【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.03.31XML: ウクライナでロシアに敗北したことを認識している米国は東アジアで戦争の準備

櫻井春彦

 アメリカのピート・ヘグゼス国防長官は3月29日に硫黄島を訪問、石破茂首相や中谷元防衛相と共に日米合同慰霊式典に出席した。バラク・オバマ政権がはじめ、ジョー・バイデン政権が引き継いだウクライナを舞台としたロシアとの戦闘に敗れたアメリカは中東や東アジアに軸を移動させ、東アジアでは中国との戦争を想定した準備を進めてきた。今回の式典で石破首相は両国が「信頼できる同盟国」になったことを強調している。30日にヘグゼス長官は石破首相や中谷大臣と東京で会談、日本におけるアメリカ軍司令部を強化する計画の実施を開始すると述べた。

 1991年12月にソ連が消滅したことを受け、アメリカの外交や安全保障の分野をコントロールしてきたネオコン(シオニストの一派)は92年2月に国防総省のDPG(国防計画指針)草案として世界制覇プロジェクトを作成した。

 当時の国防長官はリチャード・チェイニー、執筆の中心人物はポール・ウォルフォウィッツ国防次官だが、このドクトリンの基盤を考えたのは国防総省内部のシンクタンクONA(ネット評価室)で室長を務めていたアンドリュー・マーシャルだとされている。チェイニー、ウォルフォウィッツ、マーシャル、いずれもネオコンだ。

 このプロジェクトの目的は新たなライバルの出現を防ぐことにあり、その対象には旧ソ連圏だけでなく、西ヨーロッパ、東アジア、西南アジアも含まれ、ドイツと日本の場合、アメリカ主導の集団安全保障体制に組み入れて「民主的な平和地域」を創設するともされている。

 つまり、アメリカは日本を自国の戦争マシーンに組み込むと宣言したのだが、細川護煕政権は国連中心主義を打ち出して対抗。細川政権が倒れた後、1994年6月に自民、社民、さきがけの連立政権が誕生、村山富市が首相に就任して抵抗する。

 そうした状況をネオコンのマイケル・グリーンとパトリック・クローニンはカート・キャンベル国防次官補(当時)に訴え、1995年2月にジョセイフ・ナイは「東アジア戦略報告(ナイ・レポート)」を発表する。そこには、10万人規模の駐留アメリカ軍を維持し、在日米軍基地の機能を強化、その使用制限は緩和/撤廃されることが謳われていた。

 こうした中、1994年6月に長野県松本市で神経ガスのサリンがまかれ(松本サリン事件)、95年3月には帝都高速度交通営団(後に東京メトロへ改名)の車両内でサリンが散布された(地下鉄サリン事件)。松本サリン事件の翌月に警察庁長官は城内康光から國松孝次に交代、その國松は地下鉄サリン事件の直後に狙撃された。

 1995年8月にはアメリカ軍の準機関紙と言われているスターズ・アンド・ストライプ紙に85年8月12日に墜落した日本航空123便に関する記事が掲載された。この旅客機が墜ちる前、大島上空を飛行していたアメリカ軍の輸送機C130の乗組員だったマイケル・アントヌッチの証言に基づく記事で、自衛隊の責任を示唆している。日本がアメリカの戦争マシーンに組み込まれたのはこの1995年だと言えるだろう。

 日本は約5万人のアメリカ軍の将兵、そして戦闘機中隊や前方展開空母打撃群を受け入れ、原子力空母ロナルド・レーガンは横須賀海軍基地を母港としているが、21世紀に入ってからアメリカは日本列島にミサイル発射基地を建設してきた。

 アメリカの軍事戦略に基づき、2016年に与那国島でミサイル発射施設を建設したのに続き、19年には奄美大島と宮古島、そして23年には石垣島でも施設を完成させたが、これは中国や朝鮮を攻撃する準備にほかならない。今後、南西諸島の周辺へアメリカ軍とその装備を移動させる可能性がある。

