
☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年4月3日):ハルマゲドン(終末戦争)を望むイスラエルにトランプの取引外交は通用しない。
国際※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。
イスラエルは深刻な分裂状態にある。イスラエル内部の両陣営ともイスラエルの将来を賭けた戦いに身を投じており、分裂は激しく進行している。使用される言葉は非常に毒々しく(特にヘブライ語限定チャネルでは)、武力政変や内戦の呼びかけも珍しくない。
イスラエルは危機に瀕しており、一見和解不可能と思われる相違が間もなく内乱に発展する可能性がある。イスラエルのウリ・ミスガブ記者が今週書いているように、「イスラエルの春」が到来しようとしている、のだ。
この現状の要点は、トランプ大統領の功利主義的で断固とした取引主義に基づく手法は、宗教色が薄い西半球では効果的に機能するかもしれないが、イスラエル(またはイラン)では、物質的な「アメとムチ」という古典的な西側の抑止概念とは根本的に異なる道徳や哲学、認識論の概念を表現する代替世界観を持つ人々の間では、トランプ大統領の支持はほとんど、あるいは全く得られないかもしれない、ということだ。
実際、抑止力を強制しようとする試み、そして彼の命令に従わなければ「地獄が始まる」と脅す試み自体が、彼が求めているものとは逆の結果をもたらすかもしれない。つまり、新たな紛争や戦争を引き起こすかもしれないのだ。
イスラエル国内の怒りに満ちた多数派(今のところはネタニヤフ首相が率いる)は、イスラエル社会の諸制度を巡る長い行進を経て権力の座に就き、現在はイスラエル国内の「ディープ・ステート」を解体することに狙いを定めている。同時に、この権力奪取に対する激しい反発も起きている。
この社会の亀裂を悪化させる要因は2つある。1つ目は、民族文化的なもの、2つ目は政治思想的なものだ。そして、最も爆発的な要因は、3つ目の終末論である。
イスラエルの前回の国政選挙で、「下層階級」がついにガラスの天井を破り、選挙に勝利して政権に就いた。ミズラヒ(中東および北アフリカ出身のユダヤ人)は長い間、社会の中で貧しく下層階級として扱われてきた。
アシュケナージ(ヨーロッパ系、大部分はリベラルで宗教色の薄いユダヤ人)は、都市部の専門職(そして最近まで)の治安維持階級の多くを占めてきた。彼らは、前回の選挙で国家宗教・入植者運動連合によって排除された特権階級層である。
権力獲得に向けた長い闘争の現在の段階は、おそらく2015年と位置付けられるだろう。以下は、イスラエルの作家ガディ・タウブの筆による。
「その時、イスラエルの最高裁判所判事は、主権そのもの、つまり法と政治の領域全体に対する最終決定権を、選挙で選ばれた政府部門から剥奪し、自分たちに委ねた。選挙で選ばれていない政府部門が正式に権力を握っており、それに対抗するいかなる勢力も、それを抑制することも均衡を保つこともできない。」
右派の視点から見ると、司法審査が自ら獲得した権限により裁判所に権力が与えられた、とタウブは書いている。
「政界の駆け引きの決まりを規定するためであり、その具体的な結果だけを規定するためのものではない」。「法執行機関はその後、報道機関の巨大な調査部門となった」。「「ロシアゲート」捏造事件のときと同様、イスラエル警察と検察は刑事裁判のための証拠を集めていたというよりは、報道機関へのタレコミのための政治的汚点を作り上げていたのだ」。
イスラエルの「ディープ・ステート」は、ネタニヤフ首相とその内閣にとって、最大の争点となっている。その一例は、今月おこなわれたクネセトでの演説でネタニヤフ首相が報道機関を激しく非難し、報道機関が「ディープ・ステートに全面的に協力している」と非難し、「醜聞」を作り出している、と述べたことだ。
「ディープ・ステート傘下の官僚と報道機関の協力は米国では機能しなかったし、ここでも機能しないでしょう」と同首相は述べた。
