
3月24日のウクライナ情報
国際3月24日のウクライナ情報
安斎育郎
❶ウクライナ置き去りの停戦、世界各国への関税強化…アメリカが失った「コモングッド」とは?(2025年3月21日)
西田 亮介:日本大学危機管理学部教授、社会学者
■ トランプ2.0に翻弄される世界
第2次トランプ政権、トランプ2.0の選択に世界が翻弄されている。
紛争当事国であるウクライナを置き去りにして、ロシアとの侵略戦争の停戦を模索し、一方ではイスラエルによる「停戦破り」を黙認している。
自由貿易の旗手でもあったはずだが、カナダやメキシコといった国境を接する国々や日本のような同盟国も含めて世界中に関税をかけていこうとしている。
日本に関連するところでいえば、在日米軍の機能強化停止が検討されているという。
◎在日米軍強化の中止検討 トランプ政権、連携に影響も―報道:時事ドットコム
日米安全保障条約と憲法9条は、アメリカの核の傘と抑止力を借り、日本は「最小限度の実力」を保持するという戦後安全保障の基軸であり根幹にあたる。
北東アジア地域の安全保障上のリスクの増大はかねてから指摘されているとおりである。中国の台頭、北朝鮮、ロシアの隣接などを挙げるだけでも十分であろう。
在日米軍の機能強化停止は、その分、日本の負担増加や、そもそも有事において米軍を期待できるのかという問いを日本に想起させかねない。
日米安全保障条約の片務性は歴史のなかで相当程度解消されてきただけに日本社会に与える影響も大きい。
新安保への改正や、1978年の日米防衛協力指針の漸次的発展などが挙げられる。特に97年指針と、安倍政権下の2015年の新指針では現状を鑑みて、平常時からの対応、周辺事態から存立危機事態という概念の変化、サイバーや宇宙といった新領域への対処、在日米軍と自衛隊の一体的運用など含めて日米協力のあり方は良かれ悪しかれ進化してきたはずだった。
やはり1970年代にはじまった世界最高水準の在日米軍駐留経費負担等の、いわゆる「思いやり予算」もあれば、横須賀基地は米海軍のインド太平洋地域を担当する第7艦隊の母港でもある。アメリカの環太平洋戦略の要でもあるはずなのだ。
いったいアメリカはどうしてしまったのだろうか。
■ アメリカは振れ幅が大きい国だ
アメリカは極端な社会である。他の国では認め難い大きな振れ幅とダイナミズムを持っている。
自由民主主義の盟主と目されるが、かつてアメリカは憲法修正第18条によって禁酒法時代を迎えている。個人の自由が制限され、密造や裏の流通ルートが広がり取り締まりといたちごっこを繰り広げた。
映画『アンタッチャブル』(1987年)で描かれるような世界である。
連邦政府においては1920年代のことであるから、せいぜい100年前の話である。それほど昔の話ではない。しかも1933年にフランクリン・ルーズベルトの手で廃止されるまで10年以上も続いているというから凄まじい。
今回も立ち返ることができるのだろうか。
アメリカと直接の関係を持つものでなくとも、いまのアメリカを理解する手がかりが必要だ。我々はともすればすっかり忘れているか、気付かないフリをしているが、安全保障に限らず、生活のすみずみまで、そしてその根底にまで「アメリカ的なもの(アメリカン・ウェイ・オブ・ライフ)」が浸透しているからだ。
現在でもアメリカには40万人以上の在米邦人がおり、日本にとっては中国に次ぐ輸出先であり、アメリカにとっても4番目の輸出先である。
日本からみれば輸出超過だが、日本は世界最大の対米直接投資国である(外務省によれば、対米直接投資残高は92兆円。それに対して、米国の対日直接投資残高は10兆円にとどまる)。
そんな大仰な話を取り上げなくても、我々は日々アメリカから輸入した飼料で育った肉を食べ、マクドナルドでハンバーガーを食べながら、米企業が提供するSNSや情報プラットフォームをiPhoneで眺めている。