 ​共同通信は3月16日、日本政府が九州に陸上配備型長距離ミサイルの配備を検討していると報じた​。緊急事態の際に敵の標的を攻撃する「反撃能力」を獲得する取り組みの一環だという。そのミサイルとは、射程距離が約1000kmの12式地対艦誘導弾能力向上型で、配備は2026年3月に始まるとされている。

 アメリカの軍事戦略を国防総省系シンクタンク「RANDコーポレーション」は2022年の4月に説明している。​GBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲するという計画​を公表したのだ。

 アメリカはヨーロッパでロシアとの国境近くにミサイルを配備してきたが、ウクライナ制圧にもそうした側面がある。いつでもミサイルで相手を破壊できる態勢を整えてきたのだ。こうした日本の軍事力強化を「専守防衛」の範囲で行なっていると言うことはできない。

 また、2017年11月にアメリカはオーストラリア、インド、日本とクワドの復活を協議、18年5月にはアメリカ太平洋軍をインド太平洋軍へ名称変更。さらにJAPHUS(日本、フィリピン、アメリカ)なるものが作られ、​アメリカの軍事顧問団は金門諸島と澎湖諸島に駐留して台湾の特殊部隊を訓練している​。中国を封じ込めるためにアメリカが計画している「アジアへの回帰」の中心にフィリピンはなりつつある。

 2020年6月になるとNATO(北大西洋条約機構)事務総長だったイェンス・ストルテンベルグはオーストラリア、ニュージーランド、韓国、日本をメンバーにするプロジェクト「NATO2030」を開始すると宣言し、2021年9月にはアメリカ、イギリス、オーストラリアのアングロ・サクソン3カ国が太平洋でAUKUSなる軍事同盟を創設したとする発表があった。

 本ブログでは繰り返し書いてきたが、ネオコンがネオ・ナチを使ったクーデターでウクライナを制圧しようとしたのは、ロシアを攻撃する軍事的な拠点を築くことだけでなく、ロシアとヨーロッパを分断しようとしたのである。両者を結びつけていたのはロシア産の天然ガスで、それを運ぶパイプラインの多くがウクライナを通過していたのだ。そこをコントロールできれば、ロシアからマーケットを奪い、ヨーロッパから安い天然ガスの供給源を断つことができると計算したと見られている。

 しかし、ヨーロッパは安いエネルギー資源を断たれて経済が崩壊したものの、ロシアは中国との関係を強化して対応。西側はロシアに経済戦争も仕掛けたが、それがロシアの国内産業を発展させることになり、逆効果になった。

 それでも西側は経済戦争を継続、日本はロシアを最恵国待遇貿易制度から除外するなどしている。ヨーロッパと同じように日本は安価な資源と有望な販売市場へのアクセスを失う。自滅行為だ。

 それを正当化するため、大政翼賛会的な人びとは「ロシアは苦しいのだ」、「もう少し我慢すればロシアは潰れる」などと宣伝しているが、生産力も戦闘能力もロシアが西側諸国を圧倒している。そうしたプロパガンダと現実との乖離は広がり続け、すでに「欲しがりません勝つまでは」の時代に入っているとも言える。このプロパガンダも6月には限界に達すると見られている。

**********************************************

【​Sakurai’s Substack​】

**********************************************
【​Sakurai’s Substack​】
※なお、本稿は櫻井ジャーナルhttps://plaza.rakuten.co.jp/condor33/
「ウクライナでロシアに敗北したことを認識している米国は東アジアで戦争の準備」(2025.03.31ML)
からの転載であることをお断りします。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202503310000/

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

★ISF(独立言論フォーラム)「市民記者」募集のお知らせ:来たれ!真実探究&戦争廃絶の志のある仲間たち

※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202410130000/

ISF会員登録のご案内

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」

櫻井春彦 櫻井春彦

櫻井ジャーナル

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