念のため言っておくが、前回の総選挙の時点では、最高裁判所は15人の判事で構成されていたが、そのうち 1人はミズラヒで、それ以外は全員がアシュケナージだった。
しかしながら、対立する陣営間のこの戦争を、行政権の簒奪(さんだつ)、そして失われた「国家権力の分立」に関する不可解な争いである、とみなすのは間違いだろう。
むしろ、この争いはイスラエル国家の将来と性格に関する根深い政治思想的論争に基盤を置いている、といえる。イスラエルは黙示録に従う救世主的なハラハー(ユダヤ法)に従う国家となるのか? それとも、本質的には民主的で自由主義的、概して宗教色の薄い「国家」となるのか? イスラエルはこの論争の刃で自らをズタズタにしている。
文化的な要素としては、ミズラヒ(大まかな定義での)と右派が、欧州のリベラルな領域を真のユダヤ的なものとして見ていない点が挙げられる。その視座のもと、イスラエルの地は完全にユダヤらしさに浸るべきだ、と彼らは固く信じている。
この政治思想的闘争を完全に具体化したのは10月7日の出来事であり、このことが全体的な分裂を大きく反映する 2 番目の重要な要因となっている。
イスラエルの古典的な安全保障構想(イスラエル初代首相ベングリオン時代まで遡る)は、イスラエルが長年抱える悩みに対する答えを提供するために構築された。その考え方は、イスラエルは敵に紛争の終結を強制することはできないが、同時に、大規模な軍隊を長期的に維持することはできない、というものだ。
したがって、この観点からすると、イスラエルは、戦争が起こる前に十分な安全警告を必要とする予備軍に頼らざるを得なかった。したがって、来たる戦争に関する事前の情報警告は、最も重要な要件であった。
そしてその重要な推定は10月7日に崩れ去った。
10月7日に生じた衝撃と崩壊感から、ハマスの攻撃はイスラエルの安全保障の概念を決定的に破壊した、と多くの人が考えるようになった。抑止政策は失敗し、その証拠としてハマスを抑止できなかったのだ。
しかし、ここでイスラエルの内戦の核心に迫ろう。10月7日に破壊されたのは、労働党と旧安全保障を奉じた支配者層が有していた古い安全保障の視点だけではなかった。もちろんこれらの視点は破壊されたのだが、その灰の中から生まれたのは、古典的な抑止概念とは根本的に異なる哲学や認識論の概念を表現する別の世界観だった。
「私はイスラエルで生まれ、イスラエルで育ちました。イスラエル国防軍に勤務していました。私はそれにさらされました。このように教え込まれ、人生の何年もそれを信じていました。これは深刻なユダヤ人の問題を表しています。これは単なるシオニズムの問題ではありません …ユダヤ人以外の人は皆、あなたを殺したがっている、と子どもたちに教えることができるでしょうか。こんなことはほぼ普遍的な問題です。こんな精神的病気に身を置くと、誰に対しても何でもできる許可を自分に与えてしまいます…これは社会を作る良い方法ではありません。とても危険です」とアロン・ミズラヒは述べた。
イスラエルのタイムズ紙に掲載された、アマレク人を撲滅することの道徳性に関する高校生の発表(10月7日以降のもの)の記事をご覧いただきたい。ある生徒が「アマレク人を撲滅するよう命じられているのに、なぜ私たちはハマスが罪のない男性や女性、子どもたちを殺害したことを非難するのでしょうか? 」という疑問を投げかけている。
「もし今日の私たちがこんな状態なら、明日はどうやって平常どおりの生活が送れるのでしょうか」とアロン・ミズラヒは問いかける。
「国家宗教右派」党は、イスラエルの安全保障概念の根本的な変化を先導している。彼らはもはや、特に10月7日以降、ベン・グリオンの古典的な抑止力視座を信じていない。また、右派はパレスチナ人との和解も信じておらず、二国間国家を絶対に望んでいない。ベザレル・スモトリチ財務大臣の考えでは、イスラエルの安全保障理論には、今後、パレスチナ人が追放または排除されるまで、パレスチナ人に対する継続的な戦争が含まれなければならない、という。
