【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年3月23日):タリック・シリル・アマール「米国政府の革命的転換。トランプ大統領が国外プロパガンダ放送局(VOAやRFE/RL)を大幅削減」

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。


(画像1)© Michal Kamiryt/CTK(AP経由)

彼はまたやった。というか、彼らがやったのだ。良くも悪くも米国家の大部分を上から解体するという奇妙な焼き討ち運動の一環として、ドナルド・トランプ大統領と彼の親友イーロン・マスク、そしてDOGEの執行官の一団は、さらに7つの政府機関に斧を振り下ろした。大統領の執行命令によって実行されたこの特定の攻撃は、労働争議の調停やホームレスの軽減など、多岐にわたる業務に忙しい事務所を狙っている。

トランプ主義者の攻撃の手法は単純で、すでにおなじみのものだ。標的の機関は文字どおり閉鎖されるのではない。トランプは命令でそれを法的におこなうことができないからだ。その代わりに、機関の予算と人員が極度に削減され、機関は業務を停止せざるを得なくなる、という寸法だ。

しかし、中道派やリベラル派、そして主流報道機関を本当に激怒させた削減はただ1つだけである。それはホームレスへの打撃でもなければ、労使関係への打撃でもない。騒動を引き起こしたのは、トランプとマスクが国家喧伝広報機関を攻撃したことだ。正確に言えば、世界に対する国家喧伝広報機関だ。

今回トランプから火炎放射器のような扱いを受けた機関の一つが、米国国際メディア庁(USAGM)だ。そして、それは実際には米国の対外宣伝省である。

比較的新しい(2018年)組織ではあるが、USAGMの原点は前世紀の冷戦の悪臭を放つ土壌に深く根付いている。

もともと、ボイス・オブ・アメリカ、ラジオ・フリー・ヨーロッパ、ラジオ・リバティが存在していた。ボイス・オブ・アメリカは第二次世界大戦中に設立され、その後すぐに再編され、CIA による冷戦の喧伝広報の武器として使用されてきた。そのより若い兄弟であるラジオ・フリー・ヨーロッパ (1950 年設立) とラジオ・リバティ (1951年設立) は、まさにCIA の隠れ蓑的企業だった。


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しかし、ブリタニカ百科事典には、英国人らしい控えめな表現と大量の粗野な偽情報で、その「関与は1960年代後半までソ連の報復を恐れて秘密にされていた」とある。CIAが隠れていたのは、もちろん、大きな悪いロシア(当時のソ連)がそれほど恐ろしかったからではない。それは単に東西の国民を操作し、地政学的に動かされた喧伝広報を「政府から独立したニュース」として提示するための手段だったのだ。

1971年以降、CIAは(公式に)(直接の)統制を終了した。嘘をつくことに特化した、そしてもっとひどいことをする機関がもはや糸を引いていなかった、お思いなら、私は「市民社会」とすべての付属品を備えたウクライナの「民主主義」を貴殿に売り込もう。

これらの放送局は、正式には、国際放送委員会が引き継いだ。この委員会は大統領によって任命されたが、このことは、この世界的な喧伝広報機関が米国当局にとっていかに重要であったかを物語っている。

最終的に、さらなる名称変更を経て、この委員会は USAGMに変貌した。この委員会は、ボイス・オブ・アメリカだけでなく、ラジオ・フリー・ヨーロッパやラジオ・リバティ (RFE/RL に長く統合されていた)だけでなく、ラジオ・フリー・アジアや、非常に正直に聞こえる (実はそうではないが) キューバ放送局など、他の多くの放送局も管理するようになった。

USAGM のウェブサイトによると、この番組は64の言語で毎週4億2700万人の視聴者に届けられており、従来の放送とインターネットの両方で放送されている、という。幸運な視聴者や聴衆、読者は、米国の「国益」(USAGMによる用語)に相当する「毎週3000 時間以上の独自番組」という不健康な食事を与えられてきたのだ。

この米国の対外宣伝省について何を言っても構わないが、それは哀れな旧ソ連が作り上げたどんな同等のものよりも規模が大きく、豊かだった。

そして、トランプとマスクが削減したのもまさにこの組織だ。もちろん、冷戦はとっくに終わっている。この遅れた動きに対する理性的な人なら誰でもこう反応するだろう。「なぜこんなに時間がかかったんだ?」と。イーロン・マスクが、喧伝広報機関は「米国納税者の年間10億ドルの血税を燃やしながら独り言を言っている過激で頭がイカれた連中だ」と投稿したのももっともだ。ただし、残念ながら、彼らは決して独り言を言っているだけではない。そして、彼らを「過激」で「頭がイカれた」状態にしたのは、彼らがいかにも米国的だったからだ。