先日、私用で宮古島を訪れた。
だいたい出張や旅行の際には荷物に本を詰め込み過ぎるきらいがあるのだが、そのなかに「コモングッド(common good)」の概念から読み込もうとした一冊があったのである。
90年代にクリントン政権で労働長官を務めたロバート・ライシュの最新刊の邦訳である(『コモングッド 暴走する資本主義社会で倫理を語る』(東洋経済新報社、2024年))。
公共政策のプロフェッショナルで、アメリカの代表的なオピニオンリーダーのひとりと目されてきた人物である。
■ アメリカで毀損された「コモングッド」とは
邦訳も豊富で、1990年代のIT企業とビジネスの台頭、いわゆる「ニュー・エコノミー」の時代を見据えて、従来の産業で重視されたスキルとは異なる情報処理能力をもった「シンボリック・アナリスト」による生産性向上の必要性を説く『ザ・ワーク・オブ・ネーションズ』などは日本でもよく読まれた。
その一方で、日本の低生産性は現在に至るまで社会経済的課題であり続けているから、ライシュの指摘を活かすことはできなかったのかもしれない。
そのライシュは本書で「なぜ、アメリカにおいて、『コモングッド』が毀損されたのか」を問う。
「コモングッド」とはなにか。
ライシュはこう書いている。
「コモングッド」は、かつてこの国で広く受け入れられ、理解もされてきた。もとより合衆国憲法は、「われら人民」の「一般の福祉を増進」するために制定されたのであって、「身勝手な輩が自らの富と権力を増進」するためのものではない。一九三〇年代の世界恐慌や第二次世界大戦時、アメリカ国民はコモングッドを守るべく団結し、「共通の危機」に立ち向かった。そのコモングッドとはフランクリン・ルーズベルト大統領の「四つの自由」に明示されている。すなわち、「言論の自由」「信教の自由」「欠乏からの自由」「恐怖からの自由」である。(前掲書p.8より引用)
ライシュはコモングッドが危機に晒されていると警鐘を鳴らす。コモングッドは市民が自ら鍛えるべき産物であると同時に、教育を通じて「コモングッドの感覚」を養うべきだという。
日本でも肯定されがちな「いい仕事に就くための自己投資」としての教育を否定しながら、教育を「国家を賢明に統治する能力を育成するという公共善」とみなす。
そして民主主義は「教養ある大衆」を前提としているとして、根本原理であるという。アメリカにおけるプラグマティズムの影響を受けているものと思われる。
なお合衆国憲法への回帰やプラグマティズムからの批判といった議論自体はそれほど目新しいものではない。新刊『少数派の横暴』(新潮社、2024年)も注目される政治学者のスティーブン・レビツキーとダニエル・ジブラットは『民主主義の死に方』(新潮社、2018年)において「柔らかいガードレール」が損なわれていると指摘した。それはそもそも二大政党制による討論以前の異なる意見を持つものを尊重する慣習といった基礎的前提のことである。
それでは、こうしたコモングッドの毀損はトランプ誕生が原因なのだろうか。
詳細は本書を読んでみてほしいがライシュは否という。
むしろライシュはオバマ政権に厳しい批判の目を向ける。オバマ政権の当初2年間は上院下院ともに民主党が多数派を占めていた。そのため対立する共和党の支持を取り付けることなく法案を成立させることができた。
その政治環境の下で、共和党の協力を取り付けることなく2010年にオバマケアを成立させたのはオバマ政権であった。態度を硬化させた共和党は2011年に下院多数派、2015年に上院多数派を握り、オバマ政権の政策のほぼすべてに反対した。
オバマは大統領令を使い、立法を回避して環境規制やトランスジェンダーのトイレ利用、気候変動のパリ協定への参加を決めた。
ライシュは、リベラル派は「共和党の障害物」を避けてコモングッドをめざしたのだろうが、権力分立や民主的な協議という「より大きなコモングッド」を傷つけたと分析する。
