
青柳貞一郎さんインタビュー(下): 医療・軍事・検閲の真相を、多面的に探究する医師・言論人
国際政治著しい情報隠しによる自己決定権の阻害
コロナワクチンの審査資料が黒塗りだらけであることも、青柳さんは自己決定権の根幹である「インフォ―ムド・コンセント」の観点から、問題視しています。「外科手術の同意報告書が黒塗りだらけだったら、署名できますか」という疑問はもっともです。顕著な黒塗り・情報隠蔽の実例として、PMDAが公開しているモデルナワクチンの「審議結果報告書」(21年5月20日付、11頁)から引用しておきます。このような状態では、専門知識を持つ人すら、薬剤の安全性について正確に判断することは難しいでしょう。
https://www.pmda.go.jp/drugs/2021/P20210519003/400256000_30300AMX00266_A100_4.pdf
このような著しい情報隠しが行われながら、かかってもほとんどの人が軽症である新型コロナに対して、ほぼ全国民に対してまさに正体不明のワクチン接種が推奨されたのは異常である、という青柳さんの憤りは多くの人が共有するところでしょう。
政府の情報公開への消極的な姿勢として、ファイザー社・モデルナ社・アストラゼネカ社・武田薬品と政府のワクチン供給契約書が、ウェブメディア・InFactの開示請求にたいして、各企業や厚労省の利益を損なう恐れがあるといった理由で、全面不開示になった、という事実も、私から補足しておきます。全面不開示は、黒塗り開示よりも1段階上の拒否的対応であるといえるでしょう。まるで、製薬会社が政府の上に位置しているかのようにも感じられますが、大手メディアがこうした事実をなかなか取り上げないため、大多数の国民はこうした実態を知らないままなのでしょう。
InFact:「全て『不開示』という 新型コロナのワクチン契約書【ワクチンのファクト⑥】」、2021年10月29日。https://infact.press/2021/10/post-14263/
現代の「科学の権威を利用した支配」に警戒を
このように、mRNA技術のような最先端科学とその実践には、粗いところも目立ちます。にもかかわらず、徹底的に専門分化させ、国境を越えて妥当する「最先端科学」の威光で民衆を従わせることが、21世紀の支配の特徴である、と青柳さんは説きます。青柳さんが図表で示した「民衆を政策に従わせる手法の変遷」は、思想史的に見て、とても示唆に富むものです。
「温暖化とコロナに流されない市民の会」、「世話人の一言」から引用。
https://ondan567kai.wixsite.com/index/services-9
BRICSや米国共和党系の多極主義と、米国民主党系のグローバリズム
インタビューは、こうした支配構造の問題を介して、医療の話題から、政治の話題に転じました。青柳さんは、現状の政治の対立図式を、右翼対左翼ではなく、BRICS等の多極主義・国家資本主義対グローバリズム・世界単一政府という構造で把握しています。米国では、民主党の方がグローバリズムに近く、日本を含む「西側」を従えて一極覇権を維持しようと目指すのに対し、トランプ政権・共和党は多極主義に近い、という指摘には納得させられます。かつてサミュエル・ハンチントンが「文明の衝突」という形で世界が多極化すると見通しましたが、文明同士の「断層」(fault line)に沿って戦争が起きがちであり、ロシア・ウクライナ戦争もその一例である、と青柳さんは考えています。
現在の多極主義対グローバリズムの対立に至る思想的変遷を、青柳さんが図式的に整理した、以下の図表もとても参考になります。
(引用元は、上の「世話人の一言」と同じ)
国民国家と民族国家の二重性からウクライナ紛争を読み解く