旧(リベラル)体制派はこのことに激怒している。その一派の一人であるデイビッド・アグモン(元イスラエル国防軍准将、元ネタニヤフ第一補佐官)が今週、次のように明言した。
「ベザレル・スモトリッチ財務大臣、私はあなたを宗教シオニズムを破壊した、として非難します! あなたは私たちを宗教シオニズムではなくハラハーとハレーディー(ユダヤ教超正統派)シオニズムの状態に導いています… あなたがテロリストのベン・グヴィルに加わった、という事実は言うまでもありません。ベン・グヴィルは違法行為者や田舎者の少年たちをそそのかして法律を破り続けさせ、政府や司法制度、そして自分の責任の下にある警察を攻撃しています。ネタニヤフは解決策ではありません。ネタニヤフは問題であり、蛇の頭です。抗議者はネタニヤフと彼の連合に対して行動するべきです。抗議者は悪意のある政府の打倒を要求するべきです」と。
ネタニヤフはある意味では宗教色が薄いが、別の意味では、敵を全滅させる大イスラエルという聖書の使命を奉じている。彼は(もしあなたがその言い回しを好むなら)新ジャボチンスキー(*)主義者であり(彼の父親はジャボチンスキーの個人秘書だった)、実際にはベン・グヴィルやスモトリッチのような人物と相互依存関係にある。
*19世紀のロシアのシオニスト活動家
「これらの人々は何を望んでいるのでしょうか?彼らの最終的な目標は何なのでしょう?」と マックス・ブルーメンソールは問うている。
「これは黙示録です」と、イスラエルの終末論的右派の台頭を描いた著書『ゴリアテ』の著者であるブルーメンソールは警告している。
「彼らは第三神殿思想に基づいた終末論を持っています。それは、アルアクサ・モスクは破壊され、第三神殿に置き換えられ、伝統的なユダヤ教の儀式がおこなわれるべきである、という考え方なのです」
そして、それを実現するためには、「大きな戦争」が必要なのだ。
スモトリッチは、この件について常に率直に語ってきた。「最終的に『イスラエルの地』からすべてのアラブ人を排除する計画には、緊急事態、つまり『大規模な戦争』が必要になるでしょう」と同財務大臣は述べている。
大きな疑問は、トランプとその仲間たちがこのことを理解しているかどうかだ。これは、トランプが繰り出す取引手法に深い影響を与える。「アメとムチ」や世俗的な合理性は、認識論がまったく異なる人々、つまり黙示録を文字どおり「真実」として受け止め、この教えこそが完全な服従を命じる、と信じる人々の間ではほとんど意味を持たないだろうからだ。
トランプは中東の紛争を終わらせ、地域の「平和」をもたらしたい、と述べている。
しかし、彼の政治に対する世俗的かつ取引的な手法は、終末論的な紛争を解決するのにはまったく適していない。自分の思いどおりにならないと「地獄が開ける」と脅す彼の勇ましいやり方は、どちらかの党派が実際にハルマゲドンを望んでいるときには通用しない。
「地獄が始まる」?「やれるものならやってみろ」というのがトランプからの反応になるかもしれない。
※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS(2025年4月3日)「ハルマゲドン(終末戦争)を望むイスラエルにトランプの取引外交は通用しない。」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-3107.html
からの転載であることをお断りします。
また英文原稿はこちらです⇒The Kingdom of Judea vs. The State of Israel
筆者:アラステア・クルーク(Alastair Crooke)
出典:Strategic Culture
Foundation 2025年3月17日
https://strategic-culture.su/news/2025/03/17/kingdom-of-judea-vs-state-of-israel/