トランプ政権はこの党派対立をいっそう加速させたというのがライシュの見立てである。その後、対立の波紋は冒頭述べたように世界に深刻な影響を与え続けている。
分析の秀逸さに対して、ライシュの「解決策」はいささか心もとないものにとどまる。
経験教育を含む市民教育というのである。
■ ライシュは公共への奉仕を提案するが
教育を投資とみるのではなく、「責任ある市民」になる場とみなし、国民皆徴兵時代を想起させつつ慎重に2年間のボランティアや炊き出し参加といった公務への従事を通じて、おそらくベラーの古典的議論を踏まえた「心の習慣」を育む公益への奉仕機会を提案する。
いかにもアメリカプラグマティスト的だが、実際には教育を投資とみなすインセンティブは強く、人々、特に富裕層が認識変更する動機づけは弱く、同じ理由で奉仕活動従事も敬遠されるだろう。
「解決策」としては説得力に欠くものの、合衆国憲法(とその精神)への回帰、コモングッドを再考せよというライシュに限らないアメリカにおける主張はいささか規範的ではあるものの力強く映る。
国民と国家が立ち返る先があるからだ。
翻って、2010年代に明らかになった世界的な分断の機運から遅れて、今まさに同じ道を歩もうとしているように思える我々の社会においてはどうか。
ネットメディアの主流化と政治における活用、インフレの進行と実質賃金低下の慢性化とインフレ対策の遅れ。訪日外国人の増加と外国人労働者の政策的増増加、排外主義的言説のひたひたとした蔓延……。
いま、日本の各地で起きている諸問題は2010年代に欧米で本格化した問題と共通点があるよ
うにも見えるし、まだとば口に立っているに過ぎないようにも思われる。
コモングッドを日本語で直訳するなら、「公共の福祉」ということになるのかもしれない。しかし法学者はいざしらず、「公共の福祉」という文言から何か具体的な姿や歴史を想起できる人がいったいどれだけいるだろうか。
かつて日本がまだまだ経済的に豊かで経済大国と目されていた時代にすら、「アメリカがくしゃみをすると日本が風邪をひく」と言われたものである。
そのアメリカは経済に限らず、留学生の受け入れ中止や留学プログラムそれ自体の中止など大混乱である。アメリカの今の振る舞いはくしゃみどころではないだろう。もはや激しい発作のような状態だ。
すっかり斜陽の大国と化した現在の日本はどのような影響を受けるのだろうか。そして、グローバルなトレンドに対してどのような備えができるのだろうか。それとも世界の教訓を活かせないままに世界が辿ったのと同じ道を歩むのだろうか。どうもそんな気がしてしまう。
宮古島便の道中、3時間の読書でトランプ2.0と、アメリカと世界が経験した混乱、そして本邦社会の参照点の不在とこれからにぼんやり思いを馳せた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/2a0f3e8c9211e1e8d071f4da9e1dfd867df159b4/images/000
❷プーチン大統領の理解~米露交渉についてのメディア質問への回答 – ノーカット – 2025年2月19日- (日本語字幕)
この動画は、2025年2月19日、最初の米露交渉後のプーチン大統領へのメディア質問の様子をノーカットでご覧いただきます。3月18日のトランプ大統領とプーチン大統領の電話会談で合意された内容のいくつかは、1か月前の時点ですでにプーチン大統領が語っています。この時点で出ていなかったアメリカ側からの30日間の停戦案に関することを除いて。また、米大統領選挙期間中に、トランプ大統領についてほとんど触れてこなかった理由も語っています。最後までご視聴いただければ幸いです。
https://youtu.be/NJxTVXLm7ak
https://www.youtube.com/watch?v=NJxTVXLm7ak