特に興味深かったのは、「ネーション・ステート」という概念を巡る青柳さんの議論です。この言葉は語義的には、「国民国家」とも「民族国家」とも翻訳可能です。ウクライナ紛争については、「国民国家」という視点を取れば、多数派が形成した中央政府の権威が絶対であり、ドンバス等の一部地域が中央政府の了承なく分離独立する等とんでもない、ということになります。他方で、「民族国家」という視点を取れば、ドンバスのロシア系住民への差別・弾圧は決して許されるものではなく、分離独立も、手続き次第では正当化されうる、ということになります。
「元自衛官らしからぬ発想かもしれません」と青柳さんは自覚しつつ、「元来『共同幻想』(吉本隆明氏)である国家のため、個人はどこまで命を懸けて戦うべきなのでしょうか。独立戦争には大義があるのでしょうが、それ以外の戦争は、個人よりも共同幻想を不当にも優先するものになっています」という見解を示しています。
コソボのセルビア政府の承認を得ない独立を西側は爆撃までして支援したのに、クリミアやドンバスはどう違うのか、という青柳さんの疑問ももっともです。私が調べた限り、国際法学者らは単なる独立と、その後の他国への併合の違いを重視しているようですが、青柳さんは、手続き的に正当な住民投票がなされれば、他国との合併も自己決定権のうちではないか、と問題提起しています。
ウクライナの戦況分析と、イスラエルのAI兵器の脅威
話題は政治から、青柳さんが『紙の爆弾』24年7月号に寄稿した記事「ウクライナとガザで実行中の『最新戦術』の正体」でも分析した軍事問題へと転じます。ロシア・ウクライナ戦争は、ドローンが本格的に投入される初めての大規模戦争であること。無線妨害対策で、あえてローテクな有線ドローンが使われるようになっていること。ロシア軍が非常にゆっくり進軍するのは、自軍と民間の犠牲を減らすためであると推測されること。さらには、ロシア軍の方がウクライナ軍より多く戦死している、という西側メディアの報道は誤りである可能性が高く、Mediazonaというロシアに対して厳しいサイトでも、ロシア軍10万人、ウクライナ軍70万人などと見積もられていること。というのも、軍事的には戦死の約7割は砲爆撃によるもので2割が銃撃とされますが、ロシア軍がウクライナ軍よりも10倍近く砲撃しており、ミサイルでも優勢です。西側はハイテク兵器を有しているが製造業が外部委託により空洞化していることもあって大量生産ができないのに対し、ロシア側は比較的簡素な構造の大砲をより多く生産する能力があること等。
Mediazona:https://en.zona.media/
イスラエルについては、ハマス戦闘員を探し出すWhere’s Daddy、具体的な攻撃命令書を作成する「福音」(Habsora)等、目標殺害のためには家族等非戦闘員の巻き添えを配慮しないAIシステムによる戦争が実行されていることが重要、と青柳さんは語ります。こうした犠牲をいとわない作戦は、相手を対等な人間だと思っていたらなかなかできない、と私は思います。このような事実上の殺人装置が「福音」だとは、大変悪趣味な命名であるともいわざるをえません。
国家も関わる情報統制機関としての「検閲産業複合体」の脅威を自覚する
最後に、医療にしても軍事にしても政治にしても、情報流通が歪められているから世論もおかしくなると私が考えていることもあり、いわゆる「検閲産業複合体」の問題についてお尋ねしました。『紙の爆弾』24年10月号に、青柳さんは「日本にも進出する情報統制機関 政府・企業・組織『検閲産業複合体』の脅威」という貴重な記事を寄稿しています。この複合体は、23年3月の米国下院議会で行われたジャーナリスト、マイケル・シェレンバーガー氏の証言で明らかになったものです。FBI等の政府機関、シンクタンク、NGO、大学、ファクトチェック会社等が連携し、フェイスブック、X(ツイッター)、ユーチューブ等のネットメディアに対し、権力側に対して不都合な情報を検閲して削除させ、しかも民衆が信じるべきとされる情報を広めてきたことがわかっています。検閲対象は、コロナとワクチンの問題、温暖化問題、ハンター・バイデン氏がウクライナ関連等で起こしたスキャンダル情報等、多岐に及んでいます。
Shellenberger Testimony/The Censorship Industrial Complex.
