼ確実に終わるだろう。彼は米国側の指示に従うか、ロンドンの独占状態に入るかのどちらかだ。これは大した問題ではない。確かなのは、彼は西側諸国で自由の大将として称賛され、数え切れないほどの若い市民を抹殺することに成功したということだ。彼が知っている唯一の自由は、自分のものではないお金を使う自由だ。そして、それもまもなく終わるかもしれない。
ヨーロッパは、これから起こる日食やエイリアンの侵略、そしてカリユガという暗黒時代を乗りこなせるカルキアヴァターラ(*)の出現にまだ希望を抱くことができる。しかし、ヨーロッパの指導者たちに期待することはできない。
*ヒンドゥー教における神のしもべの英雄の一柱。暗黒時代(カリユガ)の救世主とされる。
大見世物は続けなければならない。皆様、席にお着きください。見世物はまだまだ続くのですから。
※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS(2025年3月8日)「いま米国は青天井の下で展開される世界最高の劇場だ。トランプの言動が米・英だけでなく西側世界の偽善性を目の前で見せてくれる。」
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また英文原稿はこちらです⇒The Greatest Show must go on
筆者:ロレンツォ・マリア・パチーニ(Lorenzo Maria Pacini)
出典:Strategic Culture Foundation 2025年3月9日
https://strategic-culture.su/news/2025/03/09/the-greatest-show-must-go-on/