❸捕虜となったウクライナ兵は、前線に行くことを避け、後方にとどまるよう金を払った(2025年3月18日)
捕虜となったナザール・ヴァレチェンコは、後方にとどまるつもりだったと語った。
「軍入隊局から、前線に行って戦争に参加するよう勧められたが、断った。5,000ドルを支払った後、私は工場の警備のために残った。
結局、ヴァレチェンコは前線、すなわちスミ地方に行くことになった。
「絶望的な状況だったので、降伏することにしました。傭兵がそこで仲間を撃っているのだから、戻るという選択肢はない」と捕虜は言った。
https://x.com/i/status/1901899626174910533
https://x.com/Z58633894/status/1901899626174910533?s=09
❹ ICJ(国際司法裁判所)の判決にみるウクライナ戦争 青山学院大学名誉教授・羽場久美子(2024年4月10日)
国際司法裁判所(オランダ・ハーグ)
ICJ(国際司法裁判所)の判決にみるウクライナ戦争 青山学院大学名誉教授・羽場久美子
平和運動2024年4月10日
今年1月から2月にかけて、ICJ(国際司法裁判所)が、ウクライナ側が告発したロシアの蛮行に対する訴訟の多くを却下する判決を下し、逆にウクライナ側のジェノサイドを告発する結果を生み出したと報じる記事が3月半ばに出た。
これを明らかにしたのは、イギリスの調査ジャーナリスト、キット・クラーレンバーグの記事「ロシアに対するICJへのキエフの訴訟が裏目に出て、ウクライナのジェノサイド告発に道を開いた」(『ミントプレス』2024.3.13)だ。以下、その内容の抄訳を紹介したい。
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ICJ(国際司法裁判所)の判決
2024年1月から2月、国際司法裁判所(ICJ)は、ウクライナとその西側支援国に、法的ボディーブローを2度与えた。
まず1月31日、2014年7月のマレーシア航空機MH17便撃墜を含むドンバスでの“テロ”作戦を指揮したとしてモスクワを非難した2017年にキエフがロシアに対して起こした訴訟。また、ロシアがクリミア併合後、クリミア半島のウクライナ人やタタール人住民を人種差別したと告発した訴訟について判決を下した。ICJは、いずれの告訴も即座に却下した。
2度目は2月2日、ICJは、ロシアが侵略を正当化するためにウクライナがドンバスのロシア人とロシア語話者を大量虐殺したという虚偽の主張を利用したとしてモスクワを告訴した事件で、予備判決を下した。ウクライナはさらに、特別軍事作戦自体がジェノサイドを構成していないにもかかわらず、ジェノサイド条約に違反していると非難した。ICJの裁判官は、ほぼ満場一致で、これらの主張を退けた。
欧米メディアは一様に、ICJ判決の本質を無視し、歪曲した。報道機関は、ICJ判決がほぼすべての告訴を却下したことを軽視する一方で、受け入れられた容疑に目立つように焦点を当てることで、最初の判決を誤って伝えた。2度目は、ロシアにとって重大な損失として乱暴に報じられた。BBCは、ウクライナの訴訟の「一部」が審理されることに同意した経緯に焦点をあてたが、その一部とは、ウクライナが2014年以降、ドンバスで大量虐殺を犯したかどうかという問題だったことは言及していない。
ウクライナの法廷闘争の失敗は、47のEU加盟国とNATO加盟国の支援を受け、2023年9月に32の別々の国際法務チームがハーグに代理人を提出したという茶番劇ともつながっている。彼らは、ドネツクとルガンスクの人民共和国はアルカイダに匹敵するというキエフの奇妙な主張を支持した。裁判官は、この主張を全面的に否定した。
ウクライナとその海外支援国が問題を抱えているのはこの分野だけではない。ICJの判決を詳しく調べると、2014年2月の欧米が画策したマイダン・クーデター後にクリミアとドンバスで何が起こったかという定説の主流派の言説の信用性自体に疑義が生じている。