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いずれにせよ、米国の政治中枢には理性が不足している。というのも、冷戦時代の報道機関恐竜たちのこの高価なジュラシックパークがようやく米国納税者の負担から取り除かれたことに安堵のため息が出るどころか、大きな嘆きが広がっているからだ。

ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の代表、マイケル・アブラモウィッツは、感動的な謙虚さで自身の組織の追悼文を投稿し、「VOAは、米国の物語を伝え、特に圧政下で暮らす人々のために客観的で均衡のとれたニュースと情報を提供することで、世界中で自由と民主主義を促進しています」と述べた。さらに、RFE/RLの責任者、スティーブ・カパスにとって、「ラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティの助成金契約の中止は、米国の敵への巨大な贈り物となるだろう」とのことだ。

ああ、1950 年代のあの豊かな音の響き。まるでデューク・エリントンとビッグバンド・オーケストラがジョセフ・マッカーシーとともにスウィングするために戻ってきたかのようだ。

面白いことに、アブラモウィッツは、アパルトヘイト政策をとるイスラエルによる大量虐殺の包囲下で暮らす人々を取り上げなかった。VOAでは、「客観性」と「均衡」が、米国における「民主主義」と「自由」と同じくらいに重視されていたようだ。

USAGM の元最高財務責任者、グラント・ターナー(そう、冗談ではなく本名だ)は、 「血の土曜日」を嘆いた。

公平に言えば、高位の喧伝広報機関の幹部が、生涯をかけて取り組んだ仕事が台無しになったり、自身の経歴が突然、終わりを迎えたりしても、歓喜の声を上げないのは当然だ。しかし、アブラモウィッツやカパス、ターナーは、決して孤独な人たちではない。たとえば、NBCニュースや全米記者クラブ、国際放送協会は、すべてトランプ大統領の行動に対する抗議の声に加わった。


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そしてチェコ共和国のヤン・リパフスキー外相は、EUはラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティに生命維持装置をつけるべきだ、と考えている。この問題は今やヨーロッパにも波及したのだ。最終的にどんな本当に悪い考えを捨てようとも、つまり高価な冷戦時代の喧伝広報機関の遺物を保管し、さらに高価で非常に血なまぐさい、そして絶望的なロシアとの代理戦争を遂行しようとも、ヨーロッパ人はそれを引き受けたがるのだ。

彼らが成功しないことを祈ろう。これらの偽情報機関は、そろそろ退場すべき時だ。彼らは、戦争を煽ったり、カラー革命に偽装した政権交代を支援する情報戦争を通じて、多大な危害を加え続けている。2014年2月にキエフで起きた偽旗作戦「マイダン虐殺」の第一人者であるイヴァン・カチャノフスキーは、彼らが都合の悪い動画証拠を消去し、その後、虐殺が実際に極右民族主義、親欧米の作戦であったというウクライナの裁判所による「事実上の確認」を省くことで、この事件を「隠蔽し、誤って伝えた」と投稿したばかりだ。

トランプ支持者は「善人」ではない。彼らは、バイデン支持者の先達に負けず劣らず、嘘と検閲を信じている。パレスチナ人と、嫌がらせや迫害を受けているパレスチナ支持者、イエメン人、ベネズエラ人に聞いてみればわかる。しかし、この世界では、これほど資金力のある嘘を必要としている人はいない。そして、米国の各派閥が今、互いの喧伝広報機関を攻撃し合っているとしたら、その光景はひどく滑稽だ。

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS(2025年3月23日)「タリック・シリル・アマール「米国政府の革命的転換。トランプ大統領が国外プロパガンダ放送局(VOAやRFE/RL)を大幅削減」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-3090.html
からの転載であることをお断りします。

また英文原稿はこちらです⇒Why has Trump finally pulled the plug on deep state propaganda?
ボイス・オブ・アメリカ、RFE/RL(ラジオ・フリー・ヨーロッパ・ラジオ・リバティ)などへの資金提供を停止しても、米国大統領が「善人」になるわけではないが、正しい方向への一歩である。
筆者:タリック・シリル・アマール(Tarik Cyril Amar :イスタンブールのコチ大学でロシアやウクライナ、東欧、第二次世界大戦の歴史、文化的冷戦、記憶の政治について研究しているドイツ出身の歴史家)
出典:RT 2025年3月17日
https://www.rt.com/news/614347-trump-funding-voa-refrl/

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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