【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.04.07XML: トランプ政権が関税を課すのは金利を下げ、国内産業を復活させるためだとの見方

櫻井春彦

 ドナルド・トランプ政権は各国に高率の関税を課そうとしている。貿易赤字に応じて税率を決めているようで、世界経済に対する悪影響を懸念する声があがり、報復するという発言もある。

 こうした懸念は当然だろうが、ヨーロッパはバラク・オバマ政権がウクライナで仕掛けたクーデターによって大きなダメージを受けている。2014年2月のクーデターによってキエフは事実上のネオ・ナチ体制。その体制をコントロールしているのはイギリスやアメリカのネオコンだ。

 クーデターの前、ヨーロッパとロシアは経済的な結びつきを強めていた。最も重要な商品はロシア産の天然ガス。アメリカや中東で生産されるエネルギー資源より安く、ヨーロッパ経済を支えていたのだが、クーデター後、ベラルーシとポーランドを経由してドイツへつながるヤマル-ヨーロッパ・パイプライン、ウクライナを経由するソユーズ・パイプラインはアメリカによって寸断されてしまった。

 それに対し、ロシアとドイツはウクライナを迂回するパイプラインのプロジェクトを建設していた。そのひとつが「ノード・ストリーム1(NS1)」だ。最初のパイプランは2011年11月に、また次のラインは翌年の10月に完成した。

 輸送力を増強するため、クーデター後の2018年には新たなパイプライン「ノード・ストリーム2(NS2)の建設が始まり、21年9月に完成するが、ドイツのオラフ・ショルツ首相は認証せず、アメリカ政府はノード・ストリームの破壊を予告していた。

 例えば、国務次官を務めていたビクトリア・ヌランドは2022年1月27日、ロシアがウクライナを侵略したらNS2は前進しないと発言、その年の2月7日にはジョー・バイデン大統領がNS2を終わらせると主張、記者に実行を約束している。そして2022年9月、NS1とNS2は爆破された。ロシア産の安い天然ガスを失ったドイツをはじめとするEUの経済は大きなダメージを受けたが、その原因を作ったバイデン政権に対してEUは何も言えない。関税を課すと宣言したトランプ大統領に対して激しく批判しているのとは対照的だ。

 ところで、関税は外国からの輸入を抑制し、国内産業を刺激することが目的である。西側諸国はロシアを弱体化するために経済的な「制裁」を課したが、結果は関税と似ている。この対露制裁はロシアの国内産業を発展させることになった。現在、ロシア経済は好調だ。ロシアの潜在能力を開花させたとも言えるだろう。こうしたことはロシアを軍事面からも強化することになった。

 オバマ政権やバイデン政権を操っていたネオコンは1992年2月にアメリカ国防総省のDPG(国防計画指針)草案として世界制覇プロジェクトを作成した。この草案はポール・ウォルフォウィッツが中心になって書き上げられたことから「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。

 このドクトリンの目的は、旧ソ連圏を制圧するだけでなくドイツや日本をアメリカ主導の集団安全保障体制(戦争マシーン)に組み入れ、新たなライバルの出現を防ぐことにある。この戦争マシーンは世界を軍事的に制圧することが目的であり、自衛隊をそうした攻撃的な軍隊にするということだ。

 このドクトリンが作成された当時、ネオコンはアメリカが冷戦で勝利し、唯一の超大国になったと考えた。誰にも邪魔されず、世界制覇に向かうことができると信じたのだろう。

 ​欧米のエリートに大きな影響力を持つ外交問題評議会(CFR)は定期刊行物「フォーリン・アフェアーズ」を発行しているが、その2006年3/4月号に掲載されたキール・リーバーとダリル・プレスの論文には、ロシアと中国の長距離核兵器をアメリカ軍の先制第1撃で破壊できるようになる日は近いと書かれている​。こうした考えを彼らは最近まで保持していたようだ。その結果、ウクライナで不様なことになった。

 ロシア経済が西側による「制裁」によって強くなったことをトランプ大統領は理解、関税を課すことで自国の製造業を育成しようとしていると推測する人もいるが、アメリカではネオコンが1970年代から製造業を放棄、金融マジックで国を運営してきた。産業の空洞化だ。この状態でアメリカ国内の製造業を育てることは難しい。しかもトランプ政権を政策は各国にアメリカ依存をやめさせる可能性もある。

 トランプ政権が輸入品に関税を課すと発表したことを受けて景気後退を投資家は懸念、安全を求めて財務省証券を購入、その結果、金利が低下するという現象が予想された。莫大な財政赤字のアメリカでは金利の低下は大きな意味を持つ。トランプ大統領は財務省証券を低い利率で借り換えるために関税を利用しているという見方もある。

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「 トランプ政権が関税を課すのは金利を下げ、国内産業を復活させるためだとの見方 」(2025.04.07ML)
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