要するに判決は、ロシア語を話す親連邦活動家とウクライナ当局との間の、ウクライナ東部全域での何ヶ月にもわたる大規模な抗議行動と暴力的な衝突に続く、“親ロシア分離主義者”に対するキエフの8年にわたる”対テロ作戦”に深刻な疑問を投げかけているのだ。
忌まわしい発見に次ぐ忌まわしい発見
ICJは最初の判決で、ドンバスとルガンスクの人民共和国は「テロリスト」ではないと裁定した。「どちらのグループも、国連の機関によって、これまでテロリストとして認定されたことはない」、キエフがそうラベル付けしたからと言って、そのような烙印を押すことはできず「テロリスト」ではないとの判決を下した。これは、ロシアがドンバスで「テロリスト」行為を行い、またロシアがドンバスでテロリスト集団に「資金提供」しているというウクライナの主張の信憑性を大きく揺るがすものとなった。
他の発見もこの爆弾発言を裏付けるものだった。ICJは、ドンバスで「テロリスト」が使用したとされる「口座、銀行カード、その他の金融商品」を含むウクライナから提供された資料が、モスクワからのものだと「疑うに足る合理的な根拠」がなかったため、ロシアにはテロを犯した責任、あるいはテロを防げなかった責任すらないと判断した。モスクワは「犯罪容疑者」への捜査を開始したが、彼らは「存在しないか居場所を特定できない」と結論付けたと裁定された。
皮肉なことに、裁判官たちは、逆にロシアによる“テロ”に関するキエフの主張を、極めて疑わしい証拠や文書に基づき、“曖昧で、高度に一般化されている”と非難した。その中には驚くべきことに西側メディアの報道も含まれていた。
裁判所は、報道記事や出版物から抜粋した特定の資料は「事実を証明できる証拠とは見なされない」と判示した。
ICJはまた、告発を裏付けるためにキエフが提出した証人や証人証拠の質についても強く非難した。判事らは、2014年以来、クリミア半島におけるウクライナ人とタタール人に対する組織的で国家公認の「人種差別」を裏付ける証言にウクライナが依拠していることを特に痛烈に批判した。これを証明する陳述書は、「関連する出来事から何年も経ってから収集された」もので、「信頼できる(公式)文書によって裏付けられていない」と。
ウクライナが依拠する報告書は、関連する措置が人種差別的な性格のものであることが確認され、限られた価値しか持たない。人種差別があったと疑うに足る合理的な根拠を証明するため、ロシア当局に捜査を促すべきだった。
またウクライナは、クリミア半島の非ロシア人に対する差別的な待遇の象徴として、住民が2014年以降もウクライナ市民権を維持することを選択した場合の「法的影響」と、「2014年から2016年の間にウクライナ語で学校教育を受ける生徒の数の急激な減少」があり、初年度に80%、2015年にはさらに50%減少したと主張した。
この裏付けとして、ウクライナは、子どもが「ウクライナ語での指導」を受けるのを阻止する目的で「嫌がらせや操作行為を受けた」と主張した親の証言書を提出したが、裁判官はこれを受け入れなかった。対照的にロシア側は、子供にロシア語で教えるという「圧力を受けない」選択が可能だっただけでなく、「子どもにウクライナ語の指導を受けさせるよう一部の教師が積極的に励ました場合の親の無反応」を実証する証言を提供した。
ICJは、「クリミア・タタール語を含む他言語の学校教育が排除されていないことは議論の余地がない」と述べ、これらの提出を重視した。判事は、ウクライナ語の「学校教育」における需要の減少は、「支配的なロシアの文化的環境と何千人もの親ウクライナのクリミア住民がウクライナ本土に移動したこと」によるとしている。ロシア側はさらに「ウクライナの文化遺産を保存する試みを立証する証拠も提出した。明らかにロシア当局はクリミアの住民に対して平等であり、パスポートの色や母国語は重要ではないとした。