https://docs.house.gov/meetings/IF/IF16/20230328/115561/HHRG-118-IF16-20230328-SD012.pdf
この報告書は、ISFでもおなじみの「寺島メソッド翻訳NEWS」で、6回に分けて日本語に翻訳されています。
「検閲産業複合体:米国政府による国内検閲と偽情報宣伝活動へのテコ入れ 2016年―2022年」2023年7月26日-8月8日。
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1814.html
青柳さんは、グローバリズムの総本山の一つともいえる組織「世界経済フォーラム」が、Global Risks Report 2024 という公式資料において、次の2年間の最大のリスクは「誤情報と偽情報」(Misinformation and disinformation)であると挙げていることに注目しています(Global risks ranked by severity over the short and long term、p,8, Figure C)。
こうした検閲産業複合体は、日本にも事実上存在する、と青柳さんは指摘します。通信分野を所管する総務省は、「偽情報対策に係る取組集Ver1.0」という23年3月公開の資料において、「ヤフーニュース」がコメント欄で、厚労省の公式見解に反する内容の書き込みを禁止、削除してきたことを報告しています。ヤフーと同じ系列の「ライン」もまた、「オープンチャット」上で、「政府が公式に否定する情報の投稿」を削除している、と認めています。国家が直接的に情報を削除するわけではなく、民間のプラットフォーマーが国家公認の情報を金科玉条のような標準として忖度しつつ、それに反する情報を排除する、という狡猾な構造が構築されていることがわかります。一見中立的な「日本ファクトチェックセンター」(JFC)が、総務省の提言に応じる形で創設された、といった事情も忘れてはなりません。
取組集:https://www.soumu.go.jp/main_content/000868124.pdf
こうした表面上は民間主導の傾向は、総務省が「プラットフォームサービスに関する研究会 最終報告書の概要(フェイクニュースや偽情報への対応関係)」という2020年2月公開の文書で、政府は「民間による自主的な取組を尊重し、その取組状況を注視」という姿勢を示していることに対応しているようです。
報告書概要:https://www.soumu.go.jp/main_content/000670018.pdf
報告書全文:https://www.soumu.go.jp/main_content/000668595.pdf
この文書が「表現の自由への萎縮効果への懸念」を重視しているのはよいのですが、「ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などのプラットフォームに固有の特性がネット上の偽情報の顕在化の一因」と記述しているところが、私には気になります。結局のところ、誤情報や偽情報は常に民間のSNSから出てくるものであり、政府発の情報は常に正しい、といった傲慢さが透けて見えるからです(同報告書概要3-4頁)。
公開情報から見えてくる真相
青柳さんが自衛隊時代に、同じ部隊の幹部から伝えられてよく覚えている教訓があります。曰く、「真実の8割は、表に出ている情報から得ることができる」と。これは誰でも入手できるオープンソース情報の詳しい分析によって相当多くのことがわかることを意味し、大変勇気づけられます。いわゆる機密情報に接することができなくても、決して無力ではない、ということです。その上で青柳さんは、「表側に出てくる情報をそのまま信じるのではなく、なぜこの情報が特定の時期に出ているのか、ということまで含めて考える」とも助言します。自衛隊や大学病院には、コロナワクチン問題の真相を当初から見抜いている人が少なくなかった、と青柳さんは証言します。
これからも、医療・軍事・情報について、複眼的な視点からの考察を深めて発信していくであろう青柳さんの言論活動にご注目ください。

防衛医科大学卒業、元陸上自衛隊医務官、医師、東京医科大学名誉教授、医療・軍事ジャーナリスト。温暖化とコロナに流されない市民の会代表。ブログ:「rakitarouのきままな日常」https://blog.goo.ne.jp/rakitarou

1984年生まれ。東京大学文学部卒、同大学院人文社会系修士課程修了(哲学専門分野)。著書に『ウクライナ・コロナワクチン報道にみるメディア危機』(2023年、本の泉社)。主な論文は『思想としてのコロナワクチン危機―医産複合体論、ハイデガーの技術論、アーレントの全体主義論を手掛かりに』(名古屋哲学研究会編『哲学と現代』2024年)。 論文は以下で読めます。https://researchmap.jp/fshimazaki ISFでは、書評とインタビューに力を入れています。 記事内容は全て私個人の見解です。 記事に対するご意見は、次のメールアドレスにお願いします。 elpis_eleutheria@yahoo.co.jp Xアカウント:https://x.com/FumiShimazaki