それでも裁判所は、ロシアが「人種差別撤廃条約の義務に違反した」と矛盾して結論づけている。またロシアは「ウクライナ系住民の権利を、その民族的出自に基づく悪影響から守る義務を遵守したことを証明できなかった」と結論づけた。
ICJは、過去10年間にクリミアとドンバスで起こったことに関する主流の言説全体が欺瞞的であったことを事実上確認した。一部の法学者は、ウクライナが大量虐殺の罪で無罪判決を受けるのは避けられないと主張しているが、マイダン以来、ウクライナの民族主義者によってなされた多くの声明は、大量虐殺があったという意図を明確に示している。
英国難民裁判所の判決
2020年6月、英国の難民裁判所は、徴兵を避けるために国外に逃れたウクライナ市民の亡命を認めた。亡命者たちは、ドンバスでの兵役は必然的に民間人に対する「人間の行動の基本的人権に反する行為」、つまり戦争犯罪への関与を伴ったと主張した。
裁判所の判決は、ウクライナ軍が「法的または軍事的正当性のない民間人の違法な捕獲と拘禁」を日常的に行っており、それは捕虜交換に「金」が必要という動機づけによるものだと指摘した。さらにドンバスでの「対テロ作戦」中に被拘禁者に対する「組織的な虐待」があった。これには「拷問、残虐で非人道的で品位を傷つける行為」も含まれていた。また「被拘禁者を虐待した者に対する不処罰の態度」も観察された。
判決はまたドンバス地方で「広範囲にわたる民間人の人命の損失と住宅財産の広範な破壊」があり「ウクライナ軍が行った破壊行為は不十分で不均衡な攻撃に起因する」と述べた。水道施設は、国際法の下で保護された「民間の整備車両や輸送車両」として明示されているにもかかわらず、ウクライナ軍によって繰り返しの標的となった。
これらすべてはジェノサイドを構成すると非常に合理的に主張できる。いずれにせよイギリスの難民裁判所の判決は、ウクライナ政府が最初から本当に戦っていたのは誰なのか、つまり(東部の)自国民だったということを十分に強調している。さらに2014-15年のミンスク合意は、実際は詐欺で、ウクライナに実施の意図はなく、ドンバスでのウクライナの悪意の更なる証拠、つまり欧米の武器、車両や弾薬の備蓄を強化する時間稼ぎだったという、アンゲラ・メルケルとフランソワ・オランドの暴露を合理的に引用できるとした。
またこの合意は、ドネツクとルガンスクの人民共和国の分離や独立を規定したものではなく、ウクライナ国内での完全な自治を規定したものであった。ロシアは紛争の当事者ではなく調停者だった。ウクライナは反乱軍の指導者たちと直接紛争を解決するはずであった。これはウクライナと海外の支援者たちがひどく不快に思った決定的な法的区別だった。ミンスク合意後の数年間、彼らは紛争におけるロシアの役割が最小限だったにもかかわらず、モスクワを正式な紛争当事国として指定するよう繰り返し試みたのである。
国際危機グループ(ICG)の報告
ウクライナ東部のロシア国境から60㌔付近で塹壕を掘り要塞化する兵士ら(2014年)
金融投資家ソロスが資金提供する国際危機グループ(ICG)が発表した2019年の報告書「理由なき反乱軍」には、次のように記されている。「ウクライナ東部の紛争は草の根運動として始まった…デモはこの地域のロシア語話者多数派の代表と主張する地元市民によって主導された」。モスクワが反政府勢力に財政的・物質的支援を提供し始めたのは、2014年4月にドンバスでウクライナ政府の「対テロ」作戦が始まってからで、しかも貧弱だった。
ICGは、ロシアの立場は一貫しており、2つの分離独立共和国はウクライナ国内で自治権を保持していると結論付けた。クレムリンはしばしば反乱軍の指導部と大きな対立に陥り、反乱軍は自分たちの利益のために行動し、モスクワの命令に従うことはめったになかった。反乱軍の戦闘員は、たとえウラジーミル・プーチンが個人的に要求したとしても、武器を下ろそうとはしなかった。
現在の出来事を考えると、報告書の結論は不気味だ。ICGは、ドンバスの状況は「ロシアの占領の問題として狭く定義されるべきではない」と宣言し、クレムリンと反政府勢力を「混同する傾向」があるキエフを批判した。新たに選出されたウォロディミル・ゼレンスキー大統領が「反政府勢力が支配する地域と平和的に再統一」し、「疎外された東部を召し抱える」ことができるという希望を表明した。
2017年のICJへの訴訟は、ロシアのドンバスへの直接関与の立証と明確に関係している。この法廷闘争が、2014年に侵略されたと主張するキエフの怪しげな法的根拠を確保する意図があったのかどうかはわからない。結局これは2022年2月に勃発したドンバスにおける欧米の全面的な代理戦争を引き起こした可能性がある。
2月初め、フランスのエマニュエル・マクロン大統領はミンスクへのコミットメントを再確認し、ゼレンスキー大統領の個人的な保証を得たと主張した。しかし、2月11日、フランス、ドイツ、ロシア、ウクライナの代表による会談は、目に見える成果もなく9時間後に決裂した。注目すべきは、キエフが反政府勢力との“直接対話”の要求を拒否したこと、モスクワが過去の妨害主義者の立場に則り、自らを正式に紛争の当事者に指定することを主張したことだ。
その後、OSCE監視団による複数の目撃証言に記録されているようにドンバスに対するウクライナ軍の大規模な砲撃が勃発した。2月15日ロシアの有力な共産党が率いる下院の代表は、クレムリンにドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を承認するよう正式に要請した。(バイデンが2月16日にロシアがウクライナに侵攻するといった前日だ。)プーチン大統領は当初ミンスクへのコミットメントを繰り返し、拒否した。砲撃は激しさを増した。2月19日のOSCEの報告書によると、過去24時間で591件の停戦違反があり、そのうち553件は反政府勢力が支配する地域での爆発だった。
民間人が攻撃で被害を受け学校を含む民間施設が直接標的にされたとみられる。一方、同日ドネツクの反政府勢力は、ポーランド語を話す工作員による領土内のアンモニアと石油の貯留層に対する2回の破壊工作を阻止したと発表した。2022年1月、CIAが2015年以来ロシアの侵攻があった場合にまさにそうした攻撃を実行するようウクライナで秘密の準軍事組織を訓練していたことが明らかになった。
最終的に2月21日、クレムリンはドネツクとルガンスクを独立共和国として承認するという1週間前のドゥーマの嘆願を正式に受け入れた。
***********
こうして2月22日、ロシアは、侵攻を開始した。ドネツクやルガンスクが保護を要請し、共産党の下院代表が要請しても拒否していたプーチンがなぜ侵攻に踏み切ったのか――。その背景を、上記の記述は明らかにしている。
加えて、侵攻直後からゼレンスキーとロシアとの停戦交渉が始まったにもかかわらず、最終的には「ブチャ事件」でそれが頓挫し、今日に至るまで停戦が実現していない。ブチャについても調査が明らかになっていくであろう。
いったい誰が停戦を拒んでいるのか。
ここに示した事実は、個人の私見ではなく、ICJをはじめとする国際司法の判決や調査報告で明らかにされていることだ。こういう意見はこれまで「ロシアのプロパガンダだ」「親ロシア派の妄想だ」といわれていたことでもある。それをICJが今年1-2月の判決で覆したということだ。
これらの事実から見ても、停戦をためらう意見としてある「ロシアに停戦・撤退せよというのはいいが、ウクライナに停戦しろとはいえない」「ウクライナは抵抗しているのだからそれを支援すべきだ」「先に手を出したのはロシアだ」という認識を前提とする「停戦をためらう状況」は、ICJによって、覆されているといえるのではないか。
現在、日本でも沖縄をはじめ全国各地に続々とミサイルが配備されている。今も岸田首相が訪米し、同盟をさらにアジア全域に拡大しようとしている。目と鼻の先の中国や北朝鮮に向けてミサイルを突きつけることが日本のためになるのかどうか、本気で考える必要がある。米AI企業のCEOは、先日イスラエルで、「東アジアで想定される未来の戦争は、従来と全く違うものになる。」AI技術を駆使し、イスラエル・ガザ戦争を凌ぐような大きな戦争になるとさえのべている。
だからこそ、私たちは即時停戦を求める。ウクライナやガザにおいて人命が失われることをまず止める。これ以上双方ともに貴重な人命を殺させない。そして東アジアでは絶対に戦争をさせない。市民から平和を作ることを訴えていかなければならない。
(4月1日「今こそ停戦を! Cease All Fire Now!」の第5回シンポジウムでの発言に加筆・修正したもの)
https://www.chosyu-journal.jp/heiwa/29917?s=09
2025年3月24日ウクライナ情報pdfはこちら
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1940年、東京生まれ。1944~49年、福島県で疎開生活。東大工学部原子力工学科第1期生。工学博士。東京大学医学部助手、東京医科大学客員助教授を経て、1986年、立命館大学経済学部教授、88年国際関係学部教授。1995年、同大学国際平和ミュージアム館長。2008年より、立命館大学国際平和ミュージアム・終身名誉館長。現在、立命館大学名誉教授。専門は放射線防護学、平和学。2011年、定年とともに、「安斎科学・平和事務所」(Anzai Science & Peace Office, ASAP)を立ち上げ、以来、2022年4月までに福島原発事故について99回の調査・相談・学習活動。International Network of Museums for Peace(平和のための博物館国相ネットワーク)のジェネラル・コ^ディ ネータを務めた後、現在は、名誉ジェネラル・コーディネータ。日本の「平和のための博物館市民ネットワーク」代表。日本平和学会・理事。ノーモアヒロシマ・ナガサキ記憶遺産を継承する会・副代表。2021年3月11日、福島県双葉郡浪江町の古刹・宝鏡寺境内に第30世住職・早川篤雄氏と連名で「原発悔恨・伝言の碑」を建立するとともに、隣接して、平和博物館「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマ伝言館」を開設。マジックを趣味とし、東大時代は奇術愛好会第3代会長。「国境なき手品師団」(Magicians without Borders)名誉会員。Japan Skeptics(超自然現象を科学的・批判的に究明する会)会長を務め、現在名誉会員。NHK『だます心だまされる心」(全8回)、『日曜美術館』(だまし絵)、日本テレビ『世界一受けたい授業』などに出演。2003年、ベトナム政府より「文化情報事業功労者記章」受章。2011年、「第22回久保医療文化賞」、韓国ノグンリ国際平和財団「第4回人権賞」、2013年、日本平和学会「第4回平和賞」、2021年、ウィーン・ユネスコ・クラブ「地球市民賞」などを受賞。著書は『人はなぜ騙されるのか』(朝日新聞)、『だます心だまされる心』(岩波書店)、『からだのなかの放射能』(合同出版)、『語りつごうヒロシマ・ナガサキ』(新日本出版、全5巻)など100数十点あるが、最近著に『核なき時代を生きる君たちへ━核不拡散条約50年と核兵器禁止条約』(2021年3月1日)、『私の反原発人生と「福島プロジェクト」の足跡』(2021年3月11日)、『戦争と科学者─知的探求心と非人道性の葛藤』(2022年4月1日、いずれも、かもがわ出版)など。